第十二話 神々の使徒
「……その報告を信じろと?」
「俺達だって信じられませんでしたよ。……ただ、状況的に否定もできません。少なくともゴブリンエンペラーを真っ二つにできる実力者がいた事は間違いないわけですし」
調査団の報告は荒唐無稽だった。
アンテルーチェとか名乗るステライリス様の使徒の少女? それがゴブリンエンペラー率いるゴブリン軍団を壊滅させた?
まぁ、本当にステライリス様の使徒がやってきたというのなら、そのくらいはやってのけてもおかしくないだろう。
ステライリス様は戦いに関する神格ではないが、そもそも神の使徒というのはそれだけで別格なのだ。
冒険者の最上位であるドラゴン級。その七人……いや、六人か……その六人中、三人……いや、これも違うな、四人だ……六人中、四人は神の使徒だ。そして、ドラゴン級の中でも使徒とそうでもない者の間には歴然たる差がある。
いや……差がある「とされていた」か? 二年前に消えた彼は、使徒でもないのに使徒にも勝ってみせたからな。……彼は本当にいくつも冒険者の常識を破壊した男だった。だが、やはり彼を例外とすべきなのだろうな。
……ドラゴン級も様変わりしたものだ。
彼……アッシュが消え、ミリアが知神リベルアビソス様の使徒となった。その結果、ドラゴン級は七人から六人へ、その内の使徒の人数は三人から四人へと変わった。
何にせよ、ドラゴン級の上位層クラス。戦いに関する神格でなくとも恐らくドラゴン級には達する。それが神の使徒というものだ。
そんな人物が現れたなら、それは当然、ゴブリンエンペラーの軍勢など容易に蹴散らすことだろう。
だが、問題は、だ。
そんな人物がなぜ突然現れたのか、いつどこから現れたのか、それがわからないということだ。
ドラゴン級に匹敵する実力の少女など、冒険者だろうとそうでなかろうと目立つに決まっている。
なのにこれまでそんな人物に関する情報は欠片たりともなかった。
「もしそんな人物がいたら、なぜ隠れる? なぜグラディアに来ない? 『魔力文字』の内容的に、冒険者の仕事にも理解がありそうだったんだろう?」
「ええ。書かれていた内容は冒険者の仕事をよく知っているとしか思えませんでした。……詳細は報告書に書いた通りです」
「ますますわからん!」
「えっと……実力を隠したいんじゃないですかね?」
「はぁ? 実力を隠したいなら使徒を名乗ったりせんだろ。それにドラゴン級なら人に見つからずに行動だってできるはずだ」
「まぁ、ですよね……」
そんなふうに、報告してくれていたオーガ級冒険者のディルクと話していたときのことだった。
「ギルマス、いる?」
扉の向こうからくぐもった……けれど特徴的な声が聞こえてきた。
「その声……ミリアか!? もう戻ってきたのか!?」
「あ、居るみたいね。入るわよ」
扉が開き……空気が染まった。
扉から入ってきたのは、圧倒的なオーラを纏う一人の美女。彼女のオーラが、部屋の中を染め上げた。
……オーラの正体は膨大過ぎる魔力だ。彼女はあまりに膨大な魔力を持つがゆえに、訪れた空間を自分の領域に変えてしまうのだ。
ドラゴン級冒険者、ミリア・フェレンフィセル。
魔法使いなのだが……活動的な印象を受ける引き締まった体と装備をした、高身長の美女だ。意思の強さが表情に滲み出ている。
この二年程はグラディアを拠点にしていたが、ここ最近は長期依頼で離れていた。
もうすぐ戻って来るとのことだったが、想像以上に早い期間だった。
「あー、ごめん。取り込み中なのね。受付の子が普通に通してくれたから大丈夫かと思ってたわ」
「いや、いい。お前が帰ってきたのなら、意見を聞きたかった。だから入る前に止めることもしなかったんだ」
ドラゴン級であるミリアは、ギルドの中でも扱いが例外的だ。ギルマスである俺の部屋にも自由に通して良い事になっている。
「私の意見?」
「ああ。ディルク、説明してやってくれ」
そうして、ディルクに再び一から説明させ、ミリアに意見を求めた。
※※※
