第54話 安寧の勝利と、新たな信頼。
嵐は去った。
風評被害という名の暗雲は、皮肉にも『火熱の迷宮』の揺るぎない「信頼」を、より鮮明に照らし出す結果となった。
「迷宮管理局」の査察官たちは、報告書にこう記したという。
――『当該迷宮において、薬物や洗脳の事実は一切確認されず。あるのは、他では類を見ない徹底した衛生管理と、精神の回復を促す高度な環境設計である。むしろ王宮の保養施設の見本とすべきである』
この公式発表により、バルトンたちが撒き散らした嘘の噂は、瞬く間に「嫉妬に狂った三流宿主の妄言」として霧散した。
後日。
迷宮の受付ロビーには、以前の威勢を失い、ボロ雑巾のように疲れ果てたバルトンの姿があった。
彼は虚偽の告発による重い罰金を科せられ、運営していた宿も差し押さえの危機に瀕していた。
「……頼む。ここで働かせてくれ。何でもする。……もう、あの地獄のような経営には戻れないんだ」
(フム。人を陥れようとした結果、自分が『ととのい』の虜になってしまうとは。皮肉なものだな)
俺はリナとザックに判断を任せた。
リナは冷たく言い放つ。
「うちのガイドになるには、心が濁りすぎているわ。不合格ね」
だが、ザックはニヤリと笑った。
「まあ、そんなに言うなら……ポリッシュ四人衆の『見習い』として、便所掃除のそのまた下から始めてもらいやしょうかね。あいつらの掃除は、指がちぎれるほど厳しいぜ?」
こうして、かつての首謀者は、自らが破壊しようとした迷宮の「清潔さ」を底辺で支える労働者として、その人生を再スタートさせることになった。
この騒動を経て、迷宮内の結束はさらに固まっていた。
ガイドたちは、自分たちが提供する「おもてなし」が、嘘の噂を打ち破る武器になることを学んだ。そして魔物たちは、自分たちの仕事がお客様の笑顔に直結していることを、改めて誇りに感じていた。
「カタカタ(床の輝きが、迷宮の真実を語ります)」
ブライト・ポリッシュたちが、かつてないほど気合を入れて床を磨き上げる。
地下では、キュイがイグニスの腹の上で、お祝いの「特製たまご(本物)」を満足そうに突っついていた。
「キュイ! キュイーッ!」
その温かな波動が、迷宮全体を包み込み、訪れる人々の心を再び「ととのえて」いく。
(フム。ピンチをチャンスに変える。経営の基本だが、今回はお客様たちの自発的な行動に救われた。……これはもう、ただのダンジョンではなく、一つの『共同体』と言えるかもしれないな)
俺は、クリスタルコアをこれまでにないほど澄み切った青色に輝かせた。
固定客――いわゆる「常連」の力。それは数字以上の魔力(EXP)となって、俺の中に蓄積されている。
今回の勝利により、国王からも「国定保養地」としての正式な招待状が届きつつあった。迷宮の知名度は、もはや一地方の噂のレベルを超え、国家規模の重要施設へと駆け上がろうとしている。
(さて、平和な日常を守るための戦いは、これからも続く。だが、今の俺たちなら、どんな悪意も『最高のロウリュ』で蒸発させてしまえるだろう)
俺は、賑わいを取り戻したロビーを見守りながら、次なる「安らぎの拡張計画」に向けて、静かに思考を巡らせ始めた。
ご拝読ありがとうございます。ここまでで『風評被害編』は終わりとなります。短い内容の章でしたが次につなげるために必要でした。そう、「国定保養地」としての認定、そして広大な「第5層・深森のリゾートエリア」の開拓など、さらにワクワクする展開を考えいます!次が今年最後の締めくくり。新章スタートにて年の瀬をお迎えください。




