6話 リーヴェ村へようこそ
翌朝。
鳥のさえずりで目が覚めた。
「⋯⋯あぁ、そっか。私、リーヴェ村に来たんだった。」
窓から差し込む光が眩しい。
王宮では鐘の音で起きることが多かったけれど、この村は鳥の声で朝が来るらしい。
なんだか新鮮だった。
着替えて部屋を出ると、廊下から香ばしい匂いが漂ってくる。
「おう、おはよう」
台所ではロイドさんが朝食を作っていた。
「おはようございます」
「よく眠れたか」
「はい」
本当によく眠れた。
昨日までのことが夢だったんじゃないかと思うくらい、久しぶりにぐっすり眠れた気がする。
「座れ」
「いただきます」
焼きたてのパン、野菜たっぷりのスープ、目玉焼き。
どれもこれも、とても温かかった。
「おいしいです」
「そうか」
ロイドさんは短く返事をすると、自分も朝食を食べ始める。
静かな食卓だった。
でも、不思議と気まずくない。こういう空気、嫌いじゃないな。
全然似てないけど、お父さんと二人で暮らしていた時の食卓を思い出す。
食事を終えると、ロイドさんがお茶を飲みながら言った。
「今日は村を案内する」
「ありがとうございます」
「ついでに村のみんなにも紹介しとく」
私は少し緊張した。
「ちゃんと仲良くできるかな⋯⋯」
「普通にしてりゃ問題ねぇ」
「そ、そうですよね」
少しだけ肩の力が抜けた。
◆
家を出ると、朝の村はすでに活気に溢れていた。
畑を耕す人。
薪を割る人。
洗濯物を干す人。
みんな自然と挨拶を交わしている。
「村長、おはよう!」
「あぁ」
「おや、その子は?」
「昨日話した子だ」
「あぁ!」
村人達が私を見る。
「初めまして!」
私は慌てて頭を下げた。
「フローラ・リーフレットです! よろしくお願いします!」
すると、年配の女性——昨日、ロイドさんのお家を教えてくれた女性——が優しく笑った。
「そんなに固くならなくていいよ」
「そうそう。この村じゃ村長に頭下げる人なんて居ないからねぇ」
「え?」
「昨日も畑で転んで泥だらけだったしねぇ」
「おい」
ロイドさんが低い声を出す。
女性は楽しそうに笑った。
「ははは、ごめんごめん」
思わず私も笑ってしまう。
王宮では絶対に見られない光景だった。
◆
しばらく歩くと、小さな広場へ出た。すると——。
「村長ー!」
元気な声が響く。
一人の少女が勢いよく駆け寄ってきた。
「お?」
栗色の髪をふんわりとセミロングにした、小柄な女の子。八歳くらいだろうか。
私を見ると、目を丸くした。
「お姉ちゃん誰!?」
「フローラだ。昨日来た」
「へぇー!」
女の子はぐいっと顔を近付ける。
「私はリリィ!よろしくね!」
「あ、よろしくお願いします」
「あー!敬語だ!」
リリィちゃんが笑う。
「村じゃそんなのいらないよ!」
「え?」
「ね?」
急に同意を求められ、私は困ってしまう。
「えっと⋯⋯」
少し迷ってから、名前を呼ぶ。
「リリィ、ちゃん」
ロイドさんが名前を呼ぶ。
「リリィ、あんまりフローラを困らせるな」
「えへへ」
リリィちゃんは舌を出した。
「じゃあ、お姉ちゃんって呼ぶ!」
その笑顔につられて、私も笑ってしまった。
「リリィー!」
「ル、ルーク⋯⋯!ま、待ってよう⋯⋯!」
今度は男の子が二人走ってきた。⋯⋯ん?一人は女の子?⋯⋯多分男の子だ。
「村長、おはよう!」
「はぁ、はぁ、はぁ⋯⋯おじいちゃん、おはよう」
「おう。ノアはもう少し体力を付けた方が良いな」
「う、うん⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯」
「なぁなぁ村長、その人?」
「あぁ」
一人は癖っ毛の明るい茶髪の活発そうな男の子。
もう一人は背が低く、銀色のふんわりとした髪のおっとりした雰囲気を持つ(推定)男の子だ。
「俺、ルーク!よろしくな、姉ちゃん!」
「ぼくは、ノア⋯⋯。よろしくね」
二人とも元気よく頭を下げる。
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
「だから敬語いらないって!」
リリィちゃんが笑う。
「そうそう!」
ルーク君まで頷く。
「みんな敬語なんて使わないし!」
「えっと⋯⋯」
私はロイドさんを見る。
ロイドさんは小さく肩をすくめた。
「好きにしろ」
「うーん⋯⋯」
三人とも、じっと私を見ている。そんなに期待されると困る。
「じゃあ⋯⋯よろしく」
こんな小さな子供たちだ。ちゃんと敬語をやめてみよう。
「やったー!」
「言った!」
「新しいお友達だね」
三人が大喜びする。
「とも、だち?」
「うん!」
リリィちゃんが当然のように頷いた。
「村へ来た人はみんな友達!」
「そうだよ!」
「うん」
ルーク君とノア君まで頷く。
「⋯⋯⋯⋯」
その言葉が胸へすっと入ってきた。
王宮では、友達なんて呼べる人は居なかった。友達の木なら居たけど。
結界樹管理人。それが私だったから。
「⋯⋯ありがとう」
自然と笑顔になる。
すると三人は顔を見合わせた。
「笑った!」
「やっと笑った!」
「やっぱ笑った方が可愛い!」
「えっ!?」
思わず顔が熱くなる。
「か、からかわないで!」
「あははは!」
三人が笑う。
その笑い声につられて、私も笑ってしまう。こんなふうに笑ったのは、いつぶりだろう。
ロイドさんは少し離れた場所から、その様子を静かに見ていた。
そして誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
「⋯⋯良かったな、アルフレッド」
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