42 私たちのすべてに決着をつけに行こう 祭典編
あいつはどうして分かったんだろう? でも、前にいたあの男の言うことは、もしかしたら正しかったのかもしれない……
何もかもから逃げ続けてきた私。すべてを恐れていた私。それなのに、ある出来事をきっかけに、凶暴な鬼のようになってしまった……
こんなふうに怒りをあらわにする自分も嫌いだ。何もかもから逃げ続けたせいで、かえって他人を傷つけてしまった自分も嫌いだ……
こんな絶望的な世界から消えようと、ずっと前から決めていたはずなのに、いざ本当に大きな決断をしようとすると、また逃げ出してしまう……
本当に手首を切って自殺しようと思っても、いざ決心する段階になると、結局いつも諦めてしまう……
何かをしようとしても、最後にはやっぱり失敗に終わってしまう……
本当の自分でいようとしても、現実の世界では人々に嘲笑され、騙されてしまう……
今日が最後の祭りになると思っていた。あるいは、誰かが一緒に逝ってくれて、そばにいてくれるんじゃないか……そんなふうに思っていた……
それなのに、結局また失敗してしまった。約束していた相手も、結局は私を笑いものにしていただけだった。
こんな自分のことを、本当に気にかけてくれる人なんているはずがないと思っていた……
今日ですべてが終わるはずだったのに……
早夜は目の前にいる林月のほうを見つめた。胸の中にあった失望感は広がるどころか、少しずつ和らいでいった……
「うん、私が言いたかったのはそういうことだよ。私は何もできない人間だけど、これだけはどうしても見過ごせないんだ!
助けを必要としている人を助けること。私だって、誰かに救ってもらったんだよ。だから今度は、私も誰かを救ってみたいんだ!!」
林月は笑顔でそう語った。
そして林月の脳裏には、フィナと、かつて自分を救ってくれた雪娜の姿が浮かんだ。
早夜は目の前の林月を見つめ、そっと林月のほうへ手を差し伸べながら、真剣な表情で言った。
「うん、分かったよ。ありがとう。私も頑張ってみるね!」
早夜は優しくそう答えた。
……
祭りは中盤の盛り上がりを迎え、やがて休憩時間に入った。次の演目が始まるのを待つ時間だ……
夜璃は前方を一生懸命に探していた……
夜璃は人でごった返す祭りの会場を歩き回っていた。周囲には、さまざまな人々が行き交っている。
しかし、彼らの表情には皆、祭りや日々の生活に対する希望があふれていた……
夜璃は、自分より年下の人々や同い年の人々、そして自分より年上の人々を見つめた……
誰もが、本当に幸せそうな笑顔を浮かべていた。
自分だって、彼らのように心の底から幸せを感じたい……
なのに、どうしてだろう?
どうして自分だけは、いつまで経っても心の底から喜びを感じられないのだろう……?
自分の中にあるのは、他人を妬み、嘲笑するような気持ちばかりだ。自分の心は、一体どうなっているんだろう……
夜璃は目を閉じ、目の前の人混みを通り抜けていった。
その感覚は、まるで自分と現実との間に何かしらの隔たりがあるかのようだった。まるで自分だけが、周りの人々にずっと置き去りにされてしまったような気がした……
……
夜璃は再びイヤホンを耳に装着し、お気に入りのプレイリストを再生した。そこから希望を見つけようとしていた……
(おい、そこの見知らぬ人……
君は僕に尋ねるんだね。僕の人生は、一体誰のためにあるのかって。
他人にダメだと言われたら、本当にダメになってしまうのか? 他人に笑われたら、黙って諦めなきゃいけないのか?
ふざけるな!
他人にどう思われようが、僕はそんなこと気にしない!
これは僕の人生だ! 僕は自分の道を歩いていく!
たとえ転んでも、たとえ笑われても、自分が行きたい場所まで、自分の足で歩いていくんだ!
君たちが今、何に迷っているのかは分からない。でも、僕だったら、今がどんなにつらくて嫌な状況でも、君たちと一緒に頑張って歩き続けるよ!!)
