表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第七章 ライバル出現と共生への道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/140

第67話 迅速なる「バフ」の衝撃、チェーン店『クイック・ブースト』上陸。

 わが迷宮がAランクに昇格し、王家直轄の保養地として認められたことで、迷宮の入り口付近……かつては数軒の宿営地しかなかったその場所は、今や一つの小さな町のような活気を呈していた。だが、その活気の中に、明らかに異質な、そしてどこか刺々〈とげとげ〉しい空気が混じり始めたのは、ここ数日のことだった。


 迷宮への入場を待つ冒険者や観光客たちが列を作る街道沿い。そこには、わが迷宮の「スローフード」を掲げる魔温たまご食堂とは真逆のコンセプトを持つ、派手な看板の店が突如として出現したのである。


 「さあさあ、時間は金なり! 迷宮に入る前に、たった一口で身体が軽くなる『超加速サンド』はいかがですか! 迷宮内の高い飯を待つ必要なんてありません、ここでブーストして一気に攻略してしまいましょう!」


 軽薄ながらも耳に残る呼び込みの声が、静かな朝の空気を切り裂く。看板には『クイック・ブースト:王国第17号店』という文字が踊っている。彼らは王都を拠点に、急速に店舗網を広げている新興の携帯食チェーン店であった。


 (フム。魔力を無理やり活性化させ、一時的に身体能力を高めるバフ料理か。……だが、あの店から漂ってくるのは、素材本来の旨味ではなく、安価な魔力触媒による刺激臭だな。客の足が止まっているようだが、テオ、あそこの様子はどうだ?)


 「はい、主様。正直に申し上げまして、若い冒険者を中心に、あちらへ流れる者が増えております。彼らにとって、わが迷宮の料理は『時間がかかりすぎる』のだそうです。一口で力が湧くなら、そちらの方が効率的だと……」


 テオの声には、少しばかりの悔しさが滲んでいた。これまで、わが迷宮の料理は「心を整え、じっくりと滋養を摂取する」ことを信条としてきた。しかし、利益と効率を第一に考える『クイック・ブースト』は、その「丁寧さ」をあえて「無駄」と断じ、攻撃的なマーケティングを仕掛けてきたのだ。


 その頃、クイック・ブーストの店内の奥では、成金趣味の派手な服に身を包んだ男が、帳簿を眺めながら下卑た笑みを浮かべていた。このエリアの店舗責任者である。


 「ハッ、Aランク迷宮と言っても、中身はただの『のんびりした保養所』じゃないか。冒険者が求めているのは、あんな生温〈なまぬる〉い癒やしじゃない。もっと即効性のある、暴力的なまでの力だ。……このまま周辺の飯場を食い潰し、いずれはあの迷宮の中の食堂も、我が社のライセンス下に置いてやる。断るようなら、王都のギルド本部に手を回して、食材の流通を止めればいいだけの話だ」


 男は、保存料と粗悪な魔力粉末がたっぷりと練り込まれたサンドイッチを、自ら一口齧った。その瞳には、かつてこの地を支えてきた職人たちへの敬意などは欠片もなく、ただ「市場を独占する」という数字への執着だけがギラついていた。


 (フム。効率という名の刃で、おもてなしの心を切り刻もうというわけか。……だが、彼らは根本的なことを理解していない。急造された力には必ず歪みが生じる。……アムネ、あそこの料理に含まれる魔力の波形を分析したか?)


 「うん、コア様。……あれは、ちょっと酷いよ。身体の中の魔力を強引に引き出しているだけで、全然回復にはなってない。あれを食べ続けて戦えば、いつか身体の魔力回路がボロボロになっちゃう。まるでお花に強いお酒を飲ませて、無理やり咲かせているみたい……」


 アムネの念話は、いつになく悲しげだった。彼女のような精霊にとって、生命の理を無視したその製法は、生理的な嫌悪感を抱かせるものだったのだろう。


 「ザック、クイック・ブースト側の動きに注意しろ。彼らは、わが迷宮の仕入れルートを横取りしようと画策しているようだ」


 俺は念話を使い、直接ザックに伝えた。


 「へい、旦那。あいつら、近隣の農家に高値をちらつかせて、わが迷宮への納品を止めさせようとしていやがります。……ですが、安心してください。こっちには長年築き上げた『信頼』ってやつがありやす。金だけで動くような連中に、俺の牙城は崩せませんよ」


 ザックは頼もしく答えたが、その表情は険しい。敵は単なる一店舗ではない。王都の巨大資本をバックに、面制圧でこちらを押し潰そうとしているのだ。


 「リナ、お前もだ。あちらの料理を食べて、一時的に興奮状態になった冒険者が迷宮内で騒ぎを起こす可能性がある。……安らぎを乱す者は、容赦なく外へつまみ出せ」


 「了解よ、コア様。おもてなしの邪魔をするなら、それがどんな理由であっても私の剣が黙っていないわ。……それにしても、あんな不味そうなサンドイッチのどこがいいのかしらね」


 第1層の静かな広場に、外部からの喧騒が微かに響く。


 王都の老舗香水師、そして新興の飲食チェーン。外堀からじわじわと埋め立てられるように、火熱の迷宮への包囲網が形成されつつあった。


 (フム。効率至上主義か。……いいだろう。彼らが効率で攻めてくるというのなら、俺は『究極の満足』でそれを受け止めよう。急いで通り過ぎるだけの者が、最後にはここで足を止め、二度とあんな粗悪なブースト料理を口にしたくなくなるような……そんな本物の体験をな)


 俺は、迷宮全体の魔力循環をさらに精密に制御し、訪れる客一人一人のバイタルデータを静かにスキャンし始めた。


 戦いはまだ始まったばかりだ。だが、安らぎの要塞たるわが迷宮は、その程度の大波で揺らぐほど脆くはない。


 俺は、コアルームの闇の中で、深いエメラルド色の光を静かに、かつ力強く明滅させた。次なる演算は、すでに敵の「焦り」を誘発させるための、次の一手を弾き出していた。


 ご拝読ありがとうございます。新興チェーン店の侵攻。そして、流通食材の買占め。この後の展開が気になるところ……。

 さて次回は、第68話『エルフの国からの使者と「ユグドラシル国定公園」』をお送りいたします。それでは次回をお楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