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悪人面最強冒険者の美少女TSリスタート  作者: 藤咲理久


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第五話 か弱い少女の戦い

 俺達は焦っていた。

 なんだってゴブリンが十体以上の集団で行動してるんだ! 先輩たちはゴブリンの集団は大体五体以下って言ってたじゃないか!


 しかも、こっちが気づくより、ゴブリン達に見つかるほうが早かった。そのせいで、俺達が気付いたときには囲まれていた。

 なんとか一体殺して包囲を突破したけれど、それ以降はゴブリンたちの動きも慎重になった。


 ジリジリと囲い込もうと動いてくるから、こっちも適宜位置取りを変えたり牽制したりする必要がある。

 それに加え、こっちに攻撃をする素振りを繰り返して、プレッシャーを与えてくる。ギリギリこっちの攻撃が届かないところから、挑発してくる。

 その上、こっちがどうせ来ないだろうと油断すると、間合いに飛び込んで殴ろうとしてくる。……それも、こちらの反撃が間に合わないとみたタイミングだけ。そして敵の読み通り、こっちが反撃したときにはもう飛び退いている。

 そういう動きを、複数体が流動的に行ってくる。どれか一体でも対応できていないと、やはり攻撃を仕掛けてきて……反撃は間に合わずに空振る。

 加えて、後ろのゴブリンからは投石。大した攻撃ではないが、それでも無視できるものじゃない。当たれば普通に怪我をするし、当たりどころが悪くて昏倒でもすれば最悪だ。


 じわじわと追い込まれているのを感じる。

 俺達の集中力はどれだけ続く?

 俺達の体力はどこまで続く?

 ゴブリンの戦い方は単純で猪突猛進だって言ってたじゃないか先輩たちは!


 ゴブリン達は役割を適宜入れ替えて、全体で体力を温存できるように努めているようだ。それに、攻撃を仕掛ける側の向こうのほうが、ペースをコントロールできる分消耗が少ないだろう。

 俺達一人ひとりのスタミナは、ゴブリンより多いだろう。だが、この状況では先にスタミナが尽きるのは間違いなくこちらだ。


 何か、切っ掛けがいる。反撃のために、せめてゴブリンの気をそらしたりできれば。


 俺達はなんとかゴブリンに対応しつつ、反撃の切っ掛けを探していた。

 そして、もはや自棄っぱちになって突っ込むしか無いかと考えていたときに……その女の子は現れた。


「ゴ、ゴブリン!?」


 俺達とゴブリンが戦っている場所の……ゴブリン側。つまりゴブリンの後方から、その女の子は現れた。

 しかも、ゴブリンの後ろから不意打ちをするのでも、巻き込まれないように逃げるのでもなく、驚きのままに声を出してしまっていた。


 ゴブリンの後衛組は声の方を振り返った。……残念ながら、俺達に相対している奴らは、気を逸らされてはくれなかった。……いや、一瞬だけ後方が気になった様子だったが、こちらも同時に女の子に気を取られてしまったので、その機会は活かせなかった。


 眼の前のゴブリンの動きを見逃さないようにしつつ、僅かに意識を女の子の方へと向ける。

 すると、どうやら女の子は剣を抜いたらしかった。


「助けます!」


 そういった女の子。対するゴブリンは、三体が女の子の方へ向かったらしい。


 つまり、こっちはいま五対八、女の子は一対三。

 ……まずい。女の子はおそらく長くは持たない。


 相手が八体なら、ギリギリなんとかなるか? 俺達一人ひとりはゴブリンより強い。十一体相手は厳しかったが、八体なんとかなる可能性はある。

 タイミングを測り、一気呵成に攻め倒す。そうすれば、女の子が俺達を助けようとして犠牲になる、みたいな寝覚めの悪い状況にならなくて済む。


 そう思いながらタイミングを測っていると──


「やあっ!」


 女の子がゴブリンに剣を振った。


「あっ」


 そして、女の子の手から剣がすっぽ抜けた。


 何をやっているんだ、という焦りが浮かぶ。

 だが、結果的に奇跡が起こった。


 手からすっぽ抜けた剣はくるくると回りながらこちらへ飛来し……丁度俺の前から飛び退いたゴブリンの足に刺さった。


 直感に従って、踏み込んだ。

 足に剣が刺さって怯んだゴブリンの首を一刀で刎ねる。


 これで五対七。

 いける。


 相手は三体が女の子の方へ行き、眼の前の一体が倒れた。

 その結果、陣形が崩れ、浮足立っている。


 ここが攻め時。


 眼の前の相手に集中しきっていたゴブリンが、俺の仲間の前から飛び退いた。その飛び退く先を予測して、攻撃する。一撃で殺せはしなかったが、追従した仲間の一撃で倒せた。

 これで五対六。

 この時点で、俺の仲間たちも全員状況を察し、攻めに転じた。


 女の子の手に剣はない。あるのは盾だけ。

 速攻でゴブリンを倒して、助けてあげないと!


