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悪人面最強冒険者の美少女TSリスタート  作者: 藤咲理久


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第八話 男達の役割

 アンテルーチェ。それが、私がこの姿で活動するときの偽名だ。

 その名を今日、初めて人に告げた。


 ささやかながら、ちょっとしたヒーローデビューのようなものだ。

 少し嬉しい。


 さて、ヒーローらしく……女ならヒロインかな? まぁいいや。ヒーローらしく、しっかり被害者達を救おう。


 夜の闇の中、周囲に意識を配りつつゴブリン達についていく。

 もうだいぶゴブリン達の本拠地が近づいてきたらしい。


 既に何度かゴブリンの気配がしているが、その度に暗殺用の攻撃魔法で仕留めている。こちらの情報を相手に渡したくないからね。


 まぁそれでも、毎回ゴブリンを始末していたら、偵察に出たゴブリンが全然帰還しないという状況になる。長時間、私のいる方面の偵察要員だけ帰ってこなければ、敵が怪しむことは間違いない。

 時間はかけられない。


 ……まぁ、もうこれ以上は時間をかけずに済みそうだけど。


 しばらく前から、誰かが私とゴブリンたちの様子を探っている気配がしていた。

 頑張って隠しているが、それで欺けるのはせいぜいオーク級冒険者ぐらいまでだろう。


 ……気配から感じ取れる身長、体重、体格、足運び、身に付けてる物品……どれも、ゴブリンのものではなかった。

 人間のものだ。


 さて、いつこちらに接触してくるかな? 本当にこれ以上時間かけたくないし、早めだと助かるなぁ。こっちの様子はもう十分見たでしょう?


 私はこちらを探る視線に対し、全く気付いた様子を見せることなく、ゴブリン達に従って進む。


 そうして、僅かな時間が過ぎて……男達が姿を現した。


「嬢ちゃん! ゴブリン達に連れてこられたのか!? 今助ける!」


 出てきた男達の中で、おそらく一番実力のありそうな男が、本当に切羽詰まったような声でそう言った。


 すぐにでもゴブリン達を攻撃しようとする彼らに対し、私は静止の声を上げた。


「お待ち下さい! このゴブリン達は私の洗脳魔法に掛かっています! 今、ゴブリン達の本拠地に案内させているんです!」


 男達は互いに視線を交わし、戸惑いながらも矛を収めた。


「そうだったのか……だが、ゴブリン達の本拠地へ行ってどうするんだ?」


「もちろん、殲滅します」


「殲滅って……嬢ちゃん一人でか?」


「ええ」


 男達の困惑が伝わってくる。

 それもそうだろう。男達が私とゴブリンの観察を始めてからは、一度も他のゴブリンと遭遇していない。だから、この男達には私の実力は欠片たりとも披露していなかった。


「そういう貴方方(あなたがた)はこんなところで何を?」


「俺達は冒険者だ。偶然嬢ちゃんがゴブリンと歩いてるのを見かけて、助けようと思って来たんだが……いらん世話だったようだな」


 冒険者ねぇ……誰も背嚢の一つも持たず? 

 体の各所はしばらく手入れしていないだろうことが窺える。無精髭、脂でテカる伸び荒れた髪、目の下の隈、肌の荒れ具合、汚れた爪、体臭。

 服など身につけているものもまた、手入れされていない。

 それは冒険者として数日の探索などというレベルの話ではない。そもそも、ある程度経験を積んだ冒険者なら、野営のときにでももう少しまともに体を整えるし、装備の手入れは当然やる。


 これで冒険者を名乗るか。

 ちょっと無理のある話に、少し笑ってしまいそうになった。こういった部分に気を配れないあたりで、相手の……彼らに命令している奴らの程度が窺える。


「ゴブリンを支配して案内させてるってのは見事だが……流石に嬢ちゃん一人でゴブリンの群れを潰すのは厳しいだろ? どうだ、俺達も協力してやろうか?」


 男はそんなことを言い出した。

 少しばかり、必死さが滲んでいる。焦りもだ。


 さて、どうするかな。

 もちろん、実力的には全く不要だが。問題は彼らの扱いだ。


 彼らが何をしているのか、何をしてくるのかは想像がつく。

 普通なら、彼らと共に行動するなんて選択はしないだろう。


 だが──


「わかりました。では、協力お願いします」


 私はそう言って、彼らの協力の申し出を受け入れた。


※※※


 ゴブリン達を支配していると聞いて警戒していたが、少女はあっさりと俺達を受け入れた。

 そのまま、ゴブリン共の住処へ向けて歩く。


 そして、しばらくすると、ゴブリンの本拠地に着いた。


 それは、森を切り開いて作られた砦だ。まぁ、砦と言っても木造だが、それでもかなり存在感を放つ巨大な砦だった。俺達の村にあったような、木の壁で囲まれている。

 ……俺達が、建造に協力させられた砦だ。

 そして、子供たちや若い女達が囚えられている砦だ。


 遠く、砦の入口には、見張りのゴブリンが見える。

 少女はその様子を食い入るように見つめていた。


 ……隙だらけだった。


 正直、俺達もゴブリンは憎い。当然だ。

 チャンスがあれば、殺し尽くしてやりたい。


 だが、それは出来なかった。

 子供達に刃物を突きつけられて命令されれば、それに従うしかない。

 ……若い女達がどんな目にあっているか想像がついているのに、それを助けるために動くこともできなかった。


 村で見せしめに殺された連中なら、動いただろう。動けただろう。だが、人質がいようとゴブリンに反抗するような者達だからこそ、あのとき見せしめに殺されたのだ。

 ……ゴブリン達に彼らが殺される原因を作ったのは、今生き残っている俺達だった。人質を見捨てられず、ゴブリンに反抗しようとした彼らを押さえつけてしまった。そうして押さえられた彼らは、ゴブリン達に拘束され、そのまま見せしめに嬲り殺された。

