表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第一章:根を下ろす場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/77

29話 魔物の襲撃

 村全体が慌ただしく動き始めてから二日。

 リーヴェ村は、静かな緊張感に包まれていた。


 ガストンさんとボルドさんが村の入口へ倒木や柵を設置し、ベイク夫妻は炊き出しの準備を進める。マーサさんは薬や包帯を並べ、レオンさんは近衛騎士の皆さんと交代で村の外周を巡回していた。


 私もフィルの様子を見ながら、いつでも避難誘導ができるよう準備を整えている。


 何事も起こらなければ、それが一番良い。村のみんながそう願っていた。

 だけど、その願いは長くは続かなかった。







 昼を少し過ぎた頃だった。

 森の方角から、一人の影が勢いよく駆けてくる。


「ディーンさん!」


 肩で息をしながら村へ飛び込んできたディーンさんは、そのまま大きく叫んだ。


「来るぞ!!」


 その一声で、村中の空気が一変した。

 レオンさんがすぐに剣を抜く。


「数は!」

「50⋯⋯いや、それ以上だ!」


 ディーンさんは息を整えながら続けた。


「ゴブリンが30!ウルフに乗ったゴブリンが20!空にはジャイアントクロウが10!」


 その場にいた村人たちの表情が強張る。


「さらに後方にオーク2体!オーガが1体いる!」


 レオンさんは即座に振り返った。


「ロイド村長!」

「ああ!」

「予定通り避難を!」

「全員、持ち場へ!」


 ロイドさんの号令が村へ響く。

 ガストンさん達は急いで防壁へ向かい、ベイク夫妻は子ども達を集め始める。


 マーサさんは診療道具を抱えてロイドさんの家へ。私はフィルのもとへ駆け寄った。


「フィル!」


 フィルは既に森を見つめ、大きく枝葉を揺らしている。

 その姿は、まるで戦う覚悟を決めているようだった。


「お願い⋯⋯みんなを守って!」


 私は幹へ両手を添える。

 その瞬間。フィルの全身が淡い緑色の光に包まれた。

 枝葉が大きく広がり、村全体を覆うように半透明の結界が張られていく。場違いだが、とても幻想的な景色だった。


 やがて森の奥から無数の足音が聞こえてくる。


 最初に飛び出してきたのは、灰色の毛並みを持つウルフ——狼の魔物——達だった。

 その背中には粗末な鎧を身に着けたゴブリン——小人のような魔物——が跨り、手には槍や剣を握っている。


「ギャアアアア!!」


 その後ろから、徒歩のゴブリン達が雪崩のように押し寄せた。

 さらに上空では、ジャイアントクロウ——とても大きなカラスの魔物——が大きく羽ばたきながら旋回している。


「全員、結界の中へ!」


 レオンさんの声が響く。

 村人達は慌てることなく避難を始めた。この数日で何度も確認した避難経路のおかげだ。

 子ども達も泣かずに走っている。その様子を確認すると、レオンさんは剣を構えた。


「ディーン殿!」

「ああ!」


 二人が同時に前へ飛び出す。

 最初に飛び込んできたゴブリンライダー——ウルフと、それに跨ったゴブリンをセットで称する名前——へ、レオンさんの剣が閃く。


 一閃——ウルフごとゴブリンが吹き飛び、地面へ転がった。

 続けざまに二体、三体。まるで舞うような剣筋で次々と斬り伏せていく。


 一方、ディーンさんは少し後方から弓を構えていた。放たれた矢は、正確にジャイアントクロウの翼を射抜く。


「ギャアアッ!」


 一羽が地面へ落下した。すぐさま二本目、三本目。空を飛ぶ魔物達が次々と撃ち落とされていく。


「すごい⋯⋯!」


 思わず声が漏れる。

 二人とも強い。⋯⋯だけど、魔物は止まらない。倒しても倒しても、次々と森から姿を現す。


 その時だった。


 ズシン、と地面が揺れる。

 森の奥から、巨大な影がゆっくり姿を現した。身長は三メートルを優に超え、灰色の筋肉に覆われた巨体。手には大木ほどもある斧————オーガだった。

 その後ろには、棍棒を担いだ二体のオークも歩いてくる。


 王宮に居た時はどの魔物も見たことが無かった。ただ、オークとオーガの恐ろしさは有名であり、私でもその恐ろしさが想像できるほどだ。


