表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/77

43話 四人の管理人

「それじゃあ、今日もよろしくお願いします!」


 ロイドさんのお家の食卓を囲みながら、私は三人へ頭を下げた。


「よろしく、フローラちゃん!」


 ミリアちゃんが元気よく笑う。


「よろしくお願いします」


 セシリアさんはいつものように丁寧に一礼した。


「じゃあ、今日から本格的に役割分担してみましょうか」


 エリーゼさんが腕を組みながら言う。


「役割分担⋯⋯ですか?」

「ええ」


 エリーゼさんは机へ簡単な地図を広げた。


「フローラちゃんは今まで通り、現場全体の管理。フィルのお世話や村のみなさんとの相談は、フローラちゃんじゃないと出来ないもの」

「はい」

「ミリアはフィルのお世話を補佐。フローラちゃんと相談しながら肥料の配合や、フィルの魔力回路の調整を手伝ってあげて」

「任せてください!」


 ミリアちゃんは嬉しそうに胸を張る。


「私は村人の診療と衛生管理」


 エリーゼさんはそう言って笑う。


「昨日見付けた改善点も進めたいしね」


 最後にセシリアさんが帳面を閉じる。


「では私は管理記録の整理と、依頼書類をまとめておきます。村長様とも少し打ち合わせをしたいですね」


 私は三人の顔を見回した。

 昨日まで一人でやっていた仕事+他の仕事も多々。それを四人で役割分担して、しっかりと仕事をこなす。⋯⋯少しだけ不思議な気持ちだった。


「それじゃあ、始めましょう!」


 みんなが一斉に動き始める。

 私はまずフィルの様子を確認する。


「フィル、おはよう」


 枝が嬉しそうに私の頭を撫でる。


「今日も元気だね」


 幹の状態や葉の色に、根元の土、魔力の流れ。異常無し。


「フローラちゃん、フィルさんの魔力回路、ここが少し歪んでるみたい」

「え?そうなの、フィル?」

「⋯⋯⋯⋯」


 フィルは良く分かってないみたいだ。私はフィルの言うことは大体分かるが、魔力回路の歪みは分からなかった。


「フィルさん。ちょっと失礼しますね⋯⋯」


 ミリアちゃんがフィルの幹に手を当てると、ミリアちゃんから魔力が流れる。しかし——。


「や、やっぱり私の魔力は⋯⋯」

「フィル。怖くないから、ミリアちゃんの魔力を受け入れてあげて」

「⋯⋯⋯⋯」


 フィルの枝が揺れる。これは肯定の意だ。

 フィルが受け入れる意思を持つと、ミリアちゃんの魔力がフィルの中に流れ込んでいく。


「はい。魔力回路の修復、完了しましたよフィルさん」

「⋯⋯⋯⋯」


 自分でも気付かなかった不調が治ったからか、フィルは嬉しそうだ。⋯⋯凄い。


「やっぱりミリアちゃんは凄いね⋯⋯!」

「う、ううん!フローラちゃんが居ない時は何も出来なかったから⋯⋯!フィルさんが懐いてるのはフローラちゃんだけだから⋯⋯」

「⋯⋯えへへ。フィル、そうなの?」

「⋯⋯⋯⋯」


 多分あんまり良くないんだろうけど、照れ臭そうに肯定するフィルが愛おしい。

 私には私の役割がある。ミリアちゃんにはミリアちゃんの優れたところがある。お互い力を合わせて、フィルのお世話をもっと頑張ろう。


 フィルのお世話を終えると、今度は村のみなさんから相談を受ける。


「フローラさん、この花壇なんだけどね」

「もちろんです」


 咲き終わった花を植え替え、新しい苗を植える場所を決める。

 その間にも、ミリアちゃんは薬草畑を歩き回っていた。畑で育つ薬草は育て、森に採りに行かないといけない薬草は取りに行く。それが村のルールだ。


「フローラちゃん!」


 遠くから大きく手を振る。


「こっちの薬草、少しだけ植え替えた方が育ちそう!」

「本当?」

「日当たりが少し悪いの!」

「なるほど!」


 私はすぐに村人へ伝える。


「それじゃあ、この列を移動しましょう」

「分かった!」


 村のみなさんも笑顔で動き始めた。


 さらに少し離れた場所では、エリーゼさんが子どもたちを集めていた。


「遊ぶ前に、ちゃんと手を洗いましょうね」

「はーい!」

「怪我をしたらすぐ教えること」

「うん!」


 ルークくんは元気よく返事をしながら、井戸で手を洗っている。


 昨日まで誰も気にしていなかったことが、少しずつ当たり前になっていく。

 

 家に戻ると、セシリアさんが帳面を広げてロイドさんと話し合っていた。


「村長様、この依頼はこちらへまとめておきます」

「おぉ、助かる」

「来週は畑仕事が増えますので、フィル様の管理日程も少し調整いたしましょう」

「なるほどなぁ」


 ロイドさんは感心したように何度も頷いている。私はその光景を見ながら頷く。


 みんな、本当にすごい⋯⋯。誰も私の仕事を奪うことなく、私にしか出来ないことを残したまま、それぞれが自分に出来ることを自然と引き受けてくれている。


 だから私は、安心して自分の仕事へ集中できる。——こんなの初めてだった。


 気が付けば、太陽はまだ高い位置にあった。


「⋯⋯あれ?」


 私は思わず空を見上げる。

 いつもなら、お昼を過ぎても終わらない仕事がまだ残っている時間だ。


 慌てて管理記録へ目を向ける。


「終わってる⋯⋯」


 本当に全部終わっていた。

 フィルの管理、村のみなさんからの相談に、管理記録の記入⋯⋯全部終わっていた。凄い⋯⋯!


