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33 もう一つの光 夜璃編

バーチャルアイドル 哭米 クーミ


このキャラクターの翻訳が間違っていたら、ちゃんと教えてね。

……

病室では……


学妹のベッドのそばで、夜璃は彼女に寄り添っていた……。

あのくせ毛の男に襲われて以来、学妹はずっと昏睡状態のままで、いまだに目を覚ましていない……。


夜璃は目の前の学妹を見つめながら、言葉にできない感情が胸に込み上げていた……。


これは一体いつから始まったのだろう。生まれた瞬間からなのだろうか……?

叔父はあの時、林月の父親は実は死んでいないと言っていた。そして林月とその父親は一緒に行動しているとも。間違いなければ私も調べたことがあるが、林月の父親側の祖父は異常なほど金持ちだった……。


やっぱり全部、林月のせいなのか……だからこんなことになったのか……。


夜璃はベッドの上の学妹を見て、静かに笑った……。


私はこういうのが嫌いだ。決められた結末に縛られている人間が嫌いだ……

現状を変えたい……。


夜璃は思う。


嫌だ……全部が嫌だ。今のすべてが……。


突然、夜璃の腹にまた激しい差し込みと吐き気が走った……。


夜璃は苦しそうに体を抱え、急いで病院のトイレへ向かった。その不快感は一気に全身へ広がっていく。


胃の底から酸っぱい熱いものが一気にせり上がり、食道を通って喉へと突き上げる。口の中には粘ついた唾液が一気に溢れた……。

夜璃はそれを飲み込もうとしたが、酸味は抑えきれず、胃の中でさらに激しく波打ち、痙攣を繰り返した……。


夜璃はしゃがみ込み、両手で口を強く押さえた……。

胃が痙攣するたびに必死に飲み込み、込み上げてくるものを無理やり押し戻す。


何度も不快な嚥下音が響く……。

しかし回数が多すぎて、強い腐敗したような酸味を伴う半液状のものが手の隙間から漏れ出した……。

食べたものの残りや胆汁も一気に込み上げてくる……。


吐きたくないのに、体は止まらない。痛みはさらに強くなっていく……私は一体どうしたの……。


何度も吐き続け、食べたものはすべて出てしまい、最後には粘ついた液体と胆汁だけが残った……。


……


病院の別の場所で、林月は学妹のベッドを見つめながら、同時にトイレの方から聞こえてくる断続的な声に耳を傾けていた……。


林月は暗い表情で横を見た。


夜璃にここにいることがバレてはいけない。あいつの性格なら、本当に俺を殺すかもしれない……

でもあの時すぐ救急車を呼んでおいて正解だったな……ふっ……。


林月はそう考えながら、夜の病院を静かに後にした。


それにしても夜璃という人間、この中で何かが起きているのは間違いない。でなければ説明がつかない……。


第一に、あの時夜璃に会いに行ったとき、彼女は激しく怒っていて、刃物まで突き立ててきたのに、次に目を覚ましたときは公園のベンチにいた……。


第二に、あのくせ毛の男の話だが、これはもうある程度分かっている。あいつは確かにセクハラ加害者で、だから夜璃は学妹を守るために動いたのだろう……。


第三に、現在分かっている情報。夜璃の親族、唯一の家族が関係している可能性が高い。菲娜が調べたところ、その人物はギャンブラーで評判も最悪だ……。


さらに夜璃の状態。最初に会った時はそこまで敵意が強くなかったのに、夜になると一気に激しくなった。この間にも何かあるはずだ……。


林月は考え込むほどに頭が痛くなっていった。まだすべてが繋がっていない……。


林月は家に戻り、目を閉じた……。




…………「パチ……ギギギギ——」


