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【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第一章:根を下ろす場所

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21話 リリィのお願い

 畑仕事でレオンさんが泥だらけになった翌日。

 私は朝からフィルに水をあげていた。


「はい、今日のお水だよ」


 フィルの根元へ水を撒くと、フィルは気持ち良さそうに枝葉を揺らす。可愛い。


「今日も気持ち良さそうだね」


 幹をぽんぽんと叩く。

 すると、一本の枝が私の頭を優しく撫でた。


「もう。くすぐったいよ」


 思わず笑っていると、遠くから元気な声が聞こえてきた。


「フローラお姉ちゃーん!」


 リリィちゃんだ。

 後ろにはルーク君とノア君もいる。いつもの幼馴染ズだ。


 三人とも何やら大きな籠を抱えていた。


「どうしたの?」

「お願いがあるの!」

「お願い?」


 リリィちゃんは大きく頷く。


「花冠、一緒に作って!」

「花冠?」

「うん!」


 リリィちゃんは嬉しそうに説明してくれた。


「もうすぐ春のお祭りでしょ?みんなで花冠を作るの!」


 そういえば、ロイドさんがそんなことを話していた気がする。

 リーヴェ村では春になると、小さな収穫祭を開くらしい。

 大きなお祭りではないけれど、村のみんなが集まって美味しいものを食べたり、歌を歌ったりするそうだ。


「もちろん!」


 私は笑って頷く。


「じゃあ、お花を摘みに行こうか」

「やったー!」


 三人が飛び跳ねる。すると、ロイドさんの家の扉が開く音が聞こえた。


「俺も同行します」


 後ろからレオンさんが歩いてきた。現在レオンさんは、私の護衛を主に行っている。重要度はフィルの方が高いのだが、フィルは自分で動けるしめちゃくちゃ強いため、レオンさんが護衛をする意義が薄い。そのため、必然的に弱い私の方を護衛してくれている。

 ちなみに、村の外はレオンさんの部下の騎士さんが4人ほど交代交代で警戒しているらしい。そのため、村の中で常駐して警護しているのがレオンさん、外で警護している騎士さんが数人、という体制だ。これは村の人達に威圧感などを与えないための、ガイアス殿下の配慮である。


 さて、そんな関係ないことを考えるのもこの辺にして、レオンさんにもお花を摘んでもらうようお願いしなくては。


「それじゃあ、レオンさんも一緒にお花を摘みましょう」

「いえ、俺は護衛の仕事を————」

「えー!レオンお兄ちゃんは花冠作らないの!?」

「一緒に作ろうよー!」

「そうですよ。危ない時はお願いしますが、そうでない時は付き合ってください」


 私がニコリと笑顔を向けると、レオンさんは困ったような顔を浮かべたあと、静かに頷いた。


「承知しました⋯⋯」


 すみません。周囲が良く見えるところで臨戦態勢で居る方が護衛できるって分かってるんです。だけど、折角なので子供たちとも遊んでください。


 そんな事を考えていると、フィルも枝をぶんぶん振っていた。


「フィルも行くの?」


 元気いっぱいに葉っぱが揺れる。強く肯定してる時の証だ。

 フィルも居るならレオンさんもまとめて護衛できるし、一石二鳥ということで。


「じゃあ、みんなで行こう!」







 村の外れにある草原には、色とりどりの花が咲いていた。


「わぁー!」


 リリィちゃんは目を輝かせながら走り出す。


「リリィちゃん、転ばないようにね」

「はーい!」


 ルーク君は虫を見付けたらしく、夢中で追い掛け始めた。


「待てー!」

「ほどほどにねー!」


 私は苦笑する。

 一方、ノア君はフィル(お座りフォーム)の根元へちょこんと座り込み、落ちていた木の実を並べて遊び始めた。

 フィルはそんなノア君を見守るように枝をゆっくり揺らしている。


「みんな自由ですね」


 レオンさんが少し笑う。


「はい。でも、それがこの村らしいんです」


 私は花を摘みながら答えた。


「そういえばレオンさん、花冠って作ったことありますか?」

「ありません」

「ですよね」


 そこへリリィちゃんが勢いよく走ってきた。


「レオンお兄ちゃん!」

「ん?なんだい?」

「レオンお兄ちゃんも作ろう!」

「⋯⋯」

「はい!」


 小さな花束を渡したリリィちゃんは、足早に他の花を摘みに走っていった。

 レオンさんは少し困ったように私を見る。


「どうすれば良いのでしょう」

「大丈夫です」


 私は隣へしゃがみ込んだ。


「一本ずつ編み込むだけですから」

「こうですか?」

「そうです⋯⋯あっ」


 せっかく編み込んだ花が全部外れた。


「あ⋯⋯」


 レオンさんが固まる。


「あははは!」


 同時に、新しい花を摘んで帰ってきたリリィちゃんが笑い出した。


「レオンお兄ちゃん、不器用ー!」

「す、すみません⋯⋯」

「謝らなくていいですよ」


 私も笑いながら花を拾う。


「最初はみんなそんな感じです」

「フローラ様もですか?」

「もちろんです。私なんて、昔は花冠が作れないから、花束ばっかり作ってました」


 自虐的に笑っていると、フィルが嬉しそうに枝を伸ばしてきた。その枝には、色とりどりの花がたくさん集められていた。


「フィルも作ってくれたの?」


 私は受け取って見てみるが——。


「⋯⋯あれ?」


 花は全部まとめて束ねられている。

 どう見ても花冠ではない。


「フィル、それは花束だよ」


 フィルの枝が止まる。


 しゅん⋯⋯。

 葉っぱまで元気がなくなってしまった。


「大丈夫だよ!」


 リリィちゃんが駆け寄る。


「フィルのは花束!花冠じゃなくても、すっごく綺麗!」


 ぶわぁっ!

