表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/77

67話 アーヴィンの視察

 アーヴィン様がリーヴェ村へ来られて最初に向かったのは、村の畑だった。


 青々とした野菜が一面に広がり、朝露を受けて瑞々しく輝いている。


「こちらが村の共同農地です」


 ロイドさんが説明する。


「野菜は村のみんなで育てています。収穫したものも、それぞれの家だけでなく、必要に応じて分け合うようにしています」


 アーヴィン様は静かに頷き、畑へ足を踏み入れた。


 しゃがみ込むと土を手に取り、指先で軽くほぐしていく。

 続いて葉の色や茎の太さ、実の付き具合まで、一つひとつ丁寧に確認していた。


「収穫量は以前と比べてどうですか」

「二年ほど前と比べると、かなり増えました」


 ロイドさんが答える。


「結界樹が覚醒してからは、土の状態も良くなりましてな。病気になる野菜も随分減りました」

「記録は残していますか」

「はい」


 今度はセシリアさんが前へ出た。


「今年から収穫量や病害の発生状況を記録しております」


 帳面を受け取ったアーヴィン様は、その場で数ページだけ目を通す。


 しばらく黙って読み進めると、静かに帳面を閉じた。


「⋯⋯よく整理されている」


 短い一言だった。

 でも、セシリアさんはどこか嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます」


 アーヴィン様は帳面を返すと、もう一度畑全体を見渡した。


「土壌管理も悪くない。結界樹の恩恵だけに頼らず、人の手も入っているな」


 ロイドさんは少し照れたように笑う。


「フィルのおかげで良い影響があるのは間違いありませんが、やはり毎日世話をしなければ応えてはくれませんので」

「そうですか」


 アーヴィン様は短く頷いた。

 それだけなのに、ロイドさんは少し嬉しそうだった。


 私もなんだか胸が温かくなる。

 ちゃんと見てくれている。良いところは、良いと認めてくれる人なんだ。


 畑を見終えると、私たちは広場へ向かった。

 そこではルークくん、リリィちゃん、ノアくんが机を囲み、セシリアさんから勉強を教わっていた。


「あ、フローラお姉ちゃん!」


 リリィちゃんが元気よく手を振る。


 でも、その後ろにアーヴィン様がいることへ気付くと、少し姿勢を正した。


「こ、こんにちは⋯⋯」


 アーヴィン様は子どもたちの前で足を止める。


「勉強中だったか」

「はい!」


 リリィちゃんが元気よく返事をした。


「何を勉強している」

「今日は計算です」


 セシリアさんが答える。


「それと地図の読み方も少しずつ教えています」


 アーヴィン様は机へ並んだ紙を見る。


 まだ文字はぎこちない。計算も間違いが多い。

 それでも、一文字一文字を丁寧に書こうとしていることは伝わってきた。


「少年」

「は、はい!」


 突然呼ばれ、ルークくんが慌てて立ち上がる。


「勉強は好きか」


 少しだけ考えてから、ルークくんは照れくさそうに頭を掻いた。


「まだあんまり得意じゃない、です!でも、騎士になるなら必要だから頑張ってる、ます!」


 その答えを聞いたアーヴィン様は、小さく頷く。


「良い心掛けだ。剣だけでは、人は守れん」


 ルークくんは真剣な表情で何度も頷いていた。

 その隣で、ノアくんも小さく手を挙げる。


「⋯⋯ぼくも、頑張る」

「私も!」


 リリィちゃんも負けじと声を上げる。


 その様子を見て、アーヴィン様の表情がほんの僅かだけ和らいだような気がした。


「次を見せてくれ」


 そう言って歩き出したアーヴィン様の後ろ姿を見ながら、私は少しだけほっと胸を撫で下ろした。


 少なくとも今のところ、村のみんなを否定するようなことは一つも言っていない。

 それどころか、一つひとつをきちんと見て、評価してくれている。


 だからこそ、アーヴィン様が最後にどんな結論を出すのか。

 私は少しだけ、不安になっていた。


 次に案内したのは、村の診療所だった。

 建物へ入ると、エリーゼさんとマーサさんが薬草の整理をしていた。


「あら、来たのね」


 エリーゼさんがいつもの柔らかな笑顔で迎えてくれる。


「視察ですか?」

「ああ」


 アーヴィン様は室内をゆっくり見回した。


 診察用の机、薬草棚、包帯や治療器具。

 決して広い建物ではない。


 それでも必要な物はきちんと整理され、どこに何があるのか一目で分かるようになっていた。


「案内を頼む」

「もちろん」


 エリーゼさんは穏やかに頷く。


「ここは普段の診察や応急処置を行う場所です。大きな怪我や感染症の疑いがある患者さんは、奥の部屋で休んでもらうようにしているんです」


 アーヴィン様は棚へ歩み寄る。


 薬草が種類ごとに分けられ、小瓶には薬の名前や調合日まで丁寧に記されていた。


「管理は誰が担当している」

「薬草はマーサさんが中心ですね。私は衛生管理と回復魔術、それから診療記録を担当していますわ」


 マーサさんも頷く。


「私一人じゃ回復魔術は使えんからの。お互い出来ることを持ち寄っとる」

「なるほど」


 アーヴィン様は診療記録へ目を通す。


 数ページ読んだ後、静かに帳面を閉じた。


「⋯⋯不足はない」


 その一言だけだった。

 でも、エリーゼさんは少しだけ嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます」


 診療所を後にすると、今度は村の外れへ向かう。


 そこではレオンさんが待っていた。


「ここからは防衛体制をご説明します」


 レオンさんは新しく設置した見張り台を指差す。


「見張りは昼夜を問わず交代制です。異常を発見した場合は鐘で村へ知らせます」


 アーヴィン様は見張り台へ上り、周囲を見渡した。


「初動は?」

「15分以内です」

「避難経路は」

「子どもと高齢者を優先し、二方向へ分散して避難します」

「迎撃は」

「俺と近衛騎士、それにディーンという弓使いがメインで行います。フィルの結界と連携しながら戦います」


 アーヴィン様は黙って話を聞いていた。


 質問は簡潔、返答も簡潔。

 二人とも余計な言葉は交わさない。


 だからこそ、お互いの考えを確認し合っていることが伝わってきた。


 一通り説明を聞き終えると、アーヴィン様は見張り台からゆっくりと村全体を見渡した。


 畑、学校、診療所。

 そして村の中央で、大きく枝葉を広げるフィル。


 しばらく静かな時間が流れる。


 やがて、アーヴィン様は私たちへ向き直った。


「一通り見せてもらった」


 その言葉に、自然とみんなの視線が集まる。


 ロイドさんが代表して口を開いた。


「宰相閣下。リーヴェ村は、いかがでしたかな」


 アーヴィン様は村をゆっくり見渡し、静かに答えた。


「率直に言おう」


 一瞬、空気が張り詰める。


「素晴らしい村だ」


 その言葉に、みんなの表情が明るくなる。


 私も思わずほっと息をついた。

 だけど——。


「しかし」


 アーヴィン様の一言で、その空気は再び引き締まる。


「私の結論は変わらん」


 真っ直ぐフィルを見つめながら、静かに告げる。


「結界樹は、王都で管理すべきだ」


 村を否定しているわけじゃない。

 それは、この一日でよく分かった。それでもなお、その結論だけは揺るがない。


 私は、思わずフィルを見上げた。

 フィルもまた、静かに枝葉を揺らしていた。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