第3話 軍師の初陣
桃園で誓いを交わした翌朝、張飛の屋敷の前には、想像していた以上の人が集まっていた。
使い古した槍を担いだ者もいれば、鎌や長柄の農具を持ってきただけの者もいる。革を継ぎ合わせた防具でも身につけていればまだ上等な方で、大半は普段着のままだった。とても軍勢と呼べる姿ではないが、その顔には黄巾の連中に故郷を好き勝手に荒らされてたまるかという怒りが浮かんでいる。
「二百七十三人だ。まだ声を掛ければ増えるぞ」
人数を数え終えた張飛が、満足そうに戻ってきた。
「いや、これ以上は集めない方がいいと思う」
「昨日は二百ほどと言っていたな。せっかく来た連中を帰すのか?」
「帰すというより、今は待ってもらう。張世平殿と蘇双殿から出していただける兵糧を考えると、連れていけるのは百八十ほどが限度だろう」
ここにいる全員を連れ出すこと自体はできる。しかし三日後に食わせるものがなくなれば、その時点で軍として動けなくなる。戦場へ着く前から腹を空かせた兵を抱えるくらいなら、まず養える人数だけで戦って実績を作り、次にもっと多くの人間を受け入れられるだけの物資を確保した方がいい。
そう説明すると、張飛は集まった人々をしばらく眺めたあとで頷いた。
「なら、玄徳兄者から話してもらおう。その方が皆も納得するだろう」
「俺もそれがいいと思う」
こういう時まで俺が前へ出る必要はない。彼らは劉恪という名を頼って集まったわけではなく、劉備玄徳という男なら何かをしてくれるかもしれないと思ってここへ来たのだ。
劉備は一段高い場所へ上がると、集まった者たちをゆっくり見渡した。
「来てくれて感謝する。本当なら全員に力を貸してもらいたいが、今の俺たちには二百七十人を食わせ続けるだけの蓄えがない。だから最初は人数を絞る」
当然、不満そうな顔もあった。
劉備はそれを誤魔化さなかった。
「俺たちが勝って戻り、次の兵を養えるようになった時、それでも一緒に戦ってくれるという者には改めて声を掛ける。その時は、今日ここへ来てくれた者から先に頼みたい」
しばらく沈黙が続いたものの、やがて前の方にいた男が「分かった」と答えた。それをきっかけに、周囲からも納得する声が上がっていく。
俺なら、兵糧が何日分しかない、何人増えれば一日にどれだけ消費が増える、と数字から説明しただろう。しかし兄上は、人の気持ちを先に扱う。断る時でさえ次に会う理由を残すところは、俺には簡単に真似できそうになかった。
◇
残ったのは百八十二人だった。
問題は、その百八十二人をどうやって兵にするかである。
昨日まで畑を耕していた人間に、いきなり複雑な陣形や何種類もの号令を覚えさせても意味がない。だから普段から顔を知っている者同士を五人ほどずつに分け、その中から比較的落ち着いて周囲を見られる者を一人選んだ。さらに数組ごとにまとめ役を置き、誰の声を聞けばいいのかだけは迷わないようにする。
覚えてもらう号令も、進む、止まる、集まる、退くの四つに絞った。
「本当にこれだけでいいのか?」
張飛が少し物足りなさそうに尋ねてきた。
「もちろん槍の使い方も覚えてもらう。ただ、初めて戦う人間が一度崩れた時、誰も止められなくなる方が怖い。まずは退けと言われたら退く、止まれと言われたら止まる。それを皆ができるようにしたい」
「なるほど。なら俺は、腕に覚えのある奴を見てくる」
「頼む」
張飛には体力と腕力のある者を三十人ほど選んでもらい、関羽には槍を持ってきた者たちを任せた。
「雲長兄。最初から振り回させるより、突くことと隊列を崩さないことを覚えてもらった方がいいと思う」
