第十三話 再会
……ミリアがいるとは、思っていなかった。
私が……アッシュだった頃の私が最後にこの場所を離れたとき、彼女は確か……北の帝国の帝都を本拠地にしていたはず。
なぜこの地に?
確か二年ちょっと前に会ったときには──
「そんな辺境で活動しているんだ。悪人面の貴方にはお似合いの場所ね」
とか言っていたし……ここには寄り付かないだろうと思っていたんだが?
まぁ、過去のことはいい。
問題は今だ。
なんでバレた?
剣に視線が行っていたのはわかる。
そして、確かに私の持っている剣は、アッシュだった頃に一度、共同で依頼を受けたミリアに見せた事がある。……あの依頼はドラゴン級四人必要とか言うイカれた難易度だった。私達がいなければたぶん国が滅んでたな。
……そのとき見せたのだから、私とアッシュを繋げるのはわかる。
だけれど、それをどうやってアンテルーチェと繋げた?
……剣だけでなく、他の装備にも驚いている雰囲気があったし、私が実力を隠していることを見抜いたから? 実力を隠している私こそがアンテルーチェだろう、みたいな?
……違うな。それも一因だろうけれど、何かもっと確信を持っている感じがした。
たぶん、何かしらの魔法で、アンテルーチェがこの剣を使っていたと知ったのだろう。
こいつはドラゴン級の魔法使いだ。私が知らない調査用の魔法を知っているのかもしれないし……なんならその場で必要な魔法を構築するなんて馬鹿げたことをやってのけた可能性すらある。
どうするかな……。
「だんまり? 何か後ろ暗いことでもあるの?」
……ミリアって、私への……アッシュへの当たりが強いんだよなぁ。
初めてあったときは思いっきり悪人扱いだったし。
会う度に貶してきたし。
途中からは、実力自体は評価しているとか言ってきた気がするけど、貶されることは変わらなかった。いつだったか「そんな悪人面じゃ、女の子と付き合ったり、デートしたこともないんでしょ?」とか言われたりもした気がする。……余計なお世話すぎる。
こいつに私がアッシュだって知られるの……嫌な予感がするんだよなぁ。
誤魔化せないかな?
「アッシュとはどなたのことでしょう? ごめんなさい。私、最近冒険者登録したばかりで……そのアンテルーチェという方のこともよくわかりません。人違いじゃありませんか?」
「ふぅん……」
私がとぼけると……突然、ミリアは部屋に結界を張った。
音や衝撃を遮断するためのものだ。
そして──
──突然全方向から、弱めの風魔法の刃、そこそこの出力の炎魔法の槍、そして強力な光魔法の光線……それらが順番に放たれた。
突然のことで、私は咄嗟にそのすべてを剣で切り払った。
……正直、弱めの風魔法ですら、私にとっては弱いというだけで、ゴブリンエンペラー程度なら一撃で葬れる威力だ。
反射的に防御のための行動を取ってしまった。
……後になってみると、私の防具の性能なら、全部受けてもギリギリ死なない程度のダメージに抑えられただろう。
……いや、防具の性能知ってて撃ったんだろうけど、それでも死にかけるような攻撃普通する? 初対面の相手に。……自分で治療できるから良いってこと?
……下手すると、今の攻撃で死にかけるようなら、治療後に記憶操作して何事もなかった様に振る舞うつもりだったのかも。
「で、誰が新人冒険者だって?」
「……冒険者登録したばかりなのは事実です」
少なくともアシュリーとして登録したのはつい最近だ。
「次にとぼけたら、今度は殺すつもりで攻撃する。……貴女のことを教えなさい」
……少なくともアンテルーチェであることは認めないとまずそうだな。
だけど、どちらにしろアッシュとの関係は聞かれるはず。
……一番無難なのは、アッシュは死んで、自分はアッシュの弟子だと名乗る方向性。
だが、自分が死んだという嘘をつくのは気が引ける。
一応は元の自分の知り合い相手だ。生き死にについての嘘はつきたくない。
……アッシュが私を育てたあと、どこかに旅立ったとするか?
