第五話 三倍遅い女
私の名前はR、十四歳の中学生。世の中は、どうしてこんなに忙しく急ぐんだろう。
「ぐずぐずしないの!」
「早くして!」
「やる気あるの?」
学校でも家でも、私に投げかけられるのはそんな言葉ばかり。でも、私は私のペースでやりたいだけ。ただ、私と世界のスピードが、ほんの少し違うだけなのに。
「私は、私のペースで生きたいだけなのに……」 放課後の誰もいない公園。私はブランコに揺られながら、自分を急かす世界を呪っていた。
「こんにちは。私は管理者です」
隣のブランコに、いつの間にか妙な男が座っていた。 彼は、「某うまし棒」を食べながらしゃべって、そこいらに欠片をまき散らしている。
「……あの、それ、私のカバンの中にあったやつ……」
「これは(ザクッ)!、ひにいりました(モグモグ)!」
”管理者”はブランコを漕いでるのに手放しで手元の奇妙な計器をチェックした。
「あなたの性質が善か悪かなんてどうでもいいんです。ただ、あなたが不満を持っているのはこのメーターが示している。ならば、その不満を解消するため、あなたのペースで過ごせる世界にご案内いたします!」
視界が白に染まった。
───
気が付くと、私は自分の部屋のベッドで目を開けた。
「寝ちゃってた……のかな?」
時計を見ると22時。
「やばい!数学のプリントやらなきゃ!
いつものペースなら三時間…今日の内に終わらないかも…」
そして……
「終わった!はやくお風呂に入って寝な……あれ!?」
時計は23時を指していた。
「すごい! 私、早くなった……?」
しかし、学校へ行くと、景色は一変していた。 廊下を歩く生徒たちは、まるでスロー再生の映像のように、一歩を踏み出すのに数秒を費やしている。先生の声は巨大なカエルの鳴き声のように低く、長く引き伸ばされていた。
掃除の時間、給食の時間。周囲のあまりの緩慢さに、私は次第に耐え難い苛立ちを覚え始めた。 クラスメイトが雑談でひとこと発する間に、私は教室の端から端まで掃除を終えることができた。給食の配膳があまりに遅いため、私は全員分の食器を自分で配り歩いた。
(みんな、どうしてそんなに遅いの!? イライラする!)
いつもと逆の考えにRは気づかない
私は無意識に、あらゆる動作をせっかちに片付けるようになっていった。掃除、着替え、食事。私の「マイペース」は、周囲を置き去りにして加速し続けていく。
私はクラスメイトの一人に歩み寄り、話しかけた。 しかし、彼女は怯えたように後ずさりし、耳を塞いだ。彼女の目には、私の姿は映っていないようだった。ただ、目の前を何かが凄まじい速度で通り過ぎ、不気味な高音が鼓膜を刺したかのように、顔を歪めている。
私の言葉は誰の耳にも届かない。私の手は、誰とも触れ合えない。 私が一歩踏み出す間に、世界は止まっているに等しかった。
「私は、ただ、私のペースで……」
私がそう考えて呟き終えても、教室の時計の秒針は一度も動かなかった。
────
管理者は、某うまし棒のいろんな味を試しながら、ポツリと漏らす。
「ん? ずいぶんマイペースのペースが上がったけど、これはこれで成功なのかな? 」
管理者はメモに書き留めた
「自分以外の時間がゆっくりになる世界 成功」




