39 始まりかける感情 祭典編
轟隆……轟轟……
騒がしい音が響いた後、工場の扉が他の人たちによって開けられた……
手にメスを持った男が歩いてきた……
男は前へ進み、地面に倒れている夜璃の叔父を見つけた……
「おい……聞かせてもらおうか。お前、一体何をしたんだ? 旦那様がお前のやったことを知ったら、ただじゃ済まないぞ!!」
叔父は苦しそうに、目の前の男を見つめた……
「お前は……以前、旦那様の隣にいた奴か……
ここに何しに来た、馬鹿野郎!!」
その男は手に持ったメスを振り回し、舌を出しながら大笑いした。
「いやいや……ただ、お前がちゃんと仕事をやったのか見に来ただけだよ。それよりさ……
旦那様のあの公主に、何かあったんだろ? 警察まで調べてるみたいだけど、一体どういうことなんだ……?」
叔父は、目の前で舌を出している男を、ひどく緊張した表情で見つめた……
「待て……この件は俺がやったんじゃない……
あの少女を奪っていった男がやったんだ、俺じゃない……
そうだ、あの男が俺からあの少女を奪っていったんだ。全部あの男がやったことだ。あのクズがやったんだ、あのクソ馬鹿野郎がやったんだ!!」
叔父は大声で言った。
その男は叔父の言葉を聞いても、まるで気にしていないかのように、手の中でクルクルと回していたメスをゆっくりと握り直した……
「うん……そうなのか……
でもさ、もう終わったことだろ? それにお前、あの男に負けたんだろ……
まあ、いいか……」
舌を出した男はそう言うと、手に持っていたメスを叔父の額の前に突き刺した。そして刃の柄を強く握り、そのまま何度も回し始めた……
「実は俺、お前のこと結構嫌いなんだよな。どうせお前も、俺たちに利用されただけの奴だし……
お前はもう、死んだほうがいいよ!」
舌を出した男がそう言うと……
叔父は何度も口を開き、叫び声を上げ始めた。そして舌を出した男はすぐにメスを引き抜き、そのまま叔父の喉へと突き刺した……!
…………
ぽつ、ぽつ……
窓の外では突然、小雨が降り始めた……
林月はゆっくりと目を開けた……
隣に置いてあったスマートフォンを見ると、なんともう午後3時を過ぎていた……
「えっ……どういうことだ? なんでこんな時間になってるんだ……
俺と菲娜が約束した時間って、確か12時だったよな……
待て……一体どうしてこんなことになってるんだよ、俺!」
林月は慌てて靴を履き、急いで服も着た……
おかしいな、目覚ましが鳴らなかったぞ……まったく……まったく……
昨日、菲娜と約束したことなのに、どうしてこんなに簡単に忘れちゃったんだよ……
林月は急いで家を出た。外では、細かい雨がぽつぽつと降っていた!
「えっ……雨が降ってるじゃないか。これじゃあ夜の祭典はどうするんだ? でも、このくらいの雨なら、夜にはもう止んでるよな……」
林月はそう言いながら、急いで前へと進んでいった……
……
まったく、菲娜は俺に電話してくれなかったのか?
林月はスマートフォンを取り出し、菲娜に電話をかけようとした。しかし、ちょうど菲娜からメッセージが送られてきたことに気づいた……
「ねえねえ、林月、私も寝坊しちゃったみたい……
あはは……大丈夫だよ、今から行けばちょうどいい時間だね。待ってて、すぐに行くから!!」
林月は菲娜から送られてきたメッセージを見て、少しホッとした……
へへ……なんだ、彼女も寝坊したのか……それならよかった…………
林月は近くにあるバス停のベンチに座り、菲娜を待つことにした…………
……
林月はベンチに座りながら、道を歩いている人たちを眺めていた……
もう、たくさんの若者が浴衣を着て歩いているな……
たくさんの男の子と女の子が一緒に遊んでいる……なんだか羨ましいな……
これが青春ってやつなんだろうな。俺にはもう、昔みたいな感覚が分からなくなってしまった……
いつからだったんだろうな。普通の人間としての、若者らしい感覚を奪われてしまったのは……俺は、こんな感情を取り戻せるのだろうか……?