イヤホンから突然、反骨心に満ちた、力強くてかっこいい叫び声が聞こえてきた……
その後、少女は自分の歌を歌い始めた……
イヤホンから流れる歌声を聴いていた夜璃は、心の奥底で何かが突然揺さぶられたような気がした。
それは言葉では言い表せないほどの感動だった。まるで、これまでずっと自分を縛りつけていた迷いが、この瞬間、何かの力によってそっと取り払われていくようだった。
しかし、この声は一体誰のものなのだろう?
自分には、この曲を保存した覚えなんてないのに……
イヤホンから流れてくる少女の歌声。その真剣で揺るぎない思いと歌詞の内容が、夜璃の心に新たな活力を与えてくれた……
まるで、その少女が自分のすぐそばにいてくれるような気がした。
その感覚は、とても優しく、心を揺さぶるものだった……
夜璃は急いでスマートフォンを開き、プレイリストを確認した。そこには「星空」という名前のVTuberが表示されていた……
夜璃は、画面に映る青い長髪の少女の姿を見つめた。
VTuberとしての姿をまとってはいるものの、その口調や目つきからは、彼女が真剣に物事に向き合っていることが伝わってきた……
画面の中の少女を見つめているうちに、夜璃は何かを思い出しかけているような気がした……
そこで、夜璃は星空の過去の動画を探し始め、彼女について詳しく調べようとした……
しかし、動画の内容を確認していくうちに、夜璃は彼女がすでに六年間も姿を消していることに気づいた。
どうして? 彼女は一体いつ、このインターネットの世界から姿を消してしまったのだろう……
星空が過去に投稿した動画には、他人に何かを教えたり、困難を乗り越える手助けをしたり、誰かを救おうと懸命に努力したりする姿が数多く記録されていた。
そして、彼女の真剣な姿勢と、世間の理不尽な仕打ちにも負けない精神は、多くの人々を救ったと言われていた……
私も、かつて彼女に救われたことがあったような気がする……
でも、確か彼女は貧しい世界に生まれた少女で、精神的な病気も抱えていたはずだ。
それでも、歌うこととアイドルになるという夢を叶えるために、壊れかけたこの世界に立ち向かい、最後まで懸命に努力し続けた……
彼女の決して諦めない精神は、確かにあの頃の私をも救ってくれた……
何にも縛られず、他人を救おうとするなんて、本当にすごい少女だな……
しかし、彼女はこの一曲を投稿したきり、インターネットの世界から姿を消してしまった。
夜璃は画面に表示された情報やニュースを見つめ、星空が姿を消した理由を探そうとしていた。
そのとき、夜璃は信じられない事実を目にした。
星空は、六年前に不慮の事故で亡くなっていたのだ……
夜璃は、目の前の情報が信じられず、ただ呆然と画面を見つめていた……
さらに、そこには星空がアイドルになった後、自分のすべてを支配しようとする家族から逃れようとした結果、最後には家族に殺されたのだという話も記されていた……
そ……そうだったのか……
夜璃は静かにため息をつき、再びイヤホンを装着すると、星空が残した最後の楽曲を聴き続けた……
あれほど多くの人々を救ってきた彼女なのに、どうして自分自身だけは救えなかったのだろう……
それでも、今日、もう一度あなたに出会えて、本当によかった。
私も、これから前を向いて歩き続けるよ。他人の言葉に振り回されず、自分を信じて頑張っていく。
ありがとう!
そう言うと、夜璃は自信を取り戻したように、前方にいる林月を探し始めた。
イヤホンからは、今も星空の歌が流れ続けていた。
まるで、星空が自分のすぐそばにいてくれるかのように感じられた…………
……
祭りも後半に入り、会場では歌を披露する人々の姿も見られるようになった。会場の雰囲気は、徐々に最後の盛り上がりへと近づいていった……
フィナは目の前の光景を眺めたあと、スマートフォンで時間を確認した……
花火の打ち上げまで、あと四十分か……。林月、本当に間に合うのかな……?
