if みにまむ猫リズ②
①の続き。セシル君視点。
我が儘な子猫の為にわざわざ市街地に足を伸ばし、王室御用達の菓子店でプリンを買いにまで行った。だというのに、このあほは俺が研究室に戻ったらソファで暢気に寝てやがった。人が苦労して買ってきたというのに。
確かに大人しくは待っていたらしいが、使いっ走りにされた俺としては少々不服である。出迎えるくらいしろ、と言ってやりたかったが……リズが思いの外幸せそうに寝ている物だから、無理に起こすのは止めた。
プリンの入った箱をサイドテーブルに置き、人のソファに我が物顔で丸まっては眠りこけるリズを起こさないようそうっと抱えて、本人の寝床に。流石にソファそのままで寝かせているのは邪魔だし、一応は人間の形をしているし風邪でも引かれても困る。
大きめのバスケットに柔らかな羽毛のクッションを敷き詰め、抱き枕の小さなぬいぐるみに掛布としてふわふわのタオル。急造のベッドだったがリズは案外気に入っている。
そこにゆっくりと寝かせてタオルをかけると、むず痒そうに喉を鳴らした。それでも起きないのは、本人が気付かない内にストレスを溜めて疲労しているからだろう。
いきなり縮んで手が上手く使えないようになれば、当たり前だが疲労が嵩む。今まで上手く扱えたものが扱えない、食事や着替えも儘ならない。おまけに閉じ込められて自由を制限された状態ならば、尚更ストレスは溜まるだろう。明るく振る舞っているが、夜に魘されているのも聞いている。本人が気付いているのかは知らないが。
……なるべく、願いを叶えてやりたいと思うのは、仕方のない事だろう。決して俺が猫好きだから甘やかしてるとかじゃない。確かに猫は可愛いしリズも可愛……くない事もないが、やはり労りたいというのがある。まあプリンくらい買ってきてやらん事もないのだ。
「にゃ……ぁ」
貰われてきた子猫のような姿のリズは、幸せそうな顔で寝ている。口許をもごもごしているから、プリンを食べる夢でも見ているのだろう。食いしん坊め。
指の腹でリズの唇をなぞれば、反射なのか寝たまま甘噛みしてざらついた舌が少し肌を撫でる。プリンとして指を食べられるのは敵わないが、むにゃむにゃと無防備な寝顔を晒す姿が庇護欲をそそったので、そのままにさせてやった。
起きたらとっておきのプリンがある事を知らせてやろう、きっと無邪気な笑顔を浮かべてプリンに飛び付くだろう。
そんな光景を想像すれば微笑ましくなり、小柄な体を丸めて寝入るリズの頭を撫でては「まぬけな顔」と笑った。