※※※


「やあっ!」


 角度とタイミングを調節し、剣を振った。


「あっ」


 下手な斬撃をゴブリンに向けた結果、手から剣がすっぽ抜けてしまった、という演出。「やってしまった」感のある声も追加。

 そうして飛んでいった剣は、狙い通りに少年の前から飛び退いたゴブリンの足に刺さった。私の戦力分析が正しければ、これで状況を好転させる切っ掛けになるはず。


 少年はすぐにそのゴブリンの首を刎ね、攻撃に転じた。新人ではあるが、なかなかに勝利への嗅覚に優れているらしい。


 さて、後は少年達がゴブリンに勝つまで、頑張って耐えている少女のフリをするだけだ。

 まだ後ろの状況がわかっていないのか、剣を失った私のことを、三体のゴブリンがニヤニヤ見つめている。

 そうやって、獲物を甚振る嗜虐的な姿勢でいてくれると、こちらも楽なんだけど。


 ゴブリンがわざわざ怯えさせるように、無駄な大振りで棍棒を振ってきた。


 ……おっっっっっそいなぁ。


 あくびが出るほど遅い打撃。


 それにしっかりと盾を合わせ……ちゃダメじゃん!

 えっと、かなり下手な角度で盾を合わせ、打撃を受ける。


 ……よっっっっっわいなぁ。


 信じられないほど貧弱な打撃。


 だが、私はか弱い女の子。ちゃんとゴブリンのこの貧弱な打撃に力負けして、よろめいてみせないと。


「ぅぁ……」


 うめき声を出しながら、三歩ほど、よろめくように下がる。ついでに、衝撃で腕を痛めたかのように、盾を装備している腕を庇う動きをプラス。


 ……うめき声、わざとらしくなかったよね?


 さて、今殴ったのとは別のゴブリンからの追撃。力負けしてよろめいたか弱い女の子がこれを防げるのは不自然だ。直撃を貰ってあげよう。


 横殴りで叩きつけられた棍棒が、私の右脇腹に……ヤバ、装備が高性能すぎてなんの衝撃もない。

 今は魔法で繊維の質感を誤魔化しているけど……私の着ているこの服は本来、アラクネクイーンから貰ったディバインシルクで出来ているからなぁ。

 ……今思うと、せっかくのディバインシルクをゴワゴワの麻みたいにして着ていたら、美の女神たるステライリス様が納得しないのも当然かもしれない。むしろよく怒られなかったな、私。


 ……余計なことを考えていた。とりあえず今、どうするか。

 頑張って演技力で誤魔化すしかないか。


 ゴブリンのパワーでもおかしくはない程度……二歩分程吹っ飛んでやることにする。自分で飛んだとわからないように、巧妙に。


「かはっ」


 腹を殴られて空気を吐き出してしまった演技。それをしつつ、念の為自分の装備の内側に、自分で魔法による衝撃を与えて打撲痕を作っておく。

 無属性魔法《衝撃(インパクト)》。射程が狭い代わりに使い勝手がいいのが特徴だが……こんな使い方をすることになるとは思わなかった。

 ちなみに、《衝撃(インパクト)》の基本は手から、手を向けた先に対して発動する。俺は体のどこからでも、どの向きにでも使えるが、これは訓練の成果だ。

 ……まぁ、外向きじゃなく内向きに放ったことなんて……いや、前にもあったな。ちょっと思い出したくない、小型の虫の魔物の群れとの戦いだ。自分の体に攻撃を向けないといけない相手というのは……つまり、そういうことだ。嫌な戦いだった。


 閑話休題。


 ニヤニヤ近づいてくる三体のゴブリン。


 その間、呼吸が苦しいという風を装って、咳き込んで見せる。

 ゴブリン達はそれをみて嗤った。私を追い詰めたと確信しているのか、上機嫌だ。


 ……私、結構演技力いい感じなのかも? 少なくともゴブリンには通用するようだ。


 さて、少年達の方は、かなり天秤が傾いている。もうちょっとで勝利できるだろう。

 ……ま、その間あと数発は殴られることになるだろうけど。


 嗤いながら振り下ろされる棍棒。

 狙いは私の頭らしい。


 なら、怯えた少女がみっともなく体を丸め、頭を庇うという展開かな。

 頭を庇った結果、運良く盾で受けることに成功。けれど、衝撃で横倒しになる……って感じで。


 想定した展開通りにやってみる。


「いやっ」


 ちょっとした悲鳴じみた声もセットで。

 そうして、横倒しになった私に別のゴブリンから追撃。……足か。嫌だなぁ。


 頑張ってタイミングを測る。


 ゴブリンの棍棒が足に当たるのと丁度同じタイミング。

 そのタイミングで、自分の足に対して、魔法で衝撃を加えた。ゴブリンの棍棒から、その衝撃が伝わったのだと思えるような角度で。


 自分の《衝撃(インパクト)》によって骨が折れる感覚。


「あぐぅ!」


 さて、うめき声はこんな感じ? もっと大きく悲鳴上げたほうがよかったかな?


 続く肩への攻撃への対応も同様。


「ぅぅぅ、あぁがぐぅぅ……」


 痛すぎてまともに声を出せれない、絞り出す風の演技をする。そして、折れた箇所を手で押さえる。


 それを嗤いながら繰り出された次の攻撃は、後頭部へ。

 ……ちょうどいいや、これを食らって気絶したフリをしておこう。


 もう少年達の方は決着した。私が気絶したフリをしてもすぐに、少年達が助けてくれることだろう。


 振り下ろされる棍棒。

 頭に……やはり弱くて笑えてくる衝撃が走り、私はそれで気を失ったかのように装った。……これまたやっぱり、同じ箇所に自分で衝撃を加えつつ。

5/10 1:45頃 文章表現を微修正

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