↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/77

59話 準備:結界樹

 管理記録をまとめ終えた私は、そのまま庭へ出た。

 フィルはいつものように、さわさわと枝葉を揺らして私たちを迎えてくれる。


「お待たせ、フィル」


 幹にそっと触れると、枝が優しく私の頭を撫でた。


「今日は、フィルのことをもっと詳しく調べるからね」


 すると、フィルは返事をするように葉っぱを揺らす。

 その様子を見ていたミリアちゃんが、思わず笑った。


「本当に返事してるみたい」

「してるよ?」


 私が首を傾げると、ミリアちゃんも苦笑する。


「うん、今ならそう思える」


 聞くところによるとミリアちゃんは、初めはフィルを一植物として見ていた。でも今は違う。フィルを、一つの心ある生き物として接してくれている。


「それじゃあ始めようか!研究所では論文発表なんかも沢山あって、調査官の人がどういう所を突いてくるか、なんとなく分かるから安心して!」

「うん!」


 ミリアちゃんは鞄から何枚もの羊皮紙を取り出した。

 そこには、先ほどセシリアさんとまとめた管理記録も挟まれている。


「今から、この記録の裏付けを取っていくよ」

「裏付け?」

「そう」


 ミリアちゃんは頷く。


「調査官の人たちは、きっと『なぜそう判断したのか』まで聞いてくると思う。だから、理論として説明できるようにしておきたいの」


 なるほど。

 私が『元気そう』と思っていても、それだけじゃ伝わらない。

 きちんと理由まで説明できるようにしないといけないんだ。


「まずは葉っぱから見てみよう」


 ミリアちゃんは一枚の葉を優しく持ち上げる。葉脈を確認し、色艶を見て、光へ透かした。


「色は良好、葉脈も綺麗。魔力の流れも安定してる」


 そう呟きながら記録を書き込んでいく。

 私はその横でフィルへ触れた。


「うん。今日はとても機嫌が良いね」


 さわさわ。

 枝葉が嬉しそうに揺れる。


 ミリアちゃんはその様子を見ながら、不思議そうに笑った。


「フローラちゃん」

「なあに?」

「どうして機嫌が良いって分かるの?」

「え?」


 私はきょとんとしてしまう。


「えっと⋯⋯何となく?」

「何となく?」

「うん」


 私はフィルの幹を優しく撫でる。


「枝の揺れ方とか、葉っぱの音とか⋯⋯あと、魔力の流れとか、かな。今日はすごく落ち着いてる感じがするの」


 説明している私自身も、不思議だった。

 ずっと一緒に居たから分かる。それ以上の理由は、うまく言葉にできない。


 ミリアちゃんは真剣な表情で考え込む。


「それが経験なんだね⋯⋯」


 小さく呟くと、手帳へ何かを書き留めた。


「私には葉の状態や魔力は分かる。でも、『気分』までは分からない。最近は分かりやすいのは分かるようになってきたけど⋯⋯。逆にフローラちゃんは、そこが自然と分かる」


 私は少し照れながら笑う。


「お父さんにも、昔から『フィルの声をよく聞きなさい』って言われてたから」

「声⋯⋯か」


 ミリアちゃんはもう一度フィルを見上げた。


 植物ではなく、一人の人間として、フィルという存在を理解しようとするような、優しい眼差しだった。


 それから私たちは、結界の範囲や周囲の植物も一つずつ確認していった。


 以前、フィルが覚醒してから、村の周囲に生えている草花まで元気になった。

 最初は気のせいだと思っていたけれど、今では誰の目にも分かるほどだ。


 ミリアちゃんは庭の花壇へしゃがみ込む。


「やっぱり⋯⋯」


 一本の花を優しく撫でる。


「魔力濃度が普通の土地とは全然違う」


 私は隣へしゃがみ込んだ。


「フィルのおかげ?」

「うん」


 ミリアちゃんは頷く。


「結界樹が放出する魔力が、少しずつ土へ溶け込んでるんだと思う。だから植物の育ちも良いし、病気にも強くなってる」


 私は庭を見渡した。

 言われてみれば、野菜も花も、昔より元気な気がする。


「これも記録しておこう!」

「うん!」


 私は管理簿へ書き込んでいく。


 フィルの変化だけじゃない。

 フィルが周りへ与えている影響も、大切な管理記録なんだ。


「フローラお姉ちゃん!」


 聞き慣れた元気な声が聞こえてきた。

 振り向くと、ルークくんが庭へ駆け込んできていた。


「何してるの?」

「フィルの調査だよ」

「へぇー!」


 ルークくんは返事をしながらも、その視線はほとんどミリアちゃんへ向いていた。


「ミリアお姉ちゃん、何見てるの?」

「この花だよ」


 ミリアちゃんは笑顔で答える。


「ほら、この葉っぱ。前より色が濃いでしょ?」

「ほんとだ!」


 ルークくんは目を輝かせる。

 ⋯⋯ちゃんと話は聞いてるみたいだけど。

 なんだか、フィルよりミリアちゃんを見ている時間の方が長い気がする。


 私は少しだけ微笑ましくなった。

 ミリアちゃんはそんなことには全く気付かず、真剣な表情で記録を書き続けている。


「⋯⋯よし」


 一通り調査を終えると、ミリアちゃんは大きく息を吐いた。


「……これで理論的な説明もできそう!ありがとう、フローラちゃん」

「え?」


 突然お礼を言われて、私は首を傾げる。


 ミリアちゃんは記録簿を優しく閉じた。


「ガイアス殿下にお願いして、リーヴェ村へ行くメンバーに入れてもらって良かった。⋯⋯フローラちゃんに会えて良かった!」


 初めて聞く話だ。

 そうか、ミリアちゃんは自分からリーヴェ村に来てくれたんだ。そして、私に会えて良かった、と⋯⋯。私は思わず照れてしまう。


「私に?」

「うん」


 ミリアちゃんは笑顔で頷いた。


「研究所にいた頃から思ってたの。フローラちゃんに弟子入りして、結界樹の管理体制をより強固なものにしたい。フローラちゃんとお仕事してみたいって」

「そうだったんだ」

「それでフローラちゃんを主軸にした管理体制をガイアス殿下に打診したら、快諾してくれたんだ。だけど、結果的には他の貴族の方々に勢いで押されて、今やこうなってしまった、というわけ」

「なんてこった」


 そう言うと、お互いクスクスと笑ってしまう。


「でもね」


 ミリアちゃんは、フィルを見上げた。


「実際に一緒に管理してみて、想像以上だった⋯⋯。

 本や論文には載っていないことを、フローラちゃんは当たり前のように知ってる。フィルさんの小さな変化も、機嫌も、その日の様子も分かるんだもん。すごいよ!」


 そんな風に言われると、なんだか照れてしまう。


「でも、それはミリアちゃんが来てくれたから気付けたことも沢山あるよ」

「え?」

「葉っぱのことも、魔力の流れも、周りの植物への影響も⋯⋯前の私は、『元気そう』って思うだけだった。

 でも今は、『どうして元気なのか』まで考えられるようになったの」


 ミリアちゃんは少し驚いたあと、ふっと笑った。


「そっか!じゃあ、お互い様だね」

「うん!」


 私も笑顔で頷く。


 私がフィルを感じ取る。

 ミリアちゃんが、その理由を言葉にする。


 どちらか一人では足りない。

 二人だからこそ、フィルのことをもっと深く理解できる。

 そう思うと、とても心強かった。


 さわさわ。


 フィルも嬉しそうに枝葉を揺らす。

 まるで、私たちの話に頷いてくれているみたいだった。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。