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第32話 ギャル、帰る

出立の朝は、前回より少し早かった。


 宿を出ると、王都の空気がいつもより軽い気がした。

昨日全部終わったから軽いのか、それとも帰るから軽いのか、分からなかった。でも軽い。

体がそう言っている。


 門の前に、カトリとアルノが待っていた。


 前回と同じ場所だ。でも2人の顔が違う。前回は「まだ残っている」という感触があった。今日は違う。終わった後の顔だ。



 カトリが先に口を開いた。


「ありがとうございました」と言った。


「また言う」とアタシは言った。「前も言ったじゃん」


「前とは意味が違います」とカトリが言った。

「前は、その時のことへのありがとうでした。今日は——半年間のことへの、ありがとうです」


 アタシは少し考えた。半年間のことへの、という言い方だ。


「カトリが半年間続けたから終わった。それは変わらない」


「……みるくさんが来てくれたから終わりました」


「どっちも本当のことだよ」とアタシは言った。「昨日も言った」


 カトリが「……そうですね」と言った。

少し笑っていた。昨日泣いていたカトリが、今日は笑っていた。その変化が、なんか良かった。


「カトリ、これからどうするの」


「王都に残ります。ヴェルデ伯爵の回復を見届けてから、次を考えます」


「次がある」


「……みるくさんのおかげで、次を考えられるようになりました」


「それはカトリが開いたから」とアタシは言った。

「最初から言えばよかったじゃん、って言い続けたけど——言えるようになったから言えた。それでいい」


 カトリがしばらく黙った。「……みるくさんは、どうしてそんなに責めないんですか」


「責める意味がないから」とアタシは言った。「カトリは開こうとしてた。それが全部だと思う」


 カトリが「……そうですね」と言った。今度は泣いていなかった。でも目が少し濡れていた。


「また会える気がする」とアタシは言った。


「……私もそう思います」とカトリが言った。「次は、最初から話します」


「それでいい」



 アルノが「みるくさん」と言った。


「なに」


「また来ていただけると思います」とアルノが言った。少し笑っていた。

「前回もそう言いましたが、今回はより確信しています」


「ガレードの勘?」


「今回は私自身の勘です」


 アタシは少し笑った。「アルノの勘はどのくらい当たるの」


「ガレード様には及びませんが——今日は当たると思います」


「じゃあ楽しみにしてる」


 アルノが「道中、お気をつけて」と言った。「レオニス様も」


 レオニスが「ああ」と言った。短い返事だが、いつもより柔らかかった。



 門を出たところで、クルスが待っていた。


 壁に背をもたせかけて、腕を組んでいた。昨日の戦闘装備ではなく、旅装だ。


「見送りに来たの?」とアタシは言った。


「違う」とクルスが言った。「もう一回だけ、と思ったが——」少し間を置いた。「今日はやめておく」


「なんで」


「今日のお前に挑むのは違う気がした。昨日全部使い切った後だ」


 アタシは少し考えた。「気を遣ってくれた?」


「……そういう言い方はするな」とクルスが言った。少し顔を背けた。「次は全力のお前と戦いたい。それだけだ」


「分かった」とアタシは言った。「次は全力で来る」


「約束だ」


「約束」


 クルスが「……また来ていいか」と言った。3回目だ。毎回同じことを聞いてくる。


「来てくれたら嬉しい」とアタシは言った。昨日と同じ答えだ。


 クルスが「……そうか」と言った。少し笑った。「ケチじゃなくなったな」


「昨日から」とアタシは言った。


「昨日から」とクルスが繰り返した。何かを確認するような言い方だった。「……分かった。また来る」


 クルスが手を上げた。それだけで、踵を返した。見送りを待たずに歩き始めた。クルスらしい別れ方だった。



 王都の石畳が、土道に変わった。


 体が、外だ、と先に感じた。空が広くなった。建物がなくなって、光の逃げ場が増えた。呼吸が少し楽になった。


 レオニスと並んで歩いた。しばらく何も言わなかった。前回の帰路と同じ感触だ。でも前回より静かだ。前回は疲れた後の静けさだった。今回は、終わった後の静けさだ。質が違う。


「レオニス」とアタシは言った。


「何だ」


「昔の上官の話、いつか聞かせてくれる?」


 レオニスが少し止まった。歩みが一瞬遅くなった。


「……なぜ今」


「今じゃなくていい」とアタシは言った。「いつかでいい。聞きたいと思ってたから、言ってみた」


 レオニスが少し考えた。「これまでは、言えるようになったら聞く、と言っていた」


「そう言ってた」


「今日は聞かせてくれるか、と言った」


「うん」


「……違いが分かるか」とレオニスが言った。


「分かる」とアタシは言った。「聞きたかったから、先に言った」


 レオニスがしばらく黙った。道が続いた。空が広い。光が斜めになってきた。


「……いつか」とレオニスが言った。


「それでいい」


「……変わったな」とレオニスが少し間を置いて言った。


「どっちが」


「……両方」


 その言い方が、なんか、すっきりしていた。責めていない。評価でもない。

ただ、見えたことを言った、という言い方だ。みるくの「見えたから言う」と同じ質だ。


 レオニスがそういう言い方をするようになったのは、いつからだろうとぼんやり思った。


 道が続いた。空が広い。2人で歩いていた。それだけのことが、今日は十分だった。

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