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【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第一章:根を下ろす場所

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25話 異変

 とある日。薬草を乾燥棚へ並べていると、マーサさんが籠を持ってやって来た。


「フローラ、おはよう」

「おはようございます」


 マーサさんは薬草棚を見渡し、小さく頷く。


「傷薬がよく出てねぇ。少し補充したいんだよ」


 見ると、確かに数種類の薬草が少なくなっている。


「分かりました。採ってきますね」

「悪いねぇ」


 私は空になった籠を手に取る。

 家の前へ出ると、レオンさんがすぐに気付いて近付いてきた。


「本日は薬草採取ですか」

「はい」

「ご同行します」


 いつものやり取りだ。私は笑顔で頷いた。


「よろしくお願いします」


 そこへ、一人の男性が森の方から歩いてくる。

 肩には弓。腰には狩猟用の短剣。ディーンさんだった。


「薬草採りか」

「はい」

「俺も森へ入る。護衛は一人でも多い方が良いだろう」

「お願いします」


 森に一番詳しいディーンさんが居てくれるなら心強い。

 私達三人は村を出て、いつもの森へ向かった。



 森へ入ると、いつもと変わらない景色が広がっていた。

 柔らかな木漏れ日。風に揺れる枝葉。草花の香り。


「今日はこの辺りから探しましょう」


 私はしゃがみ込み、一株の薬草を指差す。


「これは傷薬になります」


 レオンさんも隣へしゃがんだ。


「葉の縁が少し赤くなっているものですね」

「正解です!覚えてくださったんですね」

「以前教えていただきましたので」


 レオンさんは慣れた手つきで薬草を採っていく。

 最初は見分けも付かなかったのに、今では間違えることもほとんど無い。凄い成長速度だ。


「もう私が居なくても採れそうですね」

「どうでしょうか⋯⋯まだハッキリと毒草か薬草か見分けられる自信は無いです」

「この薬草に似た毒草との見分け方はバッチリだと思いますけど⋯⋯」

「だとしても、俺はフローラ様と採りに行きたいです」


 何を言ってるんだ。どういう意味だ。なんて考え、少し照れくさくなりながら薬草を籠へ入れる。


 その横で、ディーンさんは何も話さず森を歩いていた。薬草ではなく、木々や地面を見ながら進んでいる。猟師だからだろう。私達とは見ているものが違う。

 しばらく歩いたところで、ディーンさんの足が止まった。


「⋯⋯」


 しゃがみ込み、地面へ手を触れる。


「ディーンさん?どうかしましたか?」


 返事は無い。

 私も近寄ると、そこには泥の上へ残った足跡があった。


「鹿⋯⋯ですか?」

「違う」


 ディーンさんは短く答える。


「狼だ」


 私は少し安心した。


「狼ですか?それなら————」


 森では珍しくない。

 群れで生活するため、時々足跡を見ることもある。


 だが、ディーンさんは首を横へ振った。


「数が多い」

「⋯⋯え?」

「十じゃ効かないぞ、これは」


 レオンさんも足跡を見つめる。


「新しいですね」

「ああ」

「昨日⋯⋯いや、今朝か」


 二人の表情が少しだけ険しくなった。

 私は辺りを見回す。いつもの森。何も変わらないように見える。それでも二人は警戒を解かない。


 再び歩き始めて間もなく、今度は一本の若木が途中から折れているのが目に入った。

 私は思わず立ち止まる。


「風でしょうか」

「⋯⋯いや、違う」


 ディーンさんは折れた幹へ触れた。


「これは⋯⋯力任せに折っているな」


 レオンさんも幹を調べる。


「何かが体当たりしたのでしょうか」

「⋯⋯恐らくな」


 ディーンさんは森の奥を見る。

 普段なら鳥の鳴き声が聞こえる時間だが⋯⋯今日は妙に静かだった。


「今日はここまでだ」

「えっ?」


 まだ籠は半分も埋まっていない。


「薬草は足りませんけど⋯⋯」

「明日でも採れる」


 ディーンさんは短く言った。


「今日は帰る」


 その声には迷いが無かった。レオンさんも静かに頷く。


「俺も賛成です。嫌な空気がします」


 そこまで言われると、私も反対は出来なかった。


「⋯⋯分かりました」


 三人で来た道を引き返す。

 森を抜け、村が見えてくる。

 いつもなら真っ先にこちらへ駆け寄ってくるフィルは、村の入口でじっと森を見つめていた。


「フィル?」


 声を掛けると、ゆっくりこちらを向く。

 それでも枝葉は落ち着かない様子で、小さく揺れ続けていた。


 私達を迎えているというより、森の奥を気にしているようだった。


 その日の夜。窓の外から、低い遠吠えが聞こえてきた。


 ウォオオオオォ——。


 私は思わず窓へ目を向ける。

 庭ではフィルが森の方角を見つめたまま、静かに枝葉を揺らしていた。

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