2話 解任
こちら、短編版「王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした」の連載版になります。
短編版はこちらをどうぞ。
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⋯⋯え?
何を言われたのか、理解できなかった。
頭の中が真っ白になった。
今、ガイアス殿下は何と言ったのだろう。——解任、と、確かそう聞こえた。
——でも、どうして。
「⋯⋯申し訳ありません。もう一度、お聞きしてもよろしいでしょうか」
自分でも驚くくらい、震えた声だった。
ガイアス殿下は少しだけ目を閉じると、静かに頷く。
「本日をもって、お前を王宮結界樹管理人の任から解任する」
聞き間違いじゃなかった。——私は、王宮結界樹の管理人を解任される。それはつまり、フィルとの別れを意味していた。⋯⋯その事実だけが胸へ重くのしかかった。
「⋯⋯理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
勇気を振り絞って尋ねた。
何か失敗をしただろうか?結界樹に異変はなかった。管理を怠った覚えもない。誰かへ迷惑を掛けた記憶もない。
それでも、私が気付いていないだけで何かあったのかもしれない。
ガイアス殿下は私の問い掛けにすぐ答えず、一度アーヴィン様へ視線を向けた。
すると、アーヴィン様が一歩前へ出る。
「後任には、王立植物研究所首席卒業者であるミリア・ヴェルデを付ける。また、ミリア・ヴェルデをトップとした組織的な管理体制を築くことになった。フローラ嬢を残すことは協議されたが————会議の結果、新体制にとって不要と判断し、君を解任する運びとなった」
ミリア・ヴェルデ。その名前には聞き覚えがあった。王立植物研究所始まって以来の秀才。そんな噂を何度も耳にしている。
確かに、私よりずっと優秀な人なのだろう。だが、それだけで、私はここを去らなければならないのだろうか。なんだ会議って。私は知らないぞ。
少し睨みつけるように顔を上げると、ガイアス殿下は苦しそうな顔だったが、アーヴィン様は無表情、周りに居る貴族はどこか——下卑た笑顔を浮かべていた。
アーヴィン様は続けて、無表情のまま口を開く。
「既に結界樹の管理簿に書かれた情報から、ミリア嬢は完璧な管理手順を構築済みである。よって、フローラ嬢の王宮結界樹管理人としての業務は、本日をもって終了だ。王宮に居る理由が無くなった以上、速やかに荷物をまとめ、王宮を退去せよ」
淡々と告げられる言葉が胸へ突き刺さる。
私の十数年間は。毎日フィルと過ごした時間は。そんなに簡単に終わってしまうものなのだろうか。お父さんに託された想いや仕事は——どうなるんだ。
思わずフィルの姿が頭に浮かぶ。
帰ったら、いつものようにお世話をして。花が咲くのを楽しみにして。⋯⋯そう思っていたのに。もう、それもできない。胸が苦しくて、今にも泣きそうだった。
それでも、この場で泣くわけにはいかない。
私は王宮結界樹管理人なのだから。最後まで、その役目だけは果たさなければ。
ゆっくり息を吸う。震えそうになる声を押さえ込み、私は頭を下げた。
「⋯⋯承知いたしました」
それが精一杯だった。
「繰り返しになるが、速やかに私物をまとめ、王宮を退去してもらう」
「⋯⋯はい」
もう一度だけ返事をする。もう、顔を上げる勇気は出なかった。
「⋯⋯以上だ」
ガイアス殿下のその一言で謁見は終わる。
私は深く一礼すると、静かに踵を返した。
背中へ何人もの視線を感じる。
でも、振り返らなかった。振り返ってしまえばきっと泣いてしまう。
謁見の間を出ると、扉が静かに閉まった。そこでようやく、大きく息を吐く。
「⋯⋯⋯⋯」
駄目だ。頭の中が整理できない。
どうして⋯⋯どうして私は不要って思われたんだろう。
フィルは、どうなるの。
私がいなくなったら、ちゃんとご飯を食べてくれるかな。寂しがり屋のフィルだ。私がいなくなったら、絶対に悲しむだろう。今度のミリアって人は、ちゃんとフィルの話し相手になってくれるんだろうか。
考えれば考えるほど、不安ばかりが浮かんでくる。
気が付けば、一粒の涙が床へ落ちていた。
すると、ずっと付いてきてくれていた近衛騎士さんが、すっとハンカチを差し出してくれた。
「フローラ様。こちらを」
「あ、ありがとうございます⋯⋯大丈夫です」
私は騎士さんのハンカチを汚すわけにもいかず、慌てて袖で涙を拭った。
「⋯⋯⋯⋯」
「本当に、大丈夫ですから。ありがとう、ございました」
私はそれだけ言うと、私物をまとめに部屋へ歩き始めた。
振り返らなかった。振り返ったら、きっとフィルのところへ走ってしまうから。
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