感情さえも奪われた人間が、本当にすべてを変えることなんてできるのか…………?
林月は前方にいる人々を見つめた……
祭典が始まる前の夜明け。みんなの笑顔も、もう隠しきれないほど輝いているのかもしれないな……
あっ……思い出した。そういえば昔、妹も祭典のことでずっと嬉しそうにしていたな。あの頃は、俺と一緒に祭典へ行きたいって駄々をこねていたっけ。でもあの時の俺は、みんなからあんなふうに言われていて、自分には妹を守ることなんてできないと思っていたから、一緒に行かなかったんだよな……
でも、その後は確か……
うーん……
あまり思い出せない……くそ…………。
異世界や他の出来事のせいで、記憶が混ざってしまっているのか?
まさか、異世界から異世界へ切り替わるたびに、以前の記憶を捨ててしまうのか。それとも、ただ俺自身が妹が死ぬ前の記憶をすべて閉じ込めているだけなのか……
林月は目を閉じた……
その時、雨もすでに止んでいたようで、道を歩く人たちも、もう傘を差している人はほとんどいなかった……
林月は目を開き、前方から差し込んでくる陽の光を見つめた……
すると、突然何かを思い出した……
……そうだ。夜璃の叔父が、あの時確か菲娜について何か言っていた……
……
「それにさ、知ってるか? 菲娜って、男が怖い子らしいぞ。確か、男のことをかなり嫌っていたはずだ。
それなのに、なんでお前みたいな奴と一緒にいるんだ? お前みたいな社会の底辺にいる男なんて、女の手すら握ったことがないだろ? あの『公主』と呼ばれているような女が、お前なんかと関わるわけないだろ。冗談も大概にしろ!」
あの時、彼女の叔父はそう言っていた……
菲娜……彼女は男が怖い女の子なのか? そう考えると、ある意味では納得できるのかもしれない。だって、男女で性別も違うんだから、女の子が男を怖がることだって普通にある……
でも、どうして彼女はこんなにも俺を受け入れてくれたんだ? それとも、実は俺に何か隠しているのか……。
林月は前方を見つめながら、何度も考えた。しかし、何一つ答えは見つからなかった…………
その時、隣から一人の外国人の少女が歩いてきた。
「ねえねえ……こんなところで何してるの? 頭痛いの?」
林月は不思議そうに前方を見ると、そこにいたのは、以前手伝ってくれた夜璃の外国人の友人、雅西だった……
「うん、君か。そうだ、あの後どうなったんだ? 夜璃は大丈夫だったのか!
学生会のことは、その後どうやって解決するんだ?!」
林月は疑問を浮かべながら雅西を見つめた。
雅西は林月を見て、驚いたような表情を浮かべた。
「おっ……おう、その後のこと?
夜璃なら今日の朝にはもう退院したよ。でも、その後どこへ行ったのかは私も知らないんだ。でも、学生会のほうでは確かに少し変化があったみたい……
もともとの学生会長が誰かに告発されて、それから学生会長がいなくなったから、今は新しく選び直すことになったらしいよ……!」
林月は少し疑問に思いながら雅西を見た。
「えっ……そうなのか? でも、俺はそんな話、聞いてなかった気がする……
それにしても学生会って、アニメのイメージとは全然違うんだな……」
「うん……この話、前にも言ったような気がするね。でも、これが現実なんだよ。何もかもが夢の中みたいにいくわけじゃないし、これも運命なのかもしれないね……
でも、もしかしたら今回の選挙で選ばれることができるかもしれない。私はこの方法で学生会の腐敗を解決したいんだ……!」
雅西は真剣に言った。
「えっ……そうなのか。じゃあ、君も頑張ってね!」
林月は雅西を見ながら、笑って言った。
「うん。それと、前のことも本当にありがとう。あなたって、いい人だね。もしまた機会があったら、連絡しよう……!
ところで、あなたは一人でここで何してるの?!」
雅西は疑問そうに尋ねた。
林月は雅西にそう聞かれ、笑いながら答えた。
「えっと……もともとは人と待ち合わせしてたんだけど、その子も寝坊したみたいで……
そうだ、君は祭典に参加するのか? もうすぐ始まるみたいだぞ!!」
「え? 祭典?
