29 気の向くままのもの 自信編
過渡回(=`ェ´=)
5/6
胖哥/潮哥 → デブ兄/チャラ兄
任務掲示板を眺めながら、林月は次の予定について黙って考えていた。
……だが、なぜか頭の中には、妙な記憶がふいに浮かんできた。
ああいう美少女とか、コスプレとか、メイド喫茶の店員みたいな女の子って、やっぱり自分には近づいてこないんだよな……。 これが現実ってやつなのか……。
昔から、なんだかいつもそうだった気がする……。
ただアニメイベントに行ったり、メイド喫茶に行ったりしただけなのに、最後には決まって変な人扱いされるんだよな……。そこが本当に厄介だ……。
林月は前方をぼんやり見つめながら、口元で小さくぶつぶつと呟いていた。
…………
「ん? どうしたの? 次の依頼、見つけたの?」
藤田が、隣でぼんやりしている林月を不思議そうに見た。
「それにさっきから、美少女とかメイドとか……何をずっと言ってるのよ、林月?」
その言葉で、林月ははっと我に返った。
「あっ、そうだった! 今、依頼の途中だったんだよな。メイド喫茶のこと考えてる場合じゃなかった……」
藤田は呆れたような顔で彼を見つめた。
「メイド? いきなり何言ってるのよ。それ、依頼と何の関係があるの?」
「毎回、前の話の終わりと次の話の始まりが繋がってないのやめてくれる? 読者が混乱するでしょ!」
そうツッコむと、藤田は腕を組んでふんと鼻を鳴らした。
「まあいいけど……そのメイドって話、ちょっと聞かせなさいよ」
林月は気まずそうに頭をかいた。
「いや、あれはちょっと変な話だからさ……。それより先に依頼の方が大事だろ」
「ほら、次の依頼が何か見てみよう」
すると藤田は、すぐさま嫌そうな顔になった。
「うわぁ……そういうところ、本当に嫌いなんだけど」
「話を途中で切る人って一番イライラするのよ。もう……まあいいけど」
林月は不機嫌そうな彼女を見て、仕方なくため息をついた。
「はいはい、わかったよ。別に大した話じゃないんだけどさ」
「昔、メイド喫茶に行った時、ちょっとした言動のせいで変な人扱いされたってだけの話だよ……!」
藤田は一瞬きょとんとした後、露骨にがっかりした顔をした。
「なによ……そんな話?」
それから首を傾げて、林月を見た。
「でも、あんた一体何したの? どうして変な人扱いされたわけ?」
林月はしばらく黙り込み、微妙な苦笑いを浮かべた。
「うーん……正直、自分でもよくわからないんだよ」
「でも、どこか変だったのかもしれないな……。もしかしたら、俺って元々そういう変な人間なのかも」
それを聞いた藤田は、少し考えるように頷いた。
「ふーん……そう。私は別にそうは思わないけどね、ふふっ」
林月は隣の藤田を見て、そっと目を閉じ、小さく笑った。
まったく……この女、見た目は普通なのに、意外といい奴なんだよな……。
……
そして次の依頼は、ある男から別の人物へ荷物を届けるという内容だった。
「なんだよこの依頼。ただ物を渡すだけじゃん。これのどこが依頼なんだよ……」
林月と藤田は文句を言いながらも、依頼書に書かれた住所へ向かった。
……
そして二人が依頼主のもとへ到着すると、その男は身体に障害があるらしく、ずっとどもりながら何かを話していた。
男は二人を指差し、荒い息をつきながら何かを怒って叫んでいた。だが何を言っているのか分からず、二人は少し距離を取っていた。
……
林月は藤田の背中を押し、前へ出した。
「ちょ、ちょっと何してんのよ林月! 押さないでよ! もう……わ、私だってどう話せばいいかわかんないんだから! 私をバカだと思ってるの!?」
その時、男は怒ったように近づいてきて、声を荒げた。
「お、おい……お前ら、俺を変な奴だと思ってるだろ……! お前らみたいな奴ら、本当に最低だな……! 見た目だけで人を差別するんじゃねえよ、この表面しか見ないクズどもが!」
突然そう罵倒され、林月は一瞬どう返していいかわからなかった。
目の前の男を見た瞬間、林月の中にも嫌な記憶が蘇ってきた。
…………
