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【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第二章:芽吹く仲間たち

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41話 エリーゼ・ハルト

 翌朝、私はフィルのお世話を終えると、ロイドさんのお家へ戻ってきた。

 居間では、エリーゼさんが荷物を整理しているところだった。ミリアちゃん、エリーゼさん、セシリアさん。全員ロイドさんのお家に住むことになった。ロイドさんは家が賑やかになって嬉しそうだ。


「おはようございます、エリーゼさん」

「おはよう、フローラちゃん」


 エリーゼさんは銀色の髪を耳へ掛けながら、にこりと笑う。


「もうフィルのお世話は終わったの?」

「はい。今日はとっても元気でした」

「ふふっ。毎朝そんなに細かく見てるんだ」

「気になっちゃうんです」


 そう答えると、エリーゼさんは優しく微笑んだ。


「その気持ち、少し分かるかも」


 その時だった。


「失礼します」


 玄関からレオンさんの声が聞こえてくる。

 白銀の鎧姿のまま居間へ入ってくると、エリーゼさんを見つけて穏やかに笑った。


「荷解きは終わりましたか」

「あと少しね」

「何か手伝うことはありますか」

「大丈夫。昔から変わらないわね、レオンは」


 そう言って笑うエリーゼさんに、レオンさんも少し照れたように苦笑した。


「困っている方を放っておけないだけです」

「昔からそうだったものね」

「⋯⋯否定はしません」


 二人は自然に笑い合う。


 何気ない会話。

 でも、長い付き合いなんだなっていうのが伝わってきた。


「お二人は、本当に仲が良いんですね」


 私がそう言うと、エリーゼさんは一瞬目を見開き——何かを理解したような顔で首を横へ振る。


「私たち、恋人とかじゃないわよ?」

「えっ!?」


 思わず大きな声が出てしまった。


「ち、違うんです!そういう意味じゃなくて!」

「あははっ」


 エリーゼさんは楽しそうに笑う。


「小さい頃から一緒に騎士を目指してきた仲間なの。剣の稽古も、勉強も、よく競い合ってたわ」

「エリーゼの方が成績は上でしたが」

「でも剣はレオンの方が強かったでしょ?」

「⋯⋯それは、お互い様です」


 息ぴったり。

 本当に仲の良い幼馴染なんだ。


 少しだけ⋯⋯本当に少しだけ。胸の奥が、もやっとした。


(⋯⋯あれ?)


 どうしてだろう。

 別に、おかしなことじゃないのに。


 レオンさんには昔からのお友達がいて当然だ。それなのに⋯⋯何だか胸が落ち着かない。


「フローラちゃん?」

「は、はい!」

「どうしたの?」

「い、いえ!何でもありません!」


 私は慌てて笑顔を作った。


「さて」


 エリーゼさんは立ち上がる。


「フローラちゃん。せっかくだから、今日は村を案内してもらえる?」

「もちろんです!」

「村のみんながどんな生活をしてるのか、自分の目で見ておきたいの。衛生兵は、怪我を治すだけじゃ務まらないからね」


 私とエリーゼさんは、村の中をゆっくり歩いていた。


「思っていたより、ずっと活気のある村ね」


 エリーゼさんは周囲を見回しながら微笑む。

 畑では村のみなさんが野菜の手入れをしていて、子どもたちは元気いっぱいに駆け回っている。

 魔物の襲撃があったなんて思えないくらい、穏やかな時間が流れていた。


「みなさん、本当に優しい方ばかりなんです」

「それは昨日だけでよく分かったわ」


 エリーゼさんは小さく笑った。


「王都では、初対面の人に夕食へ誘われるなんて滅多にないもの」

「えへへ」


 昨日の歓迎会を思い出して、私も笑ってしまう。


「でもね」


 エリーゼさんの表情が少し真剣になる。


「優しい村だからこそ、もっと守れる命があると思うの」

「守れる命⋯⋯ですか?」

「ええ」


 ちょうど井戸へ着く。


 エリーゼさんはしゃがみ込み、地面をじっと見つめた。


「雨が降ると、この辺りはぬかるむでしょう?」

「はい」

「だったら石を敷くだけでも転ぶ人は減るわ」


 私は思わず目を丸くする。


「そんなことで変わるんですか?」

「意外と変わるのよ」


 エリーゼさんは立ち上がる。


「転んで手をつけば小さな傷ができる。その傷口から菌が入って熱を出す。そして最悪の場合、命を落とす人もいる」


 私は息を呑んだ。


「だから衛生兵は、怪我を治すだけじゃないの。怪我をさせないことも、大事なお仕事よ」


 ⋯⋯なるほど。そんな考え方をしたことはなかった。

 さらに歩いていくと、今度は炊事場の前で立ち止まる。


「ここも少し改善できそうね」

「どこですか?」

「生肉を切ったまな板と、野菜を切るまな板が一緒になってるでしょう?」

「はい」

「洗えば大丈夫な時もあるけど、できれば分けた方が安心ね」


 そう言われて初めて気付く。

 私には当たり前だったことが、エリーゼさんには改善点として見えている。


「す、すごい⋯⋯」

「長年の職業病かな」


 エリーゼさんは照れくさそうに笑った。

 その時だった。


「あっ!」


 広場の方から小さな悲鳴が聞こえる。

 見ると、ルークくんが転んで膝を擦りむいていた。


「いてて⋯⋯」

「ルークくん!」


 私が駆け寄ろうとすると、その前にエリーゼさんがしゃがみ込む。


「見せて」

「へ、平気だって!」

「強がらないの」


 優しい声だった。

 ルークくんも素直に足を差し出す。


 エリーゼさんは傷口を手早く水で洗い流し、小さく魔力を込める。

 淡い青白い光が傷口を包み込む。

 すると、赤く滲んでいた傷がみるみる塞がっていった。


「⋯⋯え?」


 ルークくんが驚いて膝を見る。


「もう痛くない!」

「完全に治ったわけじゃないから、今日はあまり走り回っちゃ駄目よ」

「うん!」


 ルークくんは元気よく頷く。


「ありがとう!」


 その様子を見ていた村のみなさんからも、小さなどよめきが起こる。


「すげぇ⋯⋯」

「傷が一瞬で⋯⋯」

「さすが王都の衛生兵だな」


 エリーゼさんは照れくさそうに頬を掻いた。


「大したことじゃないわ。小さな怪我こそ、早く治すのが一番だから」


 私は思わず尊敬の眼差しでエリーゼさんを見る。

 フィルを守る人。村を守る人。その守り方は、一人ひとり違うんだ。


 私は植物を育てることしか知らなかった。

 でもエリーゼさんは、人の命を守る方法をたくさん知っている。


(本当に、すごい人だなぁ)


 そう思った、その時だった。


「フローラちゃーん!」


 遠くからエマさんが手を振っている。


「ちょうど良かった! あとで少し相談したいことがあるの!」

「はい!今行きます!」


 返事をすると、エリーゼさんが嬉しそうに笑った。


「適材適所。フローラちゃんにはフローラちゃんが輝く仕事があるわ」

「あ⋯⋯」

「ふふっ。フローラちゃんは分かりやすいわね」

「そ、そうでしょうか⋯⋯」

「ええ」

「⋯⋯ふふっ」


 思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまった。

 リーヴェ村での新しい毎日が、こうして少しずつ動き始めていた。

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