今年は行かないかな。前にあんなに色々あったし、また面倒なことに巻き込まれるのも嫌だから、家に帰るよ……!」
雅西はそう言うと、笑いながらその場を去っていった……
林月もまた、一人で待つ時間に戻った……
林月はため息をついた……
まったく……でも、考えてみれば、あの時は俺もちゃんと力になれたんだよな。でも学校とか学生会とか、そういう話を聞くのもずいぶん久しぶりだな……
学校か……本当に夢みたいな場所だったな。俺もあそこを離れてから、もうずいぶん経った。まあ、退学させられたんだけどな…………
林月は再び目を閉じた……
そして、そのまま涼しい風の中で眠ってしまった……
……
「ねえねえ、林月、何してるの?
寝ちゃったの……って、見れば分かるけどさ 笑
もう、行くよ!!」
林月は目を開け、聞こえてきた声の方向を見た……
目の前には、不思議そうな顔で俺を見ている菲娜がいた……
「えっ……俺、寝ちゃったのか。やっと来たんだな。遅すぎるぞ……」
林月はぼんやりと菲娜を見ながら、顔についていたよだれを拭った……
菲娜は伸びをしながら、笑って林月に言った。
「まったく、こんなところで寝ちゃうなんて。まあいいや、早く行こう。祭典ももうすぐ始まるよ!!」
「おう。そうなのか……」
林月もぼんやりと立ち上がった……
林月は菲娜の笑顔を見つめた。しかし、その笑顔にはどこか心から笑っていないような感じがした……
それにしても、時間が経つのは早いな。でも、午後の風は本当に少し冷たくなってきたな……
その時、菲娜が笑いながら林月の手を取った。そして笑顔で言った。
「ほら、行こうよ。ここであくびしてないで、祭典ももうすぐ始まるんでしょ。早く行こう!!」
菲娜は嬉しそうに林月を引っ張って歩いていった。しかし、菲娜の手はどこか緊張して震えているような感じがした。
林月は菲娜に手を握られ、自分でも何かに気づいたような気がした……
そうだ。菲娜は男を怖がっているはずなのに、俺に対してはいつも何の抵抗もない。それって、あまりにもおかしくないか…………
聞いてみるか……。
「えっ……えっと、その、ちょっと待ってくれ、菲娜……」
林月はそう言いながら、菲娜の手を素早く振りほどいた……
菲娜は不思議そうに振り返り、驚きと疑問が混ざった表情で尋ねた。
「えっ……どうしたの、林月!!
なんで急に手を離すの? 何の映画を演じてるの? なんで突然離すのよ。私たち、これから浴衣を借りに行くんだよ!」
林月は菲娜の楽しそうな笑顔を見ながら、少し怯えたように笑った……
「うん……その……菲娜、ちょっと聞きたいだけなんだ……
その、聞いた話だと、君って男の人に触れるのが怖いんだろ? でも、どうして俺には何の抵抗もないんだ? それって、ちょっとおかしくないか、菲娜……」
林月の言葉を聞いた菲娜は、黙って足を止めた。顔に浮かんでいた笑顔も、少しずつ消えていった……
林月は目の前の菲娜を見つめ、少し緊張した……
……どうしたんだ……? 俺、変なこと言ったかな……
菲娜は黙って林月の前まで歩いてきて、表情が少しずつ険しくなっていった……
菲娜は林月の服を軽く掴み、歯を食いしばりながら強い口調で言った。
「あなた、馬鹿なの?!
どうしてそんなことを聞くの、林月……
男性が嫌いだとか、そんなことが私たちの友情と何の関係があるの? まさか、あなたは私のことが怖いの?!」
林月は少し慌てながら菲娜を見た……
「待ってくれ……そういう意味じゃないんだ。ただ、君に一人で全部抱え込んだり、隠したりしてほしくなかっただけなんだ。ずっとこのことを隠してるように感じてたから。
俺……
俺にもよく分からないんだ……ただ聞いてみただけだから……」
菲娜は真剣な目で林月を見つめていた。その瞳は真剣でありながら、どこか悲しそうだった……
「うん……
確かにそうだよ。私は確かに、ああいう男性たちが嫌い。あなたがそう聞くなら、それは本当だよ!
