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【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

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51話 眠れない夜

 目を閉じたのに、不思議なくらい眠気はやって来なかった。

 静かな部屋。

 聞こえるのは時計の針が時を刻む音だけ。


 ⋯⋯いや。もう一つ。

 すぐ後ろから、規則正しい呼吸が聞こえてくる。


(やっぱり近い⋯⋯)


 背中合わせになっているだけなのに、人の温もりを感じる。


 こんなに誰かと近い距離で眠るなんて、生まれて初めてだった。

 少し身体を動かすだけで背中が触れてしまいそうで、私は寝返りを打つことも出来ない。


(レオンさん、眠れたのかな⋯⋯)


 そう思った、その時だった。


「⋯⋯フローラ様」


 小さな声が聞こえた。


「ひゃっ!」


 思わず変な声が出てしまう。


「も、申し訳ありません」


 レオンさんも少し慌てたようだった。


「まだ起きていらっしゃるようでしたので」

「は、はい⋯⋯」


 恥ずかしい。

 私だけ眠れないのかと思っていたら、レオンさんも起きていたらしい。


「レオンさんも、眠れないんですか?」

「ええ」


 少しだけ間が空く。


「護衛中は、あまり眠らない癖がありまして」

「そうなんですね」


 さすが騎士さんだ。

 どんな時でも、誰かを守ることを考えている。少しだけ申し訳ない気持ちになってしまう。


「ごめんなさい」

「何故謝られるのですか?」

「私のせいで、ちゃんと休めなくて⋯⋯」


 すると、レオンさんは穏やかな声で答えた。


「違います。これは俺が選んだことです。ですから、フローラ様が気になさる必要はありません」


 その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった。


「ありがとうございます」


 少しだけ沈黙が流れる。


 背中越しだから、お互いの表情は分からない。

 でも、不思議と話しやすかった。


「あの⋯⋯」


 ずっと気になっていたことがある。


 聞いてもいいのかな⋯⋯。でも、今なら聞ける気がした。


「一つ、お聞きしてもいいですか?」

「はい」

「エリーゼさんとは、昔から仲が良かったんですか?」


 一瞬だけ、空気が止まった気がした。


「はい」


 レオンさんは素直に頷く。


「騎士学校の同期でした」

「同期⋯⋯」

「同じ隊で訓練を受け、卒業後も何度か任務を共にしました。私は戦う騎士として、エリーゼは衛生兵として」


 私は静かに聞いていた。

 幼馴染なことは聞いていたけど、改めてどんな仲か聞いたのは初めてだった。


「エリーゼは、とても努力家なんです」


 レオンさんの声は、どこか懐かしそうだった。


「医術の勉強も、誰より熱心でした。訓練が終わった後も、一人で遅くまで本を読んでいて⋯⋯。俺は何度も、早く休めと言っていたくらいです」


 思わず小さく笑う。


「エリーゼさんらしいですね」

「ええ。昔から、あの調子でした」


 その声は、とても優しかった。

 静かな声だった。

 昔を懐かしむような、優しい声。


 私はその声を聞きながら、何故だか胸の奥が少しだけ苦しくなった。


「昔から、仲が良かったんですね」

「はい」


 レオンさんは自然に答える。


「同期は皆、大切な仲間です。騎士団へ入ってからも、互いに助け合ってきました。命を預け合う仕事ですから」


 命を預け合う。


 その言葉は、とても重かった。

 私には想像も出来ない世界だ。


「だから、エリーゼさんのことを信頼してるんですね」

「もちろんです」


 迷いのない返事だった。


「彼女は優秀な衛生兵です。何度も命を救われました。俺も、彼女を信頼しています」


 その一言を聞いた瞬間。胸が、ちくりと痛んだ。


(⋯⋯あれ?)


 どうしてだろう。

 レオンさんが仲間を信頼している。それは当たり前のことなのに。エリーゼさんは素敵な方だ。私はエリーゼさんのことを友人とさえ思っている。友人とレオンさんが仲良いことは嬉しいはずなのに。


 何故か、少しだけ苦しかった。

 私はその理由が分からず、小さく息を吐いた。


「フローラ様?」

「えっ?」

「何かありましたか?」

「い、いえ!」


 慌てて笑顔を作る。


「何でもありません!」

「そうですか」


 レオンさんはそれ以上深く聞いてこなかった。


 少しだけ安心して、私は天井を見つめる。


(何だろう⋯⋯)


 この気持ち。

 嫌な気持ちじゃない。でも、胸が少しだけ苦しい。


 エリーゼさんは優しい人だ。私も大好きだ。

 だから嫌いなわけじゃない。


 なのに————。


(⋯⋯羨ましい)


 ぽつりと、その言葉が頭へ浮かんだ。


 私は目を丸くする。


(私⋯⋯)


 レオンさんと、昔から一緒だったエリーゼさんが⋯⋯少しだけ羨ましかったんだ。

 何でもない昔話で笑い合えることも、お互いをよく知っていることも、命を預けられるほど信頼し合っていることも、全部。


(私、嫉妬⋯⋯してるの?)


 その瞬間、自分でも信じられなくなった。


 エリーゼさんに?どうして?そんなこと、考えたこともなかったのに。


 胸の鼓動が少しだけ速くなる。


 隣では、レオンさんが静かに呼吸をしている。

 その音を聞いているだけで、また胸が温かくなった。


(私⋯⋯)


 まだ、この気持ちの名前は分からない。

 でも、今までとは、何かが少しだけ変わり始めている。そんな気がした。


 私は眠れないまま、小さく目を閉じた。

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