 

 リリィちゃんの言葉を聞き、フィルは一瞬で元気になった。


「もう、本当に分かりやすいね」


 私は思わず笑ってしまった。

 しばらくすると、遊び疲れたのかノア君が大きくあくびをした。


「ふぁぁ⋯⋯」


 目をこすりながら、ふらふらと歩き出す。

 ノア君が向かった先はフィルだった。フィルが花束を作るために動いたから追いかけてきたんだろう。

 ノア君は幹へ背中を預け、そのまま座り込む。


「ねむい⋯⋯」


 小さく呟くと、すぐにこくりこくりと舟を漕ぎ始めた。


「眠たくなっちゃったんだね」


 私は微笑みながら見守る。

 フィルもノア君を見下ろすように枝をゆっくり揺らした。


 一本の枝がノア君へ掛かりそうになり、慌てて止まる。


「ふふっ」


 どうやら起こさないように気を遣っているらしい。


 木漏れ日が少しずつ動き、日差しがノア君へ差し込もうとする。

 するとフィルは枝葉を大きく広げ、木陰がノア君から離れないように位置を変えた。


 風も優しくなった気がする。

 葉っぱがさらさらと揺れ、子守歌のような音を奏でていた。


「優しいね、フィル」

「⋯⋯⋯⋯」————さわさわ


 褒められたフィルは嬉しそうだった。

 レオンさんもその様子を静かに見つめている。


「結界樹にここまで感情があるとは思いませんでした」

「私も最初は驚きました」


 私はフィルの幹を優しく撫でる。


「でも、一緒に暮らしていると分かるんです。嬉しい時も、悲しい時も、ちゃんと伝わってきます」

「⋯⋯なるほど」


 レオンさんは納得したように頷いた。


「花冠、完成させよー!おー!」

「おー!」

「お、おー」


 リリィちゃんの一声で、みんな再び花を編み始める。

 私もリリィちゃんの隣へ座り、一つひとつ花を編み込んでいく。


「できた!」


 リリィちゃんは満足そうに頷くと、私の前まで歩いてきた。


「フローラお姉ちゃん、じっとして!」

「うん?」


 ぽん、と頭へ花冠が乗せられる。リリィちゃんの笑顔が大きく咲いた。


「わぁ⋯⋯!似合う!」

「かわいい!」


 ルーク君まで大きく頷いている。


「ありがとう」


 少し照れながら笑うと、リリィちゃんは満足そうだった。


「次はレオンお兄ちゃん!」

「俺かい?」

「もちろん!」


 レオンさんは少し戸惑いながら膝をつく。

 リリィちゃんは背伸びをして、花冠を頭へ乗せた。


「できた!」


 私はその姿を見た瞬間、思わず吹き出してしまった。


「ふふっ⋯⋯!」

「な、何か変でしょうか」

「いえ⋯⋯」


 笑いを堪えながら首を振る。


「すごく似合っています」

「本当ですか?」

「はい」


 真面目な表情のまま花冠を被っている姿が、何とも言えず可愛らしい。

 ルーク君も笑いながら言う。


「騎士様じゃなくて王子様みたい!」

「確かに!」


 リリィちゃんも大きく頷く。

 確かに、レオンさんの太陽のような金色の短髪に、色とりどりの花の花冠が映えている。花の王子様とか、そんな感じにも見えるかも。


 レオンさんも、少し困ったように笑った。


「そう言われたのは初めてです」

「じゃあ最後!」


 リリィちゃんが両手を叩く。


「二人とも並んで!」

「え?」

「え?」


 私とレオンさんの声が重なる。


「早く早く!」


 両手を引っ張られ、並んで立たされる。

 リリィちゃんは少し離れると、満足そうに二人を見比べた。


「うん!お似合い!」

「えぇっ!?」


 思わず声が裏返る。


「リ、リリィちゃん!」


 顔が熱くなるのが分かった。

 横を見ると、レオンさんも少しだけ視線の置き場に困っている。


 そんな二人を見て、ルーク君とリリィちゃんは大笑いしていた。

 フィルも負けじと枝葉を大きく揺らす。


「もう!フィルまで!」


 フィルは枝を二人の肩へそっと伸ばし、嬉しそうに葉っぱを揺らしている。


「もしかして、フィルも同じこと思ってるの?」


 ぶわっ!


 勢いよく肯定された。


「もう⋯⋯」


 私は恥ずかしさのあまり顔を覆う。

 その様子を見たレオンさんが、小さく笑った。


「今日は、とても楽しい一日でした」


 穏やかなその笑顔を見て、私も自然と笑みがこぼれる。


「はい。またみんなで遊びましょう」


 春の風が花の香りを運んでくる。

 子ども達の笑い声と、フィルの葉擦れの音が重なり、草原には今日も穏やかな時間が流れていた。

次回は本日21時に投稿いたします。

1日に複数話投稿しますので、ご注意ください。


***


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@MokaSufure

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