別に、自分は障害のある人たちが嫌いなわけじゃない。そんなつもりは一度もなかった。 なのに、なぜかいつもそう思われてしまう。
学生時代、林月には友達がいなかった。だからクラスで余り者扱いされている人たちや、障害のある生徒たちと同じ班になることが多かった。
林月は一生懸命手伝った。だが、その人たちが周囲に認められた途端、今度は林月の悪口を言い始めた。
そのせいで、林月は周囲から嫌われた。 今でも、そういうことが少し怖い。
……それに昔は、人と話すのも怖かった。まして女の子と話すなんて論外だった。
そのせいで、周囲から「なんか問題のある奴」みたいに見られていた。
本当は、世界ってそんなふうに人を決めつけるものじゃないはずだ。 最初からレッテルを貼るべきじゃない。
でも、みんなそうだ。誰も彼も、勝手に人を定義してしまう……。
藤田は、隣でまるで変な物でも食べたような顔をしている林月を見て、ため息をついた。
そして依頼人の手から依頼書をひったくるように取り上げ、言った。
「はいはい、別にそういう意味じゃないから。だから勝手に決めつけないでよ」
「この手紙、ちゃんと相手に届けるから。誰に渡すのかも、何が書いてあるのかもよくわかんないけど、絶対届けるから。ふんっ!」
藤田は真剣な顔でそう言った。
依頼人は少女を見て、鼻で笑った。
「……お前、今すごく俺を見下してる顔してるだろ……」
「どうせ思ってるんだろ? こんな俺が告白の手紙なんて書くな、とかさ……」
「お前ら、そうやって見た目だけで人を判断するんだよ……」
「……まあいい。これは告白の手紙だ。でも俺は、この姿のままじゃ相手に受け入れてもらえないと思ってる。だから、金持ちでイケメンの男って設定で手紙を書いたんだ……。とにかく届けてくれればいい」
依頼人はどもりながら、荒い息でそう言った。
……
「なるほどね。この手紙をその女の子に届ければいいのか。簡単そうな依頼じゃん」
「それよりさっき、なんであんな変な顔してたのよ。まるで変な物食べたみたいな顔してたじゃない」
藤田が面白そうに言った。
「いや……ちょっと昔のこと思い出しただけだよ。人とうまくいかなくて、問題ある奴みたいに見られてたこととか……。助けたはずなのに、最後には笑われたりとかさ……」
林月はそう答えた。
藤田は林月を見て、前を向いたままため息をついた。
「なによ、そんなことだけ?」
「それ、私もわかるわよ。昔、パーティー組んでた時、わからなかったり怖くて前に出られなかったせいで、みんなから責められてたし……。ずっと自分が悪いんだって思ってた」
「でもあの時……」
そこまで言って、藤田は言葉を飲み込んだ。
……
やがて藤田はため息をつき、手紙に書かれた情報を見た。
「ねえ林月。この女の子の住所、めちゃくちゃ見づらいんだけど。クレヨンで書いたみたいになってるじゃん……」
林月も覗き込み、住所は一応読めると判断した。
「ほんとだよな。書くならちゃんと書けっての……」
「しかも、ここ結構遠そうだぞ。先に別の依頼を終わらせようぜ」
林月がそう言うと、藤田は笑って頷いた。
……
「ねえねえ、そうだ!」
「林月、さっきのメイド喫茶の話、ちゃんとしてよ。たぶんつまんないだろうけど、私が分析してあげる。なんで変態扱いされたのか、教えてあげるから。ほら、話しなさい!」
藤田は楽しそうに笑った。
林月は横を見ながら、ぼそりと言った。
「いや、別にいいよ。話す必要ないだろ……」
「でも、そんなに聞きたいなら話してやるよ」
「はぁ!? 何その流れ!? 意味わかんないんだけど!?」
藤田は心底呆れた顔でそう言った。
……
それは、およそ三年前の出来事だった。
あの頃の俺には友達なんていなかったし、目の前にいるこの二人のことも、別に友達だとは思っていなかった。 ただ三人組を作るために、隣にいたデブ兄と、もう一人の少しチャラそうな男が俺を誘っただけなんだろう。
「おいおい、三人集めるために仕方なくお前みたいなバカ誘ったんだよ。本当は女の子誘いたかったけど見つからなかったからな!! ふんっ!」
