表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第一章:根を下ろす場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/13

8話 これからも一緒

 誰も動かなかった。

 さっきまで魔物だと思っていた巨大な木に、私が泣きながら抱き付いている。その異様な光景に驚いているのだろう。


「⋯⋯フローラちゃん」


 村人の一人が恐る恐る声を掛ける。


「その、大きな木は⋯⋯」


 私は涙を拭い、フィルの幹を優しく撫でた。


「この子はフィルです。王宮で管理していた結界樹で⋯⋯⋯⋯私の家族です」

「⋯⋯⋯⋯」


 村人達は顔を見合わせる。


「家族⋯⋯?」

「はい」


 私は小さく笑った。


「私が赤ちゃんの頃から、ずっと一緒に育ってきました。だから、この子は私にとって家族なんです」


 フィルは嬉しそうに葉っぱを揺らす。


 さわさわ。


「本当に分かってるみたいだ⋯⋯」

「すげぇ⋯⋯」


 村人達の表情から、少しずつ警戒が消えていく。


 その時だった。

 リリィちゃんが私の服をくいっと引っ張った。


「ねぇ。触っても怒らない?」


 私はフィルを見る。


「フィル?」


 フィルは枝を一本だけゆっくり伸ばした。これはOKの合図だ。


「大丈夫だよ」

「やった!」


 リリィちゃんは恐る恐る枝へ触れる。


「わぁ!」


 目を輝かせた。


「ふわふわ!」


 枝を何度も撫でる。ふわふわの苔で枝を包んだんだな。優しい子だ。


「木なのにふわふわ!」

「ほんとか!?」


 ルーク君も駆け寄る。


「ほ、ほんとだ!すげぇ!」

「ぼ、ぼくも⋯⋯」


 ノア君もおずおずと手を伸ばす。


「わぁ⋯⋯!やわらかい⋯⋯!」


 フィルは嬉しそうに葉っぱを揺らした。


 さわさわ。


「返事した!」

「今返事したよね!?」

「したした!」


 三人は大はしゃぎだった。

 その様子を見て、大人達も少しずつ近付いてくる。


「触っても大丈夫そうだな」

「思ったより優しい木だ」

「魔物じゃないのか?」

「少なくともお前より大人しいぞ」

「おい、それはどういう意味だ」


 村人達が笑う。

 さっきまでの緊張が、少しずつ解けていった。



 ロイドさんは腕を組んだまま、フィルをじっと見上げていた。


「⋯⋯で」


 低い声が響く。


「こいつは何を食うんだ?」

「え?」


 私はフィルを見る。


「何を食べる————かぁ」


 毎日水をあげて、魔力を流して、虫を取って、肥料も使ったりした。フィルはクッキーも土に含んで食べたりできるし、色々食べられる。というか、色々食べたがる。だからこそ、改めて言われると何が食べたいのか⋯⋯。


「水か?」

「肥料じゃない?」

「木なら土じゃねぇか?」

「魔力って言ってなかった?」


 村人達まで真剣に考え始める。


「⋯⋯⋯⋯」————さわさわ。


 フィルは、嬉しそうに葉っぱを揺らすだけだった。


「とりあえず水だ!」


 誰かが言った。


「そうだな!」

「持ってこい!」


 村人達が桶やじょうろを持って集まる。


「フィル、お水だよ!」


 リリィちゃんが根元へ水を掛けると、フィルの葉っぱが大きく揺れた。


 さわぁぁぁ。


「喜んでる!」

「絶対喜んでる!」

「かわいい!」


 子ども達が笑う。

 私も思わず笑顔になった。


「良かったね、フィル」


 さわさわ。


 返事をするように枝が揺れる。



「⋯⋯とりあえず飯は良いとして⋯⋯一つ問題がある」


 ロイドさんが真面目な顔になる。


「問題ですか?」

「こいつ————」


 フィルを見上げる。


「どこに植えるんだ————?」

「あ」


 みんな固まった。

 確かに、フィルは王宮の森に植わっていた。

 でもここにはそんな場所はない。


「畑は駄目だな」

「森の入口はどうだ?」

「いや、あそこじゃ狭い」

「川の近くは?」

「根っこが水吸い過ぎるだろ」


 村人達が本気で相談を始める。


 当の本人————本樹は。


「⋯⋯⋯⋯」——さわさわ。


 フローラの近くならどこでもいいよ、と言っているようだった。その様子がおかしくて、私は吹き出してしまう。


「ふふっ」


 みんなが私を見る。


「あ⋯⋯ご、ごめんなさい」

「いや」


 ロイドさんが小さく笑った。


「笑った方がいい」

「え?」

「その方がお前らしい」


 胸の奥が温かくなる。


 私はフィルを見上げた。

 王宮を追い出されて、もう会えないと思っていた。でもフィルは来てくれた。見たことない、根っこ歩きを駆使して。


 それだけじゃない。

 この村のみんなも、フィルを受け入れようとしてくれている。


 私は一人じゃなかった。


「ありがとう」


 誰へ言ったのか、自分でも分からなかった。

 フィルへ、ロイドさんへ、村のみんなへ。それと、お父さんへ。誰か一人なのか、全員へなのか。


 その時、フィルが一本の枝をゆっくり伸ばす。

 ぽん。と私の頭を優しく叩いた。


「もう」


 私は笑いながら枝を抱き締める。

 フィルも嬉しそうに葉っぱを揺らした。


 さわさわ。


 その穏やかな音は、リーヴェ村へ新しい家族が増えたことを祝福しているようだった。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