第十一話 調査団の困惑
俺達は警戒心と緊張感を持って、その地へと赴いた。
とある開拓村だ。
グラディアと最近連絡が取れていない開拓村が二つほどあった。俺達はその一方へ向かっている。
俺達はゴブリンキング発生の可能性があるということで、派遣された調査団だ。オーガ級冒険者が五人集まった臨時パーティである。
仮に……その村が壊滅していて、その挙げ句ゴブリンの巣になっていようと、対応できる自信がある。
そうして、俺達はその開拓村に到着した。
そこでは……中に入るまでもなく、人が活動していた。壁の点検をしている者や農作業をしている者達がいる。
無論、警戒は緩めない。上位種に統率されたゴブリンなら、人を生かしたまま利用することはありうる。人がいようと、完全に安心できるわけではない。
「あんた、ちょっと話を聞きたいんだが、いいか?」
気負わず話しかける。自然に。
だが、それに対する反応は見逃さない。
ゴブリンへの恐怖や従う苦痛。ゴブリンのことを隠さなければならない後ろめたさ。あるいは普通の生活ができなくなった事による様々な体調不良の兆し。そういった、危険信号を絶対に見逃さないよう、注意深く観察する。
だが、その男の反応は全く予想していないものだった。
「はい! なんでしょうか!」
極めて明るい返答だった。
……肉体的な疲れは見えるが、精神的には健康そのものといった様子。
──仮にゴブリンに襲われていなくとも、長らくグラディアと連絡が取れなかった原因があるはず。だから、間違いなく暗い様子だろうと思っていたんだが?
「俺達はこのグラディアの冒険者だ。この開拓村と最近連絡が取れていなかったということで調査に来たんだ」
「なるほど! 貴方達が! ……アンテルーチェ様の仰られていた通りになりましたね」
「……? アンテルーチェというのは?」
「ああすみません! こちらの話です! 村長から説明してもらえると思います。……村長のところに案内するので、付いてきてください!」
言って歩き出した男に、俺達は従う。
無論、そう言いながらゴブリン達が待ち構えている場に案内される可能性もある。
警戒しながら男に続いた。
※※※
村長の話を聞いた俺達は……完全に困惑していた。
「つまり? この村はゴブリン達に襲われ、人質として子供達と女達、労働力としての男達がゴブリンの巣に連れて行かれた。その巣にいたのはゴブリンエンペラーで、男達は砦作りを手伝わされた。……しかし、一昨日の夜突然ステライリス様の使徒を名乗るアンテルーチェという少女が現れ、この村のゴブリン達を殲滅。倒したゴブリンを支配して本拠地へ行き、そこで囚われていた人達を解放。更にはジェネラルやシャーマン、チャンピオンすら含むゴブリンエンペラーの軍勢を単独で殲滅したって?」
「一応、末端のゴブリンは残っているそうですが、上層部の殲滅という意味ではその通りだそうです」
「いや、それにしたってありえないだろう! そんなことやり遂げるには、最低でもワイバーン級パーティ……いや、ソロと言う話だったな……それなら最低でもサイクロプス級の実力者でないと無理だ」
俺達はからかわれているのだろうか?