デブ兄はそう言った。
俺は彼を見て、黙って笑った。 ……でも、その時は別に嫌でもなかった。
クラスでは、女子から変態扱いされて避けられていたし、いじめられてもいた。 俺はただ、そこから逃げたかっただけなんだ。
誰かみたいに輝くことなんてできない。 俺は、どこまでも冴えない端っこの人間だった。
……。
けれど、デブ兄とチャラ兄は少し違っていた。
二人はクラスでアニメ好きとして有名で、よくアニメキャラみたいな言動をしていた。 その界隈では受け入れられるのかもしれない。
でも、ここは現実だ。 ファンタジー小説の世界じゃない。
そんなことをしても女子にモテるわけがないし、顔面偏差値だって現実として存在する。 考えなくてもわかる。そんなの無理に決まってる。
……。
メイド喫茶へ向かう途中、近くではアニメイベントが開かれていたらしく、周囲には大勢のコスプレイヤーがいた。
綺麗で、衣装も本格的で、みんな真剣に取り組んでいるように見えた。
その中で、デブ兄は前方の女性レイヤーたちをずっと見つめていた。
そして指を差して言った。
「おい見ろよあの女。コスプレしてるくせに化粧もしてねぇし、その顔でやるとかキモすぎだろ。作品への侮辱じゃん!」
するとチャラ兄も笑いながら続けた。
「マジそれな。キモすぎ。作品汚してるだけだろ。コスプレじゃなくて冒涜だわ。しかもブスすぎてやばい」
そう言って二人はスマホを取り出し、その女性を撮影し、SNSに晒し始めた。
……。
その時、横を一人の完成度の高いコスプレイヤーが通った。 今一番人気の作品のキャラクターだった。
するとデブ兄とチャラ兄はすぐさま後をつけ、スマホで脚や胸元を盗撮し始めた。
俺は前方の二人を見て、さすがにまずいと思った。 止めようとした、その瞬間――
チャラ兄に蹴られた。
「おいおい、お前何しようとしてんだよ。空気読めよ。あんな格好してるってことは撮られるためにやってんだろ? 知らねぇのか?」
そう言って、俺を乱暴に突き飛ばした。
二人はその後も、いろんな女性を盗撮し、見た目を馬鹿にしてはネットに晒していた。
……俺は、ただ横に立っていただけだった。
……。
その時、俺が振り向いた拍子に、一人の女性レイヤーにぶつかってしまった。
しかも、胸元に触れてしまった。
俺は慌てて謝った。 だが相手は外国人らしく、言葉が通じなかった。
すると周囲から大勢の人が集まってきた。 どうやらその女性のファンらしい。
「先生、大丈夫ですか!?」
「こんなところにも変態がいるとか最悪なんだけど!」
彼らは俺を突き飛ばし、その女性を背中にかばいながら、スマホで俺を撮影し始めた。
その女性レイヤーは周囲の人たちに何か外国語で説明していた。
しばらくすると、人々は散っていった。
そしてその隙に、デブ兄はその外国人レイヤーの前へ走っていき、ツーショット写真を頼んでいた。
俺はそれを見つめながら思った。
……なんなんだよ、これ。
……。
しばらくして、デブ兄とチャラ兄が戻ってきた。
そしていきなり、俺の顔面を殴った。
「おい! お前、外国人レイヤーにセクハラしたらしいな!? あの人が誰か知ってんのか、このバカ!」
デブ兄が怒鳴った。
「許してもらえたから良かったものの、お前マジでキモいし恥さらしなんだよ!」
「あの人、わざわざ来日してくれてたんだぞ!? マジで俺らの面汚しだわ!」
チャラ兄も続けた。
俺は焦って言い返した。
「ち、違う……ただぶつかっただけだよ……! 別に何もしてないし……そこまで大ごとじゃないだろ……」
するとチャラ兄は鼻で笑った。
「ほんと惨めだな。そりゃクラスの女子にも嫌われるわけだわ」
……。
俺は前を見つめ、ポケットに手を入れながら、小さく呟いた。
……そうか。 まあ、どうでもいいか。
どうせこれが、俺の青春なんだろう。
そうだ……。
失敗して、繰り返して、また失敗して。
女子なんて近づいてこない。 誰一人、近づいてこない。
……これが、俺の青春なんだ。
……