それに、これから観覧台の上まで行かないと花火が見られないってこと、ちゃんと分かってるのかな……?
フィナは少し寂しそうに、そして不安そうに前方を見つめていた……
「林月と一緒に花火を見られないんじゃないかって、心配してるのか?
まったく、そんなに焦らなくてもいいだろ。あいつ、ちょっと無鉄砲なところはあるけど、お前の財布を取り戻すために頑張ってるんだろ? 信じてやれよ!」
牌子はりんご飴をかじりながら、淡々とそう言った。
牌子の言葉を聞いたフィナは、嬉しそうに微笑んだ……
その後、フィナは観覧台の地図を林月に送った……
……
「うーん……これで本当に君の助けになれたのかな? 口で言うだけになっちゃったけど、僕は本気で言ってるんだよ、早夜!」
林月はそう言った。
「うん、今の話は分かったよ。それで、あなたは私のこと……私……」
早夜は林月に何かを伝えようとしたが、どうしても言葉にすることができなかった。
林月は、ためらっている早夜の表情を見つめた……
「どうしたの? 何か言いたいことがあるの?
言いたくないなら、無理に話さなくてもいいんだよ。もしかしたら、心の中にしまっておいたほうがいいこともあるだろうし。
でも、話したいなら話してくれてもいいよ。僕は君を笑ったりしないから!」
林月は笑顔でそう言った。
それにしても、あの泥棒は一体どこまで逃げたんだろう? もうあまり時間もないし、そろそろフィナのところに戻らないと……
でも、足をくじいた早夜をここに一人で置いていくわけにもいかない。かといって、フィナのことを放っておくわけにもいかないし……
林月は目の前を見つめながら考え込んでいたが、やがて早夜と一緒に、前方にある別の曲がり角へと向かって歩き始めた。
……
夜璃は星空の音楽を聴きながら、ゆっくりと前方の曲がり角へ向かって歩いていた。
しかし、角を曲がったその瞬間、ちょうど目の前に林月の姿が現れた……
二人は同時に足を止め、驚いたようにお互いの顔を見つめた。
「えええっ?!!」
二人は同時に驚きの声を上げた。
林月と夜璃は向かい合っていたが、緊張のあまり、言おうとしていた言葉をすっかり忘れてしまった……
「えっ……り、林月! すごい偶然だね! どうしてこんなところにいるの? 本当に偶然だね!?」
夜璃は耳に着けていたイヤホンを外した。
「あっ、えっと……
よ、夜璃か……。久しぶりだね! 君もここに来てたんだ。すごい偶然だね!」
林月は笑顔でそう言った。
「う、うん……そうだね……。でも、私たちって昨日会ったばかりじゃ……?
そんなに久しぶりってわけでもないよね! それに、林月も来てたんだね。私も来てるんだよ。前に……えっと……」
夜璃は笑いながらそう言った……
早夜は隣にいる二人を見つめ、何とも言えない呆れたような表情を浮かべていた。
……
うわあ……気まずい……。突然出くわしたせいで、さっきまで何を話そうとしていたのか、すっかり忘れちゃった。
もちろん、夜璃が僕を探していたことは分かってるんだけど……
何て話せばいいんだろう……。どうしよう……。
林月は目の前の夜璃と周囲の様子を見ながら、何とかこの気まずい空気を変えるきっかけを探していた……
そのとき、林月は夜璃の浴衣の裾から覗いている白いストッキングに気がついた。
夜璃の両足を見ると、なんと右足にしかストッキングを履いていなかった……
あれ……? 確か、以前工場で彼女と会ったときも、同じように片足だけストッキングを履いていたような……
林月は不思議そうに夜璃の足元を指差し、尋ねた。
「ねえ……夜璃、どうして右足にしかストッキングを履いてないの? もう片方の足は履かないの?!」
夜璃は林月が指差した自分の足元を不思議そうに見たあと、こっそりと笑った。
「ああ、これのこと? ストッキングって、こうやって片足だけ履くほうが可愛いと思うんだよね。そう思わない? ふふん!」
「えっ……! そういうことだったんだ! 前に工場で会ったときも、片足だけ履いてたからさ……
何か不思議なことでもあったのかと思ってたけど、わざとだったんだね?!」
林月は驚いたように言った。
「ふふん、そうだよ! ただそれだけのことだよ! もう、考えすぎだよ、バカ!!」
夜璃は林月を指差しながら、とても楽しそうに言った。
……
「ふふん、話してみれば、別に難しいことなんてなかったみたいだね……
それじゃあ、あのときのこと、本当にごめんなさい。許してもらえるかな?