でも、私が嫌いなのは、子供の頃に私を虐待したり、馬鹿にしたり、私を尊重できなかった人たち……
何の一線もなくて、何の道徳心もない人たち。これで分かったでしょ!!
あのことがあってから……つまり、あの夜、私が夜璃の叔父に襲われたあの夜から、私は男の人をもっと怖がるようになった……
あの時から、病院にいる間も、男の人と接するたびに恐怖を感じるようになった。昔、私が男性を嫌っていたのは、旦那様たちのような人たちだったから。でも今の私は、男性を見るだけで気持ち悪くなって吐きそうになる……
何度も頑張ってみたけど、全部失敗した!
隠そうとしていたっていうのも、その通りだよ。みんなには良い自分だけを見せたかった。でも、やっぱり無理だったみたい……」
菲娜は歯を食いしばりながら言った。
林月は今の菲娜を見つめ、それから先ほど菲娜が握っていた自分の手を見て、どうすればいいのか分からなくなった……
違う。俺は何をしてるんだ……
今は菲娜を迷わせている場合じゃない。これを聞いたのは俺なのに、それなのに……
林月は目の前の菲娜を見つめた……
今の菲娜が見せている表情は、さっきまで無理に作っていたような笑顔とはまるで違っていた。そこには、どこか脆くて悲しそうな表情が浮かんでいた……
それでも、菲娜は自分の唇を噛みながら、必死に笑顔を作ろうとしていた……
林月は黙って菲娜を見つめ、少し笑いながら言った。
「うん……菲娜……
まったく、そんなに無理して自分の気持ちを支えなくてもいいんだぞ!
ごめんな。今まで気づいてやれなくて……俺も、君に嫌われないように頑張るから……」
林月が続きを言おうとした時、菲娜が林月の手を強く握った……
林月は驚きと疑問の入り混じった表情で菲娜を見た。
「えっ……いや……
君、本当に大丈夫なのか……!?」
菲娜は少し落ち着いた、心からの笑顔を浮かべながら言った。
「ふん……あなたって、本当に馬鹿だね。もっと早く話しておけばよかったよ!
まあ、いいや!
でも、こうしてみると、私は林月のことなら全然嫌いじゃないんだね!
それどころか、まったく嫌悪感もない!
それに、よく考えてみたら、自分の心の中にある感情や色々なことをずっと隠しているのは、あなたのほうじゃない、林月!」
菲娜は顔を上げ、林月のほうを見ながら笑って言った。
林月は菲娜の表情と言葉を聞き、驚いたように目の前の菲娜を見つめた……
「ふん……そうじゃない!?
自分のすべての痛みを、絶望に満ちた心の奥底にずっと隠してるじゃない。それって私よりずっと辛いんじゃない?
そうでしょ? 誰かに信じてもらえる人になりたいからって、ただひたすら他人に合わせればいいわけじゃない。
この世界の誰だって、他人に頭を下げてまで何かを求める必要なんてないんだよ!
そんなに自分を無力な人間みたいにして生きなくてもいいんじゃないかな!」
菲娜は大声で言った。
「えっ……君……君は一体何を言ってるんだ?
なんで俺の話になってるんだよ!?
まったく……でも、何も問題ないなら……それなら本当によかったよ。まったく……」
林月は顔を赤くしながら、戸惑ったように言った。
菲娜は小さく何度か鼻を鳴らし、笑いながら前方を見つめた。
「ふん……!
でも、心の中に埋めていたことを全部話したら、確かに少し楽になったよ。
あなたもそうでしょ? 実はあなたの偽装って、ずっと見破りやすかったんだから。だって、あなたはいつも全部顔に出てるんだもん……
妹のこととか、他人を助けたいっていう気持ちとか!