「私も同じ考えだ。初めは自分の間合いより、隣の者から離れぬことを覚えさせた方がよかろう」
「任せてもいいか?」
「もちろんだ」
関羽は口数こそ多くないが、教え方は意外なほど丁寧だった。穂先の高さや腰の位置を一人ずつ直し、うまくできない者にも怒鳴らず、なぜその構えでは危険なのかを実際に槍を動かして見せている。
後世の俺は、関羽を一騎当千の豪傑として知っていた。
けれど今目の前にいるのは、一本の槍を握る農民に生き残るための基本を教えている若い武人だった。英雄というものも、最初から後世の伝説通りの姿で立っていたわけではないのだと、当たり前のことを改めて実感する。
昼前になると、張世平と蘇双から約束の穀物と銭、それに十数頭の馬が届いた。
全員を騎兵にできる数ではないが、その必要もなかった。斥候や伝令を走らせ、負傷者を運べるだけでも、馬があるのとないのでは大きく違う。
荷の確認をしているところへ、屋敷の外から荒い馬蹄の音が近づいてきた。
「劉玄徳殿はおられるか!」
役人らしい男が馬から飛び降りると、劉備がすぐ前へ出た。
「俺です」
「校尉・鄒靖様が義兵を集めている。兵を率いるつもりなら、直ちに軍門へ参じられたい!」
鄒靖。
その名を聞いた瞬間、胸の奥がわずかに締まった。
俺の知る歴史では、黄巾の乱が始まった後、劉備は関羽と張飛らを従えて鄒靖の軍へ加わり、黄巾討伐で功を立てる。
そこまでは知っている歴史と同じだった。
ただ、その劉備の隣には今、史書に存在しなかった弟が立っている。
◇
鄒靖は、俺が勝手に想像していたような威圧的な武官ではなかった。
俺たちの百八十二人を見ると、人数の多寡を褒めるより先に武器の数と兵糧について尋ねてきた。
「兵糧は何日分ある?」
「当座、六日ほどです。追加の手配もしております」
劉備が答えると、鄒靖は少し意外そうな顔をした。
「義兵と聞いていたから、武器だけ持って飛び出してきた連中かと思ったが、多少は考えているようだな」
周囲を見れば、鄒靖がそう思う理由も分かる。人数だけなら俺たちより多くても、食料は各自が持参した分だけで、誰が指揮するのかさえ曖昧な一団もあった。
「名は?」
「劉備、字は玄徳です」
「涿県の劉氏か」
「はい」
鄒靖は俺たち四人へ順に目を向けた。
「そちらは?」
「弟と、共に戦う義兄弟です」
鄒靖はそれ以上細かな事情を聞かず、地面へ広げた地図の一点を指した。
「ちょうどいい。東南の集落を襲った黄巾の一隊がいる。数は五百ほどと見ている」
こちらの兵は百八十二人だから、単純な数なら三倍近い。
しかし鄒靖は、俺たちだけで五百を倒せと言っているわけではなかった。
「俺の兵が正面から追う。玄徳、お前たちは北へ回れ。賊が散ればこの道へ逃げ込む可能性が高いから、そこで退路を押さえろ」
指先が示したのは、畑の間を抜ける細い道だった。西側には小川があり、東には低い林が広がっている。
俺はしばらく地図を見たあと、鄒靖へ尋ねた。
「一つ伺ってもよろしいでしょうか。その黄巾は、すでに集落を襲った後ですか?」
「ああ。穀物を積んだ荷車を連れて北へ向かっているそうだ」
その答えを聞いて、一つ使えそうな形が頭に浮かんだ。
「兄上、少し相談したい」
二人で地図から離れると、劉備がすぐに訊いてきた。
「何か思いついたか」
「五百全部を相手にしなくても済むかもしれない」
黄巾側が穀物を積んだ荷車を連れているなら、官軍に追われ始めた時、身軽になって逃げたい者と、せっかく奪った荷を捨てたくない者の間で動きがずれるはずだ。しかも退路に使う細道は横へ広がりにくい。