 レオンさんの表情が初めて険しくなった。


「来たか⋯⋯」


 オーク二体が低い唸り声を上げる。


「グルルル⋯⋯!」


 その巨体に見合わぬ速さで、防壁へ突進した。


「来るぞ!」


 ガストンさんが叫ぶ。次の瞬間、丸太を何本も組み合わせて作った防壁へ、オークが巨大な棍棒を振り下ろした。


 激しい衝撃音と共に、防壁が大きく軋む。


「なんて馬鹿力だ⋯⋯!」


 ガストンさんが歯を食いしばる。

 だが、すぐ横からディーンさんの矢が飛ぶ。ディーンさんの矢は、正確に肩や足を射抜く。オークの動きが僅かに止まった。


「今だ!」


 レオンさんが一気に間合いを詰める。鋭い剣閃がオークの胴を切り裂いた。


「グオオオオォッ!」


 一体目が大きく倒れる。だが、もう一体は止まらない。

 防壁へ体当たりを繰り返し、少しずつ丸太を押し崩していく。


「ガストンさん!」

「任せろ!」


 ガストンさんは大木ほどもある丸太を担ぎ上げ、そのままオークへ叩き付けた。

 鈍い音と共にオークの体勢が崩れる。そこへボルドさんが駆け込んできた。


「どけぇぇぇ!」


 鍛冶屋らしい力任せの一撃がオークの膝へ炸裂する。


 巨体がぐらりと傾いた。


「レオン殿!」

「ありがとうございます!」


 レオンさんが跳び上がる。剣が一直線に振り抜かれた。

 首筋へ深々と刃が食い込み、二体目のオークも地面へ倒れ伏す。


「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」


 誰も喜ばない。

 まだ終わっていない。


 オーガがいる。


 巨大な足音だけで地面が揺れる。

 オーガは倒れたオークへ目もくれず、真っ直ぐ村へ歩いてきた。


「ゴォォォォォッ!!」


 咆哮だけで空気が震える。

 ジャイアントクロウ達が一斉に空へ舞い上がった。まるで王を迎えるように。


 レオンさんが剣を構える。


「ディーン殿」

「ああ」

「援護をお願いします」

「任せろ」


 二人が同時に飛び出した。

 ディーンさんの矢がオーガの肩へ突き刺さる。


 しかし、矢は途中で斧により弾かれた。


「こいつ⋯⋯!」


 ディーンさんが初めて苦い表情を見せる。

 その隙にレオンさんが懐へ潜り込む。鋭い剣閃が何度も走る。

 だが——浅い。


 皮膚が切れるだけで致命傷にならない。


「くっ⋯⋯!」


 オーガが巨大な斧を振るう。それをレオンさんは紙一重で回避した。

 斧は地面へ叩き付けられ、大地が大きく抉れる。


「こんなのが⋯⋯」


 私は思わず息を呑んだ。

 一撃でも直撃すれば、人間など跡形もなく潰されてしまう。

 レオンさんは冷静に距離を取る。だが、その額には汗が浮かんでいた。


 今までの魔物とは明らかに格が違う⋯⋯。


 その時、フィルが大きく枝葉を揺らした。一本の枝が結界の内側から地面へ伸びる。枝先が土を叩いた瞬間、小さな土煙が舞い上がった。


 オーガの視線が一瞬だけ逸れる。


「今です!」


 私も思わず叫んでいた。

 レオンさんはその一瞬を逃さない。


 一気に踏み込み、全身の力を剣へ込める。


「はぁぁぁぁっ!」


 渾身の一撃。

 剣がオーガの胸を深く切り裂いたが、それでも倒れない。オーガはなおも斧を振り上げる。だが——ディーンさんの矢が一直線に飛ぶ。


「レオン!やれぇ!!」


 狙いは右目。

 矢は寸分違わず突き刺さった。


「グオオオオオォォッ!!」


 絶叫。体勢が大きく崩れる。


「終わりです!」


 レオンさんの剣が再び閃いた。

 一閃。巨体がゆっくりと傾き、そのまま轟音を立てて地面へ倒れ伏した。


 森に静寂が戻る。

 残っていたゴブリン達は蜘蛛の子を散らすように森へ逃げていき、ジャイアントクロウも空高く飛び去っていった。


 誰も追わない。

 追える余裕など、残っていなかった。レオンさんはゆっくり剣を鞘へ納める。


 その呼吸は乱れ、肩も大きく上下していた。

 私は初めて見た。近衛騎士団長であるレオンさんが、ここまで疲弊した姿を。


 ——しかし、この戦いはまだ始まりに過ぎないことを、この時の私はまだ知らなかった。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