19話 騎士の誓
薬草を籠いっぱいに採り終えた頃には、すっかり日も傾き始めていた。
「今日はこれくらいにするか」
ディーンさんが背負っていた荷物を持ち直す。
「ルーク、先に帰るぞ」
「はーい!」
ルーク君は元気よく返事をすると、ディーンさんの後を追いかけていく。
その途中、ディーンさんが振り返った。
「フローラ」
「はい?」
「帰り道は一本道だ。迷うことは無い」
「ありがとうございます」
「レオン」
「はい」
「フローラを頼む」
「お任せください」
二人が歩いて行き、気付けば森には私とレオンさんだけが残っていた。
木漏れ日の差し込む森を、二人でゆっくり歩く。
不思議と気まずさは無かった。聞こえるのは鳥の鳴き声と、葉が揺れる音だけ。
「今日は勉強になりました」
静かな空気を破るように、レオンさんが口を開いた。
「ディーンさん、本当に凄いですよね」
「ええ。森では誰よりも頼りになる方です」
「私も驚きました」
私は少し笑う。
「王宮では植物のお世話ばかりだったので、森での知識は私もまだまだなんです」
「ですが」
レオンさんは少しだけ私を見る。
「今日、一番驚いたのはフローラ様でした」
「私ですか?」
「はい」
「植物の話をされている時、とても楽しそうでした」
「えっ⋯⋯」
思わず足が止まる。
そんな顔、していただろうか。なんだか気恥かしい。
「好きなことを話している人は、見ていて分かります。フローラ様は、本当に植物がお好きなのですね」
少しだけ照れくさくなる。
「⋯⋯好きなんです」
私は照れ隠しのように笑う。
「小さい頃からずっと植物と一緒でしたから。お花も木も薬草も、見ているだけで楽しいんです。だから、つい夢中になってしまって」
「素敵だと思いますよ」
「なっ————」
あまりにも真っ直ぐ返されてしまい、私は思わず言葉を失った。
「好きなことを、そこまで楽しそうに話せる人は多くありません。きっと、それはフローラ様の長所です」
「⋯⋯ありがとうございます」
何だろう。
褒められたのに、恥ずかしい。気付けば耳が熱くなっていた。
その後は、お互い何も話さず歩き続ける。でも、その沈黙は嫌ではなかった。
村が見えてくる。
すると——村の入口で待っていたフィルが、大きく枝葉を揺らした。
「フィル!」
私が手を振ると、フィルは嬉しそうにこちらへ枝を伸ばしてくる。
「ただいま」
さわさわ。
フィルの枝が私の頭を優しく撫でる。
「今日はいっぱい薬草採れたよ」
籠を見せると、フィルは興味津々といった様子で葉っぱを揺らした。
「これは傷薬になる薬草で、こっちは熱を下げる薬草。それから——」
説明を始めたところで、フィルの枝が私の肩を軽く叩いた。
「ん?」
そのまま枝が、私のお腹をつつく。
「⋯⋯あ」
そういえば、お昼は少ししか食べていなかった。
「お腹空いたの?」
ぶわっ!
冗談で聞いてみたが、フィルは勢いよく葉っぱを揺らした。
「ふふっ」
思わず笑ってしまう。
「フィルじゃなくて、私がお腹空いてるって言いたいんだね」
さわさわ。
「もう、フィルには敵わないなぁ」
私はフィルの幹を優しく撫でる。
その様子を少し離れた場所から見ていたレオンさんが、小さく笑った。
「どうかしましたか?」
「いえ」
レオンさんは首を横に振る。
「本当に仲が良いのだと思いまして」
「家族ですから」
私は迷わずそう答えた。
フィルも嬉しそうに枝葉を揺らす。
その光景を見て、レオンさんは穏やかな表情で頷いた。
「ええ。本当に家族のようです」
「⋯⋯私、赤子の頃に森に捨てられたんです」
「⋯⋯」
私は少し迷った後、私の身の上話をすることにした。
私は勇気を貰うために、フィルの幹をすりすりと撫でながら話す。
「そんな私を、先代の結界樹管理人⋯⋯父である、アルフレッド・リーフレットに拾ってくれました。私を拾ったのとほぼ時を同じくして、先代結界樹からフィルが産み落とされていたので、私たちは揃って父に育てられたんです」
「なるほど⋯⋯」
そう考えると、私とフィルは双子の兄弟みたいなものだ。⋯⋯どちらかというと、フィルは弟や息子のような手のかかり方だけど⋯⋯こればかりは寿命の差で成長スピードが違うんだろう。たぶん。
私は続けて話す。
「小さい時から、食べる時も遊ぶ時も寝る時も、私たちは一緒でした。正真正銘の家族なんです。⋯⋯だから、管理人を解任された時は正直、生きた心地がしませんでした。父亡き今、私には友人も家族もフィルだけでしたから」
「⋯⋯」
レオンさんは黙りこくった。仕方ないだろう。ガイアス殿下の騎士であるレオンさんは、何も言うことができない。それはガイアス殿下の立場があるからだ。ただ、あの時ハンカチをくれた時と同じような——憐憫の表情を私に向けていた。
「だから!今は嬉しいんです。またフィルと暮らせて、リーヴェ村の素敵な人たちと出会って。家族も友人も一気に増えた感じで、私の世界がとっても広がりました。だから、嬉しいんです」
「フローラ様⋯⋯」
私は今の本心をレオンさんに話した。私の素直な気持ち。嬉しいという感情を。
そんな私を、フィルが枝で抱きしめてくれる。そうだよね、フィルも寂しかったから私を追いかけて来てくれたんだもんね。ありがとう。
私がフィルに感謝を述べていると、レオンさんは徐に剣を抜き、それを強く地面に突き立てた。
「レ、レオンさん?」
「フローラ様。俺は二度と、貴女とフィル様が離れ離れにならないよう、全身全霊で守ります」
「⋯⋯」
「これは騎士の誓です。この剣に誓いましょう。俺が必ず、貴女たちを守り抜きます」
そう言い、決意の顔をしたレオンさんはあまりにも眩しくて、私は思わず目を薄めてしまう。
「はい⋯⋯よろしくお願いします!」
そして、レオンさんの手を握った。
ここに私たちの間で、騎士の誓が結ばれたのであった。
次回は明日0時に投稿いたします。
1日に複数話投稿しますので、ご注意ください。
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