「前の集団が道へ入ったところで横から叩ければ、後ろと切り離せると思う。ただし、地図どおりの地形ならという条件付きだ」
「関羽と張飛を使うのか?」
「ああ。雲長兄には横から、益徳には後ろを揺さぶってもらう。兄上には正面で兵を支えてほしい」
「俺が中央か」
「初陣の人間が多いからな。兄上が目に入る場所にいる方が、踏みとどまりやすいと思う」
劉備は少し笑った。
「ずいぶん俺を買ってくれる」
「その辺りは、昔から見ているからな」
これは後世の歴史知識ではなく、劉恪として兄と暮らしてきた記憶から出た言葉だった。
劉備は俺の案を一度自分の中で咀嚼してから、鄒靖へ説明した。
鄒靖は地図を見ながらしばらく考えたが、こちらの役目が退路を押さえることに変わりはない。
「好き勝手に戦ってよいとは言わん。役目はあくまで退路を塞ぐことだ。深入りはするな」
「承知しました」
それで十分だった。
ここまでは、頭の中で考えたことを口にしていただけだ。しかしここからは、俺の提案で兵が動き、その結果によって人が生きるか死ぬかが決まる。
だからといって、判断そのものから逃げるつもりはなかった。
戦場で迷っている時間もまた、敵に与える時間になる。
◇
現地へ着いてみると、地形は地図から想像していた以上に使いやすかった。
西側の小川は水量こそ多くないものの岸がぬかるみ、まとまった人数が一気に渡るには向いていない。東側の林も深くはないが、四十人ほどを外から見えないよう伏せるには十分だった。
俺は劉備、関羽、張飛と一緒にもう一度周囲を確かめた。
「この地形ならやれると思う。ただし、敵が予想以上にまとまって来たら無理はしない。こちらの目的は五百を皆殺しにすることじゃないからな」
劉備が頷く。
「雲長兄には四十人を連れて林へ入ってほしい。敵の前方が細道へ入って、後ろとの間が開いたところで横から出てもらいたい」
「承知した」
「益徳は三十人で少し後方へ隠れていてくれ。雲長兄が出て敵の動きが止まったら、退路側へ姿を見せてもらえるか」
「任せろ。だが、本当に塞ぎきらなくていいのか?」
「むしろ塞ぎきらない方がいいと思う。逃げ道がなければ、相手も死ぬ気で戦う。東側を空けておけば、崩れた者はそちらへ流れるはずだ」
張飛は林の先へ目をやったあと、納得したように笑った。
「なるほど。逃げたい奴には、逃げてもらうわけだ」
「そういうことだ」
残る百人余りは劉備と正面を支える。
「季衡は?」
「俺も兄上の近くにいる。実際の戦場を見たことがないから、敵がどう動くかこの目で見たい」
「後ろに下がっていても構わんぞ」
「邪魔にならない場所にはいる。ただ、軍師を名乗るなら一度くらいは自分で戦場を見ないとな」
劉備は俺の顔を確かめるように見たあと、「無茶だけはするな」と言った。
俺も「兄上こそ」と返した。
間もなく、遠くから喊声が聞こえ始めた。
鄒靖の官軍と黄巾がぶつかったのだろう。百八十人余りの義勇兵たちから、それまで残っていた私語が消えていく。
やがて細道の向こうに、小さな黄色が見えた。
最初は数人だったものが十人、二十人と増え、やがて武器を手にした集団となってこちらへ押し寄せてくる。槍や刀を持っている者もいれば、鍬や鎌をそのまま武器にしている者も多く、官軍に追われているためか隊列もかなり乱れていた。
「来たぞ!」
義勇兵の誰かが叫ぶ。
「まだ動くな!」
劉備の声が通ると、ざわつきかけた兵たちが踏みとどまった。
黄巾の先頭も俺たちの姿を認め、一瞬だけ勢いを鈍らせる。しかし正面に見えるのは百人ほどで、後ろからは官軍が迫っている。止まれば挟まれる以上、こちらを押し破ろうと考えるのは自然だった。
