↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/21

第十四話 片付けられない女

私の名前はE。三十代前半の女性。自分の性質の所為(せい)かはわからないけどコンビニバイトで生計を立てている。


私の不満は私の中にある。私は所謂(いわゆる)──


「片付けられない女」


部屋の隅に積み上がった衣類の山。いつか分別しようと放置されたペットボトルの群れ。 私はそれらを見ない振りをしながら、ベッドのわずかな隙間に体を丸めてスマホをいじっていた。


「はあ……。誰か一瞬で、この部屋を綺麗に片付けてくれないかな……」


ぽつりと呟いた瞬間、私の足元から「バキッ」と、何かが激しく破砕される乾いた音が響いた。


音のした方に目を向けると、私の脱ぎ散らかしたパーカーの上に、見知らぬ妙な男が座り込んでいる。男は手際よく殻付きの落花生を割り、中身を口に放り込むと、中身のなくなった殻を私のキーボードの上に躊躇なく放り捨てた。 さらに男は手についた殻の粉や薄皮をパンパンと軽く叩き、それを部屋中に撒き散らす。


「……ちょっと!それ、私が机の上に放置してたおつまみの落花生!ただでさえ散らかってんのに、追い打ちかけないでよ!」


男は気にする様子もなく、手元にある奇妙な計器をパチパチと操作した。


「あなたの性質が善か悪かなんてどうでもいいんです。ただ、あなたが不満を持っているのは、このメーターが示している。」


「人の部屋に勝手に入ってきて、何言ってるのよ」


「なので、その不満を解消するため、あなたが輝ける世界にご案内いたします!」


「言ってる意味がわ──」


視界が、真っ白に染まった。


───


気がつくと、私は自分の部屋のベッドで目を開けていた。 相変わらず、部屋は足の踏み場もないほど散らかっている。


「え?夢……? でも、落花生の殻がキーボードの上に残ってる……」


困惑しつつも、私はいつものように仕事へ行き、いつものように帰ってきた。 当然、部屋は散らかったままだ。


知らないあの男に散らかされたという事実も後押しし、片付け欲が燃えてきた。さあやるぞ!とクローゼットを開けてみたが、三分で嫌気がさして諦めた。


そこで私は、ふと思いついた。


「そうだ。この汚部屋の写真を、今の状態のままSNSにアップしよう。みんなに見られて恥ずかしい思いをすれば、嫌でも片付ける気になるはず」


自分を追い詰め、退路を断つための、自虐的な投稿だった。


ところが。写真をアップして数分後、スマホの通知音が鳴り止まなくなった。 画面を見ると、信じられない文字が躍っている。


『待て! 頼むからその素晴らしい配置を動かさないでくれ!』


リプライを送ってきたのは、世界的に高名な、あのフランス人インテリアデザイナーだった。 彼の興奮に満ちた連投は、さらに続いた。


『脱ぎ散らかされたストライプのシャツと、絶妙な角度で傾いたペットボトル、そして地層のように重なる雑誌……! これほどまでに斬新に配置されたオブジェクト群を撤去する気か!』


私はなぜかダクトテープで壁に留められたバナナを思い出していた。


───


デザイナーの絶賛は、またたく間にネットニュースで拡散された。


次に有名インテリア雑誌が「生活空間における無秩序の芸術」と題して私の部屋の大特集を組んだことで、その特集号は一瞬で書店から消えた。


そして、あのフランス人デザイナーがわざわざテレビカメラを引き連れて私のボロアパートを訪れた。


「彼女の部屋は、均一化された現代社会への、美しき反逆だ!」


デザイナーがテレビで熱弁を振るうと、私の部屋は一気に「前衛芸術の聖地」になってしまった。


アパートの周囲には、世界遺産の観光地のように、毎日大勢の見学客が押し寄せるようになった。周辺の道路には、にわか作りの屋台がズラリと立ち並ぶ。


「はい、名物『汚部屋焼き』お待ち!」


「パパ、『汚部屋風船』買って!」


「こっちは汚部屋ポストカード、汚部屋ポスターだよ!」


赤い「汚部屋ちょうちん」の光が、夜のアパートを怪しく照らし出していた。


私は「新進気鋭の汚部屋アーティスト」として一躍時の人となり、顔も名前も完全に世間に割れてしまった。 おちおちコンビニに行くことすらできない。 そして何より最悪だったのは、同調圧力に弱い、私の気弱な性格だった。


「次の新作部屋を早く公開してください!」


「片付けないで!それがあなたの芸術だしあなた自身でしょ!」


ファンやメディアの熱狂的な期待に応えるため、私はゴミを捨てることも、掃除機をかけることもできなくなってしまった。 かつては私だけの隠れ家だった汚部屋は、今や観光客のために常時開放され、ガラス張りの美術館のように大衆の目に晒され続けている。


私は、ただ静かに、誰の目も気にせずに横たわれる場所を、完全に失ってしまったのだ。


───


管理者は、手元のメーターをチェックする。


「おかしいな……。片付けなくていい世界にしたのに、不満メーターが振り切ってしまったぞ」


管理者はメモに書き留めた。


「片付けなくても誰も気にしない世界 失敗」

お読みいただきありがとうございました!

今のところ大きな反響はありませんが、少しでも面白いと思っていただけましたら、下部の「リアクション」や「評価☆☆☆☆☆」、「ブックマーク登録」をしていただけると、執筆の大きな励みになります!


ネタがあれば、毎日22時に更新する予定です。次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。