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6話 リーヴェ村へようこそ

 翌朝。

 鳥のさえずりで目が覚めた。


「⋯⋯あぁ、そっか。私、リーヴェ村に来たんだった。」


 窓から差し込む光が眩しい。

 王宮では鐘の音で起きることが多かったけれど、この村は鳥の声で朝が来るらしい。

 なんだか新鮮だった。


 着替えて部屋を出ると、廊下から香ばしい匂いが漂ってくる。


「おう、おはよう」


 台所ではロイドさんが朝食を作っていた。


「おはようございます」

「よく眠れたか」

「はい」


 本当によく眠れた。

 昨日までのことが夢だったんじゃないかと思うくらい、久しぶりにぐっすり眠れた気がする。


「座れ」

「いただきます」


 焼きたてのパン、野菜たっぷりのスープ、目玉焼き。

 どれもこれも、とても温かかった。


「おいしいです」

「そうか」


 ロイドさんは短く返事をすると、自分も朝食を食べ始める。

 静かな食卓だった。


 でも、不思議と気まずくない。こういう空気、嫌いじゃないな。

 全然似てないけど、お父さんと二人で暮らしていた時の食卓を思い出す。


 食事を終えると、ロイドさんがお茶を飲みながら言った。


「今日は村を案内する」

「ありがとうございます」

「ついでに村のみんなにも紹介しとく」


 私は少し緊張した。


「ちゃんと仲良くできるかな⋯⋯」

「普通にしてりゃ問題ねぇ」

「そ、そうですよね」


 少しだけ肩の力が抜けた。



 家を出ると、朝の村はすでに活気に溢れていた。

 畑を耕す人。

 薪を割る人。

 洗濯物を干す人。


 みんな自然と挨拶を交わしている。


「村長、おはよう!」

「あぁ」

「おや、その子は?」

「昨日話した子だ」

「あぁ!」


 村人達が私を見る。


「初めまして!」


 私は慌てて頭を下げた。


「フローラ・リーフレットです! よろしくお願いします!」


 すると、年配の女性——昨日、ロイドさんのお家を教えてくれた女性——が優しく笑った。


「そんなに固くならなくていいよ」

「そうそう。この村じゃ村長に頭下げる人なんて居ないからねぇ」

「え?」

「昨日も畑で転んで泥だらけだったしねぇ」

「おい」


 ロイドさんが低い声を出す。

 女性は楽しそうに笑った。


「ははは、ごめんごめん」


 思わず私も笑ってしまう。

 王宮では絶対に見られない光景だった。



 しばらく歩くと、小さな広場へ出た。すると——。


「村長ー!」


 元気な声が響く。

 一人の少女が勢いよく駆け寄ってきた。


「お?」


 栗色の髪をふんわりとセミロングにした、小柄な女の子。八歳くらいだろうか。


 私を見ると、目を丸くした。


「お姉ちゃん誰!?」

「フローラだ。昨日来た」

「へぇー!」


 女の子はぐいっと顔を近付ける。


「私はリリィ!よろしくね!」

「あ、よろしくお願いします」

「あー!敬語だ!」


 リリィちゃんが笑う。


「村じゃそんなのいらないよ!」

「え?」

「ね?」


 急に同意を求められ、私は困ってしまう。


「えっと⋯⋯」


 少し迷ってから、名前を呼ぶ。


「リリィ、ちゃん」


 ロイドさんが名前を呼ぶ。


「リリィ、あんまりフローラを困らせるな」

「えへへ」


 リリィちゃんは舌を出した。


「じゃあ、お姉ちゃんって呼ぶ!」


 その笑顔につられて、私も笑ってしまった。


「リリィー!」

「ル、ルーク⋯⋯!ま、待ってよう⋯⋯!」


 今度は男の子が二人走ってきた。⋯⋯ん?一人は女の子?⋯⋯多分男の子だ。


「村長、おはよう!」

「はぁ、はぁ、はぁ⋯⋯おじいちゃん、おはよう」

「おう。ノアはもう少し体力を付けた方が良いな」

「う、うん⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯」

「なぁなぁ村長、その人?」

「あぁ」


 一人は癖っ毛の明るい茶髪の活発そうな男の子。

 もう一人は背が低く、銀色のふんわりとした髪のおっとりした雰囲気を持つ(推定)男の子だ。


「俺、ルーク!よろしくな、姉ちゃん!」

「ぼくは、ノア⋯⋯。よろしくね」


 二人とも元気よく頭を下げる。


「よろしく!」

「よろしくお願いします」

「だから敬語いらないって!」


 リリィちゃんが笑う。


「そうそう!」


 ルーク君まで頷く。


「みんな敬語なんて使わないし!」

「えっと⋯⋯」


 私はロイドさんを見る。

 ロイドさんは小さく肩をすくめた。


「好きにしろ」

「うーん⋯⋯」


 三人とも、じっと私を見ている。そんなに期待されると困る。


「じゃあ⋯⋯よろしく」


 こんな小さな子供たちだ。ちゃんと敬語をやめてみよう。


「やったー!」

「言った!」

「新しいお友達だね」


 三人が大喜びする。


「とも、だち?」

「うん!」


 リリィちゃんが当然のように頷いた。


「村へ来た人はみんな友達!」

「そうだよ!」

「うん」


 ルーク君とノア君まで頷く。


「⋯⋯⋯⋯」


 その言葉が胸へすっと入ってきた。

 王宮では、友達なんて呼べる人は居なかった。友達の木なら居たけど。


 結界樹管理人。それが私だったから。


「⋯⋯ありがとう」


 自然と笑顔になる。

 すると三人は顔を見合わせた。


「笑った!」

「やっと笑った!」

「やっぱ笑った方が可愛い!」

「えっ!?」


 思わず顔が熱くなる。


「か、からかわないで!」

「あははは!」


 三人が笑う。

 その笑い声につられて、私も笑ってしまう。こんなふうに笑ったのは、いつぶりだろう。


 ロイドさんは少し離れた場所から、その様子を静かに見ていた。

 そして誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。


「⋯⋯良かったな、アルフレッド」

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