それから……私と友達になってほしいんだ。実は、ずっとそれを伝えたかったの!」
夜璃は目の前の林月を真剣な眼差しで見つめると、頭を下げ、目を閉じて深々とお辞儀をした。
突然そんなことをされた林月は、驚きと戸惑いが入り混じった表情で夜璃を見つめた……
ま、待って……! どうすればいいんだ? 早く止めないと……
いや……違う。今の夜璃は本気なんだ。適当に返事をして済ませていいわけじゃない……
林月の慌てていた目つきも、次第に真剣なものへと変わっていった。
「うーん……そっか。そういうことだったんだね……。まったく、夜璃、何をしてるんだよ。そんなことしなくてもいいのに……。僕は全然怒ってなんかいないよ……」
林月は真剣な表情で夜璃にそう言った。
しかし、震え続ける夜璃の姿を見て、林月は小さくため息をついた。そして、改めて彼女に語りかけた。
「分かったよ、夜璃。正直に言うと、僕も君とこれからも友達でいたいし、お互いにとって大切な存在でありたいと思ってるんだ……
だから、君もここに来てるって聞いたとき、嬉しかった反面、どうすればいいのか分からなくて不安にもなったんだよ!
でも……もういいじゃないか。だから、そんなに謝ったり、自分を責めたりしなくていいんだよ。
とにかく、そういうことなんだ。僕もどう言えばいいのか、うまく説明できないんだけど……
でも、夜璃、顔を上げてよ。もうそんなことしなくてもいいんだから!!」
林月の言葉を聞いた夜璃は、驚いたように目を開いた。
まさか、林月がこんな反応をしてくれるなんて、思ってもいなかったのだ……
夜璃は顔を上げた。顔を赤らめ、全身を震わせながら、林月に語りかけた。
「えっ……そ、そうなの?!
林月も、私と同じように思ってくれてたの? 本当に……?!」
林月は意外そうに夜璃を見つめたあと、真剣な表情のまま、優しく微笑んで答えた。
「うん、そうだよ。だから、夜璃、もう過去のことばかり気にしないでさ。これからは仲良くしていこうよ!!」
林月の言葉を聞いた夜璃は、何度も息をつきながら、胸元をぎゅっと握りしめた……
そうだったんだ……。
まったく、私たち、ずっと難しく考えすぎていたのかもしれないね……
……
二人が少し話をしようとしたそのとき、早夜は前方に眼鏡をかけ、無精ひげを生やした太った中年男性がいることに気づいた。
男はその場に立ち、周囲をきょろきょろと見回していた……
早夜はすぐさま肘で林月の背中を強く突いた……
「うわっ……痛いよ! ど、どうしたの、早夜……?」
林月は痛そうに叫んだ。
早夜は素早く男のほうを指差し、林月と夜璃に向かって大声で言った。
「あの人、あの人が財布を盗んだ泥棒だよ!
林月!」
林月は驚いて、早夜が指差す方向を見た……
「ええっ……あいつなの?! どうして分かったの、早夜? 本当に間違いないの?!」
「うん、間違いないよ! さっきあの泥棒が私にぶつかったあと、帽子を取って私の姿を確認して、それから私のそばに手を伸ばしてきたの……
たぶん、私の財布を盗もうとしたんだと思う。そのときに、帽子の下に隠れていた顔が見えたの。でも、どういうわけか、そのあと私の財布は盗まれなかったんだ!!」
早夜はそう説明した。
林月は少し意外そうに早夜を見つめた……
「なるほど、そういうことだったんだね。分かったよ、早夜、ありがとう!
