第71話 クイック・ブーストの裏側、魔力酷使の副作用
老舗香水師たちの策謀を粉砕したのも束の間、わが迷宮の入り口では、また別の深刻な問題が浮き彫りになっていた。新興チェーン『クイック・ブースト』の派手な看板に誘われ、利便性と即効性を求めた冒険者たちに、異変が生じ始めていたのだ。
(フム。第1層の広場に、これまでにないほど不安定な魔力の乱れを感じるな。……リナ、エントランスにいる冒険者の様子を報告しろ)
俺は、最下層から迷宮全域に張り巡らせた魔力感知網の異常を察知し、即座にリナへ念話で問いかけた。
「……ああ、コア様。ちょうど今、警備隊で対応しているところよ。あそこのサンドイッチを食べて潜った冒険者が、突然迷宮のど真ん中で動けなくなってね。外見に傷はないけれど、体内の魔力回路がスカスカの状態なの」
リナの声には、憤りが混じっていた。彼女が運び込ませた冒険者は、まだ若い青年だった。彼はかつて、わが迷宮の魔温たまごを食べて「身体が温まる」と笑っていた常連の一人だ。だが今の彼は、顔面を蒼白にし、浅い呼吸を繰り返すだけで、自らの力で立ち上がることすらできない。
「主様、これは単なる疲労ではありません。……アムネに分析してもらったところ、彼の体内の魔力は『回復』する暇を与えられず、無理やり限界を超えて引き出された痕跡があるそうです」
テオが、青年の傍らで厳しい表情を浮かべながら、俺に状況を伝えてきた。
その頃、迷宮の外にある『クイック・ブースト』の事務所では、支店長と本部から派遣された監査官が、冷たい笑みを浮かべて帳簿を突き合わせていた。
「ふむ。このエリアの売上は上々だな。……例の『ブースト粉末』の増量も、客に気づかれずに行われているようだし、何よりだ」
「はっ、監査官。あの粉末を使えば、どんな粗悪な食材でも魔力活性食に早変わりですから。冒険者たちは、自分が自分の寿命を前借りして戦っているとも知らず、今日も行列を作っていますよ」
彼らにとって、冒険者の健康や安全などは、帳簿上の数字よりも遥かに優先順位の低い事象であった。副作用として数ヶ月後に魔力回路が破綻しようとも、それは「個人の体質」や「迷宮での戦い方」に責任を転嫁すれば済む話だと、彼らは本気で考えていた。
(フム。効率の正体が、命の切り売りだったというわけか。……あのようなものを『料理』と呼ぶことすら、おもてなしを掲げるわが迷宮への侮辱だな)
俺は念話の中に、静かながらも重厚な怒りを込めて、スタッフ全員に語りかけた。
「いいか、皆。これより、わが迷宮の『ととのい』が、あのようなまやかしのブーストとは次元が違うことを、身を以て分からせてやる。……アムネ、彼らの魔力回路を修復するための特別なスープを準備しろ。リナ、副作用で倒れた者たちを一時的に保護し、原因を徹底的に記録するんだ」
「了解よ、コア様。……あんな毒を平然と売っている奴ら、私が直接叩き出してやりたいくらいだけど、まずは目の前の人たちを救うのが先ね」
「旦那、いいニュースがありやすよ。クイック・ブーストに使われている食材の流通経路を洗わせたところ、かなりの不正が見つかりやした。期限切れの肉に、安価な魔薬……。これを表に出せば、あいつらの看板は一日で真っ黒になりやすぜ」
ザックの念話には、商売の掟を破った者への容赦ない追及の意志が宿っていた。
王都の権威を崩した次は、効率至上主義の怪物との直接対決だ。俺たちは、被害を受けた冒険者たちのケアを最優先しつつ、クイック・ブーストが隠し続けてきた闇を白日の下に晒すための準備を、着実に、そして迅速に進めていった。
(しのぎを削り合うのは、ここからだ。……客の命を数字としてしか見ない愚か者たちに、迷宮の主としての慈悲など、持ち合わせてはいないのでな)
俺はコアを、深く鋭いエメラルド色に輝かせ、迷宮全体に「治癒と安寧の旋律」を響かせた。
わが迷宮の入り口を汚す者は、一兵たりとも逃しはしない。
ご拝読ありがとうございます。ブーストこわいですね(汗)魔力枯渇って、言うなれば熱中症のような症状かもですね。かなり危険だ。回復するのにも時間がかかるし、しんどいんだよなぁ(汗)
さて次回は、第72話『安らぎのファストフード? コアの逆転メニュー』をお送りいたします。それでは次回をお楽しみに!!