怒号とともに黄巾兵が走り出す。
百人近い人間が武器を手に迫ってくる光景は、史料の文字から想像した戦場とはまるで違っていた。足音が重なって地面が震え、兵の息遣いまで聞こえてくる距離になるにつれて、口の中が急速に乾いていく。
怖くないはずがない。
四十一年分の人生経験があろうと、後漢末の戦乱について何冊研究書を読んでいようと、刃物を持った人間の集団が真正面から迫ってくる恐怖を消してくれるわけではなかった。
隣に立つ若い兵の呼吸が荒くなった。
「季衡様……」
「兄上を見ていればいい。合図が出るまでは、今いる場所から動かなくて大丈夫だ」
その言葉は半分、自分自身にも向けていた。
黄巾兵がさらに迫り、劉備が剣を抜く。
「槍を構えろ!」
百人の槍が前へ向いた。高さも角度も揃ってはいないが、昨日まで農具を持っていた集団とはもう違う。
最初の黄巾兵がぶつかった瞬間、木と鉄の衝突音に怒号と悲鳴が重なった。
こちらにも倒れる者が出る。
黄巾側にも倒れる者がいる。
生温かい血の臭いが風に混じり、俺は初めて、史料に記される「死者」という言葉の向こう側を知った。
だが、そこで目を止める余裕はない。
俺が見るべきなのは敵の流れだった。
黄巾の前方が細道へ入り込んでくる一方、荷車を抱えた後方は官軍に押されて遅れ始めている。先頭と後続の間隔が少しずつ開き、やがて一つだった集団に明らかな切れ目が生まれた。
「兄上!」
「ああ、見えている!」
劉備自身も前線近くで兵を支えている。指揮する者が自分だけ安全な位置へ下がらないからこそ、初陣の義勇兵たちも踏みとどまっていた。
敵の前方百人余りが完全に細道へ入った。
もう待つ必要はない。
「雲長兄!」
声を上げると、東の林が揺れた。
関羽を先頭に四十人が一斉に飛び出し、細道へ詰まった黄巾兵の側面へ襲いかかる。関羽は槍を大きく振り回さず、最短の動きで突き、払い、また一歩前へ進む。その背中に四十人が続くと、横腹を突かれた黄巾兵たちは前へ進む者と後ろへ戻ろうとする者に分かれ、狭い道の中で互いの動きを邪魔し始めた。
「横から来たぞ!」
「戻れ!」
怒号の質が変わった。
敵の流れが止まったところで、今度は張飛の声が後方から響く。
「行くぞ!」
三十人を連れた張飛が姿を現し、長矛を構えて黄巾の最後尾へ迫った。
「前へ行くなら好きにしろ! 戻ってくるなら俺が相手だ!」
戦場の喧騒の中でも、あの声だけはよく通る。
張飛が先頭の一人を長矛で崩すと、その後ろにいた者たちまで足を止めた。
正面には劉備。
横には関羽。
背後には張飛。
ただし東側だけは空いている。
最初に一人がそちらへ走った。二人目が続き、三人目がそれを追う。
その瞬間、均衡が崩れた。
「逃げろ!」
誰かが叫ぶと、黄巾兵が堰を切ったように東へ流れ始める。
「追わなくていい! 予定どおり止まってくれ!」
俺の声に関羽はすぐ兵を止め、張飛も何人かを追ったところで踏みとどまった。
うまくいった。
そう思った直後、林側から一人の黄巾兵が飛び出してきた。
距離が近い。
槍の穂先がこちらを向いた瞬間、考えるより先に身体が動いていた。
真正面から後ろへ退くのではなく、半歩だけ外へ出る。伸びてきた槍の柄へ手を添え、相手が前へ進む力を横へ逃がすと、勢いのついた身体が俺の横を流れた。
前世で何千回と繰り返してきた体捌きだった。
相手が体勢を崩す。
腰の短剣を抜いた。
ここで躊躇すれば、次はこちらが刺される。
脇腹へ刃を押し込むと、手に重い感触が返り、男の身体から力が抜けた。短剣を引き抜くと、そのまま地面へ崩れ落ちる。
「季衡!」
劉備の声が飛んできた。