 そうして、仲間を死に追いやった挙げ句がこのザマだ。もはやゴブリン達の策略に絡め取られ、身動きが取れない。それどころか、人質を突きつけられて操り人形にされている。


 今もまた、俺達は人質になっている者達のために、無関係な少女を生贄にしようとしている。


 だってしょうがない。人質を取られているのだ。反撃のチャンスがないのだ。

 それに、仮に反撃のチャンスがあったところで、あそこにいるのは雑魚だけじゃない。俺達より強い、でかいゴブリンまでいた。

 ……そんな状況、どうしろというのだ。


 だから、仕方ないと言い訳しながら、俺達は砦を見つめる少女にそっと近づいた。


 そして全員で、熱心に砦の様子をみる少女に、剣を振るった。


 直後、少女の姿が掻き消えた。

 更に、顎に衝撃を感じ……あっけなく意識が暗転した。


※※※


 想定通り襲いかかってきた男達を即座に昏倒させ、縛ったうえで『覚醒(アウェイク)』をかけた。

 現在尋問中。


「貴方達は開拓村からゴブリン達に連れてこられた労働力。森に慣れていて戦闘能力も高い、そのうえ人間なので、人間の冒険者など相手に不意打ちのチャンスがある。……そういった面を買われて、哨戒任務をさせられていた。……あってますか?」


「……正解だ」


「貴方達が従っているのは人質がいるからでしょう? 人質がちゃんと生きていることは確認していますか?」


「それは確認している。……俺達も、本気で殺意を向けて、人質が生きているか確認させるように要求したからな。毎日人質は生きているのを確認している」


 ま、人質を生かしているのなら、その人質が生きていることを見せてやるぐらい、大したコストじゃないからね。彼らに暴れられて、そのせいでゴブリンに被害を出しつつ、彼らという人材を失う方が損失が大きい。


 だけど、人質が生きているのは朗報だ。

 ……まぁ、生きているだけで、死んだほうがマシな状況という可能性もあり得る。……だが、それでも死んでいるよりは選択肢が多いのは確かだ。


 最悪、死ぬのは後からでもできる。


 生きていなければ未来の可能性はゼロなのだ。


「人質がいる場所はわかりますか?」


「ああ、大体わかる」


「では、今から、その場所を思い浮かべてください。できれば砦の構造と人質に居る位置の立体的なイメージを。無理なら、入口からその場所までの移動経路をお願いします」


「? ……わかった」


 男が目を閉じる。

 私はその彼の頭に手をかざし──


「『思考読取(マインドリード)』」


 相手の考えていることを読み取った。

 そうして、人質のいる位置を把握する。


 ついでに人質の姿などもわかったが……どうせ人間は全員助ける予定だ。


「ありがとうございました。人質についてはわかりました。……それでは、この後は私がこの砦を潰してきます」


「あんた! 本当にそんなことできると思ってるのか!? あの砦には無数のゴブリンと、強力な上位種までいるんだぞ!? オークどころかオーガ並みの強さの上位種が何体もだ! そんなのに勝てるつもりなんか!?」


「ええ、余裕ですよ」


「余裕って……」


 私が微笑みを返すと、男は呆然としていた。

 そのぐらいはサイクロプス級でも可能だ。彼はサイクロプス級にも会ったことが無いのだろうか? サイクロプス級やドラゴン級にとって未開領域はよく来る場所だ。会っていてもおかしくはないと思うのだが。


「……それより、もう一点確認です。貴方達は、私を襲うより以前に、他の冒険者などを襲ったりはしましたか?」


「いや、襲っていない。……そもそも、最近はこの辺りは冒険者が来ないんだ。数年前に魔物の分布が変わってな。冒険者が狩りたがるような魔物がこの辺には出なくなった。その結果、需要のある魔物も狩れなくなった上に冒険者も来なくなったんだ。うちの村はそれでどんどん寂れていって……補修できなくなった壁の隙間から、ゴブリン共に侵入されたんだ」


 ……数年前の分布の変化というのが引っかかった。魔物の分布が大きく変わるような出来事に心当たりがある。

 あの村の惨状、もしかして私が遠因? まぁ、だとしてもあのときアレを狩らない選択肢はなかったかけど。


 ……今、気にすることではないな。過去のことを考えてもやり直しができるわけじゃない。


「そうでしたか。……ですが、私以外の冒険者を襲っていないことは良かった。……私がゴブリン達を倒したら、貴方達と人質達を村へ連れ帰ります。……そして、今後おそらくグラディアからの調査団が来るでしょう。そのとき、貴方達がゴブリンの手下として、哨戒や冒険者への不意打ち役をやっていたことは喋らないでください。私も喋らないので。あくまで貴方達は砦を作るための労働力だったことにしましょう」


 私も喋らない……というか、そもそもこの姿をグラディアの調査団やギルドの人達の前に現すつもり自体なかった。


「……それは、なぜだ。……あんたは俺達に襲われた側だろう? なのになぜ、俺達を庇う?」


「貴方達がいなければ誰があの村を復興するんです? 貴方達はあの村に必要です。私に悪く思うのなら、全力であの村を守り、復興してください」


「……わかった、必ずそうする。言われるまでもなく、俺達の村を復興してみせるつもりだ」


「良かった。……では、もう憂いはありません。行ってきますね。……『透明化(インビジブル)』」


 私は微笑みを向け、透明化の魔法をかけて、ゴブリン達の砦へと歩き出した。

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