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第二十話 人生をやり直す男

俺の名前はG、三十五歳。商社マンだ。


俺には、人生でどうしても忘れられない失敗がある。

「あのとき、別の選択をしていれば、あんな失敗はしなかったのに」

何年経っても、そう思ってしまう。


仕事でも恋愛でも、人生には「あのとき別の道を選んでいれば」と思う瞬間がある。


もし、もう一度だけやり直せたら。

行きつけの定食屋でランチのカレーを待ちながらぼんやり考えていたときだった。


「こんにちは。私は管理者です」


"管理者"と名乗る男は、運ばれてきたカレーを当然のように自分の前に置き、あろうことかカレーを器用に避け、お米と福神漬を全部食べてしまった。


「悪趣味なものを食べてますね」


男は俺の返事を待つこともなく、手元の奇妙な計器を操作している。


「あなたの性質が善か悪かなんてどうでもいいんです。ただ、あなたが不満を持っているのは、このメーターが示している。なので、その不満を解消するため、あなたが満足する世界にご案内いたします!」


「待て。カレーが悪趣味って何……」


視界が、真っ白に染まった。


───


目を開けると、そこは高校時代の自分の部屋だった。


壁に掛かったカレンダーを見て、俺は息を呑んだ。

日付も、部屋の中に置かれている物も、何もかも覚えている。間違いない。


俺は高校三年生に戻っていた。


その瞬間、頭の中に機械的な女性の声が響いた。


『人生をやり直します』


俺はしばらく言葉を失った。本当に、人生をやり直せるのか?

疑問を完全に払拭できなかったが、胸の奥に何年も抱えていた後悔が、一気に蘇ってきた。


そうか、俺はここでも失敗していたのかもしれない。

俺は当時寝食を忘れるほどハマっていたゲームソフトとゲーム機を売り払った。


それから俺は、前の人生ではサボりまくっていた勉強に打ち込んだ。

暗い青春時代とは言うが、たかだか一年だ。

俺は見事、前回受からなかった名門大学に入学した。


東京の大手企業に就職もでき、結婚し、子どもが生まれ…

順風満帆に思えたが、売り上げの八割以上を依存していた親会社が倒産し、俺の会社も連鎖倒産してしまった。

坂道を転がり落ちるように人生が急降下する。


「こんなはずじゃなかった…」


そのとき、また頭の中に機械的な女性の声が響いた。


『人生をやり直しますか?』


俺は、すぐさま『やりなおし』を選んだ。


しかし、仕事が上手く行けば今度は家庭が上手くいかない。


「やりなおし」


次は、仕事も家庭もそこそこだが、体を壊してしまう。


「やりなおし」


 ・

 ・

 ・


何度も何度もやり直すが、何度やっても、満足の行く結果にはほど遠い。


「こんなはずじゃなかった… あれ?そう言えば、最初の妻はどうなった?」


最初の妻とは、俺の地元の就職先で知り合った。東京で就職すれば出会うことすらない。


そのとき、また頭の中に機械的な女性の声が響いた。


『人生をやり直しますか?』


そうだ、俺はあのときの失敗をやり直すんだった。


俺は、すぐさま『やりなおし』を選んだ。


最初の人生での妻へのプロポーズの日に戻る。

あのときは友だちと遊ぶ金が欲しくて、少し安い指輪を選んでいた。今思えば、金なんて惜しまずにもっと良い物を選べばよかったと思っていた。


だから今回は、できる限り高価な指輪を買った。これなら、きっと喜んでくれる。

そう思ってプロポーズした俺に、彼女は困ったような顔をした。


「……こんな高い指輪、受け取れない」


俺が理由を説明すると、彼女はしばらく黙ったあと、小さく首を横に振った。


「私、G君とは結婚できない」


予想していなかった答えだった。


彼女は、俺が無理をして高価な指輪を買ったことを、「自分を良く見せたいだけなのではないか」と感じたらしい。

結局、この人生では彼女と結婚することができなかった。


そして、しばらくして思った。

「指輪が違ったからか? もしかして、最初の指輪じゃないとダメなのか……?」


すると、頭の中に機械的な女性の声が響いた。

『人生をやり直しますか?』


俺は迷わず答えた。

「やり直す!」


次の瞬間、俺はプロポーズの一年前の自分の部屋にいた。


「プロポーズの日じゃないのか?」


俺はそこで初めて、この能力のルールを理解した。


失敗した直前には戻れない。いろんな選択肢を簡単に試せないのだ。


一年前から、もう一度その一年間を生き直さなければならない。

最初は、それでも構わないと思った。一年くらいなら、人生を変えるための代償としては安い。


だがここで、俺は最初の人生を再現することが実質不可能だと気づく。


バタフライ・エフェクトという言葉の通り、寸分違わぬ人生を歩まなければ、どこがどう影響して結果が変わるのかわからないのだ。


何気なく入った店に、今回は入らなかった。

何となく注文した料理を、今回は別の料理に変えた。

ほんの些細な違いだった。


けれど、その違いによって店で出会う人が変わった。

その人との会話によって、その後の行動が変わった。

行動が変われば、また別の人間関係が生まれる。

一つの小さな違いが、その後の人生を少しずつ変えていく。


俺は何度も試した。

同じ時間に起きようとした。

同じ道を歩こうとした。

同じ店に行こうとした。

同じ言葉を言おうとした。


それでも、完全に同じになるはずがなかった。

一年という時間をもう一度生きれば、必ずどこかに違いが生まれる。


そして、その小さな違いが積み重なった先には、やがてそれが大きなうねりとなって人生が変化していく。


最初の人生にも失敗や後悔はあった。それでも、何度もやり直した人生と比べれば、明らかに失敗が少なかった。


「あのときは、失敗を覆し、もっと良い選択ができると思っていた」


けれど、違った。何度も人生をやり直したからこそ、俺には分かる。


「……最初の俺は、思っていたよりずっと上手くやっていたんだ」


最初の人生こそ、俺が選んだ人生の中で一番、失敗が少なかった。


最初から持っていた「最も失敗の少ない神選択」を、俺は自分自身で捨ててしまったのだ。


───


管理者はつぶやく

「これだけ人生をやり直しても不満は減らないとは、いったい……」


管理者はメモに書き留めた

「何度でも人生をやり直せる世界 大失敗D」

お読みいただきありがとうございました!

今のところ大きな反響はありませんが、少しでも面白いと思っていただけましたら、下部の「リアクション」や「評価☆☆☆☆☆」、「ブックマーク登録」をしていただけると、執筆の大きな励みになります!


ネタがあれば、毎日22時に更新する予定です。次回もよろしくお願いします!

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