「大丈夫だ! 俺はいいから前を見てくれ!」
胃の奥が一度だけ大きく縮んだ。
人を殺したことは理解している。
だが、今ここでその事実について考え込んでも誰の役にも立たない。俺は呼吸を整え、すぐ敵の動きへ視線を戻した。
残った黄巾兵も逃げ始め、その向こうからは鄒靖の官軍が迫ってくる。挟まれると悟った後続はついに穀物を積んだ荷車まで捨て、散り散りになって逃げていった。
追撃する必要はなかった。
俺たちの役目は敵を皆殺しにすることではなく、退路を押さえ、組織だった抵抗を崩すことなのだから。
◇
戦が終わると、まず味方の人数を確認した。
「死者は七人です。負傷者は二十三人。うち五人は重傷です」
報告を受け、俺は死んだ七人の名前と家族の有無を一人ずつ確かめた。
戦場へ出た以上、死者が出ることそのものに毎回立ち止まってはいられない。けれど、七人という数字だけを記憶して終わるつもりもない。俺が考えた作戦に従って戦った者たちなのだから、少なくとも誰が死んだのかくらいは覚えておきたかった。
「兄上。張世平殿たちから出していただいた銭の一部を、亡くなった者の家へ回せないか」
「俺も同じことを考えていた」
劉備は即答した。
関羽が、傍らに置かれた荷を見ながら言う。
「その分、軍資は減るな」
「黄巾が捨てた穀物や武器のうち、俺たちにも回してもらえるものがあるか鄒校尉へ頼んでみたい」
「それなら俺から話そう」
こういう時の決断は、やはり劉備の方が早い。
間もなく鄒靖が馬でやってきた。
道に残された死体と荷車を見回した後、こちらへ馬を寄せる。
「玄徳。あの戦い方を考えたのは誰だ」
劉備は一瞬も迷わなかった。
「弟です」
俺は前へ出て頭を下げる。
「案を出したのは俺ですが、形にできたのは兄上と雲長兄、益徳が予定どおり動いてくれたからです。初陣の兵が多かったので、難しいことをせずに済んだのも大きかったと思います」
鄒靖はしばらく俺を見ると、わずかに口元を緩めた。
「自分の手柄を大きく言う若者は珍しくないが、小さく言う者は少ない。名は?」
「劉恪。字は季衡です」
「劉季衡か。覚えておこう」
自分の名が官軍の将の記憶に残ったことは素直に嬉しい。
ただ、それ以上に気になったことがあった。
「ありがとうございます。次は、もう少しこちらの死者を減らしたいと思っています」
「勝った直後にそれを言うか」
「勝ち続けるなら、兵を減らさない方がいいでしょうから」
鄒靖は一瞬きょとんとした後、小さく笑った。
「面白い兄弟だ」
それから劉備へ向き直る。
「玄徳。お前たちはこのまま俺の隊に付け。休めると思うなよ。南で別の黄巾が集まり始めている。今度は千を超えるとの報告が来ている」
張飛の顔に、隠しようのない戦意が浮かんだ。
関羽は何も言わず、槍の穂先についた血を布で拭っている。
劉備は二人を見てから、最後に俺へ視線を向けた。
「季衡。どうする?」
「まず地形と相手を見たい。千人いるなら、千人全部をまともに相手にせずに済む場所を探そう」
劉備は少しだけ笑った。
「分かった。そうしよう」
百八十二人で臨んだ最初の戦は、七人を失って終わった。完勝と呼ぶには犠牲があり、それでも三倍近い敵の一部を切り離して崩し、鄒靖から任された役目を果たすことはできた。
劉備が兵を支え、関羽が敵の横腹を断ち、張飛が退路を揺さぶる。その三人が最も力を発揮できる場所と瞬間を俺が選ぶ。
研究室で何度も考えてきた仮説が、ようやく机上のものではなくなった。
もし劉備に、最初から軍師がいたなら。
三国志はどこまで変わるのか。
その答えを確かめる戦いは、まだ始まったばかりだった。




