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【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第一章:根を下ろす場所

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18話 森の猟師

 歓迎会から数日。

 朝食を食べ終え、食器を片付けていると、ロイドさんの家へマーサさんがやって来た。


「フローラ、ちょっといいかい?」

「はい、どうしました?」


 マーサさんは少し困ったように笑う。


「薬草の在庫が減ってきてねぇ。悪いけど、森に採ってきてもらえないかい?」

「もちろんです!」


 薬草採取なら大歓迎だ。

 王宮では結界樹の世話が中心だったから、こうして森へ入る機会は少なかった。植物に囲まれる時間は、私にとって何より落ち着く時間でもある。


「俺も同行します」


 隣にいたレオンさんが静かに言う。


「護衛としてお供します」

「それなら、俺も行こう」

「ディーンさん?」


 たまたま通りがかったディーンさんが、私たちの会話に入ってくる。相変わらず音もなく歩く人だ。ビックリした。


「今日は狩りへ行く日だから、途中まで同じ道だ。護衛は多いに越したことないだろう」

「父ちゃん!俺も行く!」


 すると元気な声と一緒に、向こうでフィルとリリィちゃん、ノア君と遊んでいたルーク君が駆け込んできた。


「⋯⋯勝手な行動はするな」


 ディーンさんは短く言う。


「うん!」

「俺の見える場所から離れるな」

「うん!」

「⋯⋯それなら良い」


 そう言いながらも、ディーンさんは少しだけ口元を緩めていた。

 やっぱりルーク君のこと、大好きなんだなぁ。


 私たちはマーサさんの依頼を達成するため、森に入る準備をする。準備を終えて村の入口へ向かうと、フィルが待っていた。


 枝が私の肩へ伸びる。


「フィル」


 私はフィルの幹を優しく撫でる。


「今日は薬草を採りに行ってくるね」


 さわさわ。


「夕方には帰ってくるから」


 フィルは少しだけ枝を下げる。


「寂しい?」


 ぶわっ。

 葉っぱが大きく揺れた。


「ふふっ」


 分かりやすい。


「お土産、期待しててね」


 そう言うと、フィルはようやく機嫌を直したようだった。


「行ってきます!」


 私達は森へ向かって歩き始めた。



 村から少し離れると、景色はすっかり森へ変わる。

 木漏れ日が地面を照らし、風が葉を揺らす。鳥のさえずりも心地いい。


 ディーンさんは迷いなく先頭を歩いていた。


「ここから先は獣道だ」


 短く言う。


「足元をよく見ろ」


 私達は頷く。

 ルーク君も真剣な顔で父親の後ろを歩いていた。


「この草は踏むな」


 ディーンさんが一本の草を指差す。


「え?」


 私が近付いて見ると、そこには細い蔓植物が絡み付いていた。


「これ、薬草じゃないですよ?」

「違う」


 ディーンさんは首を振る。


「踏むと匂いが出る。その匂いで猪が興奮して襲ってくる可能性が高まる」

「なるほど⋯⋯」


 私は思わず感心した。

 植物の知識なら負けない自信がある。でも、森でどう役立つかはディーンさんの方がずっと詳しい。

 レオンさんも真剣に話を聞いていた。


「勉強になります」

「森では、俺より詳しい奴はいない」


 珍しく少しだけ自信ありげな声だった。


「だから森では俺の言うことを聞け」

「はい」


 王宮では近衛騎士団長だったレオンさんが、素直に頭を下げる。

 その姿を見て、何だか嬉しくなった。王族の護衛を行う近衛騎士——その長であるレオンさんはとても偉い人だ。だけど、森には森の先生がいることを素直に受け入れられる、度量の広い人らしい。中々できないことで尊敬する。


 しばらく歩くと、今度は私の出番だった。


「あっ、この辺りに薬草があります」


 しゃがみ込み、一株の植物を指差す。


「これは傷薬の材料になります」


 レオンさんも隣へしゃがみ込む。


「葉の裏が少し白いでしょう?」

「本当ですね」

「乾燥させてすり潰すと止血薬になります」


 ルーク君も覗き込む。


「これ覚えてる!」

「正解」


 私は笑って頭を撫でる。


「じゃあこれは?」


 少し離れた場所の植物を指差す。

 ルーク君は腕を組んで考え込む。


「うーん⋯⋯」


 やがて自信満々に答えた。


「あ!揚げたら美味しい野草だ!」

「残念」

「えぇー!」

「毒草です」


 私は苦笑する。


「野草に見た目は似てるけど、葉っぱの縁がギザギザになってるでしょう?」

「ほんとだ」

「だから絶対に間違えちゃ駄目だよ?」

「うん!」


 レオンさんはそのやり取りを静かに見ていた。


「植物にも、これほど違いがあるのですね」

「好きになると自然と覚えちゃうんです」

「好き、ですか」

「はい」


 私は思わず笑う。


「植物を見てると楽しいんです」


 レオンさんは何も言わなかった。でも、その横顔はどこか優しかった。


「あっ!」


 ルーク君が少し離れた場所を指差した。


「父ちゃん!あそこに花が——」

「待て」


 ディーンさんの一言で、ルーク君の足が止まる。


 ディーンさんは近くに落ちていた石を拾うと、花の方へ放り投げた。————次の瞬間、一匹の蛇が姿を現し、石へ噛み付いた。

 すかさず背中の弓矢を構えると、蛇に向かって矢を射る。矢は音すら聞こえないスピードで蛇に迫り、そのまま蛇の額を貫いた。


「⋯⋯」


 私は思わず息を呑む。


「毒蛇の魔物だ。人間含め、動物を魅了する花粉を出す花で誘き寄せ、近付いたところを毒の牙で噛み付く」


 ディーンさんは短く言う。


「森は危険が多い。迂闊なことはするな」


 ルーク君は小さく頷いた。


「ごめんなさい」

「気付けたなら、それでいい」


 レオンさんが小さく息を吐く。


「⋯⋯全く気付きませんでした」

「騎士より猟師の方がすぐ対処出来ることもあるってことだ。王宮での警護が主な任務だったんじゃ仕方ないだろう。あまり気にするな」


 ディーンさんはそう言って歩き出す。

 その背中が、少しだけ大きく見えた。

次回は本日21時に投稿いたします。

1日に複数話投稿しますので、ご注意ください。


***


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