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【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

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47話 森からの贈り物

 とある日の朝食を食べ終えた頃、ミリアちゃんが地図を広げながら嬉しそうに声を上げた。


「フローラちゃん!今日は森の奥まで行こう!」

「森の奥?」

「うん!」


 ミリアちゃんは目を輝かせる。


「この季節しか咲かない花があるって前言ったでしょ?あれを見に行こうよ!」


 ミリアちゃんは植物の話になると、本当に楽しそうだ。私は思わず笑みを浮かべる。


「見てみたい!」

「でしょ!」


 そこへ、食器を片付けていたエリーゼさんが振り返った。


「森へ行くなら、私も一緒に行くわ。薬草も補充したかったし」

「私も同行します」


 今度はセシリアさんが静かに手を挙げる。


「植物の生育場所を記録しておけば、来年以降も役立ちますから」

「やったぁ!」


 ミリアちゃんは飛び跳ねるように喜んだ。その時、レオンさんが庭から戻ってきた。


「何のお話でしょうか」

「森探検です!」


 ミリアちゃんが元気よく答える。


「珍しい植物を探しに行こうと思って!」


 レオンさんは少しだけ考え、静かに頷いた。


「でしたら、俺も護衛として同行します」

「ありがとうございます」


 私はほっと胸を撫で下ろした。


 森は慣れた場所だけれど、魔物が現れる可能性はゼロではない。

 レオンさんが居てくれるだけで安心できる。


 準備を済ませた私たちは、五人で森へ向かった。







 夏の森は、木漏れ日がとても綺麗だった。

 鳥のさえずりが聞こえ、風が木々を優しく揺らしている。


「わぁ!」


 森へ入った途端、ミリアちゃんの目が輝いた。


「あっ、フローラちゃん見て!」


 指差した先には、小さな青い花が群生している。


「これ、この辺りにも咲くんだ!」


 ミリアちゃんはしゃがみ込み、夢中になって花を眺め始めた。


「葉っぱの形が少し違う⋯⋯面白いなぁ」


 私は隣へしゃがみ込む。


「こっちは土が少し湿ってるから、そのせいかもね」

「あっ!」


 ミリアちゃんは嬉しそうに私を見る。


「ほんとだ!やっぱりフローラちゃんは凄い!特に目が!」

「えへへ。そ、そうかな?」


 そのまま二人で花を見比べ始める。


「やっぱりフローラちゃんと話すと勉強になるなぁ」

「そんなことないよ。私もミリアちゃんから教えてもらってばかりだもん」


 二人で笑い合っていると、少し離れた場所からエリーゼさんの声が聞こえた。


「フローラちゃん、この薬草って合ってる?」


 振り返ると、エリーゼさんが数本の薬草を持っている。


「はい、それです!」

「よかった」


 エリーゼさんはほっとしたように笑った。


「これだけあれば、しばらく包帯薬も作れそうね」


 一方、セシリアさんは手帳へ何かを書き込んでいる。


「南西の泉付近。薬草、群生地を確認⋯⋯」


 さらさらとペンを走らせる姿は、いつ見ても綺麗だった。


「セシリアさん、全部記録してるんですか?」

「はい」


 顔を上げ、優しく微笑む。


「来年も、その次の年も役立ちますから」

「すごい⋯⋯」


 私は思わず感心してしまう。

 同じ景色を見ていても、みんな見ているものが違う。


 ミリアちゃんは植物そのものを。エリーゼさんは薬として。セシリアさんは未来へ残す記録として。


 だから一緒に歩いているだけで、世界が少し広くなった気がした。


 その少し後ろを歩くレオンさんは、時折周囲を見回しながら私たちを見守ってくれている。

 その姿を見ていると、不思議と安心できた。


「フローラちゃん!」


 少し先を歩いていたミリアちゃんが、大きく手を振る。


「こっち来て!」


 私は小走りで駆け寄る。


「どうしたの?」


 ミリアちゃんは目の前を指差した。


「見て!」


 木々が途切れた先には、小さな花畑が広がっていた。


 木漏れ日が差し込む小さな花畑だった。

 色とりどりの花が風に揺れ、森の中とは思えないほど穏やかな景色が広がっている。