「ねえねえ、何してるの?一人でそこに……」林奧が不思議そうに言った。


林月は横にいる林奧を見て、困惑したように言った。


「まったく……最近任務を終えたって聞いたよ、おめでとう!」林奧は笑いながら林月を見た。


林月は林奧の様子を見ながらも、どこか言葉にできない表情をしていた。

頭を手で軽くかきながら笑って言う。


「はは、そうか……

でも今はまだやることがあるんだ。他にもやらなきゃいけないことがある!」林月は真剣に言った。


林奧は不思議そうな顔で林月を見た。


「?どうしたの、全然嬉しそうじゃないね。まあいいや、また用があったら来てね、じゃあね!」林奧はそう言うと去ろうとした——


その時、林月は何かを思い出して彼を呼び止めた。


「待って、林奧。ちょっと思い出したんだけど、お前の姉は今どうしてる?前に重い病気だって言ってなかったか?今はどうなんだ?」林月が尋ねた。


「ん?姉のこと?今は元気だよ、特に変なこともない……

うん、まあそんな感じかな。まだちゃんと話してなかったよね、ごめんね……」林奧はそう言うと、そのまま背を向けて去っていった……。


しかしその時の林奧の表情は、どこか不自然だった……。


……


異世界の林月を見つめながら、私は静かにため息をついた……。


林月は異世界の自分の家と、このすべてを見渡していた……。


……これは一体どういうことなんだろう。

以前は現実が最悪だと思っていた。異世界に来れば何かが変わると思っていたのに、結果は現実よりもさらに酷いものになってしまった……。


その後、すべては少しずつ軌道に乗り始めた。異世界では友達ができ、生きる意味もできた。現実は相変わらずだったが、それでも自分を信じてくれる人がいた……。


でも、なぜか全然嬉しくない。むしろただただ疲れる。二つの世界のどちらも背負っているようで、自分が何者なのか分からなくなる……。


昔はいつも言っていた。可愛い女の子と友達になって、話せれば、それだけで楽しい人生になるって……。

でも今はそれが叶っているはずなのに、結局同じだ……。


林月は複雑な表情のままドアを開け、部屋を出た……。


とはいえ、ここで倒れるわけにはいかない。せっかく掴んだ機会なんだ、ちゃんと生きなきゃいけない。やることは山ほどある……。


夜璃のことも本当に厄介だし、面倒すぎる。自分にこの状況を止められるのか? そもそも自分なんかが役に立てるのか……。どう考えても大した力なんてない気がする……。


「ねえねえ、林月。この前の件、本当にありがとうね! それで少し自信がついたよ! それに、この前あなたが助けた地下アイドルも、その夜に急にバズったんだって!

すごいよ、林月!!」


藤田が嬉しそうに林月のそばへ駆け寄ってきた。


林月は驚いて、すぐに言葉が出なかった……。


藤田は楽しそうに林月の手を掴み、不思議そうに見上げた。


「ねえ、どうしたの?顔、なんかすごく“死んだ魚”みたいだよ!」


「お前のほうが死んだ魚だろ……ほんとに……」


林月は声を荒げた。


藤田はそれを見て笑った。


「ほら、今の顔だよ。さっきより全然いいじゃん。そんな顔しないでよ。誰かに借金でもしてるみたいじゃん。ずっとそんな顔してたら、たぶん色々もっと悪くなるよ?笑」


林月は目の前の藤田を見て、少し戸惑った。


そして突然、藤田の手を強く握り返した。


「お前……今の、もう一回言え……」


「痛い痛い痛い!ちょっと何するの!?ほんとに!」


藤田は慌てて叫んだ。


「それって……俺が言ったことなのか?」


「そうだよ!あんたが言ったんだってば!