メイド喫茶に到着すると、隣のメイドたちが熱心に私たちを迎えてくれた。目の前のメイドを見て、私は少し緊張し、そして恐怖を感じる……
なんだか気まずくて、どこか怖くて、距離を感じる。やっぱり私は、女の子と話すのが苦手なんだな……
……
隣のメイドは楽しそうにメニューを紹介しながら、手を動かし、まるで魔法を使うような仕草をしている……
デブ兄は目の前のメイドを見て、だらしない笑みを浮かべ、甘えるような表情で触れようとした……
すると店長のメイドが厳かな様子でやって来て、トレーでその手を制止し、親切だが慎重な口調で言った。
「申し訳ありませんが、当店では接触は禁止となっております。違反された場合は罰金になります」と、笑顔で告げる。
デブ兄は少し残念そうに手を引っ込めた。
その後、私たちはすぐに注文を終えた……
デブ兄はサンデー、チャラ兄はサンドイッチ、私は前を見て、やたら大きくて辛そうなカレーライスを注文した……
すると隣のチャラ兄が私を見て嘲笑する。
「おいおい、お前ほんとバカだな。ここ来てカレー頼むとかさ、この店の人気はサンデーとかスイーツだろ?ほんと何も分かってねぇな、バカすぎ……」
私はその言葉を聞き、少し落ち込みながらも言い返した。
周りが楽しそうな空気の中で、どうして自分は笑えないんだろう。どうして何も感じないんだろう……
……
そのとき、デブ兄がテーブルを強く叩き、大声で言った。
「おい!この曲、今一番流行ってるアニメの歌じゃねぇか!?」
「そうそう、あの神作だろ。マジで神だよな。来年映画も出るらしいし、リメイクだけどまぁ見る価値はあるだろ」チャラ兄が言う。
「は?何それ、全然知らねぇんだけど……何の作品だよそれ」と私は言った。
デブ兄は私を見て、苛立ったように言う。
「お前ほんとアニメ好き名乗る資格ねぇな。それも知らねぇとかダサすぎだろ」
私は彼らを見ながら、どこか冷めた感情を抱いた……
そうだ。俺はもうこの年齢で、熱意も興味も全部消えてしまったのかもしれない……
流行についていけない……いや、そもそもなぜ流行に合わせなきゃいけないんだ?これが青春なのか……?
そのときメイドが料理を指し、魔法のような掛け声をするよう促す。デブ兄とチャラ兄は完全にそれに没頭している……
だが私はどうしても入り込めない。女の子が近づくだけで緊張して逃げたくなる。派手すぎて、ただただ怖い……
その後もデブ兄とチャラ兄は何人かの女の子と写真を撮り、それを保存していた……
私はその行動を見ても、何の興奮も感じなかった……
そのときデブ兄が、隣のメイドに話しかけて写真を撮れと言い、さらに“私的な部分も撮れ”などと言い出した……
私は驚いてデブ兄を見る。
「……は?何言ってるんだ?」
デブ兄は私の服を掴み、強く引き寄せる。
「お前らが連れてきてもらってる立場だろ?白白で楽しもうとしてんじゃねぇよ。写真撮ってこい、じゃないとただじゃ済まねぇぞ」
「……ふざけんなよ。お前が何様だよ。ただの無能なデブオタクだろ」
私は笑いながら、スマホを彼の手に返した。
その瞬間、デブ兄が私の手を掴み、強く圧迫した。
骨が軋むような痛みが走り、私は慌てて悲鳴を堪えた……
…………
そして最後に、デブ兄とチャラ兄は、俺にメイド喫茶のメイドの私的な部分を盗撮しろと指示してきた……
いや待てよ。俺、あのデブにすら勝てないのか?さすがに意味わかんねぇだろ、何なんだよ……
もういい……
……
だが緊張のせいで、スマホのカメラをメイドたちの方へこっそり向けようとするだけで、手がずっと震えてしまう……
メイドの下半身や胸元を撮ろうとしても、緊張しすぎて全然踏み出せない……
その時、横からコツンと音がした。
メイド店長が俺の目の前に現れたのだ。
彼女は怒った顔で俺の服を強く掴み、嫌悪感のこもった声で言った。
「ねぇ、あんた何してるの。盗撮でしょ……」
「こういうクソ男を野放しにしてるから、うちのメイド喫茶とかこの業界がどんどん舐められるのよ。私たちはあんたらみたいな男にサービスするためにいる仕事じゃないんだけど。そういう勘違いやめてくれる?」
