23話 ルークの夢
いつものようにフィルへ水をあげ終えた私は、庭から聞こえてくる風切り音の元へ向かう。そこでは、レオンさんが木剣を振っていた。
一切の無駄が無い。
振り下ろし、踏み込み、身体を返し、また振る。まるで舞を見ているような美しい剣筋だった。
「すごい⋯⋯」
私は思わず見入ってしまう。
王宮に居た頃も騎士さん達の訓練は見たことがある。でも、レオンさんの剣は少し違った。
力任せではなく、静かなのに速い。そんな不思議な剣だった。
「おはようございます、フローラ様」
「あ、おはようございます!すみません、見蕩れてしまいました」
「ははは。そんな大した物ではありませんよ」
そう言って照れ笑いするレオンさん。照れてはいるが、素振りは1つもブレない。凄まじい集中力だ。
ふと向こう側を見てみると、ルーク君がレオンさんをじっと見つめていた。目を輝かせ、一度も瞬きをしていなかった。
レオンさんは木剣を振り終えると、額の汗を拭いた。そして、ルーク君へ視線を向ける。
「興味あるのか?」
ルーク君は少し驚いたように肩を震わせた。
「⋯⋯うん」
「やってみるか」
「いいの!?」
「ああ」
レオンさんは庭に落ちていた少し太めの枝を拾う。
「今日はこれで十分だ」
枝を軽く振ると、ルーク君へ手渡した。
ルーク君は宝物を受け取るように両手で握る。
「まずは構えだ」
レオンさんはゆっくり木剣を構える。
「肩の力は抜いて⋯⋯足はこう」
ルーク君も真似をする。だが、上手く真似ができず————。
「わっ!」
そのまま尻もちをついた。
「あはは!」
ルーク君にくっついていたリリィちゃんが笑う。
「ルーク、弱ーい!」
「うるさい!」
顔を真っ赤にして立ち上がる。
レオンさんは笑うことなく、もう一度構えを見せた。
「焦らなくていいさ。最初はみんな転ぶものだ。もう一回やろう」
「⋯⋯うん!」
今度はさっきより少しだけ安定した。
「そうだ、いいぞ」
たった一言褒められただけなのに、ルーク君は嬉しそうだった。
私はその様子を見ながら、小さく笑う。
「教えるの、お上手なんですね」
「昔から教える機会が多かったので」
レオンさんはそれだけ答えた。
しばらくすると、森の方からディーンさんが戻ってきた。肩には大きな鹿を担いでいる。相変わらず凄いハント率だ。
「父ちゃん!」
ルーク君が嬉しそうに駆け寄る。
「見て!」
木の枝を構える。
「レオンお兄ちゃんに剣を教えてもらってるんだ!」
ディーンさんは一度レオンさんを見て、ルーク君を見る。
「そうか」
短い返事だった。どこか嬉しそうな、寂しそうな声だ。レオンさんも静かに頷く。
「筋が良いですよ。まだ始めたばかりですが、真っ直ぐ振れています」
「⋯⋯そうか」
ディーンさんはほんの少しだけ口元を緩めた。たぶん、父親として嬉しいんだろうな、と私には分かった。少し寂しそうなのは、自分と同じように弓を使う道を選んでいないこととかだろうか。難しい父親心である。
しばらく練習した後、休憩としてみんなで井戸の水を飲む。ルーク君は枝を抱えたまま、嬉しそうに笑っていた。
「俺さ」
照れくさそうに頭を掻く。
「大きくなったら騎士になりたい」
私は少し驚いた。
「騎士さんに?」
「うん!」
ルーク君は力強く頷く。
「父ちゃんみたいに村を守れる人にもなりたいし、レオンお兄ちゃんみたいな騎士にもなりたい!」
ディーンさんは黙ったまま聞いている。
「父ちゃんもリリィも、みーんな守りたい!だから強くなる!」
真っ直ぐな言葉だった。
リリィちゃんは良く分かっていないようで、キラキラした顔で応援している。ディーンさんは相変わらずポーカーフェイスだ。
レオンさんはしばらくルーク君を見つめると、小さく頷いた。
「いい夢だ。でも、一つだけ覚えておいてほしい」
「何?」
「強くなることが目的じゃない」
ルーク君は首を傾げる。
「守りたいものがあるから、人は強くなれる。剣は誰かを傷付けるために振るうんじゃない。守るために振るうものだ」
「うん!俺、絶対忘れない!」
その返事を聞いて、レオンさんは満足そうに笑った。
昼過ぎになると、ディーンさんはルーク君を連れて、鹿を解体場へ運ぶため帰っていった。
ルーク君も「また明日!」と元気よく手を振って走っていく。
私とレオンさんも家へ戻ることにした。
歩きながら、私はふと尋ねる。
「レオンさん」
「はい」
「子どもの扱いがお上手なんですね」
レオンさんは少しだけ考える。
「そうでしょうか」
「はい。ルーク君、とても嬉しそうでした」
少しだけ照れたように笑う。
「子どもは好きですよ。未来がありますから」
「未来⋯⋯」
「はい」
「大人が守るべき存在です」
その言葉は、とてもレオンさんらしかった。
誰かを守ることが、この人の生き方なんだ。
そう思いながら歩いていると、家の前で待っていたフィルが大きく枝葉を揺らした。
「ただいま、フィル」
さわさわ。
フィルの枝が私とレオンさんの頭を順番に優しく撫でる。
「今日も平和だったね」
フィルは嬉しそうに葉っぱを揺らした。
私も自然と笑みがこぼれる。
守りたい場所がある。それはきっと、人も結界樹も同じなのだろう。
次回は本日19時に投稿いたします。
1日に複数話投稿しますので、ご注意ください。
***
評価、ブックマーク、感想など励みになります。
モチベーションになりますので、よろしくお願いします。
また、作者Xにて更新通知を行っております。
新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。
@MokaSufure