どうしてあいつがそんなことをしたのか、僕にも分かってきたよ!」
そう言うと、林月は前方へ向かって走り出した……
しかし、夜璃が彼の前に立ちはだかり、行く手を遮った。
夜璃は笑顔で言った。
「うんうん、林月、私たちも一緒に行こう!
一人で行くのはやっぱり危ないよ!
私にも手伝わせて。いつも一人で何とかしようとしないでよ!
私も仲間に入れて。一緒に行こう!」
夜璃の真剣で揺るぎない表情を見た林月は、微笑みながら前方を見つめた……
「うん、分かった。ありがとう、夜璃……
それじゃあ、一緒に行こう。これで全部終わらせよう!!」
……
「おい、財布を盗んだ犯人はお前だろ、この間抜けな泥棒!」
林月は前方にいる男を指差し、笑いながら言った……
男は驚いて林月を見つめ、少し怒ったような表情で言い返した。
「お前……!
ふざけるな! 一体何を言ってるんだ? 俺が泥棒だと? 俺だって財布を盗まれたんだぞ?!」
「ええっ?!
そうなの?
……なんて、僕がそんなことを言うと思った? 冗談はやめて、さっさと観念しなよ。僕はお前の嘘には騙されないからね!」
林月はそう言った。
「お前、頭がおかしいんじゃないのか?!
俺の財布だって泥棒に盗まれたって言ってるだろ! 一体何がしたいんだよ?!」
男は怒鳴った。
「違うね。あの泥棒が狙っているのは、若い女性や彼氏のいる女性の財布ばかりだ。お前の財布を盗むはずがない!
いい加減にしろよ。お前はただ、そういうことをして女性の気を引きたいだけなんだろ……たぶんね!」
林月はそう言った。
男は嫌悪感をあらわにしながら拳を握りしめ、林月を嘲笑した。
「へえ、そうかよ。ずいぶん頭がいいんだな! そんなやり方で他人のことを勝手に決めつけて、自分がすごいとでも思ってるのか? この知恵遅れが!」
「うん、まあね。僕はもともと、何かを隠したり、回りくどいことをしたりするのが好きじゃないんだ。
だからさ、盗んだことを認めるなら、さっさと財布を返してよ!
今ここで返してくれるなら、許してあげるよ!」
林月は笑顔でそう言った。
「お前、頭がおかしいのか? 俺がお前に財布を返したところで、何の得があるんだよ? そもそも、俺はお前の財布なんか盗んでねえ!
お前はただの思い上がったバカだ! 他人から尊敬されたいだけなんだろ!
それで人前でいい格好をして、目立とうとしてるだけの間抜けだ! 誰もお前なんか相手にしないさ。女や若い連中からは、勝手に好意を押しつけてくる迷惑な奴だと思われるだけだ!!」
男はそう言い放つと、手に持っていた財布を林月の顔に向かって力いっぱい投げつけた!
投げつけられた財布が林月の顔に当たり、彼の顔から血が流れた……
林月は地面に落ちた財布を真剣な表情で拾い上げ、静かに口を開いた。
「そうか。都合よく利用されるだけの存在、か……。それは確かに恐ろしいことだね。君の言うとおりかもしれない!
実は、僕にもその気持ちは分かるんだ。僕だって、誰かに注目されたくて行動してしまうことがある。その結果、逆に周りからバカにされてしまうことだってあるんだ。
でも、だったらもう、それでいいんじゃないかな。
今の僕は、そんなことをいちいち気にするのも、もうやめようと思ってるんだ。いつまでもそんなことにこだわっていたら、本当につまらないからね!
だからさ、仮にそうだったとして、それが一体どうしたっていうんだ?
昔、女性や若い連中に一時的に利用されたからって、ずっとその場に立ち止まって、嫉妬や嫌悪感に浸り続けるつもりなのか?