あの時、一緒にいた時にさ。逃げないで、ちゃんと向き合えって!」


藤田は笑いながら言った。


「それでさ、あの時から思ってたけど……林月って変なやつだけど、ちゃんと“人を動かす言葉”持ってるよね!」


林月はしばらく黙った。


そして、少しだけ笑った。


「……俺、誰かの役に立ててたのか?」


「うーん、それは知らないけどさ。でも少なくとも私は助かったよ。あと鵜田も、めっちゃ感謝してたし」


藤田は軽く肩をすくめた。


林月は息を吐いて、力が抜けたように笑った。


「……そっか。ならいいや」


そして小さく頷いた。


「藤田、また何かあったら言えよ。任務でも問題でも、なんでもいい」


藤田は少し呆れたように笑いながら、親指を立てた。


「はいはい、頼りにしてるよ、林月くん」


その後、藤田は意味ありげな顔をしながら立ち去り、林月はその場にしばらく立ち尽くしていた……。


…………「パチ……ギギギギ——」





再び目を開けると、見慣れた部屋に戻っていた。夜の闇が部屋全体を覆い、林月はベッドに横たわったまま周囲を見回した……。


さっきまで異世界は朝だったのに……まあいいか。

それにしても、二つの世界を同時に管理するなんて、本当に疲れるな。夜璃の件も、ちゃんと突破口を見つけないと……。


今一番の問題は、彼女の叔父と夜璃自身の問題だ。夜璃は学校でも必ず何か起きているはずだ……。

彼のSNSやコメント、学校の同級生のストーリーなどにも、彼への批判がいろいろと見える……。


今の問題は……。


その時、誰かが林月の部屋のドアを開けた……。


林月は驚いて前を見た。月光が窓から差し込み、部屋の中を照らしていた……。


「林月、大丈夫?聞いて来たんだけど、無事でよかった!」菲娜が笑いながら言った。


「菲……菲娜か。どうしたんだ!?」林月は驚いて言った。


「え……なんで私が家に戻ったって分かったの?何も言ってないのに……もう、ストーカー?」


「は?何言ってるのよ。まあいいや、それより……

林月、一緒にやろう!」菲娜は真剣な顔で言った。


林月は目の前の菲娜を見て、疑問と少しの高揚を混ぜて言った。


「お前……何言ってるんだよ。何を一緒にやるっていうんだ……」


菲娜は林月の頭に手を置き、真剣な目で見つめた。


しかしすぐに笑って言った。


「もちろん、この件を一緒に解決するってことだよ。困ってるんでしょ?じゃあ一人で抱えないで。ちゃんと周りを頼りなよ!」


林月は少し笑った。


「はは……何だよそれ。でもまあいいか。一緒に整理しよう。今はまだぐちゃぐちゃだけどな……」


……


翌朝、林月が目をこすりながらリビングへ向かうと、菲娜がソファで寝ているのを見つけた……。


菲娜は気配で目を覚まし、林月を見た。


「ん?起きた?」


「うん……お前まだここにいたのかよ。暑くないのか?ここエアコンもないだろ……」


菲娜は口元のよだれを拭きながら笑った。


「いや、昨日ずっとここでスマホで調べてたんだよ。夜璃の家族とか、唯一の親族である叔父のこととか……」


林月は驚いて言った。


「は?そんなのネットで分かるのかよ……?」


菲娜は楽しそうに体を起こした。


「うん、最初は名前だけ適当に調べてただけなんだけど、途中で見つけたの。


夜璃の叔父は、どうやらあなたの父親と昔経済的なやり取りがあったみたい。あなたの父親が亡くなった後、その人に周りの金を全部渡してる。そして夜璃の叔父は、そのことを最初から知っていたっぽい……」


林月は困惑して菲娜を見た。


「おい……何それ。ネットでそんな情報出てくるわけないだろ……!?」


菲娜は林月を見て、笑いながら立ち上がった。


「うん、私もそう思った。でも適当に名前とか追ってたら出てきたの。


それに……その叔父は、あなたの父親と関係があった“瓦爾”って人の話とも繋がってるっぽいよ」


林月は混乱した顔で言った。


「待てよ……それじゃ話が違うじゃないか。あの瓦爾は、俺の父親が爺ちゃんに80万も借金してたって言ってたぞ!?