「わぁ⋯⋯!」


 思わず声が漏れた。


「綺麗⋯⋯」


 ミリアちゃんは満足そうに頷く。


「ここ、お気に入りの場所なんだ!」

「こんな場所があったんだね」

「うん!前に一人で見つけたの!」


 ミリアちゃんは花畑の中へ駆け出す。いつの間に森を探索したんだろう⋯⋯凄い行動力だ。


「あっ!これも咲いてる!こっちも!」


 本当に植物が好きなんだなぁ。

 その姿を見ているだけで、自然と笑顔になってしまう。


 私もゆっくり花畑へ足を踏み入れる。

 一輪一輪眺めながら歩いていると、不意に足が止まった。


「⋯⋯あっ」


 少し離れた場所。

 木漏れ日の中で、小さな青い花が一輪だけ咲いていた。


 花びらは透き通るような青色で、朝露を受けてきらきらと輝いている。


「可愛い⋯⋯」


 そっとしゃがみ込み、その花を見つめる。すると、後ろからレオンさんが歩いてきた。


「どうかされましたか?」

「このお花、とても綺麗だなって」


 私が指差すと、レオンさんも静かに花を見つめた。


「確かに綺麗ですね」


 その一言だけだった。

 けれど、何故だろう。一緒に同じ花を見ているだけで、少し嬉しくなる。


「あっ!」


 そこへミリアちゃんが駆け寄ってきた。


「その花!」

「知ってるの?」

「うん!」


 ミリアちゃんは嬉しそうに頷く。


青星花(せいせいか)っていうお花だよ!」

「青星花?」

「押し花にするとね、何年経っても色がほとんど変わらないんだよ!」

「そうなんだ⋯⋯!」


 思わずもう一度花を見つめる。

 綺麗なまま残せる花。そんな花があるなんて知らなかった。


「もちろん採りすぎは駄目だけど、一輪くらいなら大丈夫!」


 私は少しだけ迷ってから、そっと花を摘んだ。


「押し花、作ってみようかな」

「いいね!」


 ミリアちゃんは嬉しそうに笑う。


「フローラちゃん、絶対上手だと思う!」


 花を傷付けないよう、大切に手のひらへ包む。その様子を見ていたレオンさんが優しく微笑んだ。


「きっと綺麗な押し花になりますね」

「はい」


 私も自然と笑顔になった。







 夕方。帰ってきた私は、ミリアちゃんに教えてもらいながら押し花を作っていた。


 本へ挟み、重しを乗せる。

 少し時間は掛かるけれど、それもまた楽しい。


「完成が楽しみだね」

「うん!」


 数日後。


 出来上がった押し花は、花の色をほとんど残したまま綺麗に仕上がっていた。


「できた⋯⋯!」


 私は嬉しくなって、小さく笑う。

 その時、庭でレオンさんが木剣の手入れをしている姿が目に入った。


(そうだ)


 私は押し花を大事に持って庭へ向かう。


「レオンさん」

「はい」

「これ⋯⋯」


 差し出した押し花を見て、レオンさんは少し驚いたように目を瞬かせた。


「森で見つけた花——青星花です。押し花にしてみたので⋯⋯よかったら、受け取ってください」


 一瞬だけ沈黙が流れる。

 やがてレオンさんは、本当に嬉しそうに微笑んだ。


「あの時の青い花⋯⋯。俺に、ですか」

「はい。森で護衛してくださったお礼です」


 レオンさんは両手で大切そうに受け取る。


「ありがとうございます」


 その笑顔は、私が思っていた以上に嬉しそうだった。


「大切にします」

「そんな、大げさですよ」


 思わず笑ってしまう。


「花一輪ですから」

「いいえ」


 レオンさんは静かに首を振った。


「フローラ様からいただいた、初めての贈り物です」

「⋯⋯!」


 その言葉に、胸がどきりと鳴る。

 顔が熱くなるのが分かった。


「そ、それじゃあ私はこれで!」


 照れ隠しのようにその場を離れようとした、その時だった。フィルが枝を一本伸ばす。


 そして、自分の幹をぽんぽんと叩いた。


「あっ」


 思わず笑ってしまう。


「フィルも欲しかったの?」


 枝がぴんっと空へ伸びる。

 私はくすりと笑い、フィルの幹へそっと寄り添った。


「ごめんね」


 そう言って枝へ手を添えると、フィルは嬉しそうに葉っぱを揺らした。

 その様子を見ていたレオンさんも、小さく笑う。


 穏やかな風が吹き抜け、庭の木々が優しく揺れていた。

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