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【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

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57話 緊張の報せ

 朝の稽古を終えたレオンの頭の中に、ピリッと音が鳴る。


「通信魔術⋯⋯?」


 通信魔術——離れた相手に情報の伝達を行うことができる魔術だ。 超高等魔術であり、王国の中で使える人物は片手で数えられるほどだ。


 その中で自分に通信魔術を飛ばす相手など、恐らく一人しかいない。

 レオンは姿勢を正した。


「レオンです」


 次の瞬間、聞こえてきたのは聞き覚えのある落ち着いた声だった。


『私だ』


 王太子、ガイアスである。


『今、少し時間はあるか』

「はい」


 レオンは真剣な表情で返事をする。少し嫌な予感を覚え、レオンは顔を歪める。


『アーヴィンが動いた』


 その一言だけで、レオンの表情が引き締まる。


「⋯⋯そうですか」

『結界樹フィルとリーヴェ村の管理体制を確認するため、調査団を派遣しに来る』


 レオンは思わず息を呑んだ。

 知略の高い人物が多い王宮の中でも、飛び抜けてキレる人間。それがアーヴィン宰相だ。

 そのアーヴィンが派遣しに来る調査団⋯⋯それがどれ程の脅威になるか想像もできなかった。


『念の為に伝えておくが、正式な帰還命令ではない。あくまで調査だ』


 その言葉が慰めにしかならないと、アーヴィンもレオンも、お互いに理解していた。


『アーヴィンのことだ。おそらく既に調査団は編成済みだろう。明日にはリーヴェ村へ到着すると考えてくれ』


 明日————。レオンは思わず空を仰ぐ。

 準備する時間なんて、ほとんど無い。

 しかし、主人の前でそのような態度を取ることはできない。レオンは感情を表に出さず、淡々と答える。


「承知いたしました」

『レオン』

「はい」

『フローラへ伝えてくれ』


 少しだけ間が空く。


『心配はいらない、と。君たちは大丈夫だ、と』


 その言葉は、王太子としてではなく、一人の人間として伝えてくれているように聞こえた。


「必ず」

『頼んだ』


 通信魔術が静かに消え、庭へ静寂が戻った。







 フィルにお水をあげるため、家を出たところ、庭からレオンさんが向かってきた。

 朝稽古の後かな。⋯⋯かっこいいな。

 って、何を考えているんだ私は!朝から!もう!


 そんな考えを振り払い、レオンさんに挨拶をする。


「おはようございます!レオンさん!」

「⋯⋯はい。おはようございます、フローラ様」


 なんだかレオンさんに元気が無い。

 不思議に思った私はレオンさんに問う。


「どうかされたのですか?」

「⋯⋯実は————」


 そこから聞かされたのは、ガイアス殿下からレオンさんへの通信魔術の内容であった。

 アーヴィン宰相。私に解任理由を淡々と伝えてきた怖い人だ。あの人が、私たちを見定めるための調査団を派遣する——それが、酷く恐ろしく聞こえた。


 私は恐る恐るレオンさんへ尋ねる。


「レオンさん⋯⋯」


 レオンさんは、私が何を聞きたいのか分かっていたのだろう。

 ゆっくりと頷く。


「書簡はまだ届いておりませんが、ガイアス殿下のお話では、今回の目的はあくまで調査です。帰還命令ではありません」


 その言葉を聞いても、不安が完全に消えることはなかった。


「でも⋯⋯」


 私は俯く。


「調査の結果、『村では管理できない』って判断されたら⋯⋯」


 その先は、口にできなかった。


 フィルとまた離れ離れになる。そんな未来だけは、考えたくもない。

 レオンさんは少しだけ困ったように笑う。


「フローラ様。ガイアス殿下は『心配はいらない』と仰っていました。そして、『君たちは大丈夫だ』とも」


 ガイアス殿下が、そんな言葉を。

 あの頃の殿下からは想像もできない言葉だった。けれど、不安は簡単には消えてくれない。


「みんなにも話しましょう」

「はい⋯⋯」


 私たちは家へ戻り、居間へ集まってもらうことにした。


 事情を説明すると、ミリアちゃんが静かに目を伏せる。


「⋯⋯やっぱり」

「やっぱり?」

「うん」


 ミリアちゃんは小さく頷いた。


「アーヴィン宰相は王立植物研究所に居た頃、何度かお会いしたことがあるの。すごく優秀な人だよ⋯⋯でも、それ以上に合理性を重視する人」


 少しだけ苦笑する。


「今回みたいな前例のないことが起きたら、絶対に動くと思ってた」


 私は膝の上で両手を握る。


 やっぱり、あの人が。


「でもね」


 ミリアちゃんは続けた。


「フローラちゃんやフィルさんを嫌ってる訳じゃないと思う。ただ、宰相として動いてるだけだと思うよ」


 それは少しだけ意外だった。

 私はずっと、アーヴィン宰相は私のことを良く思っていない人なんだと思っていたから。


 すると、今度はセシリアさんが口を開く。


「でしたら、なおさら落ち込んでいる場合ではありませんね」


 私は顔を上げる。


「調査団は、私たちを困らせるために来るのではありません。管理状況を確認するために来るのです」


 セシリアさんは穏やかな微笑みを浮かべる。


「でしたら、不安になるより、私たちが正しく管理していることを証明しましょう」

「証明⋯⋯」

「はい」


 セシリアさんは力強く頷いた。


「これまで私たちが積み重ねてきたことを、そのまま見てもらえば良いんです」


 ミリアちゃんも笑顔になる。


「植物のことなら任せて!研究所で学んだことも全部使うよ!」


 エリーゼさんも頼りがいある笑顔を向けてくれる。


「衛生管理はかなり改善した自負があるわ。心配しないで!」


 レオンさんも静かに頷いた。


「警備体制については俺が説明いたします。調査団が納得できるよう、準備を進めましょう」


 四人の言葉を聞いているうちに、胸の中の霧が少しずつ晴れていくのを感じた。


 私は一人じゃない。今は、みんながいる。

 私は小さく息を吸って、みんなの顔を見渡した。


「⋯⋯はい!私も頑張ります」


 まずは、調査団を迎える準備だ。なんと明日には来てしまうらしい。急がないといけない。

 私たちは、慌ただしく動き始めた。

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