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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第六章 [国定保養地]深緑の聖域と癒やしの新境地

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第60話 香水の反響と、王都からの新たな招待状。

 ザックが王都へと持ち出した香水「安寧の滴」が、社交界に激震を走らせるのに時間はかからなかった。

瓶の蓋を開けた瞬間に広がる、地下5階の清廉な空気と神秘的な巨樹の香り。それは、汚れた空気と権力闘争に明け暮れる貴族たちにとって、何物にも代えがたい「救い」となったのである。


 (フム。王都からのフィードバックが、莫大な感謝のEXPとなって流れ込んできているな。ザックの商売は大成功のようだ)


 俺はコアルームで、迷宮内に満ちる魔力の密度が一段と増したことを確認していた。だが、名声が高まれば高まるほど、皮肉にも「Fランク」という公式ランクとの乖離が面白おかしく語られるようになっていた。


 ある日のこと。迷宮の入り口に、全身を白銀の鎧で包んだ一団が現れた。


 王都から派遣された「迷宮再評価員」たちだ。彼らの目的は、あまりにも評判が高くなりすぎたこの迷宮が、本当にFランクに相応しいのかを再確認することだった。


 「ふん。どれほど噂になっていようと、ここは所詮、最果ての地のFランクだ。ゴブリンの一匹でも出れば上出来だろう」


 リーダー格の騎士が、鼻で笑いながらギルドの公認プレートを入り口に掲げる。


 受付にいたハンスが愛想よく応対したが、騎士たちは「Fランクの受付など、まともに相手にする必要はない」とばかりに横柄な態度で中へ踏み込んでいった。だが、第1層の通路を数歩進んだところで、彼らの足が止まった。


 「……なんだ、この床は。魔法の鏡か?」


 そこには、コーナー・ポリッシュが命を削る思いで磨き上げた、一点の曇りもない鏡面の床が広がっていた。彼らの最高級の鎧よりも遥かに美しく輝く床に、騎士たちは自分の足跡をつけることすら躊躇し始めた。


 「バカな……。Fランク迷宮の通路に、これほど高純度の清浄魔術がかけられているはずがない。罠か? 何かの幻惑魔法なのか!?」


 彼らが動揺しながら第4層の宿泊エリアに到達したとき、その衝撃は頂点に達した。


 案内されたのは、公爵級の賓客でも満足する豪華な個室と、完璧な温度管理がなされたサウナ。


 「調査だ! 調査のために、このサウナとやらに立ち入る必要がある!」


 必死に自分たちに言い訳をしながら、彼らは鎧を脱ぎ捨ててサウナへと突入した。


 数十分後。


 水風呂から上がり、リクライニングチェアで「ととのい」の境地に達した騎士たちは、もはや当初の尊大な態度の欠片も残っていなかった。


 「……あり得ん。王都の最高級スパですら、これほどの多幸感は得られなかった……。ここがFランクだというのか? ギルドの連中は、目でも腐っているのか……」


 彼らは、自分たちが守ってきた「常識」が、この清潔で平和な迷宮によって音を立てて崩れていくのを感じていた。見た目は最低ランク、しかし提供される体験は国家元首級。その圧倒的なギャップに、強者であるはずの彼らは完全に戦意を喪失したのである。


 調査団が骨抜きになっている最中、俺のもとにザックが慌ただしく戻ってきた。その手には、香水の利益よりもさらに重みのある、金縁の封書が握られている。


 「旦那! 大変なことになりやしたぜ! 香水を嗅いで正気を失った……いや、あまりの香りの良さに感動した国王陛下から、直接の招待状が届きやがった!」


 (フム。ついに国王陛下自らがお出ましになるか。……いや、違うな。これは俺を王都へ呼ぶものではなく、陛下がこの迷宮を『正式な王室御用達の休養地』として公式訪問するための打診か)


 手紙の内容は、王家の主要メンバーが揃ってこの迷宮を訪れたいという、異例の申し入れだった。


 Fランク迷宮が、王国の中心地としての役割を担おうとしている。これはもはや、運営の枠を超えた歴史的事件だ。


 「旦那、どうしやす? さすがの俺も、陛下を迎えるとなると足が震えやすぜ」


 (案ずるな、ザック。王であっても、疲れ果てた一人の人間であることに変わりはない。わが迷宮がなすべきことは一つだ。……最高のおもてなしと、ととのいを提供し、陛下を腑抜けにして差し上げるだけだ)

俺は、第5層の森林エリアから流れてくる心地よい冷気を感じながら、コアを静かに、しかし力強く発光させた。


 王家を迎えるための、さらなる大規模な「清掃」と「設備拡充」が必要になるだろう。


 (ポリッシュ四人衆、リーフ、アムネ。そしてキュイ。全セクションに通達。……これより、迷宮史上最大の『おもてなし準備』を開始する)


 「キュイ! キュイーッ!」


 主の決意を感じ取ったキュイが、巨大発光樹の根元で誇らしげに鳴いた。火熱の迷宮は、いよいよFランクという殻を完全に突き破り、世界の歴史にその名を刻むための準備を整えたのである。


 ご拝読ありがとうございます。王家のご訪問。以前頂戴したお墨付きから格が上がる『正式な王室御用達の休養地』として認定されるのだろうか!

 次は、第61話『王室総出の迷宮バカンスと、想定外の「ととのい」事情』をお送りします。お楽しみに!!

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