そんな人生も、僕には少し分かる気がするよ。そういう経験を繰り返すうちに、若者が嫌いになったり、女性が嫌いになったりするんだろうね。
でも、それとこれとは別の話だよ。
だって、犯罪に手を染めて、他人に迷惑をかけ始めた時点で、もう話は変わってしまうんだから!」
林月は真剣な表情でそう語った。
男は林月の話を聞き、嫌悪感と怒りの入り混じった表情で彼を睨みつけた……
「いいだろう。それで、一体どうだっていうんだ? 俺はやりたいことをやっただけだ! でも、少なくともこれで少しはスッキリできる!
あんな可愛い女どもや若い連中なんて、この世界の害悪でしかない!
少しくらい憂さ晴らしをして、あいつらが負けて、焦って、悲しむ顔を見られれば、それだけでも十分価値があるだろ!
あいつらはいつだって、俺の容姿を見て判断したり、人を見下すような目で見てきたりするんだ!
顔のいい男が下ネタを言ったり、女性についてあれこれ言ったりしても許されるし、周りから歓迎される。それなのに、俺がちょっと質問しただけで、どうして女や若い連中から嫌われなきゃならないんだ!!」
男は嫌悪感をあらわにして叫んだ。
その後、男はそばからもう一つ財布を取り出し、林月に向かって投げつけた……
林月は飛んできた財布を素早く受け止めた!
そして、真剣な表情で男に向かって言った。
「そうか。だとしたら、僕と君とでは考え方が違うのかもしれないね!
僕だって、今の若者たちの生き方や生活についていけないことはあるよ。でも、だからといって、そんな扱いを受けたからって、自分の不快な気持ちを他人に押しつけるのか?!
だったら、君は本当にバカだね! 下ネタを言ったら何だっていうんだ?!
僕は別に、それ自体は大した問題じゃないと思うよ。でも、君は最初から問題の本質を見誤っているんだよ、バカ!
君はただ、自分が経験してきたことを、他人を傷つけるための原動力にしているだけだ。
この世界はそういうものなのかもしれない。でも、そこで諦めて、他人を傷つける道を選ぶなんて、僕は本当につまらないことだと思うよ!」
男は歯を食いしばり、目の前の林月を睨みつけた。
「お前には何も分かっていない! お前だって、ただの若者にすぎないだろ! 今の人間がどれほど愚かなのか、お前には分からないんだ!
会社では、若い連中から冷たい目で見られる。あいつらは俺が年を取っているというだけで、嘲笑するような目で見てくるんだ……
俺の陰で悪口を言い、上司からは怒鳴られ、新人としてもうまくやれない!
道を歩いていても、祭りに来ても、女どもはどうして俺をそんな嫌そうな目で見るんだ?!
どこへ行っても、お前らみたいな理不尽な若者ばかりだ! その一方で、社会はどんどん高齢化していく!
こんなふうに、いつまでも分かり合えず、話も通じない世界で、一体何をどう話し合えっていうんだ!!」
男は大声で叫んだ。
「そうか。君が今までどんな経験をしてきたのか、僕には分からない。でも、理解できないことや、説明のつかないことばかりのこの世界で、君自身もその一人になってしまっているんだよ!」
林月は男を指差して言った。
「いいだろう。お前とこんな話をしたところで、何の意味もないみたいだな。さっさとそこをどけ! 俺の邪魔をするな!
どうせ今日は、ひと暴れしてやるつもりだったんだ。だったら、まずはお前から始めてやるよ!」
男はそう言うと、手に持っていた小刀を取り出した……
目の前の光景を見た林月は、少し驚いた……
「えっ……ちょっと待ってよ、一体何をするつもりなんだ? そんなに自分を追い詰める必要なんてないだろ。早くやめるんだ……
考え直してよ。こんなことをしても何にもならない! まだやり直せるんだから、こんなことはやめてくれ!」
林月は歯を食いしばりながら言った……
「うるせえ!!
まったく、どうして止めに来るのが若くて可愛い女じゃないんだ? もしそうだったら、俺だって思いとどまっていたかもしれないのによ!