「メイドやってる側が一番嫌うの、あんたみたいな盗撮男なの。ここに来る男なんてたくさんいるけど、ちゃんと私たちを尊重してくれる人もいるのよ。尊重もできないくせに、盗撮とか何様なの?」
人生で初めて、女の人に1対1で話しかけられた気がする。 でも罵倒されてるだけだ。終わった。どうすればいい……
「ち、違う……冗談で……メイドのことを……」
やばい、緊張して何も言葉が出てこない……
店長はなおも嫌悪感のある表情で続ける。
「こういうせいで、うちのメイドたちが男嫌いみたいな症状になることもあるのよ。どれだけ苦しんでると思ってるの?」
「そういう下品な考え方を持ち込まないでくれる?」
……
そのまま俺は店から追い出され、店内とSNSに顔写真まで貼られて晒し者にされた……
そしてデブ兄とチャラ兄はすでに店から消えていた。罵倒だけ背負わされたのは俺だけだった……
……
なんだよこれ……あいつらどこ行ったんだよ……
俺はボロボロのまま、その場を離れて歯を食いしばりながら歩き続けた……
「おい、坊主。撮れたのか?返事しろよ!!」
横からデブ兄が現れ、いきなり俺の手を掴んできた。
「む……無理だよ……バレたんだよ……俺にはどうしようもねぇよ……」
俺が焦って答えると、デブ兄は嫌そうに俺の服を引っ張り、勢いよく突き放した。
「は?チャラのとこ行け!」
「は?なんでだよ。あいつ今どこ行ったんだよ!?」
「そいつならな、今“超エロいコスプレ女”を尾行して盗撮してる。『85戦区のヒロイン』のコスらしいぞ。お前も手伝え、早くしろ!!」
デブ兄は笑いながら言った。
俺はもう、頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、そのまま歩き出すしかなかった……
……
そしてチャラ兄は本当にそのコスプレ女性を尾行していた。
彼は後ろからずっとつきまとい、スマホを構えてズーム撮影を繰り返し、さらに自分の下半身を触りながら歩いている……
俺は唇を噛みながら近づいた。
「おい……来たかよ、クソ野郎。盗撮と尾行はお前がやれって話だぞ。デブ兄から聞いてんだろ?」
チャラ兄は威圧的に言った。
……
俺はそのままコスプレの女の子の横へ行き、冗談めかして声をかけた。
「なぁ……前の人、君って“世界計算”のキャラのコスプレだよな……?」
「……何ですか。離れてください」
その子はそう言うと、すぐに早足で角を曲がっていった。
俺が追おうとした瞬間、別のコスプレの女性が角から出てきて、俺のスマホをひったくった。
さっきの子もその場で泣き出している。
そしてスマホの中身は全部削除され、地面に叩きつけられた。
終わった。
俺は逃げようとしたが、すぐに周りをコスプレイヤーたちに囲まれた。
「逃がさないよ。警察呼ぼう」
「こいつ最低だな……」
「キモすぎる……」
スマホで撮られ、罵声が飛ぶ。
「違う……違うんだよ、誰かにやらされたんだって……」
俺が叫ぶと、
「じゃあ判断力ないの?アホなの?AV見すぎじゃない?」
と一斉に言われた。
俺は必死にチャラ兄を指差した。
「違う!あいつだ!あいつに脅されたんだ!!」
その瞬間、チャラ兄が横から来て、俺の顔を殴った。
「すみません、こいつが全部やりました。俺は止めようとしたんです」
そう言って頭を下げる。
地面に倒れたまま、俺は思った。
……こんなの、誰が信じるんだよ。
……
そして最後には、みんなチャラ兄の言葉を信じ、そのまま解散していった。
その日の夜、俺はネットで晒され続けた。
さらに意外だったのは、もう一人の“化粧してないコスプレの子”まで叩かれていたことだ。
「コスプレを汚してる」「キャラへの冒涜だ」と炎上していた。
結局この世界って、ほんの些細なことで誰かを叩く理由を探してるだけなんだろ。
自分の存在証明のために、誰かを犠牲にするしかないんだ。
……
そして最後には、デブ兄とチャラ兄は可愛いコスプレ彼女まで作って、悔い改めたみたいに青春を楽しんでいた。
それだけの話だ……
………………
