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【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

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60話 準備:防衛体制

 ミリアちゃんとの調査を終えた私は、管理記録を抱えて家の庭へ戻ってきた。


「ただいま、フィル」


 そう声を掛けると、フィルは嬉しそうに枝葉を揺らす。

 フィルはお返しとばかりに枝を伸ばし、頭を撫でてくる。優しくフィルに撫でられ、自然と笑みがこぼれた。


「もう少しだけ頑張ろうね」


 調査団が来るのは明日。

 私たちにできる準備も、残りわずかだ。


 その時だった。


 広場の方から、たくさんの人の話し声が聞こえてくる。


「⋯⋯?」


 何だろう。

 私は管理記録を抱えたまま、声のする方へ向かった。







 広場には、レオンさんを中心に大勢の人が集まっていた。


 ディーンさん、ガストンさん、ボルドさん、近衛騎士のみなさん。

 そして何人もの村人が、真剣な表情で地図を囲んでいる。


「フローラ様」


 私に気付いたレオンさんが軽く会釈した。


「お疲れ様です」

「お疲れ様です。何をしているんですか?」

「村の防衛体制を見直しています」


 そう言って、机の上へ広げられた地図を見せてくれた。

 そこには村全体が細かく描かれている。


「調査団へ説明するため⋯⋯ですか?」


 私が尋ねると、レオンさんは首を横に振る。


「それもあります。ですがこれは、どちらかと言えば、今後この村を守るためのものです」


 私は思わず息を呑む。


「前回の襲撃では、全員が最善を尽くしてくださいました。ですが、急な襲撃だったため、その場その場で判断する場面も多かった⋯⋯」


 レオンさんは地図の上を指でなぞる。


「次があるなら、もっと被害を減られます。そのための準備です」


 ディーンさんが頷いた。


「森に入った魔物を見つけるのが少し遅れた。次はもっと早く知らせられる」


 そう言って、森の一角を指差す。


「この丘なら、南側も西側も見渡せる。朝はここから見回る」


 レオンさんはその場所へ印を付けた。


「索敵は引き続きディーンさんへお願いします」

「ああ」


 短い返事だったが、とても頼もしい。


 今度はガストンさんが腕を組む。


「村の西側は柵が低い。今日中に少し補強しよう。俺たちなら半日もありゃ終わる」

「お願いします」


 レオンさんは頭を下げた。


 するとボルドさんも地図へ身を乗り出す。


「避難場所は今まで通りフィルの近く——要は村長の家でいいか?」

「はい」


 レオンさんは頷く。


「結界の恩恵を最も受けられる場所です。子どもや高齢者は、戦闘開始前に必ずこちらへ誘導してください」

「分かった」


 話し合いは次々と進んでいく。


 近衛騎士の皆さんは交代で見張る時間を書き込み、村人たちは誰が警鐘を鳴らすかを決めていた。


 私はその様子を見つめながら、小さく呟く。


「すごい⋯⋯」


 前回は、みんな必死で、目の前の魔物を倒すことだけで精一杯だった。


 でも今は違う。

 もしまた同じことが起きても、誰が何をするのかが決まっている。


 それだけで、安心感が全然違った。







 話し合いが終わると、それぞれが持ち場へ向かっていく。


 ガストンさんたちは西側の柵を補強し始め、近衛騎士のみなさんは見張り場所を確認していた。


 レオンさんも村の中を歩きながら、一つ一つ確認していく。


 私はその後ろを歩いた。


「レオンさん」

「はい」

「こんな短い時間で、よくここまで考えられますね」


 レオンさんは少しだけ笑う。


「騎士団でも同じです。戦うことだけが騎士の仕事ではありません。

 守るための仕組みを作ることも、大切な役目です」


 その言葉が、とてもレオンさんらしいと思った。


 強いだけじゃない。

 剣が上手なだけでもない。

 村のみんなが安心して暮らせるように、その先のことまで考えている。


 だから、この人は団長なんだ。


 そんなことを考えていると、不意にレオンさんが立ち止まった。


「フローラ様」

「はい?」

「フィル様の結界があるからこそ、この防衛体制は成り立ちます」


 レオンさんはフィルを見つめる。


「そして、そのフィルを支えているのはフローラ様です」

「わ、私は⋯⋯」


 急にそんなことを言われてしまい、言葉に詰まる。


「俺たちは、それぞれ役割が違います。だからこそ、一人では守れないものも、皆でなら守れます」


 私は胸の前で管理記録を抱き締めた。


 今日だけで、何度そう思っただろう。


 セシリアさんが記録を整えてくれた。

 ミリアちゃんが理論を教えてくれた。

 レオンさんは村を守る仕組みを作っている。


 私は、一人じゃない。


「はい!」


 自然と笑顔で返事ができた。


 夕日が少しずつ村を赤く染め始めている。

 調査団が来るまで、あと一日。


 私たちは、明日を迎える準備を一つずつ整えていた。

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