それで俺はあんな目に遭ったのに……それが全部違うってことか……?」


菲娜は少し黙ってから、林月の隣に歩いてきた。


そして優しく言った。


「まあ、そんなに考えすぎなくていいよ。とにかくあなたのお父さんはもういないし……それで終わってる話でもあるしね」


菲娜は笑った。


「でもお爺ちゃんの件は、ほんとに助かったよ。あの時のことがあったから、またあなたに会えたんだしね」


林月は横を向いたまま、少しずつ落ち着いていった。


「じゃあ、私は夜璃の叔父のこと、もう少し調べてくるね。行ってきます!」菲娜はそう言って外へ出ていった……。


「おい……一緒にやるって言っただろ……まったく……」林月は声を上げた。



……


また学校に行く日が来た。夜璃は横断歩道を歩きながら、ずっと考え事をしていた。自分はいったい今、何をしているのだろう……。


夜璃は前を見た。周囲にはタバコを吸いながらため息をつく大人たちがいる……。


私たちも将来、ああなるのだろうか。何もない、人生もない、ただ消耗していくだけの大人に……。

これが人生なのか。ある段階を過ぎれば次の段階へ、休む間もなく繰り返されるだけの……。


学校に着くと、周囲の人間たちが夜璃の周りでひそひそと話していた。何かを噂している……。


その視線は明らかに嫌悪と拒絶だった。


「ねえ……良奈をいじめて、病院送りにしたのってあなただよね?」


夜璃はその言葉に眉をひそめた。良奈……学妹のこと?何を言っているの……。


夜璃は困惑したまま周囲を見たが、誰もが嫌悪の表情を向けていた。


夜璃は歯を食いしばり、その場から逃げるように走り出した。


教室に入ると、自分の机と椅子は最後列のゴミ箱に投げ捨てられていた。

中の筆箱や教科書までゴミ箱に入れられている……。


「……何してるの」


夜璃は歯を食いしばって周囲を睨んだ。


するとクラスの染髪したギャルたちは、夜璃を嫌悪の目で見て言った。


「ねえねえ、こいつ何してんの?ほんとバカみたいなんだけど。誰かこのビッチどうにかしてよ」


その時、いかにも柄の悪い男子が前に出てきた。サンダルを履き、ガムを噛んでいる。


彼は不機嫌そうに夜璃を見て、ガムを吐き捨てて彼女の服に付けた。


「ほら、どうした?文句ある?俺がやったけど。文句あるなら学校に言えよ。どうせ誰も助けねーけどな、クソ女」


夜璃は服のガムを見て、一歩後ろに下がった。


「……何のつもり」


「何のつもりも何も、お前が何したか分かってんのかよ!?良奈ってすげーいい子だったんだぞ!」


「……証拠でもあるの?正義ぶってるだけのバカの集まりでしょ。気持ち悪い」


夜璃は強く言い返した。


「お前らだって普段は女子に手出したり、教師に逆らったりしてるくせに、こういう時だけ正義面してるんだよ」


男子は激怒し、夜璃の服を掴んだ。


夜璃は必死に抵抗し、もみ合いの中で相手の手に噛みついてようやく振りほどき、教室から飛び出した。


……


これは何なの……みんな何を言ってるの……私はやってないのに……。


夜璃はそのまま学生会の前へ走ったが、そこへ行く途中で雅西に肩を叩かれた。


夜璃は慌てて振り向いた。以前の外国人の少女だった。


「え?雅西……なんでここに……」


雅西は慌てる夜璃を見て、静かに彼女を横へ連れていった。


「ちょっと……雅西、今どうなってるの……?」


夜璃は不安そうに言った。


雅西は夜璃をトイレの横まで連れて行き、真剣な表情で言った。


「うん……だいたい分かったよ、夜璃先輩」


「え……どういう意味……?」


雅西はスマホを取り出し、一つの投稿を見せた。


そこには夜の映像があり、血まみれの良奈と倒れている夜璃が映っていた。


投稿の内容は夜璃を加害者として断定するようなものだった。


夜璃はそれを見て歯を食いしばった。


「これ……誰が撮って、誰が流したの……」


「分からない。すぐ広まったから、私も今知ったところで……」


夜璃の目つきが変わる。


その夜、その場にいたのは……くせ毛の男と、林月だけ……。


まさか林月が……?