「確かに私がアンテルーチェです。アッシュさんとの関係ですが、私はアッシュさんの弟子で──」
「嘘ね」
私の言葉は即座に嘘と断定された。
「……何を根拠に嘘と?」
「私の眼には知神リベルアビソス様より頂いた『真実の神眼』の力が宿っているの。隠蔽を見破ったり、魔法の構成を見通したり、様々な力を持っているのだけれど……その効果の一つに、嘘を見抜くというものがあるわ。文字通り、真実を見通すわけね。それで貴女の嘘を見抜いたの。ついでにいうと、貴女がステライリス様の祝福を受けているのもわかる」
「……『真実の神眼』ですか」
……神より力を頂いたということは、使徒になったのか?
いつの間に?
……しかも、祝福を見抜ける、と。私をアンテルーチェと断定したのもそれが理由か。
厄介だ。……何か対処法はないか?
……しばらく考えるが、思い浮かばない。この手の能力のポピュラーな対処法は「本当のことは言わない」で騙すことだ。だが、それで眼を欺けたとして、ミリア自身がそういった言い回しの妙を見破るだろう。
考えて……無理だな、という結論がでた。
仕方ない、ミリアには本当のことを話そう。
「……ここでのことは、他言無用でお願いできますか?」
「内容によるわね」
……こいつ。
「……約束していただけないようでしたら、こちらにも考えがありますよ?」
ちょっとばかり、本気で圧をかける。
殺意を乗せて、睨む。
それを見たミリアは……笑った。
「へぇ……思った以上みたいね。いいわ。貴女と本気でやり合えば、私はともかくグラディアの街が地図から消えかねないみたいだし」
「よかった」
その言葉で、私は殺気を抑えた。
そうして、微笑むミリアに、微笑みを返して向き合う。
「じゃ、教えてくれる? 貴女は何者で、アッシュとはどういう関係なの?」
「……ちゃんと『真実の神眼』使っておいてくださいね? 嘘だとしか思えないような話なので」
「もちろんよ。頼まれずとも、私だって貴女の言葉の真偽を確定させなければならないもの」
良かった。詐欺師呼ばわりされることはなさそうだ。
じゃ、明かそう。ステライリス様とルナ以外相手だと初めてだな。
「では改めて……俺がアッシュだよ、ミリア。久しぶりだな」
「……は?」
困惑するミリア。
それはそうだろうな。
元の男だった「俺」とは似ても似つかないし。
名乗った声だって、可愛らしい女の子の声だし。
「は? え? 嘘?」
「嘘じゃない。お前の『真実の神眼』でわかるだろ?」
「……確かに、貴女は嘘を言っていない。何なら、真実だと思い込んでいるだけということすらない。『真実の神眼』本人の自覚と関係なく真実を見抜ける。……え、じゃあ本当にアッシュなの?」
「ああ、そうだよ」
「そっか」
そうして、ようやく納得したらしいミリアは。
「生きてたんだ」
……突然涙を流し始めた。
「は!? え!? なんで?!」
「良かった……生きてたのね、アッシュ」
「いや、だからなんで泣く!?」
ええ? わからん! なんで泣き始めた?
ミリアってこんな情緒不安だったか?
「でも、どうして女の子になっているの? ステライリス様の祝福自体には、性別を変える効果なさそうだし、魔法で性別を変えているわけでもなさそうなのに」
「……それについては、こっちにも色々事情があったんだ。そのへんも説明するから、まずは涙を拭け。……話し終わるまで、結界の遮音効果は解除しないでくれよ」
「うん。わかってる」
そう言って、ミリアは涙を拭いた。
そして、私は説明を始めた。
ステライリス様の神域を目指した目的。
ステライリス様の試練を達成して、祝福を受けたこと。
私の悪人面の原因が呪いだったことと、それ故に男になっていたこと。
私が今の姿になるまでのことを話した結果──
「ごめんなさい、アッシュ」
私はミリアに謝られていた。




