第29話 ギャル、問われる
夜、食堂に入った。
大規模発生の後だ。他の冒険者たちも引き上げてきている。食堂がいつもより賑やかだった。でも疲れた後の賑やかさだ。声が大きいが、体が重い。
いつもの席に座った。飯を頼んだ。レオニスが向かいに座った。
しばらく何も言わなかった。飯が来た。食べた。食堂の音が続いていた。
レオニスが食べ終わった後、珍しく手を止めたまま黙っていた。
何か言いたそうだ、とアタシは思った。でも聞かなかった。待った。
しばらくして、レオニスが切り出した。
「一つ聞いていいか」
「何」
「……俺は、お前のことを知っていると言えるか」
アタシは少し考えた。
珍しい問いだ。レオニスが「知っているか」と問いかけるのが珍しい。確認するのではなく、問いかけている。答えを持っていない問いだ。
「知ってると思う」とアタシは言った。「全部じゃなくても」
レオニスが少し間を置いた。「……俺もそう思う。全部じゃなくても」
同じ言葉を返した。でも意味が同じかどうかは分からない。聞かなかった。
ギャルズアイを向けた。
レオニスの層を読んだ。
これまで何度も読んできた層だ。最初に読んだ時——分析、記録、感情の制御が高い。次に読んだ時——同じ感触だったが、少し動いていた。王都で読んだ時——沈黙の種類が変わっていた。クルスとの手合わせの日——少しずつ変わってきている、という感触だった。
今夜は違う。
奥に向かうほど、何かが積み重なっていた。分析でも記録でもない。言葉にするなら「信頼」と呼ぶべき層だ。最初からあったんじゃない。一緒に動いてきた時間の中で、少しずつ重なってきた層だ。
いつからか、は分からない。ランクルの帰り道かもしれない。ヴァルツに会いに行った日かもしれない。王都でレオニスの顔を見て前を向いた時かもしれない。今日、体に届いた時かもしれない。どの瞬間かは分からないが、確かにある。
「……アタシも、レオニスのことを知ってるよ」とアタシは言った。
本当のことを言った言葉だった。
「全部じゃないけど」
「……そうか」とレオニスが言った。
それだけだった。でも十分だった。
食堂の音が続いていた。他の冒険者の声が遠くなった感触があった。この席だけが少し違う空気になっていた。
しばらくして、レオニスが「明日、大きい依頼が来そうだ」と言った。
「ほんと?」とアタシは言った。「面白そう」
レオニスが少し間を置いた。「……お前にとっての面白そうは信用できない」
「ひどい」
レオニスが少し笑った。声は出さなかったが、笑った。アタシも笑った。
今日、レオニスが笑うのは初めてだ——いや、前にも笑ったことがあったかもしれない。でも今日の笑い方は少し違う感触だった。
食堂の賑やかさが戻ってきた感触があった。いつもの席で、いつもの飯の後で、少し笑った。
悪くない、とアタシは思った。




