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【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第一章:根を下ろす場所

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20話 畑仕事

 森へ薬草採取に行った翌日。

 朝食を食べ終えた私は、籠を抱えて家の外へ出た。


「フローラ様、本日はどちらへ?」


 後ろからレオンさんが声を掛けてくる。


「今日は畑仕事です」


 ロイドさんの家の裏には、小さいながらも畑がある。

 季節の野菜を育てていて、普段はロイドさんやノア君のお父さん達が世話をしているが、私も時間がある日は手伝わせてもらっていた。


「畑仕事⋯⋯ですか」

「はい。野菜のお世話も植物のお世話ですから」


 私は笑いながら鍬を持つ。

 するとレオンさんは少し考え込み、真面目な顔で言った。


「俺にも何か手伝えることはありますか?」

「え?」

「護衛とはいえ、見ているだけというのも落ち着きません」


 レオンさんらしい。


「もちろんです」


 私は(くわ)を一本手渡した。


「じゃあ今日は、一緒に畑仕事をしましょう」

「よろしくお願いいたします」



「まずは、この雑草を抜いていきます」


 私は畑の端へしゃがみ込む。


「こうやって根元を持って、ゆっくり引っ張るんです」


 説明しながら力を加えると⋯⋯綺麗に抜けた。


「なるほど」


 レオンさんも同じようにしゃがみ込む。

 しかし。ぶちっと音が鳴り——。


「あっ」


 葉っぱだけ取れてしまった。


「根っこが残っちゃいましたね」

「も、申し訳ありません⋯⋯!」

「謝ることじゃないですよ」


 私は思わず笑う。


「もう一回やってみましょう」


 今度は慎重に——よし!


「出来ました」

「はい、上手です」


 褒めると、レオンさんは少しだけ嬉しそうだった。

 それから二人で雑草を抜き続ける。


「次は(うね)を整えます」


 鍬を使って土を寄せる。

 レオンさんは真剣な表情で見ていた。


「やってみます」

「はい」


 最初はぎこちなかった動きも、数分後には見違えるほど綺麗になっていた。


「凄い⋯⋯」


 私は思わず声を漏らす。


「覚えるの早いですね」

「剣と同じです。最適な動き方を考えながら素振りをする時のように、今も最適な動き方を考えています」


 そう言われると、確かに無駄な動きが全く無い。


「騎士さんって凄いんですね」

「いえ」


 レオンさんは首を横へ振る。


「先生が良いので」

「え?」

「教え方がお上手です」


 突然そんなことを言われ、私は少し照れてしまった。


「そ、そんなことありませんよ」

「あります」


 真顔で返される。

 この人、本当に思ったことをそのまま言うんだなぁ⋯⋯。そんな時、聞き覚えのある音が聞こえる。


 さわっ。


「フィル?」


 いつの間にか歩行フォームのフィルが畑の横まで来ていた。

 枝をゆらゆら揺らしながら、こちらを見ている。⋯⋯目は無いんだけど。


「おはよう」


 さわさわ。


「フィルも手伝いたいの?」


 ぶわっ!


 元気よく葉っぱが揺れる。


「じゃあ、お水お願いできる?」


 私はジョウロを指差す。

 フィルは枝で器用にジョウロを持ち上げると、井戸から水を汲み始めた。


「凄い⋯⋯」


 レオンさんが少し驚いたように呟く。


「もう何でも出来ますね」

「最近どんどん器用になってるんです」


 フィルは嬉しそうに畑へ水を撒いていく。


「うん、上手上手」


 さわさわ。


 褒められて嬉しかったのか、フィルの枝が大きく揺れた。

 そして————調子に乗った。


 ぶわっ!!


 ジョウロいっぱいの水を、一気に空へ放り投げる。


「え?」


 大量の水が弧を描き——。


「きゃっ!」


 私とレオンさんへ降り注いだ。

 いや、それだけじゃない。畑の土が一気に泥へ変わる。


「フィルーー!!」

「フローラ様!危ない!」


 慌てて叫ぶと、バランスを崩してしまう。それをレオンさんが支えようとして——逆にレオンさんの足が滑った。


「⋯⋯!」


 レオンさんは、見事に尻もちをついた。

 白かった騎士服が、一瞬で泥まみれになる。


「⋯⋯⋯⋯」


 レオンさんはそのまま固まった。

 

 私は必死に笑うのを我慢する。でも無理だった。


「あっ⋯⋯あはっ⋯⋯!」


 肩が震える。


「ご、ごめんなさい⋯⋯!」


 謝りながらも笑いが止まらない。笑ったらいけないと思えば思うほど、笑ってしまう。


「ふふっ⋯⋯あはははは!」


 レオンさんを見る。

 髪にも泥。頬にも泥。なのに真顔。それが余計におかしい。


「あはははっ!レオンさん、その格好⋯⋯!」


 フィルは枝をしゅんと下げている。

 どうやら反省しているらしい。


「⋯⋯⋯⋯」


 しばらく沈黙。

 やがてレオンさんは自分の服を見る。⋯⋯そして、小さく笑った。


「⋯⋯これは」


 一呼吸置く。


「なかなか酷いですね」


 その一言で、私はさらに吹き出した。


「もうっ⋯⋯!あはははは!」


 笑い過ぎて涙が出てくる。

 フィルも恐る恐る枝を伸ばし、レオンさんの肩をつついた。


 さわっ。


「許してほしいの?」


 ぶわっ⋯⋯。


 申し訳なさそうに葉っぱが揺れる。

 レオンさんはそんなフィルを見上げると、小さく笑って幹を軽く叩いた。


「気にしないでください。誰にでも失敗はあります」


 フィルは安心したように、葉っぱをさわさわと揺らした。


「レオンさん、フィルを甘やかさないでください」

「で、ですが⋯⋯」

「フィル?罰として、ここら辺の水分量が適正になるように地面の水を吸い上げて。あと、フィルが普段から蓄えている栄養も、少し畑に分けてあげなさい」

「⋯⋯⋯⋯」

「しゅんとしてもダメ!ロイドさんに迷惑がかかるんだから!分かった?」

「⋯⋯⋯⋯」


 フィルは力無く頷いた。


「おーい!」


 すると、畑の向こうからガストンさんの声が聞こえる。


「どうしたー!⋯⋯って、がはははは!」


 レオンさんを見るなり、大笑いした。


「騎士様が泥だらけじゃねぇか!」


 その笑い声を聞き付けた村人達も集まってくる。


「まあ!」


 エマさんが口元を押さえる。


「レオンさん、大丈夫ですか?」

「はい」

「ちょっと待ってな!」


 トーマスさんが笑いながら言う。


「うちで風呂入っていけ!」

「着替えも用意するわ」


 エマさんも頷く。

 マーサさんは笑いながらタオルを差し出した。


「騎士さんも泥遊びするんだねぇ」


 村人達が笑う。

 私も思い出したかのように笑ってしまう。

 フィルも嬉しそうに枝葉を揺らす。みんなが笑っていて、釣られて元気を取り戻したようだ。


 その輪の中心で、レオンさんは少し照れたように笑った。


「⋯⋯皆さんには敵いませんね」

次回は本日19時に投稿いたします。

1日に複数話投稿しますので、ご注意ください。


***


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