夜璃は拳を握りしめた。


雅西は不安そうに夜璃の肩を叩いた。


「ねえ、決めつけない方がいいよ。何か事情があるかもしれないし……その夜のこと、ちゃんと話してみてよ」




……


午後になり、すでに放課後の時間になっていた。生徒たちは友達と一緒に帰ったり、部活動へ向かったりして、街には笑い声や会話が溢れていた……。


銀杏並木の通り。その一角にあるカフェにも、放課後の学生や働く若者たちが集まっていた。

ただのカフェで、メイド喫茶のような派手さはないが、香りと雰囲気が心地よく、よく人が休憩や会話に訪れる場所だった……。


林月はカフェの2階カウンター席に座り、コーヒーを片手に銀杏並木を眺めていた……。


楽しそうに話す学生たち、ここで働く人たち……それを見ていると、どこか不思議な気持ちになる。


自分には何もない。ただここに座っているだけで、自分が何をしているのかも分からない。

女子高生に囲まれている男子学生を見て、少し羨ましいと思ってしまう……。


――俺も、ああいうのを一度でいいからやってみたいな……。


その時だった。


一階から二人の人物が上がってきた。夜璃と雅西だった。二人は楽しそうに話しながら、少し離れた席に座った……。


林月はそれを見て、思わずコーヒーをこぼしそうになった。


……待て。なんでここにいる?

俺はただ夜璃の動きを追いやすいと思って来ただけなのに……なんで本人がいるんだよ……。


林月は慌てて帽子をかぶり、二人の会話に耳を傾けた……。


……


「話して。あの夜、一体何があったの。それと、林月って人と、くせ毛の男ってどういう関係なの?」


夜璃は一度目を閉じ、記憶をたどり始めた……。


数年前、叔父が突然家に来た。驚いた様子で、母にこう告げた。

“あの時、お前を妊娠させた相手を見つけた”と……。そして、復讐するかどうかを問うた……。


母はそれを聞いても、何も言わず、その提案を拒否した。


だが後になって知った。

それは母を無理やり傷つけ、妊娠させ、堕胎を強制した男だったということを……。


その後、母はその男を見つけた。だが彼はすでに裕福な立場にいて、別の若い女性との間に二人の子供までいた。


母が真実を問いただそうとしても、返ってくるのは暴力と冷たい言葉だった。


「その娘はお前が勝手に産んだんだろ。俺は堕ろせと言ったはずだ」


母は何もできず、ただその現実を抱え込むしかなかった……。


それでも母は生活のために必死に働き続けた。夜璃もそれを見ていたが、何もできなかった……。


性格のせいで、夜璃は学校でも孤立しがちだった。怒りや嫌悪をうまく制御できず、それが周囲の反感を買った……。


そして数年前から、叔父は金銭的に困るたびに家へ来るようになった。母はそれでも受け入れていた……。


ある日、母は突然職場で倒れた。

長年のストレスかもしれないし、何が原因かは分からない……。


診断は胃癌と乳癌の末期。もう治療は不可能だった……。


しかし病院は費用を理由に、まともな対応をしなかった……。


母は自分の最期が近いことを悟っていた。そして夜璃と叔父に、何かを伝えた……。


病室で、命が尽きようとする瞬間、母は涙を流しながら夜璃にこう言った——


「ごめん……これ、全部私のせいなの……」


彼女は私の父親のことと、その一連の出来事をすべて打ち明けた。私は病室の母を見つめながら、ずっと信じてきたものが一瞬で崩れ落ちていくのを感じた……。

まるで突然深い闇へ突き落とされたように、重くて息ができないほどだった……。


その時になって初めて、母が妊娠した理由と父がいない本当の理由を知った。母はずっと「父は人助けの最中に事故に遭った」と言っていて、私はその言葉を信じていたのに……。


「ごめんね、ずっと隠してて……あなたを産んでしまって……全部私のせいなの……本当にごめんなさい……

でも、どうしてもあなたを産みたかったの。これから何が起きるかも分かっていたし、あの男がもう私に関わらないことも分かっていたのに……

それでも、この命を消したくなかった。ただそれだけなの。私のわがままで全部を壊してしまったの……ごめんね……」


母はそう言い終えると、そのまま静かに目を閉じた……。


「バカな母さん……そんなことで怒るわけないじゃん……」


私は病室に向かって、小さく呟いた……。


その後、叔父が家に入り込み、母の役目を引き継ぐような形で私と暮らすことになった。だが彼は責任を果たすどころか、ただ金を要求するだけで、私に向き合おうとはしなかった……。


