↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/77

49話 王都デート

 ドキドキの道程を経て。王都へ着いた頃には、お昼を少し過ぎていた。


「わぁ⋯⋯!」


 思わず声が漏れる。


 高い城壁に囲まれた王都は、相変わらずたくさんの人で賑わっていた。

 行き交う馬車。露店から漂う焼きたてのパンの香り。商人さん達の元気な呼び込み。村の静かな空気とはまるで違う。


「久しぶりですね」


 レオンさんが穏やかに笑う。


「はい」


 王都を離れて、もう数ヶ月になる。

 少し懐かしく感じる景色もあれば、もう戻りたいとは思わない景色もある。


 今の私には、帰る場所があるから。


「まずは買い物ですね」

「はい!」


 私はロイドさん達から預かった買い物リストを広げる。

 皿に椅子や棚。帳簿用の紙、救急箱、植物の種。などなど。


「結構ありますね」

「一日で回り切れると良いですが⋯⋯」

「頑張りましょう!」


 レオンさんは小さく笑って頷いた。







 最初に向かったのは家具屋さんだった。


「こんにちは」


 店内へ入ると、木の香りがふわりと漂う。


 棚や椅子、机が綺麗に並び、職人さんが木を削っていた。


「いらっしゃい」


 店主さんが笑顔で迎えてくれる。

 私はロイドさんから頼まれた大きさを伝えながら、棚を見比べていく。


「これくらいなら薬草もたくさん置けそうですね」

「丈夫そうです」


 レオンさんも軽く叩いて確認している。


「こちらにしましょうか」

「はい」


 棚と椅子を注文し、村まで運んでもらう手続きを済ませる。


 次は食器屋さん。


「このお皿、可愛いですね」


 思わず足を止める。

 白い陶器に、小さな青い花が描かれたお皿だった。


「お気に召しましたか?」

「はい。でも⋯⋯」


 値札を見ると、少しだけ予算より高い。やめておこう。


「今回は必要な物だけにします」


 そう言うと、レオンさんは少しだけ残念そうに笑った。


「フローラ様らしいですね」

「えへへ」


 照れ笑いしながら、必要な枚数のお皿だけを選ぶ。


 その後も紙屋さんや雑貨屋さんを回り、少しずつ荷物が増えていった。

 ほとんどのお店が村まで届けてくれるので、私たちが持つ荷物はそれほど多くはない。ありがたい話だ。


「これで、あと残っているのは⋯⋯」


 買い物リストを見直す。


「あっ」


 植物の種。


「ミリアちゃんに頼まれてたんだった」

「では、園芸店へ向かいましょう」

「はい」


 園芸店は王都の外れにあった。

 色とりどりの花や苗が並び、見ているだけで楽しい。


「わぁ⋯⋯!」


 私は思わず店内を見回した。


「これ全部、お花なんですね」

「はい」


 店主さんが笑顔で頷く。


「薬草もありますよ」


 ミリアちゃんが喜びそうな種を選びながら歩いていると、レオンさんが一つの商品を手に取った。


 透明な板で花を挟める、小さな木製のケースだった。


「レオンさん?」

「押し花を入れる物のようです」

「そんな物も売ってるんですね」

「ええ、そのようですね」


 レオンさんはケースを静かに見つめる。


「先日いただいた押し花を、このまま保管するのはもったいないと思いまして」

「⋯⋯!」


 思わず言葉を失う。


 あの青星花の押し花。そんなに大切に思ってくれていたなんて。


「買ってもよろしいでしょうか」

「もちろんです!」


 私は嬉しくなって笑った。


「その方が、お花もきっと喜びます」


 レオンさんも、少しだけ照れたように微笑んだ。







 園芸店を出た頃には、必要な買い物はほとんど終わっていた。


 私は買い物リストを見直し、小さく頷く。


「これで全部ですね」

「はい」


 レオンさんもリストを確認し、微笑んだ。


「予定より早く終わりました」


 王都へ着いてから慌ただしく歩き回っていたけれど、ようやく一息つけそうだ。


「少しだけ、寄りたい場所があるんです」


 私がそう言うと、レオンさんはすぐに頷いた。


「もちろんです」


 私が向かったのは、大通りから一本外れた小さな通りだった。

 懐かしい石畳に懐かしい景色。


「あっ⋯⋯」


 そこには、行きつけの小さな焼き菓子屋さんがあった。


「ここです」

「思い出のお店ですか?」

「はい」


 私は小さく頷いた。


「王宮に居た頃は、時々買いに来てたんです」


 扉を開けると、焼きたてのクッキーの甘い香りがふわりと広がった。


「いらっしゃいませ」


 奥から店主さんが出てくる。

 白い髭を蓄えた優しそうなおじいさんだった。


 私を見るなり、一瞬目を丸くする。


「おや⋯⋯」


 しばらく私の顔を見つめると、優しく笑った。


「久しぶりだね、お嬢ちゃん」

「覚えてくださってたんですね」

「もちろんだとも」


 店主さんは嬉しそうに笑う。


「この前、嬢ちゃんがいつも言っていたフィルちゃんが来てたよ」

「今日は、そのことで来ました」


 私は財布を取り出した。


「その節は大変申し訳ございませんでした⋯⋯。フィルが最後にいただいたクッキー代を、お支払いしたくて」

「あぁ、ちゃんと嬢ちゃんにつけとくよ、ってフィルちゃんには言っといたからね。あんまり気にしないで」

「すみません⋯⋯」


 当時の光景が目に浮かぶ。突然、フィル歩行フォームが現れたのだろう。驚かせたし、ほぼ食い逃げだし⋯⋯。あぁ、申し訳ない⋯⋯。


「本当に、ありがとうございます」


 店主さんは少し驚いたあと、穏やかに笑った。


「あっはっはっは!本当に気にしないでよ!ちゃんと払ってくれりゃ良いんだから!ありがとう」


 そう言って店主さんは受け取ったお金を数えると、小さく首を振った。


「多いよ」

「迷惑料です」

「そりゃあ受け取れないよ。迷惑なんか無いんだから」


 そう言うと、店主さんはクッキー代以外のお金を無理やり私に返してきた。やはり気前の良い店主さんだ。


 謝罪と挨拶を済ませたところで、私はガラスケースを覗き込む。

 丸いクッキーや木の実のクッキー、蜂蜜のクッキーなど。どれも美味しそうだった。


 横でレオンさんがひょっこり顔を出す。


「どれも美味しそうですね」

「はい。フィルは、この木の実のクッキーが好きなんです」

「⋯⋯フィル様は、クッキーを食べられるのですか?」

「あれは⋯⋯食べてるのか食べてないのか⋯⋯。私もよく分からないんですけど、ススッと受け取るとクッキーが姿を消してるんですよね」

「な、なるほど⋯⋯」


 私たちの会話を聞いた店主さんが笑った。


「結界樹様に食べられるクッキーを作れるなんて、とても名誉なことだね!じゃあ、少しだけおまけしておこう」

「えっ、そんな!」

「久しぶりの再会だからね」


 紙袋を受け取り、私は深く頭を下げた。


「ありがとうございます」

「またおいで」

「はい!」


 お店を出ると、紙袋から甘い香りが漂ってくる。

 思わず笑みが零れた。


「フィル、喜ぶだろうなぁ」


 その呟きを聞いたレオンさんも、穏やかに微笑む。


「きっと喜ばれます」


 私は紙袋を大切に抱え直した。

 王都には辛い思い出もある。でも、こうして帰って来てみると、優しい思い出もたくさん残っていた。そのことが、少しだけ嬉しかった。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。