第二十一話 ノーベル並行世界賞
ここは、ノーベル並行世界賞選考委員会の席。
今回の候補に上がった研究に対する議論が大いに紛糾している。
「この、不満を取り除く実験。全二〇例についてだが…」
「成功が十一例、失敗が七例、測定不能とされるものが二例です」
「失敗…七例もあるのか」
「ただし、そのうち二例は途中で軌道修正され、最終的には成功しています」
「それでも五例が失敗となると、普遍性を見いだせない」
「…そうですね」
委員たちは資料をめくった。
「強く出たい人間が、かえって問題を悪化させた例」
「時間を売った人間が、時間そのものを失った例」
「人生をやり直した人間が、最初の人生に戻れなくなった例……」
「実験としては、かなり奇妙だな」
受賞はないな、という空気が場を占めかけたとき、一人の委員がハッとした顔を上げた。
「待て待て!そもそも“不満”という原因を取り除いた実験で、普通は失敗がありえると思うか?」
室内が静まった。
「……確かに」
「不満の原因を取り除けば、不満は消える。それが前提だったはずだ」
「ところが、消えない」
「しかも二〇例中七例」
「さらに、そのうち二例は途中で条件を調整することで成功している」
「つまり、要因と結果は単純には結びつかない……」
委員たちの目の色が変わった。
「これは重大な発見ではないか?」
「極めて重大です」
「失敗そのものに、これほど明確な意味があるとは……」
「受賞に値する」
「異議なし」
こうして、管理者はノーベル並行世界賞を受賞した。
記者たちが殺到した。
「先生! 喜びの声を一言!」
「あ、はい。まぁ……うれしい……です」
拍手が起こる。
その少し離れたところで、管理者はぼんやりと人の群れを眺めていた。
(まいったな……こんなに注目を集めて、急に興味がなくなってしまった……)
その日の夜。
管理者は研究室で一人、受賞記念のトロフィーを眺めた。
「もう、不満なんてどうでもいいな」
しばらく考える。
「次の研究テーマは『満足を取り除く』にでもしてみますかね」
管理者の暇つぶしはつづく。
その紹介はまた別の機会に──
並行世界管理者による不満のない世界への転移実験の実際
完
最後までお読みいただきありがとうございました!
これにて、管理者の実験はいったん終了になります。
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