そして私は知ってしまった。母を妊娠させた男の父親は金持ちだったことを。

母があんな目に遭わされ、最後はこんな結末で終わったという事実を……。


その瞬間から、私は男という存在そのものが気持ち悪いと思うようになった。というより、人として代償があまりにも大きすぎると感じた……。


そして私は、その男に繋がる手がかりを見つけた。だが彼はすでに自殺していて、残されたのはただ一人の子供だけだった。それが林月……。


最初は話し合えば何とかなると思っていた。でも彼は父親と同じで、金か、それとも無関心か。そのどちらかしかなかった。母のことも、すべて軽く扱っていた……。


そしてあの夜の前日。私は学妹を守るために動いていた。その時、林月があのくせ毛の男と関わっているように見えた……。

さらにあの時の会話からも、彼が信用できない人間だという確信が強まっていった……。


あの夜、私は学妹と外に出る約束をしていた。その時、叔父に呼び止められた。


彼は林月という男に気をつけろと言った。以前、彼は金を巡って祖父と対立し、フィーナという親戚の少女を奪ったとも言っていた……。

そして父親を死に追いやったのも林月だと。金のために屋上から突き落としたのだと……。


さらに妹は性的被害の末に死に、その遺体すらまともに葬られなかった。弟の件も含め、すべて林月の仕業かもしれないと……。

叔父は「母のために復讐してほしい」とまで言った……。


そして実際に、林月はくせ毛の男と一緒にいた。学妹の事件にも関係している可能性は高い……。


あの投稿も、林月が私を貶めるために流したものかもしれない……。


……夜璃はそう言うと、強く机を叩いた。

嫌悪と苦しさが混ざった表情で前を睨みつける……。


雅西はそんな夜璃を見て、そっと肩に手を置いた……


「うん、そうは言っても、ここで決めつけるのはよくないよ。もしかしたらこの中に何か事情があるのかもしれないし、まだ断定はしない方がいいよ!」雅西は優しく言った。


夜璃はその言葉を聞いて、静かにため息をつき、席に座り直した。


その時、店内でバーチャルシンガーの最新曲が流れ始めた。クーミの新曲だった……。


林月は思わず前の方へ身を乗り出して音を聞いた。間違いない、クーミの新曲だ。以前、死んだ後のような状態の中で救いになった音楽も彼だった。少し前に炎上していたが、また復活したらしい。それがとても嬉しかった……林月はそう思いながら笑った。


その時、夜璃もその音楽を聞いて、突然嬉しそうに立ち上がり、雅西に言った。


「ねえねえ、これクーミの新曲じゃない!?知ってる!?


最初に出た時から毎日聴いてたんだよ!それにカバーもSNSに上げてたの!」


雅西は不思議そうに夜璃を見た。


「あ……私はあまり詳しくなくて……ごめんね……


バーチャルアイドルの声はあまり好きじゃなくて……ごめん……」


「そっか……大丈夫だよ!」夜璃は笑って雅西の肩を軽く叩きながら言った。


……


林月は二人の笑い声を聞きながら、少し意外そうに思った。


あいつも好きなのか……?まさか……!


でも今の状況を見る限り、だいたい分かってきた気がする。


やっぱり今回の件は、俺にも問題がある。


あの時の会話、確かに俺はあいつに対して冷たすぎた。相手の気持ちを全く考えていなかった。それは間違いなく俺のミスだ……。


今の問題は、夜璃が完全に俺を敵だと認識していることだ。何とかしないといけない。


ただ一番怪しいのは、やはり彼の叔父と、あの写真を流した人物だ。


それにフィーナの話では、叔父は昔俺の父親と関係があったらしい。つまり全部演技だった可能性もある……。


俺の父親は本当にろくでもない人間だったのかもしれない。そう考えると、全部が運命に弄ばれているようだ……。


でも、もしかしたらこれは俺に与えられた“贖罪の機会”なのかもしれない。


このまま何もせず死んだら、何も残らない……。


林月は歯を食いしばりながら前を見て、過去の出来事を思い返し、そして静かに笑った。


……


「それで、どうするの?これからの予定は?


