第25話 ギャル、次を見る
休み明けの朝、掲示板を見た。
新しい依頼がいくつか出ていた。レオニスが隣で掲示板を見ていた。
「これ、どう思う」とアタシは言った。街道護衛の依頼だ。報酬が相場より高い。
「高すぎる」とレオニスが言った。「理由がある」
「何かある依頼か」
「か、あるいは依頼主に何かある」
「受ける?」
「……お前が決めていい」
「じゃあ保留。もう少し見てから」
レオニスが「分かった」と言った。
掲示板から離れようとしたところで、ギルドの入口の方が騒がしくなった。
入口の近くで、男が声を荒げていた。
40代、恰幅がいい。商人か、その手の人間だ。向かいに3人いた。カイ・ナオ・ブロスだ。3人とも頭を下げている。
「話が違うだろう」と男が言った。「護衛を頼んだのに、荷物が一つ足りない」
「確認したところ、出発前から——」とカイが言いかけた。
「言い訳はいい。お前たちの管理が甘かったんだろう」
ギャルズアイを向けた。
男の層を読んだ。怒り、というより、使っている。怒っているふりをして、報酬を減らそうとしている。荷物が足りないのは本当かもしれないが、それをカイたちのせいにする気でいる。
カイたちの層を読んだ。萎縮している。声が出なくなっている。
アタシは前に出た。
「ちょっといい?」
男が振り返った。「なんだ、お前は」
「同じギルドの冒険者です」とアタシは言った。「横から失礼なんですけど、出発前の荷物の確認って、依頼主側でやるものじゃないですか」
「護衛が確認するのが当然だろう」
「依頼書にそう書いてありましたか」
男が少し止まった。
「書いてないなら、護衛の範囲外だと思うんですけど」とアタシは言った。「その上でカイたちを責めるなら——」
ギャルズアイで男の層を読んだ。図星だ。依頼書に書いていない。知っていてやっている。
「アンタ、最初から払いたくなかったんじゃないの」
男が固まった。
周囲が静かになった。ギルドの中に何人かいた。みんな聞いていた。
「……そんなことは」と男が言った。声が小さくなっていた。
「依頼書通りに払えばいいだけだと思います」とアタシは言った。「それだけです」
男がカイたちを見た。カイたちを見て、アタシを見た。それから、財布を出した。依頼書通りの報酬を渡した。そのまま出ていった。
ギルドの中が、少し空気が変わった。
「ありがとうございます」とカイが言った。声が出ていた。さっきより声が大きい。
「依頼書、ちゃんと確認してたから大丈夫だと思った」
「でも言い返せなくて」とブロスが言った。「すみません」
「言い返せなくていい」とアタシは言った。「そういう時に言える人間が言えばいい」
ナオが「……ありがとうございます」と言った。静かな声だった。でも目が違った。
3人を見た。さっきまで萎縮していた体が、少し戻ってきている。でも完全じゃない。
今だ、と思った。意図して出した。体の底から、届けるように出した。
3人の体が変わった。カイが「あ、また」と言った。ブロスが「力入る」と言った。ナオが「……今日は、最初からはっきりしてる」と言った。
前回より自然に出せた感触があった。迷わなかった。届けたい、と思ったら届いた。
「次の依頼、うまくいくといいね」とアタシは言った。
「はい」と3人が言った。声が揃っていた。
3人が出ていった。カイが振り返って「また来てください」と言った。ブロスも振り返った。ナオは振り返らなかったが、少し手を上げた。
3人の背中が見えなくなった。
レオニスが横に来た。「また止める前に終わっていた」
「今日はちゃんと言葉で終わらせた」
「……口撃か」
「口撃というより、見えたことを言っただけ」
「違いが分からない」とレオニスが言った。
「アタシも分からない」とアタシは言った。「でも、なんか違う気がする」
前と同じ往復だった。でも今日は少し違う感触があった。なんか、前より分かってきた気がする。うまく言えないけど。
「テンアゲも使った」
「見ていた」とレオニスが言った。「今日は迷っていなかった」
「迷わなかった。届けたかったから届けた」
「……制御できるようになったか」
「なってきてる、かもしれない」
レオニスが少し考えた。「お前はあの3人のことを気にかけている」
「気になるから見てる」
「それを気にかけると言う」
アタシは少し考えた。気にかける。なんか、そういう感じなのかもしれない。ギルドで最初に見た時から、なんか目に入っていた。
「そうかもしれない」とアタシは言った。「うまく言えないけど」
レオニスが「……そうか」と言った。少し間があった。「悪くない」
「何が」
「……お前が誰かを気にかけているのが」
その言い方が、なんか、すっきりしていた。評価じゃない。ただ、見えたことを言った、という言い方だ。
掲示板の前に戻った。保留にしていた護衛依頼を、もう一度見た。
「やっぱりこれ、受けようかな」
「理由は」
「なんか気になってきた」
レオニスが「……そういう理由か」と言った。呆れているが否定していない言い方だった。
ギルドの外に出ると、昼前の光が石畳に落ちていた。休み明けの光だ。次が始まる感触だ。




