第55話 国定保養地の認定と、次なる「深淵」への期待。
ダンジョンの拡張が行われても、ここは、いつもいつまでもFランクダンジョン!!
第6章 【国定保養地】深緑の聖域と癒やしの新境地
『火熱の迷宮』の入り口に、これまでにないほど巨大で豪華な、王国の紋章を戴いた石碑が建立された。そこには、国王直筆のサインと共にこう刻まれている。
――『ここに、王国指定第一号・公認保養迷宮としての権利を認める。その安寧を乱す者は、王家への反逆とみなす』
(フム。これで文字通り、国家レベルの「盾」を手に入れたわけだ。バルトンのような小悪党が二度と手出しできない、盤石な経営基盤の完成だな)
俺はクリスタルコアを誇らしげに明滅させた。この石碑の効果は絶大だった。風評被害で一瞬揺らいだ客足は、以前の数倍となって押し寄せている。それも、単なる物珍しさではなく「国が認めた本物の癒やし」を求める、質の高い客層だ。
「旦那! 見てくださいよこの予約表! 来年の春まで、特別室は一分も空きがありやせんぜ!」
ザックが、もはや数え切れないほどの金貨の詰まった袋を抱えながら、満面の笑みで報告してくる。
「公認ガイドのバッジも、今や王都の騎士団の勲章と同じくらいのステータスです。リナ教官のスパルタに耐え抜こうっていう志願者が、街を三周半するほど並んでやすよ」
(フム。組織が大きくなるのは良いことだが、質を落としては意味がない。リナ、教育の基準はさらに上げても構わんぞ)
『言われなくても分かってるわよ。次は、接客だけじゃなく「護身術」と「アロマの調合」も必須科目にするつもりだから』
念話越しに、リナの頼もしい(そして恐ろしい)気合が伝わってきた。
だが、俺の視線はすでに「現状維持」の先を向いていた。第4層までの宿泊施設とサウナが完成した今、迷宮の魔力貯蔵量は限界を迎えようとしている。さらなる「安寧」を世界に提供するためには、未知の領域を切り拓く必要がある。
(【システム・アップデート】――第5層の封印を解除。……テーマは『森林と静寂』だ)
俺が魔力を地脈に注ぎ込むと、第4層のさらに奥、硬い岩盤に閉ざされていた場所がゆっくりと蠢き始めた。
これまでの『火熱の迷宮』は、その名の通り「熱」と「活気」が中心だった。だが、第5層に俺が描くのは、地下とは思えないほど豊かな緑と、清らかな水が流れる「深緑のリゾートエリア」。日光の代わりに幻想的な光を放つ巨大樹を育て、その木々の間から溢れるマイナスイオンで客を包み込む。火の熱気で「ととのえた」後に、森の静寂で「精神を浄化する」……。この二つの階層を組み合わせることで、わが迷宮は究極のサイクルを完成させるのだ。
「キュイ……? キュイーッ!」
地下深くで、キュイが新しい階層の「土」の匂いを嗅ぎつけ、尻尾をパタパタと振っている。
(そうだ、キュイ。お前の温もりは、森の中でも欠かせない。木漏れ日のような柔らかな光となり、客たちを癒やしてやってくれ)
俺は、地脈を通じて第5層に種を撒く。地下の暗闇に、最初の一葉が芽吹いた。それは、Fランク迷宮が「伝説」へと至る、新たな歴史の始まりだった。
俺はコアを深く、優しく明滅させ、次なる開発プランの演算に没頭し始めた。
ご拝読ありがとうございます。今年の11月末から始まった『Fランクダンジョンの平和な日常』の連載は、おかげさまで55話まで来れました。小説家になろうでは、多くの方々に読まれて毎日が幸せの連続です。来年も、引き続き連載してまいりますので応援のほど、どうかよろしくお願いいたします!
それでは、皆様方、よいお年をお過ごしくださいませ!!
《お知らせ①》
本作は正月三ヶ日も変わらず通常時刻(朝・夜8時)にて連載いたします。お立ち寄りいただけると嬉しいです。
《お知らせ②》
来年1月3日から、『黄昏の語り部フィオラ』を新しく連載いたします。
この物語は、王道の「勇者が魔王を倒す」物語ではなく、「奪われた側の遺児たちが、血の呪いと絆を武器に、世界の暗部に抗いながら居場所を探す」という深みと重みのある人間ドラマが核になっています。
初回投稿は18:00。ご拝読を心よりお待ちしております。




