表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王宮結界樹の管理を解任されたので田舎で暮らします。私を追いかけてきたのは王子ではなく結界樹でした   作者: 百香スフレ
第一章:根を下ろす場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/77

11話 王宮にて

 フィルが王宮から姿を消えて、五日が経った。


 王宮の一室。

 王太子であるガイアスは机へ広げられた報告書へ目を落とし、小さく息を吐いた。


「結界出力、94パーセント⋯⋯」


 隣に立つアーヴィンが静かに頷く。


「昨日より1パーセント低下しております」


 部屋の中が静まり返る。

 結界樹が居なくなって以来、王宮では毎日結界の測定が行われていた。


 幸い、すぐに魔物が侵入するような状況ではない。

 しかし、確実に弱まっている。


「原因は⋯⋯」

「やはり、結界樹が王宮を出てしまったことが原因だろう、と⋯⋯」

「⋯⋯はぁ、そうだよな⋯⋯」


 ガイアスは窓の外を見る。

 本来なら、そこには王宮を象徴する巨大な結界樹が見えるはずだった。だが今は、大きな穴だけが残されている。


 王宮結界樹。それは王宮敷地内に根を下ろす神聖なる樹木だ。結界樹の特殊な能力により、王都全体に強力な魔力経路を地面に張り巡らせ、王都やそこから伸びる街道、引いては地方の村々にまで結界を展開する。結界は魔物——人を襲う危険な生物——を遠ざけ、王国に属する人間の力を向上させる力も持つ。すなわち、国宝である。


「⋯⋯まさか、木が歩いて出ていくとはな⋯⋯」

「私も予想外でした」


 アーヴィンが珍しく苦笑する。ガイアスは、アーヴィンの崩れた顔を久しく見たので驚いた。


「結界樹が自ら歩くなど、前例がございません」

「⋯⋯そうだろうな」


 ガイアスも苦く笑った。


「私も初めて見た」


 二人の間に沈黙が流れる。


 やがてガイアスが静かに口を開いた。


「ミリア・ヴェルデはどうだ」

「責任を感じております」

「⋯⋯そうか」


 ガイアスは目を伏せた。


「彼女に責任は無い。悪いが、フォローを引き続き頼む」

「はい」


 アーヴィンは即答する。

 続けて、アーヴィンはミリアがつけていた管理日誌を取り出した。


「ミリア嬢がつけておりました、管理日誌を確認いたしました。記録通りの管理は完璧です。薬剤、肥料、水分量、魔力量、剪定時期⋯⋯全て理論上は最適と言えるでしょう。王立植物研究所首席の名に恥じぬ管理でした」


 ガイアスも頷く。

 それは最初から分かっていた。だからこそ、ミリアを後任へ据えたのだ。いや、本来はフローラのサポートとして追加するはずだった。


「⋯⋯フローラも悪くなかった」

「はい」

「ミリアも悪くない」

「はい」

「では、何が間違っていた」


 アーヴィンは答えない。⋯⋯答えられない。答えがあるとするならば、間違いなく————フローラを解任すると最終決定したガイアスが原因となるからだ。


 静寂だけが部屋を包んだ。

 ガイアスは椅子へ深く腰掛ける。


「私は⋯⋯」


 言葉が止まり、あの日の会議を思い出す。


『男爵家であるリーフレットなぞに国宝を任せ続けるのは危険です!』

『個人管理では何かあった時に対応できません』

『組織管理へ移行すべきです!』

『植物学の専門家を中心に据えるべきでしょう』

『新陳代謝の時です!今こそ、リーフレット家の独占管理時代を終わらせましょう!』

『それに、フローラとかいう小娘は拾い子のはず。そんな者が成り行きで男爵となり、国宝の管理を一任され、王宮に住まうなど言語道断でしょう!』


 あの会議の場では、誰もが同じことを口にした。その意見には、確かに理があった。

 フローラ一人へ国宝を任せる体制は、あまりにも脆い。万が一病気や事故に遭えば代わりが居ない。

 王太子として考えるなら、国全体を考えるなら。組織管理へ移行するべきだった。それ自体は間違いでは無かったはずだ。

 しかし、ガイアスは本来の着地点——フローラを管理体制のトップにしたまま、ミリアや他の者を加えての組織管理体制の構築——へ、会議の流れを持っていけなかった。そして、最終的には貴族たちの意見を聞き入れ、フローラを解任してしまった。


「殿下」


 アーヴィンが静かに声を掛ける。


「後悔、なさっていますか」

「分からない」


 ガイアスは正直に答えた。


「今でも、あの判断は王太子として正しかったと思っている。⋯⋯だが————」


 窓の外——結界樹が居た場所に大きく空いた穴——へ目を向ける。


「結界樹は自ら王宮を去った」

「はい」

「誰に付いて行けと言われたわけでもなく、誰かに運ばれたわけでもない。信じ難いが⋯⋯結界樹が自分で選んだのだ」


 その事実だけは変わらない。

 ガイアスは拳を握る。


「私は、一度でも結界樹自身が、どうしたいのか考えただろうか⋯⋯」


 アーヴィンは答えなかった。

 結界樹は国宝で、国が総力を挙げて守るべき存在。ましてや植物だ。誰も、その意思を考えたことなど無かった。


「私は⋯⋯」


 ガイアスはゆっくり立ち上がる。

 窓の外を見つめたまま、小さく呟いた。


「結界樹を守ろうとしていた。より論理的で良い環境にする事が良いことだと思っていた」


 だが、本当に守っていたのは。国か、制度か。それとも——。


「私は、本質的な部分で結界樹のことを考えられていなかったのだろうな————」


 その問いに答えられる者は、誰も居なかった。

評価、ブックマーク、感想など励みになります。

モチベーションになりますので、よろしくお願いします。


また、作者Xにて更新通知を行っております。

新作の通知なども行いますので、ぜひフォローお願いします。

@MokaSufure

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