第30話 ギャル、最強に挑まれる
ガレードからの手紙が来たのは翌朝だった。
セリナが「みるくさん宛てです。急ぎとのことです」と言った。
開けた。
「王都に来てほしい。精神支配の術師がいる。カトリが追っていた件と繋がった。詳細は来てから話す。ガレード」
レオニスに見せた。レオニスが読んだ。「カトリが追っていた件、というのは」
「分からない。でもカトリが一人で抱えていた何かだと思う」
「王都に行くか」
「行く」とアタシは言った。「カトリが一人でいる」
レオニスが「……そうか」と言った。それだけで動き始めた。
王都に着いたのは夕方だった。
門をくぐると、体が先に感じた。前回と同じ重さだ。石に吸われる空気。でも今回は少し違う。知っている重さだ。知らない重さじゃなくなっていた。
アルノが門で待っていた。
「お越しいただきありがとうございます」とアルノが言った。「ガレード様がお待ちです」
「カトリは」
「……今、ガレード様のところにいます」
アルノの顔を見た。疲れている。でも諦めていない目だ。
「もう一人来るから」とアタシは言った。「クルスという冒険者」
「存じております」とアルノが言った。「明朝、合流の予定です」
ガレードの部屋に入ると、カトリがいた。
前回より顔が締まっていた。疲れているが、覚悟が出ている顔だ。
「来てくれました」とカトリが言った。
「来た」とアタシは言った。「話して」
カトリが話し始めた。
ゼルダは50代の男だ。精神支配の術師として王都に潜んでいた。
カトリはゼルダを半年前から追っていた。
ヴェルデ伯爵への干渉——マルフォが仕掛けた干渉とは別に、ゼルダが直接仕掛けていた干渉があった。マルフォが去った後も、伯爵への圧力が続いていた理由がそこにある。
「マルフォとは別に、ゼルダが動いていたってこと?」
「……はい。マルフォは自分の利益で動いていました。ゼルダはまた別の目的で動いています。2つの干渉が同時に伯爵に向いていたのです」
「カトリはゼルダを追っていたんだ。ヴェルデ伯爵への干渉は——」
「ゼルダからヴェルデ伯爵を守るためでした」とカトリが言った。「マルフォの件はみるくさんが片付けてくれました。でもゼルダの件は、まだ残っていました」
カトリが一人で抱えていた理由が、ここで全部繋がった。
「最初から言えばよかったじゃん」とアタシは言った。
カトリが「……言えませんでした」と言った。「信用してもらえるか分からなかった」
「言ってみないと分からないじゃん」
「……そうですね」とカトリが言った。今度は少し笑っていた。以前と同じ往復だったが、カトリの顔が違った。
ガレードが「ゼルダは今夜、王都の東区にいる」と言った。「支配下に置いた人間を20人以上動かしている。明日の朝に動く」
「支配下の人間を、口撃で解除できるか?」とアタシに言った。
「1人ずつなら、できると思います」とカトリが言った。「でも数が多い……・ですね」
アタシは少し考えた。1人ずつ口撃で解除する。でも20人以上。消耗する。本命のゼルダに向ける力が減る。
「テンアゲで一気にいけるかもしれない」とアタシは言った。
ガレードが「試したことはあるか」と言った。
「ない。でも、できる気がする」
ガレードが少し間を置いた。
「……それがお前の判断なら、信用する。ただ——」
ガレードが続けた。「今夜、試せる人間が1人いる。ゼルダに支配されているが、まだ浅い。解除できれば、明日の根拠になる」
「試す」とアタシは言った。
連れてこられたのは20代の男だった。ぼんやりした目だ。自分の意志で動いていない感触が体に伝わってきた。
ギャルズアイを向けた。層の表面に、何かが被さっている。本人の層じゃない。外から来た層だ。縛られている感触だ。
口撃で解除できる。でも1人ずつでは時間がかかる。
テンアゲを向けた。上げるんじゃなく、届ける。縛っているものをほどく方向で。体の底から出した。
男の目が変わった。ぼんやりしていた目に、焦点が戻った。
「……ここは」と男が言った。「俺、なんで——」
カトリが素早く男の前に出た。「大丈夫です。今、安全な場所にいます」
アタシはガレードを見た。「できた」
ガレードが「……ふむ」と言った。少し間を置いた。「明日、同じことを20人以上に向けてやれるか」
「やる」
「できるか、と聞いた」
「やれば分かる」
ガレードが少し笑った。「……そうか。信用する」
カトリが「……テンアゲが、縛るものを解くのにも使えるんですね」と言った。
「今、分かった」とアタシは言った。
夜、作戦を3人で詰めた。ガレード、レオニス、アタシ。カトリも同席した。
ゼルダの場所、支配下の人間の配置、逃げ道、カトリが調べてきた情報を全部出した。
レオニスが地図に落とした。ガレードが動きを確認した。
作戦が固まってきた頃、レオニスが口を開こうとした。
アタシは先に言った。
「レオニス、明日盾を頼んでいい?」
レオニスが少し止まった。
「……俺から言おうとしていた」
「分かってた」
「なぜ先に言った」
「頼みたかったから」
レオニスが少し間を置いた。「……承知した」
ガレードが2人を見た。何も言わなかった。でも少し笑っていた気がした。
カトリが「……みるくさん」と言った。
「何」
「明日、怖くないですか」
アタシは少し考えた。
「怖い」とアタシは言った。「でも、そうするしかない時ってあるじゃん。なんか、そういう感じ」
カトリが「……そうですね」と言った。今度は笑っていなかった。でも目が変わっていた。覚悟が出ていた。
「カトリも来る?」
「……行きます。ゼルダのことは、私が一番知っています」
「じゃあ来て」
カトリが頷いた。
部屋に戻ると、王都の夜の音がしていた。
前回来た時と同じ音だ。石が音を吸う。でも完全には消えない音がある。今日は、前回より音が近い気がした。
レオニスが「……眠れるか」と言った。
「眠れる」
「……そうか」
「レオニスは」
「……眠れると思う」
「思う?」
「……今夜は、余計なことを考えない気がする」
前に「何もしていないと、余計なことを考える」と言っていた。今夜は違う、という言い方だった。
「それは良かった」とアタシは言った。
「……明日、終わらせる」とレオニスが言った。
「うん、終わらせる」
王都の夜の音が続いていた。前回より少し馴染んだ音だ。でもまだ、自分の街の音じゃない。明日が終われば、帰れる。
扉を叩く音がした。アルノの声だった。「クルスさんが到着されました」
レオニスが「……早いな」と言った。
「来ると言ったら来る人間だから」とアタシは言った。
廊下に出た。クルスが立っていた。旅装のままだ。急いで来た感触がある。
「遅くなった」とクルスが言った。
「早いじゃん」とアタシは言った。
「明日の話を聞かせろ」
「部屋で話すよ」
クルスが頷いた。今日のクルスは余分なことを言わなかった。戦いに来た顔だった。