「アンテルーチェと名乗る美少女が、ゴブリンエンペラーを倒したと。で、ステライリス様の使徒を名乗ったわけねー」
なんか不思議な話ね。
そんな実力者が今まで見つかっていなかったなんて。
「そういうことだ」
「……ギルド的には、そのアンテルーチェって子、実在したらどういう対応するの?」
「……仮に説明通りの実力なら、どうにもできんな。可能なら新たなドラゴン級として招きたい。……無いとは思うが、敵対しうるような相手なら情報を得たい」
「ふーん……じゃあ、ちょっと待ちなさい」
言いながら、私は魔法を構築する。
「……その骨がゴブリンエンペラーのなのよね?」
「ええ、そうです」
「貸して」
調査団のリーダーをしていたらしいオーガ級冒険者が、報告のために持ち込んでいたゴブリンエンペラーの頭蓋を借りる。……綺麗に真っ二つね。
その骨に無詠唱で、『死ぬ瞬間の光景を映し出す魔法』をかけた。……今この場で思いついて構築したオリジナル魔法なので、魔法名はない。
「これは」
それは、確かに少女だった。
薄紫のような薄ピンクのような色の仮面。その仮面と同じ色の髪。そして素晴らしいドレスを着た少女。
「動き的にはサイクロプス級……いえ、これたぶん手加減しているわね」
チャンピオン相手の立ち回りなどを見ても、かなり余裕がありそうだ。
そして、ゴブリンエンペラーの最期。
「今の動きは……」
「最低でもサイクロプス級最上位……ま、高確率でドラゴン級の実力はあるでしょうね」
戦闘の最後、エンペラーとの決着付近では、実力の一端を見せてくれた。
凄まじい実力なのは伺えたが……ゴブリンエンペラーの眼を通した映像なので、ゴブリンエンペラーが捉えきれないものはわからない。
それでも、半端なサイクロプス級を凌駕する実力なのは確実だろう。
「……実力も容姿も、説明通りだな」
「そうね。……この子がアンテルーチェ。……ん?」
よくよく見ていて、気付いた。
この少女が持っている剣……見覚えがある。
あの男……アッシュが予備武器として持っていた剣だ。
「私、この子を探してみるわ」
「……いいのか?」
「ええ。私も気になるもの」
そう言って、私はギルマスの執務室を後にした。
すぐにギルドの受付を通り過ぎ、外に出ようと──
「はい、では今回の報酬です。今回は怪我も無いようだし、今後も無茶はしないでね?」
「あはは、もちろんですよ。私も怪我したくないです」
初心者と受付の会話。
なんてことのない会話だったはずだ。
だが、その会話が異様に気になった。
そちらに眼を向ける。
なんとも親しみやすい容姿をした、初心者装備の少女だ。
だが、腰に挿した剣は問題だった。
その件は、さっき映像で見た、アッシュが予備武器として持っていた剣だった。
「そこの貴女」
初心者らしいその少女に声をかけつつ……知神リベルアビソス様より頂いた力『真実の神眼』に魔力を込めた。
するとどうだろう。
隠蔽が掛かっているのは剣だけじゃない。全身の装備がすべて、ドラゴン級でもなければ取れないような超高難易度素材で作られた最上級の装備だった。
少女は私の顔を見て、表情が引きつっている。
私を知っている?
何か後ろ暗いことでもあるのかしら?
まぁいい。それを含めて話してもらおう。
「貴女、少し話したいことがあるの。今時間はある?」
「いえ、ありません」
……もう十中八九ただの初心者冒険者ではないとわかってはいるけど……初心者姿でドラゴン級の言葉をあっさり断るのは勇気があるわね。
……さっきの反応的に、私がドラゴン級なのは恐らく知っているわよね?
「なくても作りなさい。いいわね?」
「よくありません」
「……来なさい」
そう言って少女の手を掴む。
一瞬、凄まじく重いものを持った感覚がしたが、すぐに軽くなった。一瞬反射的に抵抗したわね?
「……わかりました」
少女を引っ張って、重要な依頼に関する話しなどをするための部屋に入る。
そして、彼女に向き合って単刀直入に訊いた。
「で、貴女は何者で、アッシュとはどういう関係なのかしら? アンテルーチェさん?」
次回から不定期更新になりますー