でも、それがあなたとあの人たちの違いなんだよ。すべての人に合わせる必要なんてない。あんなにひどい考え方をしている人たちにまで合わせるんじゃなくて、自分の心で、すべてのことを見ればいいんだよ!!」
菲娜は笑いながら言った。
林月は前方の菲娜を見つめ、静かに笑った……
……
そして林月と菲娜は浴衣を借りる店までやって来たが、あまりにも遅く来てしまったため、他の浴衣はすでに他の人たちに予約されてしまっていたことに気づいた……
林月と菲娜は店の前に立ち、少し驚いた様子で見ていた……
「えっ……もうないの?!」
菲娜は疑問そうに言った。
店主は笑いながら言った。
「うん、今日は祭典の最終日だからね。朝早くからたくさんの人が予約していったんだよ……」
林月は前方を見ながら、菲娜に言った。
「えっえっ、まさか菲娜は予約してなかったのか?!」
菲娜は笑いながら頭をかいた。
「あっ、そういえば忘れてたみたい。私も祭典に行くのは久しぶりだからね、ははは……」
林月は前方で祭典へ向かっている人たちを見た。よく考えてみると、浴衣を着ている人もそれほど多くない……
「まあいいか、菲娜、これでいいだろ!
どうせそれでも祭典を楽しむのには何も影響しないし、浴衣を着なくてもいいだろ!」
林月は笑いながら言った。
菲娜は林月を見て、笑いながら言った。
「うん、分かった。じゃあ行こう!!」
菲娜は笑いながら林月の手を掴み、前へ向かって歩いていった……
……
林月と菲娜は、人でいっぱいの街を歩いていた。その周りには、祭典を見に来ている外国人もたくさんいた……
「外国人かぁ。なんだかいいね!!」
菲娜は前方を見ながら笑って言った。
林月は楽しそうな菲娜を見て、不思議そうに笑った……
でも、ネットでは外国人に対する評判はあまり良くないんだよな。でも、まあいいか。今はこんなくだらない論争を気にしている場合じゃない。今はこの時間をちゃんと楽しむべきだよな!!
林月は少し興奮したように笑った。
そして、時刻はすでに午後4時を過ぎようとしていた。周りではたくさんのストリートパフォーマーが楽器を演奏したり、歌を歌ったりしていた……
中には俺たちと同じくらいの年齢に見える人たちもいた。それでも緊張や不安を感じている様子もなく、街角に立って一生懸命に活動していた……
ストリートパフォーマーの中には、周りの人から指を差されたり、ネットで馬鹿にされたりする人もいる。でも、そんな中でも一生懸命にやっている姿は、本当にすごいと思う……
菲娜は林月がずっと隣のストリートパフォーマーを見つめていることに気づき、軽く笑った。
「ねえねえ、林月、どうしたの? あなたもこういうストリートパフォーマーが好きなんでしょ? みんな本当にすごいよね!
私のクラスにも、音楽のために街角で演奏している子がいるんだ。すごく大変そうだし、きっと辛いことも多いと思う。でも、その子の笑顔や、演奏することへの期待感を見ると、全部頑張る価値があるんだって思えるんだ!」
菲娜は笑いながら言った。
林月は菲娜が少し期待に満ちた表情をしているのを見て、不思議そうに尋ねた。
「えっ……! そうなのか……
菲娜って、音楽とかにも憧れてるんだな。そういうことか?!
なんだか特別だな!」
林月は微笑みながら言った。
菲娜は目の前の林月を見て、笑いながら言った。
「うん。こう見えて、実は昔から歌うことが大好きだったんだ。それに、子供の頃のいろんな出来事がきっかけで、いつか自分でもやってみたいって思ってたんだ!
昔から、部活にも入って、みんなと一緒に何かやってみたかったんだ……
でも、その後はおじいちゃんに権力で押さえつけられて、周りの人たちを傷つけるのが怖かったから、ずっと何もできなかった……
でも、本当は私もやってみたかったんだよ!」
林月は菲娜を見つめた。菲娜はこんなにも絶望的なことを話しているのに、どうして笑顔で話せるんだろう……
もしかして、彼女はもうこういうことを全部乗り越えたのだろうか。どうやったら、そんなことができるんだ……
林月がそう考え、菲娜に何かを言おうとしたその時、菲娜はすでに祭典の入口まで歩いていた……
「ねえねえ、林月、早くしてよ! 行こうよ! そこでぼーっとしてないで、行こう!!」
菲娜は相変わらず笑顔で林月に言った。
林月はそんな菲娜を見て、笑いながら彼女と一緒に祭典の中へ入っていった……
……
時間が夜に近づくにつれて、祭典にはどんどん人が増えていった……
祭典では、たくさんの若い男の子たちが大勢の女の子たちと一緒に騒いでいる。羨ましいな。現実もアニメみたいだったらいいのにな……
そして、祭典に来ている日本人も少しずつ減っているようだった。ほとんどが外国人になっていた。いろいろな文化が交わることで、社会も少しずつネガティブで混沌としてきているように感じる……
一方で、中年の人たちは時間や体力の関係もあって、もういろいろなイベントに興味を持つこともなくなっているようだった……
現実はいつだって、アニメより退屈でつまらないものだ……
でも、これが祭典なんだよな。昔はこんな時間なんてなかった。あの時、ずっと妹を守ることができていたらよかったのにな……
でも、俺ももう受け入れたんだ。だって菲娜も言ってくれただろ。これらは全部俺のせいじゃないって。だから、俺は頑張らないとな!!
