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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第七章 ライバル出現と共生への道

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第76話 守護者の決断、模倣への審判。

 北方の空を覆う暗雲は、刻一刻とその色を濃くしていた。エルフの国が誇ったユグドラシル国定公園は、今や暴走する魔力の渦となり、周辺の街や村を飲み込まんとする巨大な災厄へと変貌している。わが迷宮の入り口には、命からがら逃げ延びてきた人々と、混乱に乗じて溢れ出した魔物たちが入り乱れていた。


 (フム。地脈の共鳴が止まらないな。……エルフたちは、自然を操る力に溺れ、その反動がいかに残酷な結末を招くかを軽視しすぎたようだ)


 俺はコアルームのモニター越しに、救援を求めて迷宮の境界線までたどり着いたエルフの魔術師たちの姿を捉えていた。彼らは、つい先日までわが迷宮を「無機質な穴蔵」と蔑んでいた使節団の生き残りだ。彼らは泥にまみれ、震える声で迷宮の門番たるリナに縋り付いていた。


 「お願いだ、この通りだ! 聖樹の暴走を止めるために、あなたたちの迷宮の魔力を貸してくれ! このままでは、わが国の誇りであるユグドラシルが完全に枯れ果ててしまう!」


 リナは剣を構えたまま、その懇願を無表情で受け止めていた。彼女は迷宮の主である俺の意志を待っている。俺は念話で、静かに、しかし一点の曇りもない決断をリナへ伝えた。


 「リナ。彼らの立ち入りを許可してはならない。……武器を捨て、客として安らぎを求めるのであれば第2層まで導け。だが、わが迷宮の魔力を『あちらの都合』で貸し出すことは、断じて拒否する」


 リナは俺の言葉をなぞるように、エルフたちへ揺るぎない拒絶を突きつけた。


 「聞こえたかしら? 私たちの主様は、あなたたちの勝手な失敗に、この聖域の大事な魔力を差し出すつもりはないって。……ここは、安らぎを守る場所であって、傲慢な失敗を尻拭いする場所じゃないわ」


 「そんな! 見殺しにするというのか!? 同じ精霊を愛でる者として、そんなことが許されると思っているのか!」


 エルフの男が逆上し、魔力を練り上げようとした。だが、その瞬間にアムネが宙に舞い、彼らの周囲の空気を一瞬で凍りつかせるような神聖な波動を放った。


 「……勝手なこと、言わないで。……あなたたちは、精霊の声を無視して、無理やり力を引き出したんだよ。……私たちのコア様は、みんなを守るためにずっと頑張ってる。あなたたちの『誇り』を守るために、ここにいる人たちの安全を捨てるなんて、絶対にしちゃダメなんだから」


 アムネの言葉には、かつての同胞への哀れみと、それ以上に強い「わが迷宮の家族」を想う意志が込められていた。


 (フム。アムネの言う通りだ。……もし俺が今、彼らのために膨大な魔力を放出すれば、迷宮内の防衛網は弱まり、避難している罪なき人々を危険に晒すことになる。……迷宮の主としての俺の責任は、外にある他国の象徴を救うことではなく、この内側に身を寄せた者たちの平穏を、何があっても護り抜くことにある)


 俺はコアを、外部からの干渉を一切遮断した強固な盾を象徴する、深い琥珀色に輝かせた。エルフたちが招いた種は、彼ら自身が刈り取るべきだ。それが、理というものである。


 「ザック、テオ。避難民の受け入れは順調か」


 俺は念話で、慌ただしく立ち働く二人の様子を伺った。


 「へい、旦那。食事と寝床の確保は万全です。……ただ、逃げてきた連中の中に、さっきのクイック・ブーストの社員や、香水師ギルドの息がかかった商人も混じっていやがります。……どうしやす? つまみ出しますかい?」


 ザックの問いに、俺は一瞬の迷いもなく答えた。

 「いいや、そのままにしておけ。……彼らには、自分たちが壊そうとしたこの迷宮が、皮肉にも自分たちの命を繋いでいるという事実を、その目と耳でじっくりと味わってもらう。……それが、彼らに対する最高の罰であり、教えとなるだろう」


 テオは俺の意図を察し、柔和な微笑を浮かべた。


 「承知いたしました。……最上級の『皮肉という名のおもてなし』を、彼らに提供し続けましょう」


 北方の空が、さらに激しく光った。ユグドラシル国定公園の崩壊は、もはや止めることができない最終段階に入っている。俺は、押し寄せる災厄の余波をすべて迷宮の外装で受け流し、内側の静寂を保つことに全演算を注ぎ込んだ。


 崩れゆく模倣の楽園を尻目に、わが火熱の迷宮は、かつてないほどの輝きを放ちながら、荒れ狂う嵐の中を静かに、そして力強く進んでいく。


 (エルフたちよ。……いつかお前たちが、本当の意味で『安らぎ』の価値を知ることができたなら、その時はまた、一人の客として訪れるがいい。……その日まで、この門が開かれることはない)


 俺は、迷宮の最深部で、守護者としての孤独と誇りを胸に、次なる平穏な朝を導き出すための、膨大な未来予測を繰り返すのであった。


 ご拝読ありがとうございます。守りたいものを守る強さをしっかり描けたでしょうか?「けなす」くせに「頼る」。この図式が嫌いで嫌いで……。作者的にスカッとなる回になりました(笑)

 さて次回は、第77話「嵐の後の新秩序、王国の決断」をお送りいたします。お楽しみに!!


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