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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第七章 ライバル出現と共生への道

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第72話 安らぎのファストフード? コアの逆転メニュー

 クイック・ブーストの粗悪なバフ料理により、冒険者たちの健康被害が表面化し始めた。だが、敵もさるもの。彼らは圧倒的な資金力を背景に、王都の新聞や噂屋を買い叩き、「被害は迷宮内の瘴気のせいだ」という責任転嫁の情報を流布し始めていた。


 「旦那、あいつらどこまでも汚ねえ。こっちが被害者を救護すればするほど、あいつらは『迷宮が危ない証拠だ』なんて触れ回っていやがる。このままじゃ、客が怖がって離れちまいますぜ」


 ザックが悔しげに報告してくる。確かに、利便性を求める層にとって、不穏な噂は最大の毒だ。彼らは真実よりも、手軽な納得を優先してしまう傾向がある。


 (フム。利便性という名の暴力に対し、ただ正論をぶつけても響かんか。……ならば、彼らの土俵である『手軽さ』において、圧倒的な格の違いを見せつけるまでだ)


 俺はコアルームの深淵で、第2層の厨房と第5層の農園のデータを統合し、新たな魔力構成案を練り上げた。


 「テオ、ザック。……あるいはキュイ、お前の力も貸してくれ。これより、わが迷宮の新しい名物を作る。……名付けて『ととのいバーガー』だ。片手で食べられ、一口で心身を充足させる、究極の安らぎの結晶をな」


 俺は念話で、明確なビジョンとともに彼らの脳内へ語りかけた。


 「バーガー……ですか? あの、パンに肉を挟んだ平民の食べ物を?」


 テオが不思議そうに問い返す。


 「そうだ。だが、ただの肉ではない。バンズには第5層の発光樹の魔力を帯びた小麦を使い、パティにはキュイが厳選した滋養強壮に効く野草を練り込む。……そして仕上げに、アムネの浄化の香りを隠し味として添えるのだ」


 俺の提案に、スタッフたちの顔がパッと明るくなった。彼らにはわかる。迷宮の主が本気で「食」を設計した時、それがどれほどの奇跡を起こすかを。


 翌日、迷宮の入り口。クイック・ブーストの店舗のすぐ隣に、わが迷宮直営の「特設屋台」が設置された。


 そこから漂ってきたのは、あちらの刺激臭とは根底から異なる、食欲を優しく、しかし強烈に刺激する芳醇な香りだった。


 「お待たせいたしました! 迷宮主様直伝、心と体を一瞬でととのえる『安寧の聖域バーガー』です。一口食べれば、魔力回路の疲れが溶け出しますよ!」


 テオが爽やかな笑顔で呼びかけると、クイック・ブーストの行列に並んでいた冒険者たちが、ふらふらとその香りに引き寄せられてきた。


 「なんだ、この美味そうな匂いは……。あっちのサンドイッチよりずっと安いし、何よりこの温かさは……」


 一人の若手冒険者が、出来立てのバーガーを口にした。その瞬間、彼の全身を柔らかなエメラルド色の光が包み込んだ。


 「うおっ!? 身体が……軽い。あっちの店のを食べた時みたいな無理やりな昂りじゃない。まるで、一晩ぐっすり眠って、最高のサウナに入った後みたいな……力が、内側から湧いてくる!」


 (フム。期待通りの反応だな。……魔力回路を酷使するのではなく、外部から純粋な魔力を補給し、同時に体内の淀みを浄化する。これこそが、本物の『バフ』というものだ)


 一人、また一人と、クイック・ブーストの行列が崩れ、わが迷宮の屋台へと客が流れていく。


 慌てて店から飛び出してきたクイック・ブーストの支店長が、真っ青な顔で叫んだ。


 「な、なんだそれは! そんな短期間で、これほどまでの魔力活性食が作れるはずがない! 何か怪しい薬を使っているんだろう!」


 「失礼なことを言わないで。……怪しい薬を使っているのは、そちらの方でしょう? あなたたちの料理から漂う『悲鳴』、私にははっきりと聞こえているんだから」


 アムネがふわりと現れ、支店長を冷ややかに見据えた。彼女が指をパチンと鳴らすと、クイック・ブーストの店内に積み上げられていた「粗悪な魔力粉末」が、隠しきれずに入り口まで転がり落ちてきた。


 「あ、あれは……禁忌の魔力触媒じゃないか!? あんなものを俺たちに食わせていたのか!」


 集まった冒険者たちの視線が、一瞬にして怒りへと変わった。


 「しのぎを削り合うのは、ここからだと言ったはずだ。……自分たちの利益のためだけに客を裏切る者は、我らのこの聖域(ダンジョンや街、そのの周辺を含む)に入る資格すらない」


 俺は迷宮の主としての威厳を込め、広場全体に響き渡るような念話で宣告した。


 逃げ場を失った支店長は、憤慨する冒険者たちに取り囲まれ、腰を抜かして震え上がった。一方で、わが迷宮のバーガーを手にした人々は、笑顔でその味を噛み締め、次々と迷宮の中へと吸い込まれていった。


 (さて。二つ目のライバルも、自滅への道を選んだようだな。……だが、残るは最大の強敵、エルフの国だ。彼らが動かす『ユグドラシル国定公園』は、この程度の小細工では揺らがないだろう)


 俺は、喜びと活気に満ちた入り口の様子を観測しながら、次なる強大な敵……国家という名の怪物に立ち向かうための、さらなる広域演算を開始するのであった。

 ご拝読ありがとうございます。遅いか早いかの差はあれど、悪いことはいずれ明るみに出るもの。どちらにしても大衆からの信頼を勝ち取ったほうが勝つ。正攻法であり、王道ですな。

 さて次回は、第73話『ユグドラシル国定公園の光と影へ』をお送りいたします。それでは次回をお楽しみに!!

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