16話 レオン歓迎会
ガイアス殿下を見送ったあと、村には少しだけ静かな時間が流れた。
王宮を追い出されてから、まだ十日も経っていないが、私の周りは随分と賑やかになった。
フィルが来てくれて、結果的にレオンさんも来てくれた。
リーヴェ村は、また少しだけ温かくなった気がする。
そんなことを考えていると、ロイドさんが大きく手を叩いた。
「よし! 今日は歓迎会だ!」
「おおーー!!」
村人達が一斉に歓声を上げる。
「歓迎会?」
私が首を傾げると、ロイドさんは当然だと言わんばかりに頷いた。
「仲間が増えたんだ。宴くらい開かんとな」
「えっ、今からですか?」
「今からだ」
その一言で村人達が一斉に動き始めた。
「村長!台所借りるぞ!」
「もう借りてるじゃないか⋯⋯」
トーマスさんが勢いよくロイドさんの家へ入っていく。
「歓迎会なら新作を出すしかない!」
「あはは⋯⋯村長、うちの旦那がすみません⋯⋯」
エマさんは呆れながらも笑っていた。
一方、マーサさん——村に住む薬師のおばあちゃん——は大鍋を抱えて歩いてくる。
「スープなら任せな。若い子はいっぱい食べないとね」
「ありがとうございます!」
今度は酒樽を担いだガストンさんがやって来た。
「がははは!今日は飲むぞぉ!」
「ガストン、お前は毎日飲んでるだろ。」
ロイドさんが呆れたように言う。
「歓迎会だから倍飲む!」
「何だその理屈は⋯⋯」
周りから笑い声が上がる。
その頃には、ディーンさんも森から戻ってきていた。肩には立派な猪を担いでいる。
「今日は良い猪が獲れた。⋯⋯宴会で使うと良い」
「さすがディーン!」
「肉だー!」
隣にいたレオンさんがディーンさんの所に歩いていく。
「ディーン殿、挨拶が遅れました。俺はレオン・アッシュと言います。解体作業、お手伝いさせてください」
「⋯⋯騎士様、ですか。ディーン・ハントだ⋯⋯です」
「敬語など使わないでください。俺のことはレオンとお呼びください」
「⋯⋯そうか。あまり畏まった言葉遣いは得意じゃなくてな⋯⋯助かる。猪の解体作業だったな。向こうの解体場で行う。着いてきてくれ」
レオンさんはディーンさんとどこかへ歩いて行く。
私はマーサさんの所に向かい、スープ作りの手伝いをすることにした。
数時間後。
机が並べられ、料理が運ばれていく。
リリィちゃん達は飾り付け担当らしく、広場を元気に走り回っていた。
「フローラお姉ちゃん!」
「どうしたの?」
「これ高くて届かない!」
「あ、本当だ」
木の枝へ飾りを結びたいようだ。
どうしようかと考えていると、一本の枝が私達の横を通り過ぎた。
さわっ。
「あ、フィル!」
フィルは枝の先で飾りを受け取ると、高い枝へ器用に結び付ける。
「わぁ!すごーい!」
リリィちゃん達が拍手すると、フィルは嬉しそうに葉っぱを揺らした。
「ありがとう、フィル」
さわさわ。
そのままフィルは他にも手伝えることが無いか探し始め、ふらふらと歩いて行った。そういえば、レオンさんは歩行フォームのフィルに驚かなかったなぁ⋯⋯。あれが近衛騎士団長の余裕か。凄い。
日が傾く頃には、広場いっぱいへ料理が並んでいた。
焼き立てのパンや香ばしい肉料理。大鍋いっぱいのスープに、採れたて野菜のサラダ。
そして最後に、トーマスさんが大きな木箱を抱えてやって来た。
「できたぞ!」
蓋を開けると、焼き菓子がぎっしり詰まっていた。
「新作もいっぱい作ったぞ!」
「また新作作ったのね⋯⋯」
エマさんが苦笑する。
「歓迎会だからな!」
「歓迎会を理由にしないの」
私は思わず笑ってしまった。
みんな席へ着くとロイドさんが立ち上がり、大きく杯を掲げた。
「それじゃあ、新しい家族に!乾杯!!」
『かんぱーい!』
私は幾つか食べ物をお皿に乗せると、それを持ってフィルのところに行く。
お座りモード——普通の木のように、根を地面に張っている状態——のフィルは、枝を巧みに操って私を木の上に座らせてくれた。
「いただきます。フィル、ありがとう」
「⋯⋯⋯⋯」————さわっ
「ん〜!美味しい!猪肉、血抜き完璧ですっごい美味しい!トーマスさんの新作パンも美味しいなぁ」
「⋯⋯⋯⋯」————さわさわ
「フィルも嬉しい?良かったねぇ」
食べ物の良い匂いで、フィルもご機嫌なようだ。またこうやってフィルとご飯を食べられて、本当に幸せだ。この幸せを許してくれたガイアス殿下には感謝である。
ふと周りを見渡すと、キョロキョロと何かを探しているレオンさんが目に入った。
フィルに頼んで下ろしてもらい、レオンさんに声をかける。
「レオンさん?何かお探しですか?」
「フローラ様!どちらにいらしたのですか?探したのですよ」
「え?あー⋯⋯すみません、フィルの木の上でご飯食べてました⋯⋯」
「⋯⋯なるほど、それなら良かったです。私は貴女の護衛ですので、できれば事前に一言いただけると助かります」
「はい⋯⋯すみません⋯⋯」
叱られてしまった⋯⋯。
少し落ち込んでいると、レオンさんは咳払いを一つする。
「怒っていませんから。顔を上げてください」
「は、はい⋯⋯」
「⋯⋯これからは、目を離しませんから。だから安心してください」
私はレオンさんの言葉に顔を上げる。
レオンさんは真剣な表情で、照れひとつ見せていない。
だけど私は、その言葉で耳まで真っ赤になってしまっていた。
「いてっ」
すると、ビュンとフィルの枝が飛んできて、レオンさんの頭を叩いた。
「フィル!?」
「⋯⋯⋯⋯」
「ははは⋯⋯凄い速さの一撃でした⋯⋯。気が抜けていたとはいえ、久しぶりにしっかりと直撃を受けました」
レオンさんは笑ってくれている。フィルをじっと見ると⋯⋯何やらヤキモチを焼いているようだった。
もう!フィル、違うから!私とレオンさんはまだ会ったばかりで何もないから!
私はフィルの幹をぽかぽかと殴りつけた。フィルは⋯⋯微動だにしていなかった。まったく。
次回は明日0時に投稿いたします。
1日に複数話投稿しますので、ご注意ください。
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