……もう、うんざりなんだよ! 本当はみんなに自分のことをしっかり覚えておいてほしかった。でも、ここまで来ちまったら、もう俺には生きる道なんて残されていないんだろうな!」
男はそう言い終えると、手にしたナイフを持って林月に向かって突進した!
男の言葉を聞いていた林月は、必死に彼を止めようとしていた気持ちが、次第に薄れていくのを感じた……
……そういうことなのかもしれない。
他人のために善意や思いを捧げ続けても、最後まで誰にも大切にされないのなら、もう誰に対しても、こんなふうに親切にする必要なんてないのかもしれない。
自分の心の声にさえ耳を傾けようとしない人間は、結局、こうなるしかないのだろう……
林月は男が振り下ろしたナイフを素早くかわした……
「そうか。だとしたら、本当に哀れだね。そんなことをしている限り、もう誰にも君を救うことはできないだろうね!」
林月は低く、嫌悪感のこもった声でそう言った。
男は林月を見つめ、手にしたナイフを引き戻そうとした。しかし、その瞬間、背後から誰かに腕を強くつかまれた……
男は驚いて振り返った。
「うん……もう終わりだよ!
そんなことをしても、答えなんて見つからないよ! あなたの考え方じゃ、たとえ美少女や有名人が来たとしても、あなたを救うことなんてできないんだから!!」
夜璃は真剣さと笑みを交えた表情でそう言った。
続けて、夜璃は男の腕を力いっぱい後ろへとひねった……
「ミシッ……」
男の腕から、骨が砕けるような音が何度か響いた……
「お、お前……誰なんだよ?! 何様のつもりで、俺に偉そうなことを言ってるんだ! くそっ!!」
男は大声で叫んだ。
「さあね。でも、あなたはもう負けたんだよ……
誰の助言も信じようとしないのなら、どれだけ自分一人で頑張ったところで、最後には何の意味もなくなってしまう……
まあ、あなたにこんなことを言っても、もう無駄みたいだけどね!」
夜璃はそう言い終えると、男の腕を勢いよく振り払った。
その反動でナイフが男の手から飛び出し、そばの地面に落ちた……
男もそのまま地面に倒れ込んだ。
林月は目の前の夜璃を驚いた様子で見つめた。
「えっ……な、何だよ、夜璃!
強すぎない?!」
「林月、早くあのナイフを拾って! あの男がまた手に取ったら危ないから、早く!」
夜璃は真剣な表情でそう言った。
「あっ……うん、分かった!」
林月は素早く地面に落ちていたナイフを拾い上げた……
「くそっ、ふざけるな! この女め! 俺はお前らみたいな女が大嫌いなんだよ! 力ずくでしか物事を解決できず、俺たちを見るとゴミでも見るような目を向けてくる……」
男は歯を食いしばりながら、恨み言を繰り返した。
夜璃は男に近づくと、襟元を力いっぱいつかみ、そのまま突き飛ばした。男は勢いよく、そばにあった狛犬に激突した。
腰に衝撃を受けた男の全身に、激しい痛みが走った……
「うわあっ……」
男の口から、たちまち血が流れ出した……
男は拳を強く握りしめ、怒りに満ちた声で言った。
「この女……俺がお前なんかを怖がると思ってるのか……!」
夜璃は目の前の男を見つめながら、軽く手を振った。
「うん、そうなの? さあね。それじゃあ、あなたにそんな力があるのか、試してみようか!」
そう言うと、夜璃は男の前に歩み寄った。男も夜璃に向かって拳を振り上げた……
しかし、夜璃はその攻撃をあっさりとかわした。次の瞬間、素早く男のそばに回り込み、その頭をしっかりとつかむと、狛犬に向かって思いきり叩きつけた!
