表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/77

52話 一夜明けて

 朝、小鳥のさえずりで目が覚めた。いつの間にか寝てしまったようだ。


「ん⋯⋯」


 ゆっくり目を開ける。

 昨夜と同じ景色。窓から差し込む柔らかな朝日。

 そして——。


(あっ)


 私は慌てて身体を起こした。


 隣を見る。

 レオンさんは、まだ背中を向けたまま静かに眠っていた。


 ⋯⋯いや。


「おはようございます、フローラ様」


 起きてたようだ。ニコリと笑う口元と、私を見る流し目が朝から刺激的だ。⋯⋯刺激的って、私は何を⋯⋯。おほん。


「お、おはようございます!」


 思わず背筋を伸ばしてしまう。


 レオンさんはゆっくり起き上がると、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。


「よく眠れましたか?」

「えっと⋯⋯」


 眠れたような、眠れていないような。⋯⋯結局、いつ眠ったのかも覚えていない。


「たぶん、少しは」

「そうですか」


 レオンさんは安心したように微笑んだ。


「それなら良かったです」


 その笑顔を見ていると、昨夜考えていたことを思い出してしまう。


(私⋯⋯エリーゼさんに、嫉妬してたんだ⋯⋯)


 思い出した途端顔が熱くなり、慌てて視線を逸らした。


「フローラ様?」

「な、何でもありません!」


 危ない。

 今、顔を見られたら全部気付かれてしまいそうだった。







 身支度を済ませ一階へ降りると、昨日の宿屋さんが、朝食の準備をしていた。


「あら、おはよう」

「おはようございます」


 私たちが並んで挨拶すると、宿屋さんは意味ありげな笑みを浮かべた。


「どうだった?」

「⋯⋯え?」

「よく眠れたかい?」

「は、はい」


 私が答えると、宿屋さんはくすくす笑う。


「仲良しさんだねぇ」

「ち、違います!」


 慌てて否定する。


「私たちは本当にそういう関係じゃなくて⋯⋯!」

「はい」


 レオンさんも真面目な顔で頷く。


「俺は護衛ですので」

「そうかいそうかい」


 女将さんは全く信じていない顔だった。


「若い子はみんなそう言うんだよ」

「違っ⋯⋯!」


 もう何を言っても駄目だった。


 私は真っ赤になったまま俯く。

 その隣では、レオンさんが不思議そうに首を傾げている。


 ⋯⋯この人、本当に分かってない。

 だから余計に恥ずかしかった。


 朝食をいただき、宿代を支払う。


 宿を出ると、爽やかな朝の風が頬を撫でた。

 厩舎ではノワールが私たちに気付くと、嬉しそうに鼻を鳴らしている。


「お待たせ、ノワール」


 私が首筋を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。

 その様子を見て、レオンさんも優しく笑う。


「それでは、帰りましょう」

「はい」


 私は小さく頷いた。

 リーヴェ村へ。私たちの帰る場所へ帰ろう。







 ノワールへ跨ったレオンさんが、私へ手を差し伸べる。


「どうぞ」

「はい」


 私はその手を取り、引き上げてもらう。


 昨日より少しだけ慣れたおかげか、馬へ乗るのも少しだけ上手くなった気がした。


「ありがとうございます」

「いえ」


 私はレオンさんの後ろへ腰を下ろす。


(⋯⋯)


 少しだけ迷う。

 昨日は落ちないよう必死で掴まった。

 でも今日は。


(昨日より⋯⋯)


 私はそっと両腕を伸ばし、レオンさんの腰へ回した。

 ぎゅっと。昨日より、ほんの少しだけ強く。


「フローラ様?」


 レオンさんが少しだけ振り返る。


「何かありましたか?」

「い、いえ!」


 私は慌てて首を振った。


「ちゃんと掴まろうと思って」

「それは良いことです」


 レオンさんは安心したように頷く。


「⋯⋯帰るまでがおつかいですからね」

「そうですね」


 ⋯⋯もちろん、それも理由の一つだった。

 でも。


(もう少しだけ、このままでいたい)


 そんな気持ちも、少しだけあった。


「では、参ります」


 ノワールがゆっくり歩き始める。

 王都の門を抜け、街道へ出ると、爽やかな風が吹き抜けた。


「今日は良い天気ですね」

「はい」


 青空を見上げながら返事をする。


「こうして見ると、街道も綺麗ですね」

「春は花が咲き、夏は緑が濃くなります。秋は紅葉、冬は雪景色。どの季節も、それぞれ美しいですよ」

「全部見てみたいです」


 私がそう言うと、レオンさんは小さく笑った。


「きっと見られますよ」


 その言葉が嬉しかった。

 私も自然と笑みがこぼれる。


「そうですね。フィルにも見せてあげたいです」

「フィル様でしたら、きっと喜ばれます」


 しばらく他愛もない話をしながら、街道を進んでいく。

 村で採れた野菜のことや、ミリアちゃんが喜びそうな花の種のこと。ノアくん達へのお土産話。

 そんな何気ない会話が、とても楽しかった。


 不思議だった。

 特別な話なんて一つもしていない。


 それなのに、こんなにも心が満たされていく。

 私はそっとレオンさんの背中へ額を預けた。

 レオンさんは何も言わない。


 ただ、ノワールの歩調に合わせて穏やかに手綱を握っている。


(好き⋯⋯なのかな)


 ぽつりと、心の中で呟く。

 胸が苦しい。でも嫌じゃない。

 昨日まで分からなかった気持ちが、少しずつ形になっていく。


(私⋯⋯)


 レオンさんのことが。




 ————好きなんだ。


 そう思った瞬間、胸の奥がふわりと温かくなった。


 私は少しだけ照れくさくなって、レオンさんへ回した腕に、もう一度だけ力を込めた。







「見えてきました」


 レオンさんの声で顔を上げる。


「あっ」


 遠くに見慣れた景色が見えた。リーヴェ村だ。


「ただいま、ですね」


 思わず呟く。


「はい」


 レオンさんも優しく頷いた。

 村へ入ると、ロイドさんが家の前で腕を組んで待っていた。


「おう、お帰り」

「ただいま戻りました!」

「買い物はどうだった?」

「全部頼まれた物を買ってきました!荷物は順次、王都から郵送されるそうです!」


 私が嬉しそうに答えると、ロイドさんは満足そうに笑った。


「ご苦労さん。これでしばらくは困らねぇな」

「お帰りなさい」


 エリーゼさん達も家から出てくる。


「王都はどうでした?」

「楽しかったです!」


 私が答える横で、エリーゼさんはレオンさんへちらりと視線を向けた。


 そして。

 口元だけで、にやりと笑う。


「⋯⋯?」


 レオンさんは首を傾げる。

 何のことか、まったく分かっていない様子だった。


 私はというと。

 そんな二人のやり取りに気付く余裕もなく、荷物を抱えて家へ入っていく。


 胸の奥に生まれた新しい気持ちを、大切に抱えながら。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