冗談としか思えない話だった。
……まぁ、自分でも言った通り、サイクロプス級やドラゴン級なら可能だろう。
だが、アンテルーチェなんて名前の少女、サイクロプス級やドラゴン級にはいないはずだ。
サイクロプス級やドラゴン級なら名が知れている。仮に冒険者でなかったとしても、サイクロプス級に匹敵するなら知られているはず。無名の実力者という可能性は極めて低い。
今このあたりでサイクロプス級以上の人間は一人だけ。そいつはでかい男で、村長達が可憐だと語るような少女に変装できるとは思えない。
……もう少ししたらドラゴン級が一人、グラディアに戻って来るみたいだが……そいつもまだだ。そもそも戻ってきても、可憐な少女っていうより気の強い美人って感じだ。でかい男よりはありうるが、それでも俺の思い浮かぶ印象は合わない。
「まぁ、信じられないのも無理はない。……どうでしょう? ゴブリン達に労働力として囚えられていた男達を案内役に付けます。ゴブリンの本拠地を見てきては?」
村長にそう諭されれば、頷くしかなかった。
あまりに怪しい話に、まだ警戒を解くことはできない。
だが既に、ここに来るまでに想像していたような状況と大きく乖離していることは、俺達も察しつつあった。
※※※
男に従い進む。
途中で何度かゴブリンが現れたが、問題なく始末した。
案内の男も戦っていたが、オーク級程度の力はあった。未開領域の村で戦士や狩人の役割を持つ者としては、一般的な強さと言っていいだろう。
「ここだ」
男の案内でたどり着いた場所は、木で作られた砦だった。
想像以上にしっかりとした壁で囲われている。
「アデライン」
「わかっているわ。『広域範囲探知』……うん、あの砦内にはゴブリンはいるけれど、上位種はいなさそう。……砦のゴブリンはいくつかのグループに分かれて、それぞれ特定の部屋を拠点にしているみたい。……あ、一体だけホブがいる。一つのグループはそのホブが率いているみたいね」
「なるほど」
少なくとも、現状あの砦には統率力のある上位種はいない……と。
「あの砦の規模と完成度を考えると、確かに強力な上位種がいたんだろう。……で、ゴブリンがグループに分かれて行動してるってことは、上位種がいなくなってバラバラに動き出したって可能性が高いだろうな」
「状況を見ればそうだが……しかし、村長の話していたようなことがありうるのか?」
「わからん。……アデライン、ゴブリンたちの親玉がいたであろう場所はわかるか?」
「ええ。案内できるわ」
「じゃあ頼む」
アデラインに案内させ、内部に入った。
やはり数度出会ったゴブリンを始末し進んだ。
そして、おそらくゴブリンの親玉がいたであろう場に入る。
……いくつもの大きな骨があった。
僅かに残った肉は腐り、ハエがたかっている。
……だが、恐らく大部分の肉はゴブリン達に食われたのだろう。
「ホブは当然として、本当にジェネラルとチャンピオンの骨があるな。……で、本題はこいつか」
俺達は、脳天から股下まで真っ二つにされたガタイの良いゴブリンの骨を見つけた。
「これ、キングなのかエンペラーなのか判断つくやついるか?」
「ちょっと調べさせて。流石に直接見たことはないけれど、今回の調査のために調べてきたから」
今回のメンバーで一番物知りのアデラインが、親玉の残っている骨を調べ始めた。
骨のサイズを測ったり、特定部位の形を確認したりしている。
しばらく「いくつか無くなってる骨もあるし、壊れてるし……」とかぼやいていたが、結論が出たらしい。
「高確率でエンペラー。骨がキングにしては太いし、身長も高い。加えて、頭と踵に特徴的な変形が見られる」
「まじか……となると、本当に村人達の言う通り、ステライリス様の使徒ってやつがこれをやったってのか?」
「だからそう言ってるじゃないですか」
案内してくれた男が疲れた様子で言った。
だが、許して欲しい。この眼で見るまで、とても信じられるような内容じゃなかったのだ。
「おい! こっちにも何かあるぞ!」
言われた方に行くと……おぞましい椅子があった。
……いくつもの骨をくっつけて作った椅子だった。
そして、その手前に『魔力文字』で何か残されている。
えーっとなになに?
「……エンペラーの玉座か。……で……なに?」
そこに書かれた内容によると、使われている素材は、先程の村の中で見せしめに殺された男達と……長期任務を受けていたはずの友人のオーガ級冒険者のものらしかった。
椅子の形が残っているのは、ゴブリン除けの香薬を使ったおかげらしい。
俺達はエンペラーの玉座と骨を証拠として回収。
既に『鎮魂』済みだったらしいが、改めて祈りの聖句のあと『鎮魂』をかけて持ち運んだ。
見た目に刺激が強いので、隠すために布で覆い、グラディアまで持ち帰った。
おそらく明日まで今のペースで投稿します。
以降は作品概要にもある通り不定期で更新する予定です。