今もうみんな、あの投稿のせいで良奈学妹の件はあなたのせいだと思ってる。もう何を言っても無理だよ……」雅西は不安そうに言った。


夜璃は視線を落とし、どうすればいいのか分からなかった。


「じゃあ、あの時のくせ毛の男と林月を探すしかない。そいつらを潰せば、もしかしたら……」


言いかけた瞬間、雅西が慌てて遮った。


「だめだよ……それは。そもそも誰がやったか分からないし、林月って人が本当に犯人とも限らないでしょ。何か事情があるかもしれないよ……」


夜璃はその言葉を聞いた瞬間、胸の奥に強い苛立ちが湧いた。


机を叩き、周囲を睨みつけたあと、再び席に座り直した。


林月はその表情を見て、恐怖と警戒を抱きながらも、今はそれどころではないと考えていた。


今の問題は夜璃を止めることではない。


叔父と父親の関係を突き止めること、そしてあの少女を救うことだ……。


……


その時、夜璃の体に再び強い違和感が走った。


彼女は口を押さえ、すぐに立ち上がってトイレへ駆け込み、激しく嘔吐する音が響いた。


雅西は心配そうに後を追ったが、途中でコーヒーを持ったサラリーマンにぶつかってしまう。


コーヒーが飛び散り、サラリーマンの服と雅西の服にかかった。


サラリーマンは怒りを爆発させ、持っていたカップを床に叩きつけた。


「おい、お前何してんだよ!ちゃんと前見て歩けよ!学生ってほんと邪魔なんだけど!青春とか無駄にしてるだけだろ!家帰れよ!お前らバカかよ!今仕事あるんだよ、こっちは会議も客もあるんだよ!」


周囲の人々は見て見ぬふりをして黙っていた。


そこへ、厳しい雰囲気の禿頭の男が現れ、書類を持ったまま冷たく言った。


「いつまで待たせるつもりだ。使えないな。時間管理もできないなら、勝手にそっちで処理しろ」


そう言って去っていった。


サラリーマンはその場に崩れ落ち、大声で叫び続けた。


林月はその空気を見て、騒ぎに巻き込まれないように静かにその場を離れた。


その時、林月が通り過ぎた瞬間、ポケットから財布が落ちた。


しかし林月は気づかないまま、足早にその場を去っていった。


そして雅西は、その姿を見ていた。


…………

本当にもう、日本のサラリーマンも地獄みたいだな。というか、学生時代に経験したことなんて社会に出たらほとんど役に立たないし、職場って現実世界の闇そのものだろ。最近自殺率が上がってるのも分かる気がする……


林月はカフェの下に立ち、静かに呟いた……


でも、それは今は関係ない……


夜璃は病院の時から今までずっと吐いている。生理のせいだろう。この点は特に問題ないはずだ……


今の問題はもうはっきりしている。夜璃はこの件をきっかけに、貼り付けた人物に復讐しようとする可能性がある。それはかなり厄介だ……


とはいえ、彼女はただ真実を知らない可哀想な少女にすぎない。危険人物というわけではない……まあ、変な言い方だけど……


林月は一度周囲を見て、深く息を吐き、そして前を見た……


もう一度チャンスをもらったんだ。ちゃんと変えなきゃいけない。もう運命に負けるわけにはいかない……


……


一方、警察が興奮していたサラリーマンを連れて行ったあと、雅西はその場に落ちていた林月の財布を見つけた……


彼はそれを拾い、中身に身分を証明できるものがないか確認した……


そして雅西は財布の中の身分証を見つけた。それは夜璃の言っていた林月だった……


雅西は財布を持ったまま、驚きと疑問の表情でそれを見つめた……


まさかあいつ、さっきここにいたのか?夜璃の件が理由か?もしかして本当にあいつが……


その時、夜璃がトイレから出てきて、壁にもたれながら雅西を見て不思議そうに言った。


「え?そこで何してるの?なんか持ってるみたいだけど?」


雅西は慌てて財布をポケットに隠した。


「ううん……さっき人とぶつかってさ、ちょっと怒られただけだよ……」


夜璃は雅西を見て、心配そうに手を肩に置き、真剣な声で言った。


「そっか、大丈夫?さっきも少し聞こえた気がするけど……


ごめん、私のせいで焦らせちゃったよね……ごめんね、雅西」


雅西はそんな夜璃の様子を見て、静かに微笑んだ……

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