「もう終わったの?」


 自分でも信じられない。

 その声を聞いたロイドさんが笑った。


「四人もいれば、あっという間だなフローラ」

「ロイドさんの言う通りですね」


 凛とした声に振り向くと、朝の仕事を終えたレオンさんが立っていた。


「レ、レオンさん!おかえりなさい!」

「おかえりレオン。今日は昼飯が皆でゆっくり食えそうだ」

「ただいま戻りました。フローラ様も少しはご自分の時間を持てそうですね」

「え、えへへ⋯⋯」


 少し照れくさくなって笑う。

 本当に、こんなに早く仕事が終わるなんて思ってもみなかった。


「じゃあ!」


 ミリアちゃんが勢いよく手を挙げる。


「せっかくだし、ご飯の後はお茶しようよ!」

「お、良いね〜」


 エリーゼさんもすぐに頷く。


「今日は四人とも初日みたいなものだしね」

「でしたら、お茶の準備をいたします」


 セシリアさんが立ち上がる。


「私も手伝います!」


 私も慌てて立ち上がった。


 六人でご飯を食べたあと、ロイドさんのお家の庭に小さな丸テーブルを並べた。

 エマさんが淹れてくれた温かいハーブティー。ベイクで買ってきた焼き立てのクッキー。


 心地良い風が吹き抜ける。


「こうして座るの、初めてかも」


 私が呟くと、ミリアちゃんが笑う。


「仕事中はずっと動き回ってるもんね」

「うん」

「じゃあ今日は、のんびりお話ししよう!」


 ミリアちゃんは目を輝かせる。


「フローラちゃんって、どんなお花が一番好き?」

「えーっと⋯⋯」


 少し考える。


「私は、スズランかなぁ」

「可愛い!」

「見た目も可愛いんだけど、香りも好きなんだ!」

「私はね!」


 ミリアちゃんは身を乗り出した。


「フィルさんのお花!」

「あ、ズルい!フィルのお花も入れて良いなら、私もフィルのお花が一番好き!」

「えへへ、一緒だね!」


 ミリアちゃんは花のような笑顔を向ける。私も釣られて笑ってしまった。


「セシリアさんは?」

「私は薔薇ですね」

「綺麗!」

「王宮の庭園でよく眺めておりました」

「エリーゼさんは?」

「私はラベンダーかな。落ち着く香りが好きなの」


 四人で花の話をしているだけなのに、とても楽しい。

 こんな時間は初めてだった。


「そういえば、ミリアちゃんもエリーゼさんもセシリアさんも、フィルが立って歩くのに驚きませんよね」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯え?」


 ふとそんな事を問いかけると、三人とも黙ってしまう。なぜだろう。

 疑問に思っていると、最年長のセシリアさんが口を開く。


「フィル様が王宮を出て行かれた日は、私たち全員それを目撃しているんですよ。ですから、既に驚いた後と言いますか。覚悟して来ましたから⋯⋯」

「あれは流石に驚いたわね⋯⋯それに、あの時はミリアの絶叫が凄くって、王宮どこに居ても聞こえるくらいの声で————」

「だ、だって仕方ないじゃないですか!結界樹とはいえ、木ですよ木!木が根っこを自分で引っこ抜いて歩いたら、誰だって驚いて叫びますよ!!」

「私も柄に無く事務室で悲鳴を上げてしまいました⋯⋯⋯」

「あの時の騎士たちの顔ったら無かったわね」

「⋯⋯うちのフィルが、なんだかすみません」


 なんだか三人が不憫に思えてきた。

 チラリとフィルを見ると、知らないよ〜という感じで葉を揺らしている。後で三人に⋯⋯特にミリアちゃんには謝らせなければ。


 そんな話をしていると——。


「そういえば」


 エリーゼさんが紅茶を口に運びながら笑う。


「王都じゃ、女の子同士で集まると恋愛話になるのがお決まりなのよね」

「恋愛?」


 ミリアちゃんが首を傾げる。


「そうそう」


 エリーゼさんは楽しそうに私を見る。


「フローラちゃんは、好きな人とかいるの?」

「えぇっ!?」


 思わず立ち上がりそうになる。


「い、いません!」

「即答ねぇ」

「本当にいません!」

「ふふっ」


 エリーゼさんは意地悪そうに笑った。


「ちなみにレオンって、昔から結構人気だったのよ」

「え?」


 その名前が出た瞬間。胸が、ぴくりと反応した。


「騎士学校にいた頃なんて、告白されてるところを何回見たか。でも全部断ってたわね」

「そうなんですか⋯⋯」


 自然とそんな言葉が漏れる。

 胸の奥が、少しだけ落ち着かない。どうしてだろう。別にレオンさんが誰に告白されようと、私には関係ないはずなのに。


「フローラちゃん?」

「えっ?」


 エリーゼさんがこちらを見る。


「な、なんですか?」

「⋯⋯ううん、何でもない」


 私は慌てて笑顔を作った。

 その様子を見ていたセシリアさんだけが、小さく微笑む。けれど何も言わない。


「レオンさんって人気だったんだねぇ」


 ミリアちゃんは、ただ感心したように頷いているだけだった。


「そ、それより!」


 私は少し大きな声を出した。


「今度、みんなで森へ行きませんか?この季節しか咲かないお花があるんです!」

「行く!」


 ミリアちゃんが真っ先に手を挙げる。


「楽しみ!」

「私も興味があります」

「私も」


 みんなが笑う。

 その笑顔を見ていると、さっき胸に引っ掛かった小さなもやもやも、いつの間にかどこかへ消えていた。


 庭の隅ではフィルが枝葉を揺らし、まるで私たちを見守るように優しく微笑んでいた。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