藤田は前方を見つめ、少し呆れたように、そして驚いたように林月を見ていた。
「ご……ごめん。そんな怖い記憶を思い出させるつもりじゃなかったんだ……」
林月は藤田を見つめ返し、どこかに微かな劣等感を抱えたまま言った。
「ううん……あなたのせいじゃないよ。これで分かったでしょ? なんで私が変態扱いされて、なんであんなに全部が怖くなるのか」
林月は冷静に言った。
「もういいって……そんなこと考えなくていいよ。前だけ見てればいいじゃん……笑」
藤田は苦笑して言った。
「うん……私もそう思うよ。ほんと、まったく!」林月は突然笑って言った。
「なんだよ……さっき怒ってなかった? なんで急に機嫌直ってるんだ……」
藤田は驚いて言った。
「別に。ちょっと思い出しただけだし。でもそれってもう過去のことでしょ? そんなことで今さら怒る人なんていないでしょ……」
林月は笑って言った。
「うん……まあ、そうか。ならいいや。びっくりしたよ……いや、別にそこまで驚いてないけど、笑」
「ねえ藤田。青春って何だと思う? 友達がいないとか、一緒に遊ぶ人がいないとか、本当に好きなことがないとか、女の子と話すことも遊ぶこともないなら、それって青春なの?」
林月はそう尋ねた。
藤田は林月を見て言った。
「知らないよ、青春が何かなんて。なんで青春に女の子が必要なんだよ……
でもさ……確かに青春ってのは良いものなのかもしれない。俺はたぶん、青春ってその時の足跡を残すことなんじゃないかと思う。逃げることじゃなくて、現実に向き合う優しさとか、そういう全部のこと……
まあ適当だけどな。でも正直、本当の定義なんて俺にも分からない」
林月は前を見て、ため息をついた。
「まあいいや。でもなんとなく分かった気がする。青春って別に女の子がたくさんいることじゃないんだね」
藤田は少し呆れたように林月を見た。
「うん……なんか違う方向に理解してる気がするけど、まあいいや。次の任務行くぞ!!」
藤田は笑って言った。
……
次の任務は、とあるアイドルのライブリハーサルを手伝うことだった。ただしそこに書かれていたアイドルは有名な存在ではなく、いわゆる地下アイドルのような、まだ無名の存在だった。
「でも地下アイドルって、正直かなり厳しいよな。どうやったって売れないし、顔が良いとか背景があるとかでもないと無理だろ。今の現実は見た目の世界だし、売れるためには何かを犠牲にしないといけないって、ネットでもよく言われてるしさ。
昔はこういうの憧れてたけど、今じゃネットのコメントなんて全部ネガティブばっかだし……お金や知名度のためにパパ活してるとか、ステージで下着見せてるとか、そんな話ばっかで……もうこの世界って……」
「林月、お前何言ってんだよ。バカか?」
藤田は少し焦ったように言った。
「そんなことばっか考えるなよ。俺だってこの世界が好きなわけじゃないし、こういうの嫌いだけどさ……でもずっとそこに止まってても意味ないだろ。お前、それって生きてるんじゃなくて、ただ無駄にしてるだけだぞ」
林月は少し驚いたように藤田を見た。
藤田は少しずつ自信を持ったように、林月の隣へ歩み寄り、手を差し出した。
「なあ、もう他人の言葉なんて気にするなよ。
一回考えてみろよ。俺たちって、この世界に求めすぎてるんじゃないか? 現実って、そもそも変なことの方が普通なんだろ。うまくいかないのが普通なんだよ、な!!」
……
「うん……そうだね。藤田はやっぱり強いね。ありがとう。もうこんな風には考えないよ。行こう、残りの任務終わらせよう!!」
林月は微笑んだ。
そして藤田は林月の手を取り、二人は明るく前へと歩き出した…………
……
「でも、次の任務ってなんか失敗しそうだよね。それでも前に進むの?」
「…………………………。」
「何だよ、喋れよ。まったく……笑!」
今回の話には最近遭遇した社会的な出来事や、嫌だと感じたテーマもいろいろ書き込んだら、結果的にかなり長くなってしまった。本当は地下アイドルに出会うところまで書くつもりだったけど、その続きは次回にしようと思う……(≧(エ)≦)