そう思っていたけど……
その時、菲娜が突然林月のほうを振り返り、優しく笑いながら、力強く手を差し出した……
「行こう、林月。ずっと迷い続けているあなた!
まったく、他人が楽しそうにしている姿を見て嫉妬しているだけじゃ、あなたの負けだよ!
ほら、早くついてきて! 私たちで新しい思い出を作ればいいじゃない?
他人を羨ましがる必要なんてないよ。一緒に行こう!!」
菲娜は笑いながら、真剣に言った。
その時、菲娜の背後に美しい夕日の光が静かに浮かび上がった……
弱い陽の光が雲の隙間から差し込み、菲娜の身体を照らして、柔らかな光をまとわせていた。林月は菲娜のいる方向を見た……
そして、その光景に少し驚いた……
夕日の光は林月の身体にも差し込み、その瞬間、林月の頭の中に何かが蘇ってきた……
あの迷い続けていた記憶が、突然林月の頭の中で弾けた……
あの頃、妹も俺がずっと落ち込んで、自分を責め続けているのを見て、俺を励まそうとしていたんだ……
あの時の妹は、何度も俺に一緒に祭典へ行こうと言っていた。それなのに俺は、何度も何度も彼女の誘いを断っていた……
それでも最後には、妹は俺を祭典の前まで連れていった。その時も今日と同じ時間で、夕日の光の中、俺に同じような言葉をかけてくれた……
俺……俺は一体何をしているんだ。どうしてずっと、自分の感情に縛られているんだ……
昔、誰かが言っていた。起きたことは、同じ日の同じ時間にもう一度起こることがあるって。もしそれが本当なら、今度こそ俺は、このすべてをちゃんと掴みたい!
林月は目を閉じて深呼吸し、もう一度前を見た……
もう二度と、昔のように何もできずに落ち込んでいた自分には戻らない。妹のことも……人は失って初めて後悔するものだ。でも、今の俺はもう違う……
林月は笑いながら菲娜のところへ歩いていった。
「うん! 菲娜、ありがとう! 行こう!」
菲娜は不思議そうに林月を見つめ、それからまた笑った……
そして、そのまま林月の手を取った……
「あはは、もちろんだよ! 行こう!」
……
そして空は少しずつ暗くなり、祭典の音楽や人々の賑やかな声が、あちこちから響き始めた……
そして、祭典の別の場所では……
「うーん……まったく。ここ数日、あんなに色々なことがあったけど、それでももう一度あの馬鹿にお礼を言わないとな……
馬鹿って呼ぶのは、ちょっとよくないかな。まったく……」
夜璃はピンク色の浴衣を着て、近くの壁に手をつきながら言った……
「ぐぅ……ぐぅ」
夜璃はお腹を押さえながら、少しうんざりしたように言った……
まったく、お腹はまだ痛いな。でも、せっかく祭典まで来たんだから、やっぱり何か食べたいな……
そういえば、林月も祭典に来るって雅西から聞いたから、私も来たんだった……
もしかしたら、偶然会えるんじゃないかと思って。あんなことがあったから、もうあの人と話す機会もなかなかないだろうし……
まあ、そうは言っても、本当に会えるのかな。せっかく浴衣まで借りたんだし、会えなくても、今日は思いっきり楽しもう!!
夜璃はその場で何度もそう呟いていた…………。




