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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第四章 マグマ下の秘密と火竜の育成計画

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第50話 安寧の聖域、その完成と忍び寄る不穏な影。

 『火熱の迷宮』がFランクダンジョンとして登録されてから、どれほどの月日が流れただろうか。今やここには、かつての殺伐とした迷宮の面影はどこにもない。入り口には清潔な制服を纏ったガイドたちが並び、通路にはポリッシュ四人衆が磨き上げた「光の鏡面」が広がる。食堂からは香ばしいたまご焼きの匂いが漂い、サウナエリアからは心身を解き放った人々の、至福の溜息が漏れてくる。


 (フム。第四層までの開発、宿泊施設の安定稼働、そして王都の重鎮とのコネクション。わがダンジョンは、一つの「完成形」に達したと言えるだろうな)


 俺はコアルームで、迷宮全体の魔力循環をチェックしていた。宿泊客が放出する良質な「安らぎのEXP」は、地脈を通じて地下のキュイへと注がれ、その余熱が再び地上を温める。完璧なエコシステムの完成だ。


 今夜は、迷宮の「観光名所化・一周年(自称)」を祝う小さな宴が催されていた。広場では、リナが育てたガイドたちが誇らしげに語り合い、ザックは「一周年記念・限定キュイちゃんストラップ」の売れ行きに顔を綻ばせている。


 「コア様! 見て、アムネが作った特製ハーブティー、みんなに大好評だよ!」


 アムネが宙を舞い、精霊の鱗粉で会場をキラキラと彩る。地下ではイグニスが、お祝いにザックが持ってきた特大の魔力肉を、キュイと一緒にハグハグと頬張っていた。


 「キュイ! キュイーッ!」


 満足げな鳴き声が、心地よい微動となって迷宮全体を揺らす。


 (これだ。この穏やかな時間こそが、俺の求めた経営のゴール。誰も傷つかず、誰も飢えず、ただ「ととのい」だけがある場所)


 俺はクリスタルコアを優しく、深く明滅させ、この充足感を噛み締めていた。


 しかし、その祝祭の光が届かない迷宮の外、隣町の酒場の片隅では、別の「熱」が生まれつつあった。


 「……聞いたか? あの迷宮のたまご焼き、実は食べた者の理性を奪う薬が混ぜられているらしいぜ」

 「ああ、俺も聞いた。あそこのサウナに入った奴らがみんな腑抜けて帰ってくるのは、魂を魔物に吸い取られているからだってな」


 一人の男が、わざとらしく周囲に聞こえるような声で囁く。それまで楽しそうに迷宮の思い出を語っていた客たちの顔に、微かな不安の影が差す。


 「まさか、そんな……。でも確かに、あんなに気持ちがいいのは、どこかおかしい気も……」

 「だろ? 王都の公爵様まで篭絡されたっていうじゃないか。あれはもう、人間の手におえる場所じゃない。呪われた聖域なんだよ」


 男はフードの奥で、下卑た笑みを浮かべた。

 バルトンの放った「風評」という名の毒が、ゆっくりと、しかし確実に街の空気を侵食し始めていたのだ。


 (……チリリ、と。感知網の端に、嫌なノイズが走るな)


 宴が終わり、静寂を取り戻したコアルームで、俺はその違和感を見逃さなかった。物理的な侵入者ではない。もっと形のない、悪意の塊のようなものが迷宮を包囲しようとしている。


 (フム。光が強ければ影も濃い。だが、その影を払うのもまた、経営者の務め。……さて、どうやら『ととのい』を理解できない輩が、安寧を乱しにやってくるようだ)


 俺は、地下で丸くなって眠るキュイの愛くるしい姿を見つめる。この子の平和な寝顔を、そしてここに集う人々の笑顔を、嘘の言葉で汚させるつもりはない。


 (【システム警告】――外部にて負の思念の増幅を確認。これより、対・風評被害フェーズへの準備を開始せよ)


 俺の意志に呼応し、ポリッシュ四人衆が暗闇の中で一斉にその眼光(魔力光)を輝かせた。


 ご拝読ありがとうございます。そして、なにやら不穏な空気が流れ始めました。風評被害、真実を見極める期間、そして、さらなる発展へ!みたいな展開にしようか、しまいか、いくつか検討しております。それでは次回もお楽しみに!!

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