第28話 ギャル、群れを制圧する
緊急招集がかかったのは昼過ぎだった。
ギルドの鐘が3回鳴った。3回は緊急だ。
掲示板を見ていたアタシとレオニスはすぐにギルドの中央に向かった。
セリナが「街道北側で魔物の大規模発生が確認されました。全冒険者、緊急招集です」と言った。
声が落ち着いている。でも目が違う。大規模、という言葉の重さがある。
班分けが始まった。
アタシとレオニスの班に、カイ・ナオ・ブロスの名前が読み上げられた。
カイが「みるくさん」と言った。驚いている顔だ。
「同じ班だね」とアタシは言った。「よろしく」
「はい」と3人が言った。声が揃っていた。でも体が固い。緊張だ。大規模発生の緊張だ。
レオニスが3人を見た。「動ける緊張か、固まる緊張か」と言った。
カイが「……動けます」と言った。ブロスが「動きます」と言った。ナオが黙って頷いた。
「行く」とレオニスが言った。
街道北側に出ると、すでに音がしていた。
魔物の群れだ。数が多い。中型が20体以上、大型が3体見えた。
他の班がすでに動いていたが、大型の動きが速い。押されている班がある。
レオニスが一瞬で状況を読んだ。
「大型3体が問題だ。中型は各班で対応できる。大型を止めれば全体が動く」
「大型、アタシがやる」とみるくは言った。「その前に——」
体の底に意識を向けた。
テンアゲを広げた。これまでより広く。カイ・ナオ・ブロスの3人と、レオニスに向けて、全部出した。
カイが「あ」と言った。「また——でも、今日は違う」
「違う?」とブロスが言った。「めちゃくちゃ体が軽い。いつもの3倍くらい動ける気がする」
ナオが「……体が、勝手に動こうとしてる」と言った。
「アタシが乗せてる」とアタシは言った。「動いて。レオニスの指示通りに」
レオニスが動き始めた。
「中型の進路を絞る。カイ、右側から押し込め。ブロス、左で壁を作れ。ナオ、後方の2体を止めろ」
3人が動いた。
速い。いつもより明らかに速い。カイが右側から押し込む。中型が2体、進路を変えた。
ブロスが左で壁を作る。体格がいつもより大きく見える。圧がある。
ナオが後方の2体に向かった。動きが鋭い。迷っていない。
レオニスが「みるく、大型が来る」と言った。
大型の1体がこちらに向かってきた。4本足で走る。速い。でも体が先に読んでいた。
デコレートバーストを右前足の着地点に叩き込んだ。体勢が崩れた。
そこにフィジカルコントロールを入れた。重心が右に寄った。崩れた体勢のまま横に倒れた。
立て直す前にデコレートバーストをもう一発。動かなくなった。
はい、1体目、終わり。
2体目が来た。1体目より大きい。でも読んでいた。正面から来るんじゃなく、右に回り込んでくる。回り込んでくる進路の先にデコレートバーストを置いた。踏み込んだ瞬間に炸裂した。
体勢が崩れた。フィジカルコントロールで押し込んだ。崩れた。
はい、2体目、終わり。
カイたちの方を見た。
中型を2体抑え込んでいた。抑え込んでいる、というより、追い詰めていた。
カイの動きがいつもと違う。判断が速い。迷っていない。
ブロスが壁を作りながら押し込んでいる。ナオが後方の2体を同時に止めていた。
ナオが2体を同時に——いつもナオは1体ずつ丁寧に処理する。今日は違う。体が先に動いている。
テンアゲが、ちゃんと届いている。
「みるく」とレオニスが言った。「3体目が残っている」
振り返った。3体目の大型がレオニスの前にいた。レオニスが正面で受けていた。
剣で受けているが、押されている。大型の3体の中で一番大きい。
走った。
デコレートバーストを大型の側面に叩き込んだ。大型がレオニスから離れた。
レオニスが素早く後退した。アタシが正面に入った。
大型がアタシを見た。ギャルズアイを向けた——魔物には使えない。でも体の動きは読める。
次に来る方向が分かった。
右から来る。
左に出た。デコレートバーストを右足に叩き込んだ。崩れた。
フィジカルコントロールで重心を前に押した。前のめりになった。頭が下がった。
そこにデコレートバーストを全力で叩き込んだ。
これで3体目、終わり。
周囲が静かになっていた。
他の班が残りの中型を片付けていた。
カイが「終わりました」と言った。息が上がっている。でも目が違う。達成した後の目だ。
「お疲れ様」とアタシは言った。
「みるくさんが乗せてくれてたから」とカイが言った。「体が勝手に動いた。怖くなかった」
「怖くなかった?」
「大規模発生、最初は怖かったです」とカイが言った。「でも動き始めたら、体が先に動いてた。脳より体が速かった」
ブロスが「いつもの俺じゃなかった」と言った。「もっと動けた。限界が上がってた」
ナオが「……2体、同時にやった」と言った。「今まで無理だと思ってた」
「今日だけかもしれない」とアタシは言った。「アタシが乗せてる間だけだから」
「それでも」とカイが言った。「今日、できた。できたから分かった。次は自分でやれるかもしれない」
その言い方が、なんか、良かった。
レオニスが来た。
「怪我は」とアタシは聞いた。
「問題ない」とレオニスが言った。でも右腕を少し押さえていた。
「見せて」
「大したことはない」
「見せて」
レオニスが右腕を見せた。切り傷だ。深くはない。でも処置が必要だ。
「処置する」とアタシは言った。
「自分でできる」
「してないじゃん」
レオニスが何も言わなかった。アタシが処置した。レオニスが黙って受けていた。
処置しながら「テンアゲ、分かった?」とアタシは聞いた。
レオニスが少し間を置いた。「……分かった」
「どんな感じだった」
「……体が、底から変わった感触だ。これまで聞いていたのとは違った」
「聞いてた?」
「カイたちから何度か聞いていた。でも言葉では分からなかった。今日、初めて体で分かった」
アタシは少し考えた。言葉では分からなかった。体で分かった。それがレオニスの言い方だ。
「良かった」とアタシは言った。
「……ああ」とレオニスが言った。少し間を置いた。「お前の力が、今日初めて直接届いた」
その言い方が、なんか、すっきりしていた。ただそう言った、という言い方だ。
包帯を巻いた。レオニスが「……ありがとう」と言った。珍しかった。
「どういたしまして」
夕方の光が街道に落ちていた。他の班が引き上げていく音がしていた。今日は大きな戦いだった。
でも終わった。チームで終わらせた。
それが、今日一番の感触だった。