たちまち血が飛び散り、男は苦痛に顔をゆがめながら前方を見つめた……
頭の中では、さまざまな考えが歪み、混乱していった……
男は必死に立ち上がると、やみくもに拳を振り回し、力任せに夜璃へ攻撃を仕掛けようとした……
しかし、夜璃はその攻撃をことごとく軽々とかわし、男が拳を繰り出す瞬間を狙って素早く反撃した。容赦なく男の体に拳を叩き込んだ。
男が夜璃に攻撃を仕掛けるたび、すぐさま反撃を受けて後退させられ、まったく反撃の機会を得られなかった……
「どうしてだ……どうして、こんな女にすら勝てないんだ……。一体、どうして……」
男はそう言うと、力なく後ずさった……
その隙に逃げ出そうとした男だったが、背後の階段に足を取られてしまった。バランスを崩した体は、そのまま後ろへと倒れていった……
男の体は階段を一段、また一段と転がり落ち、ついには一番下の段まで落ちてしまった。
その直後、男の頭部がそばにあった神社の地蔵像に激しくぶつかった。傷口から血が勢いよく流れ出し、その体を赤く染めていった。
最後には、男は全身血まみれのまま地面に倒れ、完全に意識を失った……
夜璃は階段の上まで歩いていき、下に倒れている男を見下ろした。
「うん、あなたが負ける理由は簡単だよ。他人を傷つけたその瞬間に、あなたはもう負けていたんだよ……
これって、林月が言っていたことだったかな? まったく、ふふっ!」
夜璃はそう言うと、浴衣の中に手を入れた……
林月は夜璃のもとへ歩み寄り、尊敬の眼差しを向けた。
「夜璃、君って本当にすごいね! その……
ありがとう!」
林月は嬉しそうに言った。
「ううん、そんなことないよ! これも、あなたのおかげなんだから。あなたがいたからこそ、私もこんな力と勇気を持てるようになったんだよ!」
夜璃はそう答えた。
「そっか……そうなんだ……」
林月はほっとしたように微笑んだ……
そのとき、そばのスピーカーからアナウンスが流れ始めた……
「祭りの最後を飾る花火大会は、三十分後に開始いたします!」
「えっ?! 林月、フィナと最後の花火を一緒に見る約束をしていたんじゃないの?!
もう時間がないよ! きっとフィナもまだ待っているはずだから、早く行って!
今から急げば、まだ間に合うはずだよ!
フィナの財布は、あとで私がここから渡しておくね。もうすぐ警察も来るはずだから、早くフィナと合流してあげて!」
夜璃は焦った様子でそう言った。
……
林月は夜璃と早夜を見た。
「そうなの?! でも、早夜と夜璃はどうするの? 早夜の足だって、それに……」
林月が続きを話そうとしたとき、早夜が彼の前まで歩いてきて、木の枝でそっと林月の肩に触れた。そして、笑顔で言った。
「林月、私の足はもう大丈夫だよ! まだ果たさなきゃいけない約束があるんでしょ? だったら、行ってきて。私のせいで、ほかの人との約束を台無しにしちゃダメだよ!」
早夜は優しく言った。
林月は早夜を見つめた。
「うん……そうなの? それにしても、早夜、本当にもう大丈夫なの?!
僕は……」
早夜は笑いながら、手に持っていた木の枝を脇へ放り投げた。
そして、少し緊張した様子で林月に手を差し伸べ、浴衣の袖で手を隠しながら、笑顔で言った。
「うん、大丈夫。私、頑張るから! そんなに心配しなくてもいいよ。私、きっと方法を見つけるから!」
林月は早夜と、彼女が差し伸べた手を見て、そっと微笑んだ。
「そうか! じゃあ、これからもよろしくね!」
そう言うと、林月は早夜が差し伸べた手を、ぎゅっと握りしめた……
「うん、私、頑張って……頑張って乗り越えるよ。今、この瞬間から!」
早夜はそう言った。
恐怖を乗り越え、偏見を乗り越える……
かつて自分を見捨てた人々や、成長していく過程で失わざるを得なかったもの。それらは、青春の記憶や人生の道の中に、永遠に閉じ込められたままでいるしかないのだろうか……
このすべてを変えることは、本当に一つの選択を迫られることなんだね……!




